コロンビアのバイオ・テロ:アンデス地域へのエージェント・グリーン

ジェフリー・サント・クレアー
2002年12月30日
ZNet原文


他国の人々に対する敵意。化学兵器と生物教材の使用。焦土作戦。 サダム・フセインのイラクのことではない。 ブッシュ政権が、「麻薬に対する戦争」というニセの旗のもとで行っているコロンビア略奪の話である。

イラクとの大きな違いは、サダムが毒ガスをクルド人に使い、そして恐らくはまず確実にイランに対しても使ったのは、15年以上前だということである。 湾岸戦争以来、サダムの悪辣な計画は、破壊された建物の地下で化学実験を行う程度になった。 一方、ブッシュ政権によるコロンビア農民に対する毒物戦争は、国際法に違反しながら、今まさに日々進められているものである。

ブッシュは、イラクが大量破壊兵器を蓄えているともっともらしく説教する一方、民主党・共和党議員の一部の支援も得て、コロンビアの山間部で新たな毒物を使用しようとしている。 その中には、推進者が奇妙にも菌類除草剤と呼ぶ危険な生物兵器も含まれている。 この生物兵器を、ベトナムで米国が大量に利用したエージェント・オレンジ(枯葉剤)にならって、エージェント・グリーンと呼ぶことにしよう。

米国議会の細菌戦争推進者の筆頭に立っているのは、フロリダ州選出の共和党下院議員ボブ・ミカである。 2002年12月半ばに、ミカはブッシュ政権のお仲間に、禁止されている破壊的な菌類の封を開け、絨毯スプレー作戦を開始するよう呼びかけた。 「菌類除草剤を再開しなくてはならない」とミカは赤くなって叫ぶ。 「かくも長いあいだ研究されてきた物質なのだから、実際に使わなくてはならない。 これは、スプレーするだけでなく、一定期間有効である。かなりの期間、麻薬作物を根絶できるだろう」。 むろん、エージェント・グリーンは、それが触れたすべてのものを撲滅する。 これらの細菌爆弾を「スマート菌」と呼ぼうとするふりすら見られない。 コロンビアで細菌戦争を全面展開すべきというミカのうたい文句は、将来戦争犯罪検事になることを夢見ている若手法律家がメモを取るべきだろう。 けれども、ミカは孤立した例外ではない。 いつもは対立しているコリン・パウエルも、プラン・コロンビアの目玉として、生物教材の使用を支持している。 実際、駐コロンビア米国大使アン・ペーターソンは、最近、コロンビアではすでに生物兵器が使われていると思うと証言した。 奇妙なことに、彼女はその証言をのちに、脅迫のもとで行ったものとして撤回した。 しかしながら、誰が脅したのかは述べていない。

さらに、クリントン時代から国務省に残った何名かの一人であるランド・ビアーズがいる。 この生物戦を熱心に提唱する人物がブッシュ政権にも仕えることとなった理由は簡単にわかる。 90年代後半に、ビアーズは、麻薬栽培国の作物に対する細菌兵器の利用を強く唱えていた。 現在麻薬に関する国務次官補として、ビアーズは、様々な国際会議を飛び回っている。 こうした会議では、プラン・コロンビアにおける毒薬利用が生物兵器禁止条約をはじめとするいくつかの国際条約に違反していると批判する人々に対して自分の立場を防衛している。 ビアーズは、よく、国際犯罪シンジゲートと闘うために毒薬兵器が必要となっていると主張するが、このでたらめな屁理屈は条約による禁止の例外にはまったくなり得ない。 けれども、ブッシュ政権は、敵国を非難するためには、こうした条約に喜んで言及するが、自分では、そもそも従う気はない。

エージェント・グリーンは、遺伝的操作により造りだされた病原性菌類であり、メリーランド州ベルツビルにある米国農業省の試験場で造りだされた。 現在では、米国の政府資金を得たモンタナ州ボーズマンの私企業Ag/Bio社が製造しているほか、ウズベキスタン共和国タシケントの旧ソ連時代の生物兵器工場でも造られている。 これらの試験場では、2種類の菌類を製造している。 一つはFusarium oxysporumで、マリファナとコカに対して使われれ、もう一つはPleospora papveraceaで、ケシの撲滅に開発されたものである。

問題は、どちらの菌も、無差別に植物を撲滅し、人体にも危害を及ぼすことである。 さらに、飛行機やヘリコプターからばらまくと、風にのって広がり、コーヒー農園や畑、農場、村、水源などを汚染する。

