[投稿]アメリカの中の第三世界〜「“無保険者”を支える米の医療ボランティア」

 これはまさしく「アメリカの中の第三世界」ではないか。米政府は戦争と石油略奪、途上国の暴力的支配に明け暮れながら、それによって潤うのはグローバル企業の一握りの支配者だけ。大多数の米国民は社会保障からも切り捨てられ、病気や怪我をしても病院にも行けず、医療ボランティアによって命を支えられている・・・
 ゲバラの娘アレイダさんの講演とマイケル・ムーア監督映画『シッコ』の紹介をみて、先日のNHK二ユースでの特集を思い出しました。5月の半ばにやっていた「“無保険者”を支える米の医療ボランティア」という特集です。
http://www.nhk.or.jp/saizensen/weekly/2008/080519.html

 広い体育館のようなところに次々と医療器具が持ち込まれ、医療施設が設置されていきます。設置されていくのは歯の検診用の椅子や視力測定器、またベッドなどです。はじめは「どこかの被災地か?」と思いましたが、なんとそれはアメリカ・テネシー州のノックスビルです。施設の外には長蛇の列、朝の3時から200マイルの道のりを車で飛ばしてきたという人もいます。記者は尋ねます「なぜこんなに早く来たんですか」「すぐに診てもらいたいからです。ずっと痛みに耐えてきたんです」。虫歯の治療にやってきたのです。
 アメリカでは、低収入のため医療保険に入れなかったり、解約する市民が急増し、無保険者は全国民のおよそ15%にのぼるといいます。それだけではありません。保険に入っていても、保険会社から治療を拒否されたりして、病気になっても病院に行けない人が増大しているのです。
 この医療活動を行っているのは、国際医療ボランティア「リモート・エリア・メディカル(RAM)」。1992年に南米やアフリカなどの貧困地帯や被災地、無医地区で医療活動を行う目的で設立されました。ところが何と今では活動の60%がアメリカ国内になっているといいます。アメリカでの“医療難民”を対象とした無料医療活動です。RAMにとっては、他ならぬアメリカ国内こそが最も救いが必要な貧困地帯、無医地区なのです。
 虫歯のようなありふた患者が続々と押し寄せる一方、糖尿病や心臓疾患など深刻な病状が発見される人もいます。驚くのは、訪れる人たちが明らかな貧困層と思える人たちだけでなく、いい車を持ちいい家を持っているような比較的裕福そうな人たちだということです。これは、アメリカでは盲腸のような簡単な病気でも手術するには100万円、200万円というお金が必要となり、一度大病を患って入院でもしてしまうと家財一切を手放さざるを得なくなる場合も少なくないという事情があるのかもしれません。家も車も持っているような中間層も、病気にかかっていないという条件でのみその生活が維持されているといういびつな構造です。

 この活動を紹介した米CBSの60 Minutesの記事は、「ここはアマゾンではなくアメリカだ」と書き、米国内に出現した巨大な「第三世界」に注意を喚起します。国家が自国民の健康や命を保障することを放棄し、ボランティアによって支えられる超大国とは一体何なのか。翻って、日本の医療制度はアメリカの新自由主義に倣って崩壊に向かっていこうとしています。何とか食い止めなければならないと思いを改めて強くしました。
※U.S. Health Care Gets Boost From Charity
http://www.cbsnews.com/stories/2008/02/28/60minutes/main3889496.shtml
http://www.cbsnews.com/sections/i_video/main500251.shtml?id=3898008n(ビデオ)
※Remote Area Medical
http://www.ramusa.org/

(2008年6月11日 N)

[参考記事]

[紹介]マイケル・ムーア『シッコ Sicko』「病院で費用を心配しないで治療を受けるのは基本的人権だ」

[書籍紹介]生存権を奪うことで、若者を軍と戦争へと供給する「経済的徴兵制」を見事に描写
『ルポ 貧困大国アメリカ』