ベネスエラ:投票の暫定結果


国家選挙委員会は、94%の票を集計し、チャベスが58%の票を得たと述べた。有権者約1400万人、投票率は65%前後と推定され、罷免に反対が499万票(58%)、賛成が357万票(42%)とのこと。


当然の予想通り、チャベス支持が多数を占めました。投票は、人々が詰めかけたため、午後6時に終了予定を2度延期し、結局15日24時までかけて行われました。投票は、一部で暴力沙汰があり、カラカスのチャベス支持派地区で女性一人が死亡し、数人が負傷したなどの情報が入っていますが、概ね平常に行われたとのこと。

反対派は、さっそく、投票結果はイカサマだと主張しています。手前勝手に行なった集計と一致しないと。


以上、これまでに、本ページで、投票をめぐる国際的な声明ベネスエラ:投票を前にを紹介しましたので、その続きとして簡単に速報です。以下は簡単なコメント。

少なからぬメディアで、チャベス支持派と反対派との対立といった構図でこの国民投票が紹介されています。「人口の8割を占める貧しい人々のことをはじめて考慮する大統領」、と支持派、「独裁的な傾向をもち経済運営に失敗したチャベス」、と反対派。これがメディアで紹介されている、典型的な対立点です。

チャベス支持派と反対派の間に激しい対立がある、というのはその通りです。けれども、チャベス就任後の「反対派」の動きを見てみると、今回の国民投票の背後に、そのような対立ではない、立憲民主主義の観点からいえば、別の対立軸が見えてきます。

あえて誤解を恐れずにざっくり言うと、立憲政治を支持するか、そうでない超法規的な手段も厭わないかという対立です。

チャベス自身、軍出身で1990年代にクーデター未遂を起こしたりもしましたが、1998年末、大統領選で地滑り的に勝利を収め(チャベスの得票は56・5%、選挙をかすめ取ったジョージ・W・ブッシュ氏などと比べて遙かに正当な大統領と言えます)大統領に就任して以来、基本的に憲法・法律を遵守して施政を行なってきました(たとえばアメリカ合州国大統領ジョージ・W・ブッシュ氏や日本国首相小泉純一郎氏などと比して相対的に評価すれば、このように言えると思います)。

一方「反対派」は、これまでに、様々な非合法活動を行なってきました。

たとえば、2002年4月のクーデター未遂事件。米国民主主義基金など、お馴染みの組織が、クーデターを起こしたグループに支援を行なっていました。この経緯については、こちらをご覧下さい(ぜひ)。その際、この度チャベス反対キャンペーンをはったベネスエラの民間メディアの多くがこのクーデターを支持し、ニセの「チャベス辞任」情報をたれ流しました。

また、2002年末から2003年初頭にかけては、石油公社等基幹産業の反チャベス経営陣がサボタージュを行いました。これは、労働者のスト権を大きく越えて、石油関係操業機器の故障引き起こしなどを含む破壊行為でした。

これまで米国の一部の「民主主義」団体等は、チャベスに「国民投票を行なって民意を問うように」などと述べていましたが、57%近い得票を得て大統領になった人物に、クーデターやサボタージュを繰り返す反対派の意向を考慮するために、憲法規定にない時期に「国民投票を」などと言うのも、非常に奇妙なことでした。

結局、いずれの非合法活動にも失敗した反対派は、大統領任期半ばを過ぎたところで、一定数の誓願があれば大統領の罷免を求める国民投票を行うことができるという、世界的にも稀な憲法規定を利用し、署名を集めて、今回の国民投票が実現されました。

国際的なオブザーバからの公式情報は入ってはいませんが、非公式にはイレギュラーなことはほとんどなかったとの情報も入っています。

反対派が、投票結果はイカサマと主張したのは、さっそく、元の非合法活動を含めたチャベス追放活動を開始することを示唆しているのかも知れません。そうすると、1980年代のニカラグアや1970年代前半のチリでのように、非合法な破壊行為が盛んに行われる可能性もあります。

チャベスに対しては「独裁的」「言論の自由を弾圧」といった反対派の言葉が英語メディアや一部の日本語メディアで現れることがあります。そのような側面が無いわけではないと私も思っていますが、「お前、鼻クソほじって舐めただろ」、「Aくんだってやってるよ」というような幼稚な対立の不毛さを承知の上であえていうと、日本政府(そして少なからぬ大手メディア)が参加・加担している言説の構図の中で、そうした発言には違和感を覚えざるを得ません。

たとえば選挙をかすめ取ったアメリカ合州国大統領が、国際法を破って侵略・占領したイラクでは、アメリカ合州国が押しつけた、選挙で選ばれたのではないイラク政権のアラウィ首相なる人物が、アルジャジーラのバグダッド支局に閉鎖命令を出し、また、メディアの検閲を強化していますが、寡聞にして、日本政府や主立ったメディアがそれをきちんと批判するのを知りません。

また、こうした状況下でも、「われわれはイラクを解放した」「民主主義をもたらした」「ナジャフを解放する」などと主張するアメリカ合州国を日本政府は支持し、多くのメディアはそれに対して基本的な観点からの批判を展開し得ていないのですから。

話が前後します。朝日新聞オンラインで投票を報じた記事には、「国内の安定は、大統領が反対派と積極的に対話するかにかかっている」とあります。しかし、米国がアフガニスタンを攻撃したときやイラクを侵略したとき、この「リベラル」紙は、「国際の安定は、米国大統領が反対派と積極的に対話するかにかかっている」とは言っていなかったように記憶しています。ブッシュ氏に対しては、武力に訴える人々も含め、対立するものと対話をするかどうかにかかっている、とは言っていなかったように記憶しています(正確にはそう言っていた記憶がない)。

また、今回国民投票の実施を求めていた反対派の中には、2002年4月のクーデターや2002年末から2003年初頭のサボタージュに関与してきた勢力も含まれているという言及もありません。

もう一つ、チャベス賛成/反対ばかりがセンセーショナルにクローズアップされ、本来、国家元首の選択は個人の選択ではなく政策の選択であるという点についても、結果として陰に隠されたかたちになってしまっています。たとえば英国BBCオンラインは、「焦点はチャベス」といったトーンの記事を掲載していますが、実際のところ、反対派が最も気にしているのは、チャベスがこれまでの寡占体制を切り崩し貧困層を含むベネスエラ国民への福祉・医療・教育を強化する政策を採ったことです。

チャベスの演説を聞くと、確かに、人としてのチャベスの「カリスマ性」のようなものを感じても不思議ではないと思います。けれども、これまでの政策からの明確な変化を目にしつつある多くの人々が、賛成にせよ反対にせよ、政策をめぐる判断をせずにチャベス個人への賛否を論点にしていると考えるのは、誤っています。

あるいは、ラジオで聞くと何も言っていないことがはっきりわかる首相を単にこれまでと違うような気がするといって支持したり、自己陶酔に浸って嘘八百を恍惚となめらかな英語で繰り返すテフロン顔の首相を支持したりする状況にある国々のメディアは、そうした自分たちの情けない状況をベネスエラの人々にも投影しているのでしょうか。


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来年度開校予定の東京都立中高一貫校に扶桑社版歴史教科書を採択することがこの25日にも決定されようとしているそうです。偏った教科書で、丁寧に反対の意向を表明して下さいとの情報が入ってきました。

東京都教育委員会の連絡先は、電話03-5320-6733、ファックス03-5388-1726だそうです。
益岡賢 2004年8月16日

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