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(抄訳 TOKAI)
マイクロウェ-ブ・ニュ-ス2001年3〜4月号より

英国ド−ル委員会報告が「EMFとがんの弱い関連」認める方向へ

☆だんだん前向きに
 英国放射線防護委員会(NRPB)内に設置されている「非電離放射線諮問委員会」(リチャ−ド・ド−ル卿〔Richard Doll〕が座長でド−ル委員会とも呼ばれる)は「いくつかの疫学調査の証拠が、EMF(電磁場)曝露(被曝)は小児白血病の小さなリスクと関係すると指摘している」との結論を報告書で出した。慎重な言い回しであるが、EMFと小児がんの関係を認める方向に英国の科学者グル−プがわずかだがはっきりとしたステップを踏み出した。
 1992年段階では、ド−ル委員会の報告書は「がんとEMFの関係はない」としていた。1993年と94年の2年続きの報告書では「がんとEMFの関係は疑いがある」と多少変化した。そして今回2001年3月6日の報告書はさらに進んだ表現となった。

☆4mGと15歳がキ−ワ−ド
 ド−ル委員会は、最近の大規模で改良された疫学研究は過去のものより良くなっているとし、「それらの研究を総合すれば、平均4ミリガウス(mG)つまり0.4マイクロテスラ(μT)以上を被曝しかつ15歳以下だと小児白血病リスクは2倍になる]と示唆している。
 ド−ル委員会のメンバ−であるオックスフォ−ド大学のコリン・ブレイクモア(Colin Blakemore)教授は「今回の新しい見解は疫学研究はリスクが増大していると指摘しているとする最近の分析に基づいているし」と語り、スウェ−デン・カロリンスカ研究所のアンダ−ス・ア−ルボム博士を長とする国際研究チ−ムの研究結果を引用した。教授は「この結果を認めることは正しいし責任ある行為である」とも語った。

☆しかし慎重な態度は堅持されている
 しかし一方でド−ルは、「どの種類の放射線(電磁波)をどの位浴びるとがんを引き起こすのかについて納得のいく説明はできないし、動物実験や研究所内での研究での証拠はない」と語った。
 ド−ル委員会は、がんとEMFの関係が確立したとする結論には至っていないし「疫学研究の証拠は、EMFは小児白血病を引き起こすという確固とした結論を正当化するほど現在のところ十分ではない。」としている。ちなみにド−ル卿は「たばこと肺がん」「たばこと心臓病」の関係の研究で国際的に知られている。

☆NIEHS報告との相似点・相違点
 米国立環境健康科学研究所(NIEHS)は、EMFと健康リスクについて今回のド−ル報告と同じ見解に1999年の最終報告書で達している。すなわち、「EMFとがんの関係を示す証拠は全般に弱いが、小児白血病のリスク増大でかなり一定したパタ−ンをみる」と結論づけた。
 しかしNIEHSはド−ル委員会と次の点で異なっている。NIEHSは「EMFに被曝された労働者は白血病のより大きなリスクのおそれがある」と述べている。ところがド−ル委員会は「職業上の被曝とがん(主に白血病と脳がん)との関係は相反する」と結論づけた。
 ド−ル委員会は、増大するリスクは4mG以上を持続的に被曝した時だけ“証拠あり”だと強調している。(4mG以上は「極度」と表現している)。英国では千人中おそらく4人の子どもがこのケ−スに該当する、とド−ル委員会はみている。(訳者注:日本では4mG以上は相当数いるだろう)
 このド−ル報告書に反応して、NRPB(英国放射線防護委員会)は小児白血病の約五百人の患者中2人だけがEMFと関係していると述べた。NRPBは「ド−ル委員会報告書で、(NRPBの)被曝ガイドラインを変更しなくればならないような特別な科学的証拠は出されていない」と結論づけた。
 ブレイクモア教授は「英国において子どものリスクは極めて小さい」と語り、88歳になるド−ル座長は『インディペンデント』紙(3月7日付け)に「私は送電線の近くに住んでいる」と語った。

☆ヘンショ−は「甘い」と批判
 これに対し、英ブリストル大学のデニス・ヘンショ−(Denis Henshaw)教授はド−ル報告書のEMF健康リスクへの評価に反論した。「私たちは白血病よりもっと多くの面を見る必要がある。」と言った。ド−ル報告書の発表の前日の3月5日に、ヘンショ−はリスク分析について彼の研究論文を発表した。肺がんや他の病気による死亡についてのものだ。
 そこでは、送電線からのEMFにより英国で毎年何百人の死が関係しているおそれがある、としている。その死亡数は道路での交通事故死者数に匹敵する、とヘンショ−は語った。

