ベネスエラ:投票を前に

カラカスからの報告(リー・ススター)
ベネスエラのフロリダ化(グレッグ・パラスト)


 

カラカスからの報告

リー・ススター
2004年8月13日
CounterPunch原文


カラカス。ベネスエラのポピュリスト大統領ウーゴ・チャベス・フリアスは、8月15日の罷免投票で勝利をおさめそうであるが、保守派の反対は繰り返され続けるだろう----ワシントンの援助のもとで。

チャベスに典型的な広範囲に話題の及ぶ----ノーム・チョムスキー、エデュアルド・ガレアノ、ジャン=ジャック・ルソーが言及された----長い8月12日の記者会見で、チャベスは米国の帝国主義とジョージ・W・ブッシュ(反対派の「主人」)に対して強硬な発言をしたと同時に、予期される自分の勝利が達成されたあとは対立者たちと面会すると申し出もした。

一方、同じ日のもっとあとでアルタミラの上流階級居住地区で10万人以上のラリーを行なった反対派の指導者たちは、罷免投票に「イエス」をと促しており、チャベスとの和解にはほとんど関心を示していない。反対派は2002年にクーデターでチャベスを追放しようとして失敗している。

ベネスエラの大企業のほとんどから資金を得、企業メディアから全面的な支持を得ている反対派は、ピークを既に過ぎたかもしれないが、それでも依然として多数の人々を召集できる。反対派は、中流階級下層にアピールするために「仕事と不安、分裂に反対」というスローガンを持ち出している。中流階級の下層の多くが、1989年にベネスエラにもたらされた新自由主義・自由市場「構造調整」以来、下降傾向にあり経済的に不安状態にある。1989年といえば、国際通貨基金(IMF)の引き締め政策に反対した人々の蜂起が弾圧され1500人が殺された年である。

しかしながら、経済問題をめぐる反対派による中流階級へのアピールは、反対派がその前にチャベスの社会プログラム(「ミッション」として知られている)に対して行なっていた攻撃と一貫していない。チャベス派は、NGO活動を参考に、効率が悪く反対派が浸透している政府官僚機構をバイパスして10の新たな政策を展開した。その中には、キューバ人医師の助けによる貧民街や村への診療所の設置、農民への技術支援、貧困に追いやられた先住民グループへの食料確保などが含まれている(ちょっと考えて欲しい。米国では人々が保健医療ケアへのアクセスを日々失い続けている。一方、貧しいベネスエラで保健医療体制は拡大されている)。カラカスの地下鉄にシメされたポスターは、これらのプログラムのインパクトを上手くとらえている:黒人女性が次のように述べている:「今日、私はメイドだが、明日はソーシャル・ワーカとなるだろう」。こうしたプログラムは、チャベスが「ボリバル派革命プロセス」と呼ぶところの、貧しい人々を支援する大衆プログラムとベネスエラの主権を守ろうという民族主義的主張にとって、必須の部分となっている。しかしながら、これは、1979年のニカラグアにおける大衆蜂起によるソモサ独裁追放と比べると、カリスマ的なトップダウンの指導者主導の「革命」である。

それでも、ミッション----高い石油価格により資金を調達している----は、貧しい人々の間でチャベスへの支持を深めており、8月8日の「罷免に反対」ラリーに推定120万人が動員されたことの重要な理由である(チャベスに反対する派のラリーは10万人以上を動員したが、罷免に反対する人々のラリーと比べると圧倒的に小さいものだった)。裕福な人々や上層中流階級を恐れさせているのは、政治的にアクティブになり期待の高まった貧しいベネスエラ人----人口の約80%を占める----の光景なのである。

