民主主義と呼ばれるテロ国家

ニック・ディアデン
2003年8月18日
コロンビア・ジャーナル原文


よりよい社会を求めて活動している人々が直面している恐ろしい事態が世界中に蔓延しているとはいえ、労働組合指導者たちが、セミオートマティックの銃を持った護衛に囲まれて防弾ジープでオフィスに行き、耐爆弾オフィスで仕事を始めるために電子式の鉄扉のついた金属製の部屋を通り抜けなくてはならない国はあまりない。これは、貧困の中にある中央アフリカの国の話ではなく、ラテンアメリカ「最古の民主主義」国の一つ、世界で最も求められている商品と最も肥沃な大地を有する国、そして米国と英国の政府が大規模な投資を行っている国、すなわちコロンビアでの話である。

今年に入って、毎週平均一人の教師あるいは講師が殺されている。1999年に暗殺された教師は27人だったが、2002年には83人に増加した。こうした暗殺により、コロンビア最大の組合FECODEは、多くの地域で実質的に組織運営が出来なくなった。準軍組織「死の部隊」---軍及び当局との関係を持つ極右武装民兵---が、これらの侵害のうち95%を行なっている。「労働組合員に死を」という準軍組織も誕生した。ナバレ大学のある教師はこのグループから殺害脅迫を受け取った。何故こんなことが起きるのだろうか?ある犠牲者の親族は、「全く処罰を受けないことを知っているからだ」と説明する。コロンビアでは95%が刑事訴追を免れる。

このテロ行為は、政府に全面的に反対する一握りの急進的な労働組合指導者だけを標的としていると考えがちである。そこで、たとえば、大学のポーターがキャンパスで仕事をしている際、2台のバイクが近づいてきて彼に発砲し、2発を頭に、3発を体に撃ち込んだり、妻とともに車で帰宅途中だった学校教師が窓越しに5回撃たれたりという事件を指摘するのが良いかも知れない。

暗殺が一つ行われる間に、何百もの強制移送事件が起きている。人々は、殺害脅迫を逃れるために家を逃げ出すのである。リサラルダ州のペレイラ市近くのある社会科学の高校教師は、1987年に最初の殺害脅迫を受け取った。自分自身の葬式に彼女を招待する旨の追悼カードであった。その後、電話や手紙、彼女の家まで付いてくる人々などが現れた。彼女は、生徒たちの前で射殺された先生たちを知っていた。

ボゴタ郊外の学校で働く別の教師は、15年にわたって迫害を受けてきた。自宅には何度も押し入られた。迫害を受ける他の労働組合員と同じく、彼女も、ゲリラであると非難された。この戦略は、相手を「浄化」作戦の標的とするために使われるものである。彼女の十代の娘たち二人もまた標的とされた。彼女は、当たり前のことのように、夫が誘拐されて準軍組織に殺されたことを話した。娘たちは、父の墓を見舞いに墓地に行くことすらできない。

コロンビア社会で標的とされるのは教師や講師だけではない。進歩的な弁護士や聖職者、学生、あらゆる労働組合員、たまたま都合の悪い地域に住んでいただけの小規模農家なども、犠牲となる。政府は、アラウカ州を軍事地域とした。ある教師は、これを「戦争ラボ」と読んでいる。軍事化されてから最初の8カ月で、3000人が逮捕され、1300件の家宅捜索が行われ、9万人の個人情報が治安データベースに入力された、と彼は述べる。コロンビアでは抗議行動は不法なものとされ、当局に疑問を呈するものは誰もがテロリストとのレッテルを貼られる。公教育や職場の権利、あるいはただ単に生きる権利を擁護しようとするだけで、弾道に身をさらすことになる。

私が会った教師の一人は、貧しい地域で社会活動をしているために標的とされたと考えている。彼女は、自分の住む地域で現在進められている、いわゆる「社会浄化」作戦にショックを受けている。コロンビアの社会的分断は現在あまりに深く、英国のNGO「欠乏に対する戦い」が提案する、貧困に対する闘いという紛争や戦争の解決策が、道理に反して逆転されているようなものである。ボゴタの裕福な学生たちの中には、コロンビア社会を救うために「貧乏人に対する闘い」を提唱している者たちもいる---これは、ストリート・チルドレンや売春婦、同性愛者、小犯罪者、服装倒錯者たちを標的とする「社会浄化」作戦が既にコロンビアの各地で進められていることを、寒気とともに思い起こさせる。

