伊藤孝司
 こだわり通信 


新年にあたって   2009年1月1日

 「ドキュメンタリーほどおもしろい仕事はない」と思っています。未知の人々や出来事と出会えるからです。ところが取材を発表してきた雑誌や番組が次々と消えてゆきます。昨年12月に講談社『月刊現代』が休刊になり、今年3月いっぱいでTBSの『NEWS23』が終わります。重たいテーマのドキュメンタリーばかりをやっている私にとって、貴重な発表の場でした。
 若者だけでなく社会全体も、政治・社会のあり方についてますます関心を失い、マスメディアが送り出すのは軽い話ばかりです。生き残るのに必死なあまり、テレビでは視聴率、雑誌では販売部数の至上主義に陥っています。日本の未来を考えるならば、政治や社会へ積極的に関わろうとする若者を育てる必要があります。そのためにもメディアは、数字が取れないドキュメンタリーにも力を入れるべきでしょう。
 今年は、映画「ヒロシマ・ピョンヤン 棄てられた被爆者」を公開します。最悪な状態が続く日朝関係の中で、日本からの医療と補償を求める在朝被爆者たちの声を広く伝えたいと思っています。制作への協力をお願いします。


筑紫哲也さんの死を悼む   2008年11月7日

 筑紫哲也さんの訃報に驚きました。ガンと闘っているにしても、もっと活躍してくれると思っていたからです。大好きなタバコに次々と火をつけていた筑紫さん。肺ガンになる危険性が分かっていても、止めることはできなかったのでしょう。
 筑紫さんがメインキャスターをしてきたTBS系列「NEWS23」で、私は自分の取材を4本の特集として放送しました。いくつものテレビ局のいくつものニュース番組で取材を放送したものの、筑紫さんの番組だけは他と違うと思っていました。リベラルであるだけでなく、社会的弱者に対する暖かいまなざしあったからです。
 筑紫さんが亡くなったので始めて明かしますが、筑紫さんの朝鮮民主主義人民共和国での取材の交渉を私がしたことがあります。もし実現していたら、日本での朝鮮民主主義人民共和国への偏見に満ちた見方が変わっていたかも知れないと思います。
 筑紫さんの死は、日本のジャーナリズムの惨憺たる状態と重なって見えます。この最悪な現状を何とかしろ!と筑紫さんから叱咤激励されているような気がします。
 筑紫さん、ありがとうございました。


映画「靖国」を観て 2008年5月1日

映画『靖国 TASYKUNI』を試写会で観た。中国人の監督やカメラマンが、10年間も靖国神社で撮影を続けたことに驚いた。東京都心のあの小さな空間は、日本の中で極めて特別な存在である。そこにはアジア諸国へ軍隊を送り続けて来た近代日本の歴史が凝縮している。私が初めて訪れた20数年前、この神社で祀られることを名誉と信じて膨大な数の青年が命を落としたことの重みに圧倒された。中国人としてその場所に立つことの思いは、日本人とはまったく異なるはずだ。
 中国人の立場から「靖国」に正面から向かい合ったことの意味は非常に大きい。しかしこれは、日本人がやらなければいけないテーマなのではと思う。それが出来なかったのは、日本のジャーナリズムがもはやその気力さえ失っているということではないか。

  映像制作をする一人としてこの作品を見た場合、この作品の柱である刀匠と靖国神社との関係の描き方が弱いと思う。それは刀匠に、どのような立場で向き合うのかが明確になっていないからだろう。刀匠は明らかに、中国人からインタビューされていることを強く意識している。そのことを生かす方法もあるだろうが、この場合は日本人を使って刀匠の心を開き、話を引き出した方が良かった。ただこのことは、この作品の価値をいささかも低めるものではない。