票を動員するためには、反対派はポピュリスト的に装わなくてはならない。そのためにこれまで重要な役割を果たしてきたのはベネスエラ労働総同盟(スペイン語の頭文字をとってCTV)----以前から民主行動(AD)党に支配されてきた----、それから「社会主義への運動」(MAS)、毛沢東主義派閥の「赤い旗」などであった。けれども、2002年4月11日から13日にビジネス・グループFEDECAMARASのボスであるペドロ・カルモナが米国の支援を受けて権力を短期間掌握したことで、何百万人もの人々の目にとって、反対派の信頼は失墜した。2002年から2003年にかけての石油産業におけるボスたちの「スト」----ベネスエラ経済に大打撃を与えた----の失敗もまた、反対派への支持を失わせた。石油産業ストのあと、主要な石油労働者組合をはじめとする諸組合がCTVを離脱し、全国労働者組合(UNT)を結成した。UNTは現在組織構造とプログラムを展開中である。

社会運動や大衆組織の中にいてチャベスを支持する人々の観点からは、8月15日の国民投票はそもそも行われるべきものではない。罷免条項は、2000年にチャベス支持者たちにより書かれ承認された憲法が規定したものであり、反対派は他の手だてがないので、この戦術を使ったのである。けれども社会運動の活動家たちは投票を不確定な譲歩だと見なしている。投票実現の誓願署名収集の際に不透明さがあったためである。

筋金入りの社会主義者で倦むことなき活動家でもあり、活動家のウェブサイトAporrea.orgに寄稿するゴンサロ・ゴメスは、「プロセス」が官僚主義かされ泥沼にはまることを心配しており、また、チャベスが投票を認めることで正当性を求め、今後の社会変革よりも反対派との交渉を行なっていることを心配している。別の著名な活動家フレシア・イムピンサは、私営化された国家通信会社を通してイカサマが行われることを心配している(米国の巨大通信企業SBCが投票データの通信を行う)。旧政府関係の汚職にまみれた職員に対して一連の訴訟を起こしたことで知られるイムペンサは、クーデターや挑発行為が起きたときのために重要な経済・政治的場所を守るよう活動家たちを動員するために、投票前に毎日ミーティングを行なっている。政府報道官はそうした可能性を否定しているが、ベネスエラの最近の歴史を考えるならば、陰謀理論を簡単に却下するわけにはいかない。

ほとんどの世論調査がチャベス勝利の可能性が高いことを示している中、反対派は、投票結果が確定するよりも数時間前の午後2時に、出口調査により独自の結果を宣言すると述べている。電子的な投票集計----それ自体大量の陰謀説の対象となっているのだが----がチャベスの勝利を示したときに、「イカサマがあった」と叫ぼうというわけだ。手作業による投票用紙の集計がチャベスの勝利を確定したら、反対派は、軍内のチャベス派が投票でイカサマをやったと叫ぶかも知れない。

それに加えて、挑発的行為がなされる恐れがある。そうした上で、暴力により投票が妨害されたと主張し、だから不当だと言うわけである----そのときに、ジミー・カーターや米州機構の外交官たちが介入する。さらに、チャベスが投票で勝利しブッシュが選挙で敗北したとしても、米国政府はチャベス締め付けと不安定化工作の手を緩めることはないだろう。ジョン・ケリーは既に、わざわざ、米国にとってベネスエラは「脅威」であると発言しているのである(チャベスが罷免された際には副大統領が大統領職を行い、チャベスは2006年の通常選挙で立候補できる)。

今回の国民投票は、来るべきより大きな闘いの前哨戦である。結局のところ、上からの革命などというものはない。親チャベス派と反チャベス派のラリーは、社会の大規模な分断を示している。遅かれ早かれ、社会階層の直接対立につながるような分断。国民投票は、それを先延べするだけである。

リー・ススターはカウンター・パンチやソーシャリスト・ワーカーに寄稿する著述家。lsustar(@)ameritech.net.


