100万人の遺体をあとに残した一人の男
インドネシアのスハルト将軍
アラン・ネアン
2008年1月14日
CounterPunch原文


インドネシアのスハルト将軍の容態が急速に悪化している(2008年1月27日に死去)とニュースは伝えている。

そこで、インドネシアにやってきてから、人々に、今、寿命を終えつつある殺人者についてどう思うか人々に聞いてみた(スハルトの犠牲者:およそ100万人強、その圧倒的多数が民間人)。

コーヒー/食事の屋台近くにいた最初の人物(男性)は、ラジオがスハルトの容態を大音量で報じていたにもかかわらず、私が言及して、ようやく口を開いた。「そのほうがずっとよい」と彼は微笑んだ。

以前からの知り合いも、皆、私が政治を追っていると知っているにもかかわらず、それについてわざわざ話題にすることはなかった。

市場にいた女性は、スハルトについて聞いた私に、最近自分がかかった病気について話した----何十年にもわたって座り仕事を続け穀物をすりつぶしてきたことが体にこたえたという。

「スハルト?」 彼女は言った。「金の食べ過ぎだね。満腹で、彼一人で食べ過ぎたから、他の人は食べるものがなくなってしまった」。

彼女は自分のジョークにくすくす笑った。周りの誰もが笑った。喪の時間はお昼どきまでに終わるだろう。

1993年、東チモールでインドネシア軍による虐殺があったあと、ニューヨーク・タイムズ紙は、スハルトは「祖父の微笑みと鉄の拳で国を運営した」と述べ、「彼の偉業が海外であまり知られていない」ことを嘆いていた(Philip Shenon, "Hidden Giant: A Special Report: Indonesia Improves Life for Many But the Political Shadows Remain ," The New York Times, August 27, 1993.)。

インドネシアでは、膨大な富と遠隔からの殺害命令の塔の下、スハルトは一方で小さな男として、他方で脅威として見られていた。

汚職について語ってもよいが、殺人について語ってはいけない。スハルトの殺人を忘れるために件名にならなくてはならない。政府は「環境浄化」関係諸法により、殺害を生き延びた親族が社会的に人々にそれを語ることを禁じた。それが知られると、犠牲者の記憶により社会が汚染されるからという理屈だった。

一人の老母が、私のしつこさに負けて、あるとき、スマトラ川に多数の死体が浮いていた想い出を話してくれたことがある。

けれども、基本的に人々はスハルトが自らの地位を確立した虐殺----ニューヨーク・タイムズ紙のジェームズ・レストンにとってそれは「アジアにおける一筋の光」(1996年6月19日)であり、この虐殺を支援したCIAの言葉では「20世紀最悪の大量殺戮の一つ」だった(背景については、2007年11月8日付けの投稿「Duduk Duduk, Ngobrol Ngobrol. Sitting Around Talking, in Indonesia」を参照)----について話したがらない。

興味深いことに、公式の官僚レベルでは、タブーとなっていたのは虐殺ではなく汚職のほうだった。

1998年、クリントンがスハルトに提供した秘密援助(スナイパーと「心理作戦」についての援助も含まれていた:2007年12月12日の投稿を参照)をめぐる記者会見を行った件で私が尋問を受けていた。スハルトの部下が声をあげて私に関する書類を読み上げ始めた----心配になるほど正確な部分と、あまりに馬鹿げた部分があった。

彼は私の政治的立場を訊ねた。私は虐殺について演説し、スハルトとクリントンは同じ監房に入れられるべきだと述べた。私を尋問した男はまったく退屈していた。けれども、なぜかは覚えていないが私はそれから汚職について言及した。

彼は感情を害し、怒り出した。座り直し、「何と言った? 汚職だと?」と述べた。

このふるまいは理解できる。人々にとって、汚職はAランクの話題なので、危険である。官僚たちはそれについて語ることを奨励されていない。現金封筒は静かにポケットに入る。

一方、虐殺は? 虐殺が火を噴くことはありそうにないとスハルト屋たちは計算した。

虐殺を生き延びた人々は時により自己中心的になって、とりわけ巧妙なテロが仕掛けられ続けているならば、死者を忘れ殺人者を祝福することがある。強制的な思考統制が可能なこともあるのである。

スハルトが死んでも、私が知るインドネシア人の中で涙を流す人はいないだろうが、米国では事情は違うかも知れない。

米国では、考え(と補助金)を同じくする一派が形成されており、スハルトには「人権」の問題はあるものの、公的統計は急速なGDP成長を示しているからOKだと見なしてきた。

スハルト支持者たちは厳格な反共だが、プラウダ式思考を取り入れ、以前スターリンを正当化するために用いられたと同じ議論でスハルトを正当化したのである。

けれども、たとえばマレーシアに向かうブラワン・フェリー乗り場に今朝集まった背の低い痩せた人々からわかるように、スハルトおじさんの虐殺は、ジョーおじさんのと違い、インドネシアを新たな飛行機に乗せることにはつながらなかった。

近隣諸国は、人々の現実状況に関してインドネシアと同等のところから出発しながら、スハルトと軍の台頭以後、インドネシアよりも遙かに良い状況を達成した。そのため、インドネシアの人々は仕事を求めて家を離れ、しばしば赤ん坊を育てるために威厳を売りに出さなくてはならなかった(貧しいインドネシア人を海外に送る選択については「Duduk-Duduk」を、また、マレーシアがたどったインドネシアとは異なる開発の道については2007年11月24日の投稿「Rising in Malaysia. The Dangers of Feeding Poor People」を参照)。