新年にあたって   2008年1月1日

 地球温暖化を2℃の上昇にとどめるためには、50年までに85%の削減が必要…。ところが昨年12月の「気候変動枠組み条約締約国会議」では、温室効果ガス削減の数値目標を決定できませんでした。人類存亡がかかっているにもかかわらず、自国の利益を優先する大国が足を引っ張っています。そして温暖化防止のためとして、世界各地で原発建設が計画されています。原発は、ウラン採掘と燃料加工・発電所の建設と解体・放射性廃棄物管理で大量のCO2を排出し、事故による放射能汚染の重大なリスクを負います。現在、原油が高騰していますが、化石燃料はいつかの日かなくなるのです。こうしたあり方から脱却するしか、沈没寸前の「地球号」を救う道はないのです。
 朝鮮民主主義人民共和国をめぐる状況は大きく変わりました。6カ国協議は、時々は立ち止まるものの確実に進展するでしょう。その中で日朝関係の改善だけが進まず、日本は外交的孤立だけでなく、希少金属確保などの経済的利益をも失っています。歴史を踏まえた大局的視点での日本外交が求められています。
 日本にある朝鮮文化財について、岩波書店の月刊誌『世界』2月号(1月8日発売)に記事を掲載します。ご覧いただければ幸いです。


新年にあたって   2007年1月1日

 デジタルの一眼レフカメラをようやく買いました。フィルムで撮るよりも便利な点がいくつかあるものの、未解決の深刻な問題点があります。現状では、デジタル情報を長期にわたって保存する方法が確立されていないからです。
 「0」と「1」の配列によって情報を信号化するデジタル技術。どうも、人々の思考もデジタル化しつつあるようです。「白か黒か」「善か悪か」「イエスかノーか」と物事を決めつけてしまうのは容易なことであり、一般受けするでしょう。しかし、政治家やジャーナリストがそうなってしまうのは危険です。いかなる出来事や人物でも、多様な側面を持っています。「負」の部分だけを見て切り捨ててしまうならば、その本質を見抜くことはできず評価や対応を誤るでしょう。
 朝鮮民主主義人民共和国による核実験で、東北アジアの政治状況は大きく変わりました。その中で日本は、「戦争ができる国」へと猪突猛進を続けています。こうした状況に対しジャーナリストとして何をするべきなのか、何ができるのか、と絶えず自問しています。
 たまには、アナログの塊のような大型カメラを引っ張り出し、雄大な景色をのんびりと撮りたいのですが……。


新年にあたって   2006年1月1日

 昨年はアジア太平洋戦争で日本が敗北してから60年でした。それほどの歳月が過ぎても、日本と朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)・韓国・中国との外交関係は最悪。原因は小泉首相の靖国神社参拝だけでなく、日本がかつて行ったそれらの国への植民地支配・侵略の過去がいまだにきちんと清算されていないためです。取材に基づきその必要性を20年前から主張してきた私としては、今日の事態は極めて残念です。
 保守の中にもいたアジア諸国との関係改善に身を挺した政治家たちは姿を消しました。それに替わり、近隣諸国からの日本への厳しい批判を無視し、威勢が良い言葉を発するだけの「政治家」たちが、この国を危険な方向へと誘導しています。しかも「戦争ができる国」へと日本が突き進んでいるにもかかわらず、多くの国民はそれに異議をとなえようとしていません。そして民族排外主義が国民の中に確実に広がっています。
 この極めて危機的な日本の状況に対して、ジャーナリストとして何をすべきか! 絶望的な気持ちから息が詰まりそうになりながらも、ともかく大きく深呼吸して近隣諸国での取材を続けています。その概要は逐次、ホーム頁でお知らせしています。ご覧いただければ幸いです。






 お知らせ 


世界ヒバクシャ写真展
 

NPO法人 世界ヒバクシャ展=後援:広島・長崎市

この度、NPO法人世界ヒバクシャ展を設立し、核兵器がなくなるまで世界中で写真展を開き続けることを決意しました。

世界の核被害を撮り続ける写真家たちは、広島、長崎の被爆の実相を知ったうえで、世界の「核」被害を目撃した視点でとらえた映像を、世界の人々に紹介し、見る人に「核」とは何かを問いかけます。そして、21世紀を生きる子どもたちを、核戦争の恐怖から解放したい。

写真家の主な作品は次の通りです。

伊藤孝司:広島、長崎で被爆した韓国、朝鮮人たち。韓国、北朝鮮、日本で撮影。日本軍「慰安婦」や朝鮮人・台湾人の元「日本兵」などの、アジア太平洋戦争で、傷ついたアジアの人々を取材している。

