15)ソウェト

 8月19日から始めたこの旅行記は書いているうちに長くなってしまってまだ終わりません。そろそろ終わりにしないと、年末でこの紙面も忙しくなりますので困ります。
 8月14日私の旅行も最終日となりました。翌日はもう帰るだけです。この日は津山直子さんのおつれあいである南ア人写真家のヴィクター・マトム氏の案内で南ア最大の黒人居住区ソウェトにいくのです。ヴィクターは日本での彼らの結婚披露宴で会っているので旧知の人です。南アを旅行中という日本人研究者、学校の先生など同行者が3人、ヴィクターがまとめて面倒を見てくれたのです。JVCに集合、ランクルに乗って出発です。
 ソウェトはヨハネスバーグから車で行けばすぐです。道はハイエースなどの乗り合いタクシーがたくさん走っています。ソウェトと職場のあるヨハネスバーグを往復している通勤の足なのです。2万台あるとか。ソウェトの町並みの中に入ると、その特徴がはっきりわかります。計画的に作られた道路、同じ企画のの家がどこまでも立ち並んでいます。アパルトヘイト法を制定した白人政権が、黒人たちを白人社会から隔離して生活させるために作った人工的な町なのです。ヴィクターは口癖のように『No problem』『Don‘t worry』を連発するおかしなオニイサンで、私などよりかなり若いのですが、体の大きさとその人なつっこいというか、明るい性格の中に刻んできた歴史がにじみ出てくるような、不思議なアフリカ人です。この人は間違いなくソウェトの案内人としては南アで一番だと思いました。まず訪ねたのは彼の写真の生徒であるエリザの家です。典型的なソウェトの暮らしが見れるというので、津山さんが設定してくれたのです。エルザ自身は国際交流の仕事で日本に滞在中とのこと、留守宅におじゃましたのです。庭で洗濯物を干していたエリザの妹がいきなりはずかしがって、洗濯物で顔を覆って家に駆け込みました。6畳ほどのキッチンを通って家に入って行くと10畳くらいの居間に両親が座っていました。とにかく明るい人たちで、出身地についてやソウェトに住むようになったいきさつなどをお茶をごちそうになりながら聞きました。お茶を運んできたのはエリザの妹ですが、やはりはずかしくて顔を半分隠したままです。16〜17才。弟もいたのですが、親戚の子ということで、本当の兄弟ではありません。南アでは家族や兄弟という概念が日本とは違うようで、誰の子だとか、どの家の子だとかいうことはあまりこだわらず、親戚や近所の子をみんな兄弟として育てているんだそうです。エリザの家は典型的なソウェトの家でとても参考になりました。両親は英語もとても確かに話す人で、かなり落ち着いた暮らしぶりを感じました。ただし話が細部に入ると、ヴィクターと機関銃のような南アフリカ語(コサ語だと思う)になって、私たちには何もわからなくなります。ヴィクターはここ以外でも私たちにはまったくわからない言葉を連発していましたが、いくつものアフリカ系部族語を使い分けていたようで、この日の終わりごろには、この人は天才なのではないかと思いました。南アには公用語が9言語あります。今は日本語を猛勉強中だそうです。
 フリーマーケットのような所に移動して見学。バス停に勝手に布や衣類を広げて元気のいいおばさんたちが楽しそうに井戸端会議をしています。ドラム缶の上に鍋を置いて煮込みを売ってる店(といっても柱とトタン屋根だけ)に入りました。どうやら豚のモツ煮込み。ヴィクターがひとさら注文して、食べろよ、といいます。さぁ、こういう場で現地の人と同じものを味わうのは望むところなので、ヴィクターにならって手づかみでたべました。食べ物のことなら誰にも負けないぜ、なんでも食べてやると意気込んでいた私ですが、不覚にもモツの脂肪の匂いがきつくて、ちょっとパスという味です。かなり無理をすれば食べられるのですが。煮込みだと思ったのが、どうも鉄板焼きのようなものらしく、豚モツから出た油がたまっていて油煮のようになっているのです。尻込みする私にヴィクターは、どーしたんだ、おいしいじゃないか、といって意地悪にも皿を突き出して強要しながらパクパク食べます。あとになって津山さんも言ってましたが、娘のネオちゃんとヴィクターは休日になるとソウェトのおばあちゃんの家に行くついでにこのモツ煮込みを食べるんだそうです。津山さんいわく、『娘はもうあの味に馴染んでしまったようね。』
 それならば、とヴィクターが連れて行ってくれたのが肉屋さんです。今度は店らしい店で冷蔵庫もあります。ここで肉を買って、店の前の歩道においたバーベキュー台で焼いてたべるのです。これなら食べられるだろうというヴィクターと買ったのが50センチもある生のソーセージとラム肉の肝。それを焼いて食べることになりました。焼きながら、日本人だって豚のモツを食べるんだぞ、さっきのだってここで焼いて油が落ちたら食べられるぞ、と話したのですが、私の英語ではどこまで通じたのかわかりません。ヴィクターは私のいい加減な英語がわからなくなると『No ploblem』を連発します。店の中で太ったおばさんがこねているパップというこちらの主食も買ってきました。白トウモロコシの粉を鍋で熱しながらねったものです。肉を乗せて食べました。これはおいしかった。
 食べ物のことを書いていたらまた長くなってしまいました。今回も終わりません・・・。

エリザの両親とヴィクタ−

フリーマーケットの女性

煮込みやさん

豚モツ煮込み

パップをこねる肉屋さん

ソーセージ、ラム&パップ

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