「対テロ戦争」の欺瞞を暴く
「キューバン・ファイヴ」解放運動

9/12 〜 10/8 キャンペーン、全米・全世界で高揚
――大手メディアも取り上げ、元ブッシュ政権高官まで運動に加わる――


 「キューバン・ファイヴ」とは、米国フロリダ州マイアミを中心とする亡命キューバ人組織による系統的な対キューバ・テロを阻止するために現地に潜入して情報を収集し本国に知らせる活動をしていたことで、1998年9月12日に逮捕され米国に対するスパイ活動や陰謀などのでっち上げの罪状で終身刑を含む長期刑で投獄され続けている5人のキューバ人のことである。
 ジェラルド・ヘルナンデス(2度の終身刑)、ラモン・ラバニーノ(終身刑)、アントニオ・ゲレロ(終身刑)、フェルナンド・ゴンサレス(懲役19年)、レネ・ゴンサレス(懲役15年)。


9/12 〜 10/8 キャンペーン

 今回のキャンペーンは、1998年に「キューバン・ファイヴ」が逮捕された日にちなんで9月12日に開始された。この日を皮切りに、全米各地で、全世界で、さまざまな抗議行動が行われた。
 ワシントンDC、ニューメキシコ州アルバカーキ、カリフォルニア州ロサンゼルス、サンフランシスコ、テキサス州ヒューストン、ペンシルベニア州フィラデルフィア、フロリダ州マイアミなど。さらにキューバのサンタクララ、カナダのトロント、バンクーバー、ケベック、メキシコのニューメキシコシティー、イタリアのペルジャ、ウクライナのキエフ、コロンビアのパルミラ、オーストラリアのアデレード、パース。その他アルゼンチン、エクアドル、フィリピンなど。

 今回のキャンペーンで特徴的なことは、リベラル系のマイナーなメディアで報じられるだけでなく、大手メディアで大きく取り上げられていることである。CNN、BBC、CBSなどが、8月20日に行われたアトランタでの再審請求のヒアリングを報じ、「ヒーローかスパイか?」という討論番組まで行われた。さらに、衝撃的なことに、第1期ブッシュ政権の政府高官であった人物までが、この運動に加わったのである。

 このキャンペーンに先立って、3度目の再審請求に対するヒアリングが8月20日に第11管轄区控訴院(the 11th Circuit Court of Appeals)で行われた。今回のキャンペーンの初日9月12日にワシントンDCでは、「キューバン・ファイヴ」の弁護団の中心であるレオナルド・ワイングラス弁護士がハワード大学ロースクールでブリーフィングを行い、事件の経緯とヒアリングについての報告を行なった。その報告会に、ひとりの退役大佐が出席し、その内容に驚愕して手記を発表した。

 「事実がワイングラス弁護士の報告した通りであるなら、およそこの事件が起こったということ自体が信じ難いことである。しかしそれは、フロリダのキューバ系アメリカ人のグループの真の力と、彼らが米国政府に対して行使している影響力を直視しない場合の話である。」「我々は問わねばならない。我々の国がテロリストと目されている者たちの避難場所・安息地となっているというのは、いったいどういうことか? テロリズムを支援する国家についての我々のリストに、我々アメリカ合衆国自身が加えられねばならないというのは、いったいどういうことか? と。」「事実がワイングラス弁護士の報告の通りであるとすれば、この事件は真に最悪である。私は、これを真実だと信じることには多大な困難を伴った。しかし、私には、ワイングラス弁護士が見事に展開した説明に、間違いを証明できる事が全く何ひとつなかった。それどころか、ブッシュ政権の中心にいた4年間の経験を凌駕するものがあった。」

 この告白をしたのは、ローレンス・ウィルカーソン退役大佐である。彼は、31年間コリン・パウエルの片腕として活躍し、第1期ブッシュ政権のときには、国務長官パウエルの首席補佐官を務めた人物である。
(この手記の内容については、後に抄訳を掲載し紹介している。原文は次のサイト・アドレスで見ることができる。)
※「The Cuban Five : by Lawrence Wilkerson」
http://www.freethefive.org/updates/USMedia/USMWilkerson91907.htm

 既に「レーム・ダック」化し行き詰っている第2期ブッシュ政権の下で、それに追い討ちをかけるような事態が次々と起こり始めている。日本で安倍政権が崩壊したことも、特殊な形をとったとはいえ、世界全体で生じていることの一環としてとらえることができる。全世界で潮目は大きく変わりはじめている。