桐生広人:ムルロア、ロンゲラップの核実験による被曝者など。核実験周辺の核被害を撮り、1993年には、ロシアが放射線廃棄物を日本海に投棄する現場を、グリンピースの船上から世界に発信。

豊崎博光:ネバダ、オーストラリア等、核実験の風下の人々など。豊崎はウランの採掘、核兵器の実験場、原子力発電所の事故などで、核に汚染された人間や大地、動植物を撮っている。「アトミック・エイジ」第一回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞。

本橋成一:チェルノブイリ原発事故の風下の人々。「ナージャの村」は、1999年ドイツ行われた環境映像祭「エコメディア」部門でグランプリを受賞。「アレクセイと泉」は、2002年ベルリン映画祭で「国際シネクラブ賞」を受賞。

森下一徹:広島・長崎の原爆被爆者など。永年被爆者を撮り続けて、自分自身の生きる原点になった。1981年、ソ連邦60周年記念、国際記録芸術写真コンテスト「人間と平和」で「被爆者」がグランプリを受賞。

森住  卓:セミパラチンスク、インド鉱山、イラクの劣化ウラン弾核被害など。軍事問題や環境問題に取り組むなかで、最大の環境破壊の元となる核被害を目撃し、世界の核被害に苦しむ人々を撮り続けている。

みんな20年以上、世界の「ヒバクシャ」を撮り続けている仲間です。

特別出展 松重美人:原爆投下三時間後の御幸橋(2.3q)で救援を待つ被爆者。

      米軍撮影:上空から見た破壊された広島市街

これらの作品は、中国、パキスタンを除く、世界各地で核被害に遭った人々を撮った記録です。オリジナル・プリントで102点を展示します。この写真展を世界中で展示していくために、各国の言葉に翻訳し、パネルに入れて、そのまま展示できる状態にして送り届けます。

世界100カ国で開催し続ければ、反核の世論を喚起できると確信しています。

この写真展は、核兵器が地球から一掃される日まで展示を続けていきます。

写真展を展開してくださるところには、インターネットをはじめ、様々な方法で呼びかけ、核兵器がなくなる日まで、展示を続ける意思を確認し、発送します。

1セットを出す費用は、約300万円かかるので、私たちは今、その基金を募っております。300万円プールされ次第、新しい国に発送していきます。

写真展を送り出した国でも、基金を募っていただき、早い時期に100カ国で開催できる状態にしたいのです。

21世紀は「地球という星」の生存をかけた100年です。人間の叡智は、核兵器の期限を切った廃絶の日程を、21世紀の早い時期に決定させることでしょう。そのときの原動力のひとつにこの写真展はなるのです。我々の行動にともに参加して下さい。宇宙の輝ける生命体「地球」を核兵器で汚すまい。21世紀を生きる人たちは、「核の眼に見えない底知れぬ恐怖」から解放された世界で、人生を過ごせる社会を構築しましょう。

詳しくは下記に連絡してください。

万感の期待をこめて


NPO法人 世界ヒバクシャ展

東京都渋谷区西原1−43−2 富井ハイム101

E-mail:ittethum@sirius.ocn.ne.jp

広島支部 731-0101 広島県広島市安佐南区八木524-1

       E-mail:shogo@shimazaki.com 

              

趣 旨

20世紀は工業技術の未曾有の発展をもたらした世紀でしたが、その一方でさまざまな大量無差別殺戮兵器をうみだしました。2次にわたるあの悲惨な世界大戦以降も大量殺戮はさまざまな形であいついでいます。

 核兵器は、こうした愚かさの象徴にほかなりません。広島・長崎の被爆者、そして次々と明らかになる世界各地の核開発・核実験・核事故の被曝者はこの愚かな現実の最大の証人です。

 21世紀は、この忌わしい現実をいかに克服し、豊かな人間性を回復させるかが問われている世紀です。多くの市民が核兵器を廃絶させ、核汚染を消滅させることこそ世界市民としての使命だと認識する新しい現実をつくりだそう。

