SINTRAEMCALIとウリベの決戦

アンディ・ヒギンボトム
2003年3月31日
コロンビア・ジャーナル原文


「私に敬意を払うべきだ」とウリベ大統領は机を挟んで座っている労働組合SINTRAEMCALIの委員長ルチョ・ヘルナンデスに向かって叫んだ。ルチョは冷静だった。「私は大統領に敬意を払っています。けれども、大統領が今おっしゃったことの最後の部分は正しくはありません」。「いや、彼はそう言った」と聴衆は叫んだ。

2003年3月10日に行われたこの言葉での対決は、全国テレビで放映され、すべてのコロンビアの新聞で報道された。労働組合の指導者がウリベに対して立ち上がるというのは大ニュースだったのである。この場は、ウリベとウリベ政権の公共サービス部門総監とが、カリの公共サービス公営企業EMCALIの将来を巡る選択肢を表明するための「公共」フォーラムなるものだった。この会談の場は、雇用主と政治家で一杯であり、また、空軍基地の中で行われた。ルチョは、下院の代表アレクサンダー・ロペス及びカリの貧しい地区の代表3名とともに、中に入るために説明しなくてはならなかった。コロンビアには、2種類の「公共」が存在する。エリートと普通の人々である。ウリベのコンサルテーションが、このうちエリートだけを対象とするのは、明らかであった。

これは、EMCALIの将来の核心的事項にまで関わっている。水や電気、電話サービスは、コミュニティ全体のためのものか、それとも、裕福な人々だけのものか?長年にわたり、SINTRAEMCALI労働組合は、純粋にコミュニティ指向のサービスを提供するために闘ってきた。EMCALIは、コロンビアのあらゆる公共企業・私企業の中で、サービス料金が最も低いところである。1998年から2001年に一般物価は27.8パーセント上昇した。私営化された電気会社CODENSAは、下限料金を46パーセント引き上げたのに対し、EMCALIは、料金引き上げ率を、インフレ率よりわずかに低く抑えていた。

ウリベはEMCALIを精算し、売却したいと望んでいる。彼の第二のオプションは、EMCALIを公式には公共部門に留めておくが、SINTRAEMCALIの団体合意を破り、社会化資本基金を設置するというものである。この基金は、EMCALIの全負債を管理するもので、EMCALIの債権者たちが運営するというものである。債権者は、米国企業Intergenの他、コロンビア内外の銀行(これらによる債務取り立てにより、EMCALIの利益が流出している)などである。社会資本化基金には、名前だけの労働者と利用者の代表が加えられることになる。ウリベ提案において、基金は、投資や負債、ビジネスの契約を巡る意志決定を指示することができる。基本的に、これは、金融資本である私企業側が主導する公・私のパートナーシップである。

ウリベとルチョの間の論点は何であったのだろう。ウリベは、2002年8月9日にカリを訪ねたときに、社会資本化基金に対する政府の支援を求めていくと述べたと主張した。ルチョはそうではないと述べ、そして体制側のエル・ティエンポ紙さえ、ビデオの証拠によると、ルチョが正しいと報道した。

ウリベは自分のやり方を通すために脅しに訴える。彼は、労働組合に対し、非を認めるまで、2週間つまり3月24日までの猶予を与えた。体制側のあらゆる部門は、メディアから軍に至るまで、圧力をかけ続けた。けれども、SINTRAEMCALIの労働者たちは、カリのコミュニティ、ポロ・デモクラティコ反対派の全国指導者たち、そして国営部門の労働組合(教育や保健、石油、電話など)から大規模な支持を得ている。これらの組合も、私営化計画に対抗している。コロンビアでは、私営化に対抗することは、そのまま、生存のために闘うことを意味する。