事件のこれまでの経過の概略

 米国フロリダ州マイアミを拠点とする反キューバ諸組織は、40年以上にわたって数えきれない反キューバ・テロ活動を行い、3,400人以上のキューバ人を殺害してきた。これらのテロ組織は、FBIとCIAの認知と支援の下に活動している。1976年10月6日のキューバ航空機爆破事件では、73人の乗客・乗員が全員死亡したが、その首謀者であるルイス・ポサダ・カリレスは、マイアミで自由の身となっている。

※ ルイス・ポサダ・カリレスについては、署名事務局の2007.1.25の記事「カストロ首相とキューバに対する亡命キューバ人組織によるテロを利用してきた米政府、その首謀者をかくまう」を参照。

 1990年代に入ると、これらテロ組織は、対キューバ・テロをいっそう活発化させた。ホテルが爆破され、空港が爆破され、観光バスが爆破された。キューバは、そのひとつひとつについて抗議したが、米国は何の対応もとらなかった。そこでキューバはFBIをハバナに招いて、これらのテロ活動を行なっている者たちの氏名と居所についてのわかっている情報を提供したが、米国政府は全く何の対処も行わなかった。それでキューバは、5人を現地に送り込んだのである。彼らはテロ組織に潜入し、その活動をモニターし、情報を本国に知らせる活動を行なった。彼らは、いかなる武器も持たず、誰にも危害を加えてはいなかった。キューバ政府は差し迫った危険に対処するだけでなく、収集した情報をFBIに提供して米国の法に照らしても明らかに違法であるテロ活動の取締りを要請した。

 1998年9月12日、FBIは、テロ活動を行なっている諸組織を摘発せずに、その活動を監視して実行を阻止するために本国に情報を送っていた5人を逮捕した。

 2000年11月、裁判地を魔女狩り的雰囲気のマイアミから他へ移すべきであるという要求が拒否されて、偏見に満ちたマイアミで5人の裁判が開始された。

 2001年6月8日、米国に対するスパイ活動を行おうとし国家安全保障を脅かしたということを中心とする罪状で有罪が宣告され、同年12月、終身刑と長期刑の判決が言い渡された。しかし、米国政府は、スパイ活動を実際に行なったということを当然ながら立証することができなかった(米国政府自身がそのことを認めている)。それだけでなく、この事件に関する機密文書を含むあらゆる文書にスパイ活動をたくらんだということさえ指摘されていなかったのである。

 2005年5月、国連人権委員会が5人の家族の訴えをとりあげ、5人の投獄が不法かつ恣意的であると結論づけ、米国政府に5人を釈放するよう勧告した。その背景には、米国内と全世界でのイラク反戦運動の高揚と結びついた「キューバン・ファイヴ」への関心の高まりがあった。

 2005年8月、アトランタの第11管轄区控訴院(the 11th Circuit Court of Appeals)の審査団(three-judge panel)が、5人は偏見に満ちたマイアミでの裁判のため公正な裁判を受けることができなかったとして、有罪判決の破棄とマイアミ以外での新たな裁判を命じる裁定を下した。しかし、すぐにそれがくつがえされて、12人の判事全員による合議のやり直しが決定された。

 2006年8月、控訴院は10対2で元の有罪判決を支持し、新たな裁判を否定する決定を下した。この決定に対して、即座の抗議行動が行なわれた。9月の逮捕8周年の前後に取り組まれたキャンペーンで、「キューバン・ファイヴ解放委員会」は全米と全世界にますます広まり、「キューバン・ファイヴ」は、ブッシュ政権の「対テロ戦争」の虚偽と欺瞞を暴く象徴として反戦運動の重要な一部分となった。

 2007年8月20日、裁判の不当性の訴えに対する3度目の公聴会が開かれた。(これまでに2004年3月と2006年2月に2度開かれている。)控訴院審査団は、連邦検察官が一連の手続きで誤りを犯したというクレームにだけ耳を傾ける姿勢を示しているが、「5人」の弁護団は、手続きと裁判の内容の両方で争って攻勢をかけようと奮闘中である。

※「キューバン・ファイヴとは?」http://www.freethefive.org/whoarethefive.htm
※「弁護団はキューバン・ファイヴのための新たな裁判を追求する」
http://www.freethefive.org/updates/USMedia/USMDemocracyNow82307.htm
※「キューバン・ファイヴを解放せよ」
http://www.freethefive.org/downloads/Cuban5Flyer2007.pdf
※「キューバン・ファイヴ解放全国委員会」(ホームページ)http://www.freethefive.org/