失踪は、テロと弾圧の手段として、暗殺よりもさらに効果的である。失踪者の親族グループ---これらの人々自身、準軍組織の標的とされている---の代表によると、失踪は「犠牲者の家族全員に対する拷問の一形態である」。遺体が見つからないため、家族は愛する人々を埋葬することも喪に服することもできない。もっと現実的なレベルでは、生命保険からの支払いもなく、しばしば家族の収入は10分の1以下になり、残された家族は、失踪だけでなく窮乏によっても拷問を受けることになる。ある親族が述べたように、「誘拐された一人一人について、その家族全員の生活が破壊される」。

過去5年間に、準軍組織の手により5000人が「失踪」した。失踪者のほとんどは、結局遺体で見つかった。そうした遺体には、想像しうる最も恐ろしい拷問の痕が残されていた。政府お決まりの反応は、それらは全部嘘であり、失踪者は自ら逃げ出してゲリラに参加しようとしたか、身代金目当てで誘拐されたか、愛人と逐電したとされる。家族にとってこれ以上に冷血な対応を想像するのは難しいが、こうした対応により、政府は国際法のもとでの責任を遵守すると称することができるのである。

学生もまた、汚い戦争の主要な標的とされている。過去5年間で、60人から70人の学生リーダーたちが失踪した。ボゴタ国立大学の入り口の地面には、死体の輪郭をなぞったチョークの線が書かれていた。過去10年間にテロ組織により暗殺されたり失踪した学生を表すものである。今年に入って少なくとも2人の学生リーダーが殺された。とりわけ憂慮すべきは、アンティオキア州のアトランティコ大学の学生が授業の教室の前で暗殺されたことである。「学生運動は、歴史的に暴力に影響を受けてきたが、1990年代から弾圧は本当に深刻になった」と国立大学の法学部の学生グループは語る。「これは、少数の公立大学で、大学の私営化と軍事化への抵抗が起きていることと直接関係している」。この軍事化の一例は、大学をウリベ大統領の「情報提供者ネットワーク」に繰り込もうとする動きである。警察国家と言われるような国で行われる政策を思い起こさせるこの政策で、ウリベはコロンビア国家のために100万人からなるのぞき見・盗聴者のネットワークを作り上げようとしている。

ククタの町では、準軍組織が午後10時30分から若者たちに対して外出禁止令を敷いている。夜間学校の生徒の多くが、暴力を恐れて学校をあきらめた。女性とたちは、短いタイト・トップとジーンズを着ることを禁じられた。違反した学生たちには、酸が投げつけられたり、露出したお腹をナイフで斬りつけられたりしている。

こうした恐ろしい行為は、政府の経済政策と結びついている。とりわけ、現在議論されている労働「改革」は労働市場と年金産業の「柔軟性」、私営化、給与凍結、団体交渉権の弱体化を目的としている。政府は国際通貨基金(IMF)との開発計画に署名したが、これにより、最貧困層への税金負担が増加すると同時に、社会保障体制が廃止されることになる。さらに、教育セクタにも私企業が参入し、ここ数年で教師の数は31万2000人から28万人に減少した。職を保った教師の多くは、フルタイムの終身雇用から一時雇用へと形態を変更させられた。1990年、大学職員の約90%が終身契約で雇用されていた。現在では、その比率は約10%に減少している。

コロンビアのマス・メディアはほんの少数の人々の手に握られており、こうしたメディアは紛争を無視するか、あるいは、主要な人権問題は左派ゲリラによる超富裕層の誘拐にあると、状況を歪めて伝えている。こうした図式は、英国や米国の主要メディアにも反映されている。準軍組織が一週間に一人の割合で教師を暗殺していることがほとんど外国で報じられない中で、まれに左派ゲリラが教師を殺害したときには国際メディアがそれを取り上げる事態を考えると興味深いものがある。