興味深い問いは、諸外国のスポンサーたちがスハルトの殺人に対してどうしてかくもおおらかにふるまったかではない(答え:これについては処罰を免れることができるからだった)。むしろ、どうしてインドネシアの人々が、そしてほかの多くの場所で、一人の小さな人物が独裁者になることを見逃してきたか、である。

複雑な問題なのでここでは扱えない。今言えることは、人々の中には、別の遙かに偉大な人物、山羊の野に埋葬されている女性----インドネシア人の中には彼女は輝ける偉人であると考えている人も多い----の命日に忙しくしている人々もいるということ。

二人が会っていたならば、スハルトは彼女にスハルト宮の床を洗うよう言っていただろう(彼女はそれを拒否したことは確実である)。

けれども、彼女の力をもってしても、床の血をすべて洗い流すことはできなかったろう。

それは、スハルトが有罪を宣告され、いなくなったあと、社会全体がやらなくてはならない仕事である。

人々はあつまって、今後は床を血で汚さないようにしなくてはならない。

アラン・ネアンには、彼のブログを通してコンタクトできる。


スハルト将軍という大量殺人者が独裁支配を続けた32年間、日本はODAなどを通してスハルト政権を支え続けました。橋本龍太郎元首相は、スハルト大統領退任時に「偉大な業績に感慨を覚える」と述べています。なお、文中で参照されている文章は、アラン・ネアンのブログからアクセスできます。

■ 宋神道さん映画「オレの心は負けてない」上映会

主催:在日コリアン青年連合(KEY) 東京
日時:2008年2月23日(土) 18時〜21時(17:45開場)
場所:文京区男女平等センター研修室A
  (地下鉄「本郷三丁目」駅より徒歩5分、「春日」駅より徒歩7分)
参加費:一般:1000円、学生:700円

■ 辺野古について

辺野古からの情報をご覧下さい。また、わかりやすくまとめた文章は、米軍再編ってどうよ?をご覧下さい。

■ 金持ちが設けて貧乏人が殺される これが戦争の本質だ
  アレン・ネルソン トークライブ in 千葉

日時:2008年3月8日(土)開場/18:15〜
   開演/18:30〜(20:30分終演予定)
場所:千葉氏中央図書館/生涯学習センター・2Fホール
 JR千葉駅東口または北口より徒歩8分
 千葉都市モノレール千葉公園駅」より徒歩5分
 ※東京駅より総武快速で千葉駅まで約40分
資料代:一般1,000円・高校生以下500円・小学生以下無料
 ※お申込み・予約不要。当日入場時にお支払い下さい。

■ くるな給油機2・23大行進

日時:2008年2月23日(土)
 10時30分 豊山町 神明公園(航空館boon)集合
 11時出発―11時30分三菱重工申し入れーひたすら行進
 1時ミニ集会(エアフロントオアシス)1時30分出発―小牧基地へ
 2時30分小牧基地正門前で基地申し入れ
詳細は不戦へのネットワークをご覧下さい。

■ 立川反戦ビラ入れ裁判〜4年目も大がんばり集会〜

日時:2008年2月23日(土)午後1時開場1時半開始
会場:三多摩労働会館・大会議室
 (JR立川駅北口徒歩3分)
講演:青木理さん(ジャーナリスト・「日本の公安警察」著者)
 「公安警察ってなんなんだ?」

■ 自衛隊イラク派兵違憲訴訟 判決前集会
  とりもどせ。平和的生存権

日時:2008年2月26日(火)午後6:30〜8:30
場所:熊本市国際交流会館ホール
内容:シンポジウム「イラク戦争と私たちのくらし」

■ 日の丸・君が代強制反対ホットライン

日の丸・君が代強制反対ホットライン・大阪のHPをご覧下さい。

■ 沖縄性暴力事件への抗議連帯スタンディング・デモ

日時:2月19日(火)18:00〜 1時間くらい
場所:衆議院議員会館前
詳細は、呼びかけ団体であるアジア女性資料センターWAM・女たちの戦争と平和資料館ふぇみんをご覧下さい。

■ 共謀罪に反対する市民と議員の院内集会

日時:2月28日(木)12時30分〜14時
場所:衆議院第2議員会館第四会議室
お話し:「共謀罪と人権」(仮題)
 新倉修さん(青山学院大学法科大学院教授)
発言:「G8サミットに基づく監視・管理の問題」
   寺中誠さん(アムネスティ・インターナショナル日本)
   「ウィルス作成罪・コンピュター監視法の問題点」
   小倉利丸さん(ネットワーク反監視プロジェクト)
共催:共謀罪法案反対NGO・NPO共同アピール
   共謀罪に反対するネットワーク
連絡先:アムネスティ・インターナショナル日本 Tel03-3518-6777
    反差別国際運動日本委員会(IMADR-JC) Tel03-3568-7709
    日本消費者連盟 Tel03-5155-4765

■ 広河隆一さん制作 NAKBAの紹介(NHK)



■ 袴田さん事件で元裁判官「私も無実と」




益岡賢 2008年2月17日

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