2007年10月8日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局


(ローレンス・ウィルカーソンの手記の抄訳)
キューバン・ファイヴ The Cuban Five
2007.9.19 ローレンス・ウィルカーソン

 私は、9月12日にハワード大学ロースクールで行われたレオナルド・ワイングラスのブリーフィングに出席した。そこで私は、ワイングラス弁護士が明らかにした内容に驚愕した。

 31年間の軍将校として、私は折に触れてキューバと遭遇した。さまざまな任務の中で、私は次のことを生き生きと思い起こす。我々が「キューバ・シナリオ」の机上作戦演習を行なったとき、そこで行われたのは、米国海軍やFBI、フロリダ州警察、沿岸警備隊、さらに他の多数の人々が、キューバに侵攻するというものではなく、フロリダのキューバ系アメリカ人がキューバに侵攻するのを妨げるというものであった。そのような行為は米国の法を犯すものだから、その演習では非常にリアルに阻止行動が試行された。自動小銃や爆発物と、たくさんのキューバ系アメリカ人を乗せた数百の小型船が、キューバに向かうのを阻止するのである。そんな経験から私は、米国のキューバ政策については、かなりとっぴなことまで熟知していた。

 先週ハワード大学で、私は、これまで知っていなかったもうひとつのとっぴなことについて、真実を学んだ。「キューバン・ファイヴ」である。

(中略)

 これら5人のキューバ人たちがフロリダで見出したことをハバナへ報告し始めると、実情が非常に明瞭になってきた。要するに、キューバ政府は、真に憂慮すべきことが本当に大量にあることを確信したのである。

 それで、ハバナでは、集めた証拠をFBIに提供しようと考えた。そうすれば、きっとFBIは米軍が既に理解していることを理解するだろう、フロリダ海峡の平和を脅かすものがキューバではなくフロリダにあるということを理解するだろう、と考えた。そしてハバナ政府は、5人が南フロリダで収集した証拠をFBIに提供した。

 FBIは何をしたか? ここに事の核心がある。FBIは、その証拠を米国政府に回した。そして米国政府は、その証拠を調査のために使うのでもなく、南フロリダの法破りのキューバ系アメリカ人とその支援者たちを逮捕したり起訴したりするために使うのでもなく、「スパイした」5人の男たちを逮捕して事実上生涯刑務所に閉じ込めるために使ったのである。

(中略)

 この事件は、再び見直されつつある。レオナルド・ワイングラスが私の出席したハワード大学でのブリーフィングを行なった理由も、ひとつにはそういう動きがあるからだ。彼は、この明らかに目に余る不正義について私たちに情報を与え、決定をくつがえすために私たちの支援を求めた。

 事実がワイングラス弁護士の報告した通りであるなら、およそこの事件が起こったということ自体が信じ難いことである。しかしそれは、フロリダのキューバ系アメリカ人のグループの真の力と、彼らが米国政府に対して行使している影響力を直視しない場合の話である。

 この事件というのは、米国の法を破って行動する人々によって自分たちの国がいついかにして攻撃されるかということを見定めるためにここへやってきた男たちを、終身刑にしたというものである。これらの男たちは、武器を持たず、米国に物的ダメージを与える意図も有しておらず、ただ同胞をフロリダ在住のキューバ系アメリカ人による侵略と繰り返される攻撃から守りたいという動機から行動していただけであった。

 そこで我々は問わねばならない。我々の国がテロリストと目されている者たちの避難場所・安息地となっているというのは、いったいどういうことか? テロリズムを支援する国家についての我々のリストに、我々アメリカ合衆国自身が加えられねばならないというのは、いったいどういうことか? と。

 事実がワイングラス弁護士の報告の通りであるとすれば、この事件は真に最悪である。私は、これを真実だと信じることには多大な困難を伴った。しかし、私には、ワイングラス弁護士が見事に展開した説明に、間違いを証明できる事が全く何ひとつなかった。それどころか、ブッシュ政権の中心にいた4年間の経験を凌駕するものがあった。

(中略)

 みなさんの選挙区の下院議員に語ってください。これは戯画です。もしあなたがワイングラス弁護士の主張していることのどれかひとつでも誤りを立証できるなら、やってみるがいいでしょう。米国は現在、不信を積み上げるようなひどいことをたくさんしている。このような重荷のひとつから解放されることは、神の贈り物と言えるでしょう。