エージェント・グリーンは、また、コロンビア熱帯雨林のエコロジーを害する。 コロンビアの熱帯雨林は、世界で一番生物的多様性の大きい地域である。 一エーカーあたりでは、もっとも多くの生物種を擁している。 けれども、コロンビアの森林は、すでに、金鉱採掘や石油会社、木材伐採企業、大規模農場により取り囲まれている。 ある調査では、コロンビアはすでに原生林の3分の1を失っており、一年あたり3000平方マイル(2百万エーカー近く)を失っている。 エージェント・グリーン作戦により、病原性菌類が、コロンビア熱帯雨林の100万エーカー以上に染みわたる可能性がある。 そうすると、地域の動植物環境に破滅的な破壊がもたらされる可能性がある。

つまり、ブッシュの生物兵器冒険主義により、アマゾン地域が「付随的被害」を被る可能性があるのである。

このことを考えると、元対麻薬の旗振り役だったブッシュは知らないだろうが、米国は、もう一つの国際条約に完全に違反していることになる。すなわち、「環境に影響を与える技術を軍事的ないしはほかの敵対的目的に利用することを禁ずる条約」(ENMOD)である。 ENMODは、米国によるベトナムをはじめとする東南アジア地域での、枯葉剤をはじめとする環境を破壊する物質の使用に対する世界的な反対から生まれたものである。 1976年国連で採択され、米国も署名しているこのENMODは、参加国に環境を戦争の兵器として利用することを禁じている。 コロンビアの森林に対する病原性菌類の投下は、この定義にあてはまる。 米国のバイオ爆弾は、コロンビアにとどまりさえしない。 すでにばらまかれた殺虫剤や除草剤と同様、コロンビアの国境を不可避的に越えて近隣のエクアドルやペルーにも広まる。 両国は、猛烈に米国の生物戦争計画に反対しており、国際法違反で米国を告発している。 特に、両国は、生物兵器条約の不拡散条項に言及している。 これは、生物兵器と技術とをある国が他国に伝えるのを禁じるものである。 恐らく、ブッシュ政権は、今や、コロンビアを植民地として全面的に所有しており、それゆえ、米帝国は、アンデスの奥地の渓谷にさえも毒物を散布する資格があると考えているのだろう。

「エージェント・グリーンがどこかで使われてしまうと、別のところでも農業生物戦争を許すことになってしまう」とサンシャイン・プロジェクトの代表エドワード・ハモンドは述べる。 サンシャイン・プロジェクトは、コロンビアにおける毒物散布の環境に対する影響を暴いてきた生物戦争に反対するグループである。 「米国と同様の理屈を使えば、他国が米国のタバコ作物に生物戦争を仕掛けることになるかもしれない。 タバコは世界中で何百万人もを中毒にしているのだから。 あるいは、アルコールに反対する人々はブドウやホップを標的とするかもしれない」。

さらに、麻薬作物撲滅という計画は、麻薬消費に対処する対策としては無意味なものである。 うまくいかず、ただ単に弱者を弾圧する結果となり、コカインを扱う軍人から麻薬カルテルからマネー・ロンダリングを行う銀行に至るまでの麻薬で利益を得ている人々を利するだけである。

「コロンビア地方部の大部分では、合法的に生活に必要な稼ぎを得る方法はない」と国際政策研究センターのアダム・イサクソンは言う。 「治安、道路、貸付、市場へのアクセス。これらすべてが懸けている。 地方の住人が目にする政府の活動は、せいぜい、ときおり現れる軍人と毒薬を散布する飛行機である。 散布機がやってくると、農民たちが生活の糧を稼ぐために育てている非合法作物が破壊される。 けれども、政府は代替処置をまったくとらない。 したがって、農民たちには悪い選択しか残されないことになる。 都市部に出ていって仕事を見つけるか(けれども公式の失業率はすでに20パーセントに達している)。 合法的作物に切り替え、それによる収入よりもそれを育てるための支出のほうが多いという事態に陥るか。 あるいは、さらに地方の奥深くに移動して、麻薬作物を栽培するかである。 あるいは、ゲリラか準軍組織に参加することもできる。そうすれば、少なくとも食料にはありつけるのだから」。

この恐ろしい計画が麻薬に対する戦争とはほとんど関係ないのはもちろんである。 このことは、数字を見ればわかる。 何十億ドルもの米国援助と何千ガロンもの化学毒物がコロンビアにつぎ込まれたにもかかわらず、コロンビアのコカ栽培はほとんど影響を受けていない。 実際、コロンビアからの麻薬流出は、急増しているのである。