元労働組合指導者で現在国会議員のウィルソン・ボルハは、暗殺をかろうじて逃れたあと足を引きずるようになったが、この状況を次のように要約している。「コロンビアが非常に裕福であるが故に、コロンビアの人々はかくも貧しい」。コロンビアは、世界で最も求められている22種類の資源のうち16種類を有している。石油と金はその最たるものである。けれども、わずか1%ちょっとの人々が今でも58%の土地を所有し、その一方で、コロンビアで強制移送された250万人の人々を受け入れるためにスラム街が急速に広まっている。1300万人のコロンビア人が一月40ドル以下で暮らしており、350万人の子供が教育を受けられず、市民の半分は、保健医療を受けることができない。それにもかかわらず、政府の借金を支払い、治安部隊を強化するためにますます多くの金がつぎ込まれている。

一方、ウリベ大統領は、米州自由貿易地域(FTAA)に署名したくてしたくてたまらない状態である。FTAAは、世界最大の統一市場を創生することになるが、同時に、ラテンアメリカを安い原料と労働、市場として固定する。既に、世界貿易体制の影響で、コロンビアでは、1990年に食料輸入が100万トンであったものが、今日では800万トンに増加している。作物が豊富に育つ信じがたい程豊かな土地を有する国で、トウモロコシのような基本食品まで輸入しているのである。米国の農業助成金は2005年以降徐々に廃止される予定であるが、ボルハは、そのときまでに、破産した小農家を巨大企業が買い取るために、コロンビアの人々は競争力を失っているのではないかと恐れている。

カリ郊外のアグアブランカでは、家族が掘っ建て小屋に閉じこめられた生活をしている。ときに、一辺3メートルの中に2、3人で暮らしていることもある。ベッドはしばしばオレンジの木箱で作られ、「家」はポリエチレンの小片で覆われている。360人の子供たちが裸足で遊ぶ地上には割れたガラスが散らばり、子供たちの多くが炎症や感染の症状を示している。電気も暖房もない。750家族のために水道の蛇口は一つしかない。この悲劇は、洪水などの天災によるものではなく、政府の予算がないためですらない。毎日のように自分の家、友人、所持品から追いはわれた、何千人また何千人というコロンビア人のこの生活を作り出すのに使われる暴力については、「民主的」政府が中心的な役割を果たしているのである。

アグアブランカの絶望的な人々に対する政府の対応は、3月、治安部隊がこの地域をブルドーザで破壊し、貧窮した人々がようやく持ってきた私有物を持ち去ったことに典型的に現れている。他に選択肢がないため、警察の日常的な嫌がらせが続く中、人々はスラムを再び作っている。それでも、もともと住んでいた家で人々が直面していた恐怖よりはましなのである。当局により家に戻っても安全だと告げられた4家族は、帰還後すぐに殺害された。貧困層に対する戦争の必要を信じていたボゴタの学生たちや準軍組織の社会浄化作戦から明らかなように、コロンビアの貧困層---人口の大多数---は、その貧困が、まるで、ただ富裕層の邪魔になるよう意識的に選択された結果であるかのように扱われている。メデジンの壁にあったグラフィティに書かれていたように、「金持ちの平和は貧乏人への戦争」なのである。

紛争地メデジンで教師たちと話をしていた際、米国が提供したブラック・ホーク・ヘリコプタが、コロンビアの貧しい人々が何十万人も暮らす、市の貧しい地域に向かう途中で、我々の会話を中断させた。イスラエルとエジプトを除けば、コロンビアは今や米国軍事援助の最大の受け取り手であり、軍装備が「対麻薬戦争」---軍事援助増加の口実として当初用いられた---だけに使われているのではないことは明らかである。ヘリコプターは、人口の密集した都市の地域に銃弾を撃ち込んでいた。最近起きた一つの事件では、20人の市民が殺された。ゲリラはその中に一人もいなかった。コロンビア軍は、米国が計画したベトナム戦争式対ゲリラ戦略を用いているようである:魚を殺すために水を抜き去る。魚はゲリラたちであり、水は不運な市民である。これまで、ウリベは大規模な家宅捜査、治安対策、暴力を全国で展開してきたが、そこでは、ゲリラよりも多くのコミュニティ指導者や社会指導者たちが殺されてきた。