その一環として、すでに撮影され、これからも撮影される≪ヒバクシャ≫―核によって人間性までも破壊されながら、核の無い世界の実現をめざして強く生き続ける人々―の体験と証言を言語を超えた写真という媒体で展示・紹介することにより、後に続く世代に残し、反響が反響をうむダイナミックな運動を展開することで、人類の希望を21世紀に見いだしたい。

 こうした認識に基づき、私たちはこのNPOの結成を決意しました。

Statement

The twentieth century has brought us immense progress in technology, while it has also allowed numerous kinds of weapons of mass destruction to be produced and put to use. Even after humanity has twice experienced tragic wars that involved the whole world, the killing of the masses of people still continues, with the use of ever more advanced weaponry.

Nuclear weapons are themselves the very examples of human folly, representing mankind’s unending pursuit for more powerful means of destruction. The greatest witnesses to the horrors of mass destruction are the hibakusha, or victims of the atomic bombings, of Hiroshima and Nagasaki. The fact became revealed, however, that there are numerous others whose lives have been severely affected by radioactive contamination caused by nuclear tests that have been conducted since the end of World War II in great numbers. They, too, are the most eloquent witnesses to the gruesome realities involving the development of nuclear arms.

At the beginning of the twenty-first century, humanity is challenged to deliver efforts in order to reclaim the true human spirit in the face of the huge nuclear stockpiles in the world. Nuclear weapons must be abolished. We must not allow nuclear arms to go on harming living things and destroy the nature that supports them. These tasks can only be fulfilled when people around the world are united in a common commitment and share the mission to bring about the abolition of nuclear arms.

In the hope of leading the efforts to realize a world without nuclear weapons, we recently joined together to establish a nonprofit organization (NPO) made up of free-lance photographers in Japan who are committed as our lifetime pursuit to recording the realities surrounding the victims of the development of nuclear weapons. We hope to hold exhibitions of our photos of the witnesses of nuclear development in many places both in Japan and abroad. With strong belief in the possibility of photography as a means of communication beyond cultural and language barriers, we will continue to hold photo exhibitions in the hope that many more people will be able to learn of the reality of nuclear development and think seriously about the responsibility that all humanity shares: the abolition of nuclear weapons.

                                団体の概要

1.設立年月日:2002年10月24日

2.設立目的、主な活動内容

当法人は、広島・長崎の被爆者、ウラン発掘、製錬などにともなう世界各地の被曝者、南太平洋、旧ソビエト、アメリカなどの核実験による被曝者、チェルノブイリの被曝者などヒバクシャの実態を写真展やホームページ、講演会などで紹介します。この運動をとおして核兵器廃絶、非核社会の実現をめざします。

この写真展は、当初は写真家5名の呼びかけではじまり、1999年5月賛同人を求め。同時にオランダ、ハーグで開催し、同年10月広島にて日本国内初の写真展を開催しました、現在は、6名の写真家が写真を提供しています。

2000年〜2002年には、名護、長崎、東京・新宿、今年は千葉、大阪、鎌倉、外国特派員協会などすでに24箇所で開催し、入場者数は2万7千人をかぞえました、また2002年10月24日にNPO法人として登録しましたので、来年2月〜3月にかけて、東京で《NPO法人世界ヒバクシャ展》設立を記念して写真展、講演会の開催を予定しています。

3.事業内容

世界各国のヒバクシャの実態を、写真展やホームページ、講演会などを通して紹介していきます。 

写真展を、日本国内はもとより海外の国々に送り出すことが主な目的です。将来的には,2020年までに世界100カ国での開催を目指します。

写真パネルは、国内用110枚セットを二組、70枚セットを一組用意しました。

資金は、パネルの貸し出し料、会場での募金、書籍などの販売、助成団体からの助成金、企業からの寄付金、会員の会費で運営してまいります。


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   NPO法人世界ヒバクシャ展
東京都渋谷区西原1−43−2
富井ハイム101

TEL/FAX   03−3467−8384

mail : ittethum@sirius.ocn.ne.jp
HP :http://www.nomorehibakusha.org/
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