☆ケ−タイ研究こそ大事、と言及
 ド−ル報告書は、「電力線(送電線や配電線)によるEMF被曝に今回は偏よっていたとの観点からもっとEMFと健康について研究が保証される」と述べている。
 またド−ル報告書では、「ポジティブ(肯定的)な研究結果を示した携帯電話研究や、動物実験での遺伝子発現や乳がんなどのまだ未解明な分野こそ優先的に研究がなされるべきだ」と述べている。
 ブレイクモア教授は「ヘンショ−によって提起された仮説、つまり送電線によってつくられた粒子ががんの原因となる汚染物を吸収しそれが健康被害をもたらすという説の可能性を調べるためにも、もっと研究が必要なのは確かだ。」と語った。

☆日本のような国こそ疫学研究必要?
 ド−ル報告書は「英国では、4mG以上の限定された被曝の影響以外は新しく追加される疫学研究から特に得られたことはないように思える」としている。
 しかしながら、そのような疫学研究は「4mG以上の電磁場被曝がしばしば子どもたちに起こるような国では価値があるだろう」ともしている。
 英国の電力会社はド−ル報告書を歓迎している。ロンドンにある電力協会のジョン・スワンソン(John Swanson)博士は「これで英国の大多数の国民はリスクがないと確信する」と語った。好対照に、エリ−市でコンサルタントでかつ市民活動家のアラスデア・フィリップス(Alasdair Philips)は、「ド−ル報告書の研究に対するアプロ−チは狭隘な観点に立っている。従来の科学的パラダイム(状況)を変えつつある現在の生物電磁学の識見を無視している」と批判した。


ド−ル委員会報告書の「結論」

成人の発がん効果への明確な証拠がないこと、つまり動物や分離された細胞への実験による納得すべき解明がないことから、疫学研究証拠は、電磁波が小児白血病の原因であるとする確固たる結論を正当化するには現在不十分である。しかし、もし今後の研究でこれまでの研究結果が偶然なものでなく、あるいはなんらかの人為的加工がなされてないとなれば、極度で(intense)持続的な磁の被曝は小児白血病リスクを増大させるという可能性は残る。

最近の大規模で正しく処理された(well-conducted)研究は、50ヘルツ磁場被曝とがんリスクの関係において、過去の証拠よりベタ−な証拠をもたらしている。それらの証拠は、平均0.4マイクロテスラ(μT)=4ミリガウス(mG)以上という比較的程度の大きい(relatively heavy)被曝は15歳以下の小児白血が2倍になることを示している(suggest)。しかしながら、この証拠は決定的なものではない。

脳腫瘍のデ−タは関係を示す証拠にはならない。成人に関する研究は極めて少ない。居住環境におけるEMF被曝が成人の白血病や脳腫瘍を促すことに関係すると信じる根拠はない。

最近発表されたEMFの職業上の被曝とがんリスクに関する研究は、主に入念で適切(methodologically sound)であり、そしてそれらのいくつかの研究は統計的に考慮に価するものだが、被曝とある身体箇所での腫瘍増加の因果関係は確証されていない。

影響がありそうなレベルでの50ヘルツEMFの被曝は生物学的変化を及ぼすとする明確な証拠は、細胞レベルではない。しばしば研究は矛盾した結果となるし、同じ実験的条件で別々の研究所で得たポジティブ(肯定的)結果の確証は十分でない。

生物組織に50ヘルツ磁場を被曝させた効果の中で最も示唆に富んだ証拠は、次の3つの領域である。a既知の遺伝毒性物質によって起こった遺伝子変換の起こりうる増加b細胞内の信号伝達への効果、特にカルシュウム流出c特定の遺伝子発現への効果。

50ヘルツ磁場被曝がポジティブな効果を示していると主張されている研究結果は、わずかな変化やはっきりしない生物学的結果しか見せていない。報告されているポジティブな効果の多くは、家庭環境ではありえない100マイクロテスラ(μT)(=1ガウス〔G〕)以上を平均的に被曝した場合である。

概して、50ヘルツのEMF被曝ががんリスクを増大させるという仮説を支持するような確固たる証拠は、多くの動物実験のレビュ−(再検討)では見られなかった。


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