連帯行動の週に、ウィルソン・ボルハ下院議員、グスタボ・プレト上院議員、元大統領候補ルチョ・ガルソン、先住民代表タイタ・ロレンソ・アルメンドラ、知識人のファルス・ボルダとダニエル・リベレロスなど、そして他の労働組合が、カリにやってきて、EMCALIを支援するラリーに参加した。これらの人々は、3つの大規模集会で演説し、ウリベのエリートではなく本当のコミュニティの人々がそれを聞きにやってきた。アレクサンダー・ロペスとウィルソン・ボルハは、公共サービスを守る闘いが、ウリベの国家開発計画に対する試練となると述べた。グスタボ・プレトは、ウリベの住民投票を棄権するキャンペーンに加えて、EMCALIを防衛する闘いは、コロンビアにおける新自由主義をうち破る大衆運動の「分水嶺」であり、「この点から私たちは団結して闘争を強化する」と述べた。

この団結した闘争に対する連帯は、国際的にも表明されている。エクアドルやスペインから、UNISONや「必要のための闘い」、TUC/「コロンビアに正義を」、英国の個人何名かが支援のメッセージを送ったほか、10名の米国労働組合使節団、コロンビア連帯キャンペーン使節団などの貢献などがある。

地域の公共弁護人 −これはオンブツマンに相当する公務員である− は、3月12日に公共弁護公聴会を呼びかけた。政府も招待されたが、参加しなかった。実習教育機関のSENAから多くの若者が歌を歌ったりしながら参加した。定員300名の会場は溢れかえり、入場できなかった数百人が外に待機した。SINTRAEMCALIはフル・レポートを公表し、EMCALI最大の問題は、多大な負債にあることを示した。EMCALIは、コロンビア全体の縮図であり、生き延びるための最低条件は、腐敗した契約に対しての支払いを行わないこと(Intergenとの契約は、エンロンのようなゴミである)、そして返済段取りの再交渉にある。

コロンビア軍と警察は、公聴会への参加者と聴衆に対して何らの尊重を示さなかった。公聴会が行われている間、軍・警察は労働組合員のボディガードから武器を取り上げ、労働組合指導者たちを写真に収めていた。その後、指導者たちに嫌がらせをするために、軍の特別な検問が設けられた。人権活動家のベレニス・セレイタは、ある軍の軍曹に「向こうへ行って死んじまえ」と直接脅迫された。

3月24日月曜日にカリ近くの空軍基地で行われた交渉の最終ラウンドで、労働組合は、EMCALIを救済するための犠牲として、労働者の給付金を年あたり2000万ペソカットする提案を行った。けれども、ウリベは、それは不十分であるとして、この提案を拒絶し、新たな期限を5月1日に設定した。ルチョ・ヘルナンデスによると、「ウリベは、労働者にすべての権利を放棄させたがっており、それがEMCALIを精算しないために彼が求めている代償である。けれども、われわれが権利を放棄するならば、いずれにせよ、彼はEMCALIを私営化するだろう」という。

誰もが、ルチョ・ヘルナンデスの命を心配している。というのも、彼がウリベに対して断固たる態度をとったことは、恐怖の雰囲気の中で心理的なブレークスルーだったからである。EMCALIの私営化が進められるとすると、それは、策謀と暴力によってであろう。


アンディ・ヒギンボトムは英国コロンビア連帯キャンペーンのメンバー。

EMCALIについては、背景情報がないとわかりにくいと思いますので、簡単に整理します。EMCALIは、水・電気・電話サービスを、コロンビアのカリ市及びその周辺に提供している公共企業で、約3000人の労働者を要しています。ほとんど100%近くが労働組合に参加しています。この組合が、SINTRAEMCALIです。コロンビア政府や資本化たちは、結託して、長らく、この優良企業を私営化してきようとしました。これに対抗して、SINTRAEMCALIは、2001年12月からぎりぎりの直接行動に出ました。政府がEMCALIを売却すると発表した後、クリスマスの日に、EMCALIの管理棟を占拠したのです。この占拠は35日間にわたって続き、2002年1月29日に政府との間で合意に到達しました。