 

ベネスエラのフロリダ化

グレッグ・パラスト
2004年8月11日
ZNet原文


ウーゴ・チャベスはブッシュを錯乱させる[そもそもブッシュに錯乱していないときがあれば・・・・・・]。もしかすると、嫉妬からかもしれない。米国でのブッシュ氏と違って、チャベスはベネスエラで多数票を得て大統領になったのだから。

あるいは、もしかすると、石油のためかもしれない。ベネスエラの石油埋蔵はイラクに比する。そしてウーゴは、ベネスエラで原油を採掘する米英の石油企業は、16%以上の採掘量を払うべきだと考えているのだから。まさか。ニューヨークのレストランでさえ、16%のチップなんて、とんでもないのに、というわけだ。

いずれにせよ、奴らの大統領は消え失せなくてはならない、と我々米国の大統領は決めたのである。チャベスはベネスエラの貧しい人々から支持されているので、容易なことではない。それに、何と言っても、米国の石油企業はベネスエラの寡占エリートたちと組んで、ベネスエラの大多数の人々を貧しいままにさせておくよう専心してきたのだから。

そんなわけで、チャベスは8月15日(日)の国民投票で、勝つはずである。むろん、投票が自由で公正なものだったら、の話だが。

でも、自由で公正なものとはならないだろう。数カ月前、ちょっとした誰かが、私にファックスを送ってきた。ジョン・アッシュクロフトの司法省とアトランタのチョイスポイント社という会社との契約に関する部外秘のページのようだった。取引は「対テロ戦争」の一環であった。

司法省は、納税者の金から6700万ドルもを随意契約でチョイスポイント社に支払うとしていた。数カ国の全市民に関する個人情報のコンピュータ・プロフィールに対してである。どの国の市民についてかが特に印象に残った。2001年9月11日のハイジャッカーたちはサウジアラビアやエジプト、レバノン、アラブ首長国連邦出身者だったはずだが、チョイスポイント社のメニューが提案していたのは、ベネスエラ人、ブラジル人、ニカラグア人、メキシコ人そしてアルゼンチン人の記録であった。CIAが、自爆タンゴ・ダンサーが爆発型エンチラダを抱えて国境を越えてくるラテン型陰謀を発見したとでもいうのだろうか?

9月11日の攻撃に関係していなかったということ以外、これらの国に共通するのは何だろう? 偶然にも、いずれの国でも選挙に悪戦苦闘しており、それぞれの選挙で有力候補----ブラジルのルラ・イグナシオ・ダ・シルバ、アルゼンチンのネストル・キルシュネル、メキシコ・シティ市長選のアンドレス・ロペス・オブラドル、ベネスエラのチャベス----が大胆にも、ジョージ・W・ブッシュ氏の「グローバル化」要求に挑戦しているのだ。

チョイスポイント社が最も最近有権者情報を我らが政府に売り飛ばしたときは、ジェブ・ブッシュ州知事を助け、フロリダの投票で悪党の所在を突き止めパージするためだった。チョイスポイント社が示した悪党たちは、結局のところ、VWBつまり黒人のくせに投票をしようとする民主党支持者だった。このちょっとした「誤差」のために、アル・ゴアは大統領の座を逃したのである。

どうやら、ブッシュ政権はフロリダのショーを国境の南でもやろうとしているらしい。

けれども、チョイスポイント社が市民のファイルを持っていることを発見したメキシコ政府は、同社の首脳を刑事告発すると脅した。チョイスポイント社は無罪であると抗議し、要求があった国のファイルは破棄すると述べた。

けれども、チョイスポイント社は、どうやら、ベネスエラのチャベス政府には、そのような提案をしていないらしい。

カラカスで、私は、チョイスポイント−アッシュクロフト合意をニコラス・マドゥロ議員に見せた。チャベスの政党党首であるマドゥロは、自国の市民情報が米国の諜報に売り出されていることを知らなかった。彼は、それが悪事を働くために重要な価値を持っていることを理解した。