クリントンが、多少腰の引けていた議会に、プラン・コロンビアを認めさせようとしていた時代に、毒物をばらまき畑を焼き払う作戦が「3年以内にコロンビアのケシ栽培の大部分を撲滅する」と主張していたのは、ランド・ビアーズだけだった。 議会はビアーズの主張を認め、13億ドルのプラン・コロンビアを認めた(ただし、前提として、コロンビアが生物兵器の試験を行うという条件を付けた。けれども、クリントン大統領は、業界の圧力で、この要求を撤廃した)。

過去5年間に、コロンビアでは、100万エーカー近い土地が毒物と農薬に襲撃され、不毛な土地となった。 けれども、同じ期間に、コロンビアでのコカイン生産は3倍以上に増えたのである。 阿片の生産も同様に急増しており、2000年には60パーセントも増えている。 コロンビア一国が、現在、米国で消費されるヘロインの3割をまかなっている。 この理由は、Whiteout: The CIA, Drugs and the Press (Alexander Cockburn, Jeffery St. Clair, Verso)に詳しく書かれている。 戦争、特に秘密戦争は、麻薬と手を携えて進められる。 コロンビアは3派からなる内戦の泥沼にはまっている。 そして、ゲリラも、準軍組織も、政府軍も、作戦を麻薬関係の収入から得ているのである。 内戦が激化すれば、麻薬流通も増大する。

しかしながら、最初から、プラン・コロンビアが麻薬を標的にするというのは見せかけだけのことだった。 実際には、プラン・コロンビアは、コロンビア革命軍(FARC)をはじめとするゲリラに対するコロンビア軍の残虐な戦争を助け、米国がコロンビアの石油とガス、天然資源を制圧するためのものであった。 いわゆる麻薬撲滅プログラムは、FARCが支配する土地だけを対象としている。 準軍組織が制圧している土地で、さらに大規模な麻薬栽培が行われているにもかかわらずである。 というのも、準軍組織は、コロンビア軍のために代理戦争を行っているからである。

ボブ・バー米国下院議員によると、プラン・コロンビアが実施されて以来、少なくとも22機の米国ヘリがコロンビアのゲリラにより撃ち落とされたという。 けれども、ペンタゴンは、これについて、否定することも肯定することも拒否している。 けれども、国務省は、先月だけで3機の米国機が1日に撃墜されたと述べた。

この戦争に対する米国の介入の合法的側面は国務省が担っているが、このことは、しばしば過去において、CIAをはじめとする秘密戦闘部隊が関与していたことにつながっている。 2002年12月、コリン・パウエルは、コロンビアにおける米国の攻撃ヘリを24台に増やす意図があると発表した。 国務省は議会に対し、新たなパイロットを、ニューメキシコ州の「秘密の場所」で訓練中であると通達した。

今や、ブッシュ政権は、ミカ議員に、プラン・コロンビア再開の青信号を与えたようである。 改めて、ミカは、コロンビア政府が援助を受ける条件として、エージェント・グリーンを用いることを条件付けるだろう。 最近では、これらの人々は、ヒモ付きの関係を隠そうともしない。 今やコロンビア政府が完全にワシントンの支配下にあるという証拠はたくさんあり、コロンビアは米国の指示に喜んで従っている(日本政府みたい)。 それにより、コロンビアは米国が自国の農民に対して生物兵器攻撃を加えることを認めているのである。 アイロニカルなことに、コロンビアは現在、国連安保理の議長国であり、イラクの生物兵器開発をやっつけようとしている。 実際、国連コロンビア使節は、この立場を利用して、イラクの武器報告を事前に米国に手渡した。 米国は、親切にも、1週間後にそれを安保理に返したが、そのとき8000ページが欠けていたのである。

このスキャンダルを主流メディアはカバーしなかった。 実際、主流メディアは、麻薬戦争という神聖な衣をまとった話題の下の出来事はまったく扱おうとしていない。 けれども、実際に行われていることは明らかである。 環境テロ。 毒で汚染された不毛の地とこうした作戦による人々の被害は偶然のものではない。 つまり、経済学の奇妙な用語で言うところの、そうでなければ親切なプロジェクトにおける「外部不経済」ではない。 そうではなくて、これは計算ずくの作戦であり、米国の利権を確保するために、恐怖とテロを引き起こすためになされているものである。

ブッシュ政権の毒物戦士たちが、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』を読んでいないわけではない。 ただ、警告として読むかわりに、世界的に広めようと計画している戦争計画のために読んだのである。

ジェフリー・サント・クレアの連絡先はstclair@couterpunch.org。 http://www.counterpunch.org/stclair1224.html


  益岡賢 2002年12月31日

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