メデジンの貧しい地域で普通のコロンビア人と会ってみると、社会のあらゆるところからにじみ出す本当の恐怖を感じ始める。多くはコロンビアのどこか別の場所から移送されてきた人々であり、死の脅迫により自宅を追い出され、新たな恐怖の中に置かれてしまった人々である。多くの人は恐れて家の外に出ることもできず、また他の人々はコミュニティを制圧する準軍組織が強制した外出禁止令の中で生活している。メデジンの一角のある女性は、彼女の20歳の息子が、2003年1月13日にコミュニティに対して行われた侵入捜索で逮捕された、と語った。彼がどこにいるのかについて、彼女は全く情報を得ていない。この新たな治安政府の下で、誰もが対象となるようである。「民主的」な国に生きているにもかかわらず、権利を有すると感じている人はほとんどいない。「政府は私たちを逮捕する際、理由を示す必要がない」と、ある女性は語る。「ゲリラ活動について話せばすべて正当化できると考えている」。

コロンビア労働組合からの報告は、恐怖物語のようである。「記者/石油労働者/公務員/教師/講師にとって世界で最も危険な国」。何人かの労働組合員によると、「これからはさらなる暗黒時代になるだろう」。けれども、同時に、信じられないほど希望が持てることもある。恐怖とテロが社会の底まで行き届いている一方、勇気と希望もまた、社会の基層まで行き渡っているのである。社会組織に対する最も残忍な攻撃にもかかわらず、一般のコロンビア人は、社会的連帯が破壊されることを拒否している。労働組合は、それ自身襲撃対象となっているにもかかわらず、社会運動となり、自分の組合員を守るだけでなく、同時に貧困とも闘っている。移送と失踪の周辺で新たなコミュニティが生まれている。攻撃にさらされているコロンビア人たちは、確実に、世界で最も勇敢な人々である---このことは「我々の一人を殺したら我々の10人が闘い返す」というスローガンにも表れている---が、標的とされているのは、一人や二人ではない。社会全体が標的とされているのである。ファシズムという言葉を軽々しく使うべきではないが、コロンビアで、ウリベ大統領の政策が向かう先を説明するために、何度もこの言葉を耳にした。

「治安支援」をコロンビアに与えているのは米国だけではない。コロンビアを「ラテンアメリカ最古の民主主義国の一つ」と呼ぶ英国政府も、ウリベ大統領とすばらしい関係を保っており、ウリベのことを「国の秩序を回復すべく、極めて困難な状況の中最善を尽くしている大統領」と述べている。英国政府は、コロンビアに軍事援助をさえ提供している---とはいえ、援助の正確な内容を知ろうとすると、突如として「開かれた政府」の扉は閉ざされる。英国企業はコロンビアに最大規模の投資を行なっている企業に名を連ねているため、コロンビアでの解決にとって、英国の人々がもたらす圧力は、決定的に重要になりうる。

コロンビアでウィルソン・ボルハに会ったとき、私は、何カ月も前に私の机の上におかれた、彼のための緊急行動要請を思い起こした。こうした緊急行動要請があまりに頻繁にやってくるため、悲しいことに、私は、それらを無視することに馴れてしまっていた。けれども、ウィルソンと話していて、一つ一つの緊急行動要請は、一人の命を救うかも知れないだけでなく---それ自身重要な目標であるが---、コロンビアの労働組合運動全体との連帯行動でもあるのだということを認識した。それは、我々の政府である英国が民主主義と呼ぶこのテロ国家で生きる貧しいが勇気ある人々が、社会変革とよりよい生活を実現する希望を維持する助けともなるのである。


ニック・ディアデンは英国のNGO「欠乏に対する戦い」のキャンペーナ。2003年3月、「欠乏に対する戦い」の使節団の一人としてコロンビアを訪問した。

2003年7月22日より、コロンビア労働組合の呼びかけで、コカコーラ不買キャンペーンが始まっています。よろしければ、ご協力下さい。
益岡賢 2003年8月20日

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