14)ヨハネスバーグ

 この年齢になって海外旅行がまったく初めてなんて、ほんとうにはずかしいのですが、みさと屋を始める前の20代にいきそびれてしまい、この10年は明日も定かではない店の経営と子育てのために長い旅行なんてとんでもない日々でした。私を海外のNGOの現場に連れて行く計画が周囲で浮上しては立ち消えになりました。今回の旅では、南アフリカの現状などについては十分に知っていたつもりの私が、実際に目で見て肌で感じる部分が今までの自分には欠落していたことをいやというほど味わいました。プレトリアの黒人居住区では、まずはひとびとの風景に圧倒されたのですが、その後で私を襲ったのは、これが世界なのに今まで足を踏み入れたことがなかったことへの悔恨の思いでした。なぜもっと若いうちに飛び込んでおかなかったのかと。世界は頭だけで考えていても埒が開かない状況なのです。
 黒人居住区を後にした私たちはプレトリア市内にもどり、大きなショッピングモールの中で軽い昼食を食べました。どの店も私には興味深いのでゆっくり見てみたいのですが、JVCの仕事で出張中のふたりは限られた時間の中で仕事をやりとげなければならないのでとても忙しそうです。ハンバーガーショップのような店で、フィッシュ&チップスを買って、店外のベンチに座って食べました。私はまだ緊張が解けません。アフリカの現場でひとびとの中に入って寝食をともにしながら仕事をしている彼らへの気おくれだったのでしょう。津山さんのとなりに座っての食事で多少舞い上がり状態でもありました。緊張で(だと思う)ジュースのグラスを倒してしまってガラスで手をひどく切ってしまいました。かなり痛かったのですが、なんでもないふりをするのがまたたいへんでした。
 やっと落ち着いたのはヨハネスバーグ郊外にあるフリーマーケットに移動してからです。これは私の得意分野です。みさと屋で南アの民芸品を売りたい私のために津山さんが設定してくれたスケジュールで、彼らも山ほどあるこちらの物品のうちで、日本で売れそうなものを選ぶのに私の意見を聞きたかったようです。楽器やビーズ製品、ロウソク製品などを見て回りました。ここで私は息子たちに木製で毛皮を張ったドラムをふたつ買いました。みやげもの屋などで買うより生産者直売に近いフリーマーケットの方がかなり安いのです。みさと屋の女性スタッフたちにと思って、南アのハンドメイドだというパッチワークのベストもたくさん買い込みました。ここで一気に『ミヤゲ問題』をクリアーしてしまったのです。
 ヨハネスバーグに戻って壽賀、高梨氏と同じホテルにチェックイン、事務所に戻って仕事をしている彼らと別れてゆっくり休みました。今回の旅で、始めてゆったりとした気分になったような気がしました。ホテルも快適です。ひとりで紅茶をいれて飲んでいると、仕事を終えた両氏が夕食に誘いに来てくれたので、3人で町に出ました。今回の旅で初めてホテル以外の場所でゆっくり夕食をとることができました。そして南アの有名な特産品であるワインも初めて飲んで、一息ついたのでした。
 翌朝、ホテルの窓辺に来たハトの鳴き声で目を覚ましました。ケープタウンでは味わえなかった旅気分です。

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