有事法制反対ピースアクション

2004年7月24日 申し入れ書

航空自衛隊小牧基地司令 溝口博伸様

 溝口基地司令におかれては、私たちの声を無視することなく、たびたびの申し入れを受け取って下さって感謝しております。世の中を動かすほどの大きな力もない私たちですが、7月に入ってからの自衛隊をめぐる急速な事態に対し、一人一人が出さなければならない声を出し続けようと言う思いで、今日もここへ参りました。軍事組織であろうと、隊員の方々は情けも涙も家族もある生身の人間であること、この当たり前のことが、私たちの申し入れ行動を支えているのだということをどうかご理解ください。

 日本国の最高法規である日本国憲法があまりにもないがしろにされている今、日本国民であり、市民であり、住民でもある基地の皆様を含めて、私たちは、改めて以下の2つのことだけは、はっきりと確認する必要があります。

 一つは、「平和的生存権」です。この憲法下にある以上、軍事組織であろうとなかろうと例外なく、個々人の生命と幸福追求権はしっかり保証されねばなりません。それを無視した命令は、法律違反となります。これが他国の軍事組織とは決定的に違うところろであり、自衛隊の皆様が不安なく日常業務を行うことのできる根拠となっています。この基準が、組織内でおろそかにされ、また政府や私たちがあいまいに見逃したとき、しっぺ返しを食らうのは私たちであり、皆様も同様です。自衛隊法が、隊員に対し、「危険を顧みず、身を以て責務の完遂」を求めるにしても、隊員の命を粗末にし、犠牲にしても良いという法解釈は、憲法下においては成り立ちません。

 もう一つは、国の交戦権は、認められていないということ。つまり、日本政府には交戦する権利がないのです。交戦権とは、軍事行動を行う権利です。戦争で人を殺しても殺人で処罰されずに済む権利です。人を殺す暴力を、国や政府が行使するのではなく、具体的には前線の兵士に「殺しても処罰されない権利」が与えられるのです。しかし、日本政府は、自衛隊員にその権利を与えることができません。憲法は、その権利を政府に認めていないからです。そんな政府が、皆様を戦地イラクに送り続けているのですから、「死んで来い」といっているに等しいわけです。「人道復興支援」とは、その無責任と不道徳を誤魔化す言葉に過ぎません。

 溝口司令にこのようなことを申し上げるのは「釈迦に説法」だと思いますが、ますます厳しくなるイラク情勢を前にして、私たちの基本的な考えをぜひともお伝えしたかったのです。

 現地イラクでは、6月30日のサマワ、ムサンナ州警察そばでの自動車爆弾による爆発をはじめ、7月5日自衛隊宿営地10キロ地点の国道8号線での爆発、7月10日宿営地2キロ地点の検問所で、身分不明の武装集団11人が拘束されるなど、今、陸上自衛隊員の方々は、極度の緊張感を強いられながら仕事を続けています。皆様の航空自衛隊も、7月中旬のミサイル攻撃情報により、C130輸送機の運航を中止せねば安全が確保できない事態となっています。陸自同様、空自の皆様もかなりの緊張感の中にあると思います。

 先ほど述べた2つの観点から行っても、決して許される状態ではありません。さらに自衛隊の多国籍軍参加以降、サマワのあるムサンナ県知事による自衛隊撤退要求、シーア派のイラク・イスラム革命最高評議会の指導者、アブドルアジス・ハキム氏による自衛隊撤退要求が、出されています。自衛隊による「人道復興支援」を本気になって期待していた指導者たちの失望の声を無視すればどうなるか、アメリカをはじめ世界中が承知しています。抵抗勢力の側が、今までに攻撃ををしなかったのは、これまでの長い友好関係を日本に感じていたからであり、「殺し、殺される」関係になりたくないというイラク側の配慮があったからと思われます。しかし、これもこの7月の事態の中で限界に来たと思われます。

 抵抗勢力側は、自衛隊を「アメリカ軍と行動を共にする軍事組織」であると認定しつつあるからです。小泉首相も防衛庁も、もうそれを隠そうとはしていません。それが多国籍軍参加の意味であり、7月6日に閣議了承された「04年度防衛白書」の意味だと理解します。アメリカへの追随関係に何も疑問を持たず、冷房の効いた安全な部屋で作り上げた決定であり、白書であると言い切っていいと思います。白書には、イラク現地を体験した隊員達のコメントが記されていますが、それは今までイラク側の配慮があったからこそ日本に帰ってきて言えるのだという冷静な視点が何一つありません。もうその配慮はなくなったと認識すべきです。

 もう限界です。部下たちの「犬死」をまってから行動なさるおつもりですか。

 イラク特措法は、隊員たちの「戦死」を想定していません。法律上、戦地と認定されたら引きあげることになっているからです。憲法下では、海外の戦死者などありえないのです。それとも、隊員の皆さまが死んでから「戦地」と認定するのでしょうか。それでは決定的に遅いのです。死以外の選択のない抵抗勢力は、ひとたび始めたら死に至るまで抵抗をやめません。自衛隊にはそれを殲滅する合法性も実力・準備もありません。自衛隊員への攻撃は、それがアメリカ軍を撤退させるための近道だと認識され始めているからです。前エジプト外務大臣で、アラブ連盟事務局長のアムラ・ムーサが「アラブ諸国は、イラク占領を続けるアメリカを最も支えているのはイギリスではなく日本であるとみなし始めている」と、言っています。

 多くの犠牲者が出る前に、行動してください。部下の生命と安全を守ることが上官の責務であるとお考えならば、それに沿った行動を起こすぎりぎりのところまで来ています。部下の「犬死」を防ぐための意見具申をする手段もあります。理不尽な命令に対する抵抗権もあります。それが法的に許されるのが、平和憲法下の自衛隊なのです。

 すべての責任は軍事力を過信し、当てがはずれてしまったブッシュ政権にありますが、そこはアメリカ国民に任せ、私たちは、それに追随して無理に無理を重ねている小泉首相にやめてもらうために全力を注ぎます。それが現地の隊員やご家族の利益になると信じています。

 平和憲法下では、いかなる職業であれ、声明を犠牲にするような業務命令など存在する余地がないことを確認して、以下の申し入れを致します。

一、 安全確保ができない以上、絶対にC130を飛ばさないように命令してください。
二、現地の隊員に対し、生命に危険のある場合は安全を最優先させるように指示してください。
三、小泉首相と防衛庁長官に対し、現地および待機の航空自衛隊員と、家族がぎりぎりの状態におかれていることを以って、犠牲者が出る前に即時撤退するよう意見具申してください。

以上

2004年7月24日
有事法制反対ピースアクション参加者一同


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