この合意は、SINTRAEMCALIとそのサービスを受益するコミュニティの大勝利でしたが、その代償として、占拠が終了した後に、SINTRAEMCALIに所属する労働組合活動家2名が暗殺され、2名が危ういところで拉致を逃れ、元組合長に武装した男達がつきまとうという状況でした。それでも、政府は売却を取り下げ、労働者に対する懲罰的手段はとらないことで合意したのです。

けれども、IDB(米州開発銀行)は、EMCALIの売却を主張し続けました。EMCALIは1961年に創設され、1980年代に事業を拡張しましたが、それにつれて、カリの政治家と「企業家」が目をつけるところとなりました。たとえば、1980年代には自由党の元上院議員グスタボ・バルカサルが運営を牛耳っていましたが、そのときカリ市の市議会議員はEMCALIの契約にあたり15%もの「コミッション」を取り、私服を肥やしていました。こうした盗みにもかかわらず、1990年代に入るまで、EMCALIの業績は健全でしたが、1993年から1998年に、今度は保守党が牛耳る中で、政治家や「企業家」は、EMCALIからの略奪を強化しました。EMCALIは、小さな契約に対して大規模な高額を支払い、それに対するキックバックを、重役や政治家に流し込んでいたのです。その最大のものの一つは、日本政府が貸し付けた7500万ドル相当の資金による浄水工場を巡る契約です。この貸付は1986年に確定され、工場は4年後に完成する予定でしたが、15年経過し1億5400万ドルが費やされたのちに、まだ操業を開始していません。ちなみに、立地がでたらめなため、仮に完成したとしても、この浄水場では、カリの3割しかカバーできません。

もう一つの大規模な汚職収入源となったのは、世銀と米州開発銀行の助言による、幽霊発電所Termoemcaliのプロジェクトです。Termoemcaliは、EMCALIが43%、米国ベクテル社の子会社Intergenが54%、コポラシオン・フィナンシエラ・デル・パシフィコが3%を分け合うかたちの契約でしたが、当初からこのプロジェクトは破綻していました。今日まで、この発電所は、1キロワットたりとも電力を提供していません。それにもかかわらず、EMCALIはこれに7000万ドルもをつぎ込んでいます。コポラシオン・フィナンシエラはカイマン諸島に移り、2000年に精算されました。社長をはじめとする職員がいなくなったためです。

こうしたEMCALIに対する略奪により積み重ねられた負債により、EMCALIの状態が悪化し、それを利用して、1998年以来、政府は分割民営化を企てました。これに備えて、見せかけの対応を計るために、米州開発銀行は幽霊マイクロエンタープライズ訓練プロジェクトをコロンビアの「NGO」2つを使って計画しました。これに割り当てられた資金は75万ドルで、それで800人の労働者を、すでに18%もの失業率を誇る都市の経済に組み込もうという計画でしたが、実際に計画が公開されることはありませんでした。そして、このとき以来、職員の首を切ろうとしている経営者たちは、まさに、EMCALIの幽霊契約によるキックバックを懐に入れていた人々でした。

2002年7月、IDBは改めて、EMCALIは救済不能であり売却しなくてはならないと韓国しました。けれども、SINTRAEMCALIの報告(上記)は、EMCALIの赤字負債は、経常的な収支の悪さからではなく、過去に積み上げられた負債に対する返済によるものであることを示しており、現実的な返済計画を作成すれば、経営状態の改善は十分可能であることを示しています。

それにもかかわらず、IDBは、私営化を要求しています。奇妙なことです。もしも、IDBやコロンビア政府が指摘するように、EMCALIが破産状態の企業であり、経営状態も悪いため、精算しなくてはならない寸前だとするのならば、なぜ、多くの私企業が、EMCALIの取得に熱心なのでしょうか。世界水会議が先日開催されたばかりですが、この問題には、基本的な公共サービスを巡る「グローバル化」の問題が縮約されています。
益岡賢 2003年4月2日

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