もしこのリストが何らかの方法でベネスエラの反対派の手にもたらされるなら、チャベスを罷免し除去しようと言うコンピュータ支援型の動きを途方もなく力づけることになろう。チェックポイントの宣伝係は、ブッシュ政権は同社に、リストをそんな風には使わなかったと語ったと発表した。けれども、ブッシュ屋たちがそのとき笑っていたかどうか、この宣伝屋は教えてくれなかった。

我らがチームは政府の金から5万3000ドルの支払いをチャベスの罷免呼びかけを組織した者たちに行なった。これらの者たちは、有権者のコンピュータ・リストで武装していると主張している。そんなリストをどこから手に入れたのだろうか? 意図的にか否かにかかわらず、チョイスポイント社の手助けのもと、フロリダで使われた不正工作は、ベネスエラで再利用され、それから、ブラジル、メキシコへと行きそうである。その後どこに使われるか、わかったものではない。

こういうわけだ。司法省はサウジアラビアから好奇心の目をそらし、ベネスエラで有権者情報を万引きした[万引きは犯罪です!]。次のように問うのは妥当だろう:ブッシュ氏が戦っているのは、「対テロ戦争」なんだろうか、それとも「対民主主義戦争」なんだろうか?


本記事を含む私のページの他の記事をウェブや集会等の配付資料で転載することは、転載者の責任で行なって下さって結構です。ただし、特に集会等の配付資料で使う場合、元執筆者の名前、訳者としての益岡の名前および「2004年6月に『ファルージャ 2004年4月』(ラフール・マハジャン著、益岡賢・いけだよしこ編訳、現代企画室、1500円)が出版され、2004年4月にファルージャで起きたことが目撃証言を中心にまとめられている」という記述を入れて下さい。


ベネスエラではチャベス大統領の罷免をめぐる国民投票が8月15日に行われる予定です。投票をめぐる国際的な声明を以前紹介しました。チャベス大統領に対しては、2002年4月にクーデター未遂事件が起きています。米国民主主義基金など、お馴染みの組織が、クーデターを起こしたグループに支援を行なっていました。この経緯については、こちらをご覧下さい(ぜひ)。

7月27日付APの記事には、5月にチャベス暗殺未遂容疑でベネスエラの首都近くで逮捕されたコロンビア準軍組織兵士たち約100人は、ベネスエラ移民局の職員筋の手引きで越境入国カラカスに向かったとありました。コロンビア準軍組織が関与しているとすると、密接にコロンビア軍そしてコロンビア軍を大規模に支援している米国と、再びつながってきます。何としてもチャベスを葬り去りたい人々が、米国政府とその取り巻きにいるようです。

サンディニスタ政権下のニカラグアでは、1984年に国際的な監視のもとで選挙が行われ、サンディニスタが勝利しましたが、米国はその選挙結果を認めず、テロ攻撃を強化しました。8月に予定されているベネスエラの国民投票では、普通に考えるとチャベス信任票が多数を占めると予想されますが、その前にどのような不安定化工作が行われるか、また、チャベス信任という結果が出たときに米国政府や主流メディアがどう振舞うかが注目されます。とりわけ、正当な選挙で選ばれたのではない米国大統領ジョージ・W・ブッシュ氏が「ベネスエラの国民投票が公平に行われることを望む」と声明を発しており、同時に、歴史的な経緯から、米国大統領が言う「公平」は、米国政府の方針にしたがった結果が出るようなプロセスを指すことが示されている状況では。

パラストの記事には、選挙操作の背景が出てきています。米国の諜報等が人の情報を自分の支持する側に手渡すことは、これまでも行われてきました。1965年インドネシアでは、CIAが作成したファイルをもとに、スハルトと軍が殺害を行なっています(現在、数人の翻訳者とともに、戦後米国介入史の大部な本の出版を準備中です)。

チャベス大統領について、その言葉を収録した『ベネズエラ革命 ウーゴ・チャベス大統領の戦い』(ウーゴ・チャベス演説集 翻訳・解説伊高浩昭 現代書館 定価2200円+税)とうい本が出版されています。
益岡賢 2004年8月14日

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