[投稿] 橋下府財政再建案−−深刻な公務パートの削減(雇い止め)問題

 大阪の公立高校で教員をしている者です。6月5日、橋下大阪府知事の「大阪維新プログラム案」が出されました。6月8日発表の毎日新聞の世論調査では、「全面的に賛成」が37%、「賛成だが一部反対」が48%、そして知事への支持も66%と、橋下知事の「改革姿勢」と「再建案」などに対して大枠では圧倒的な支持があります。
※毎日新聞世論調査:橋下・大阪府知事の財政再建案、「賛成」85%
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080608ddm003040206000c.html
 しかし橋下府政はまるで遅れてきた小泉改革です。「小泉構造改革」の名の下、多くの人々が何が何だか解らずに“小泉フィーバー”をしている内に、自己責任が煽られ、障害者自立支援法や後期高齢者医療制度が次々と成立施行されていきました。気がつけば、多くの若者が正職につけず不安定雇用にたたき込まれ、ホームレス・ネットカフェ難民があふれ出し、水際作戦などとして生活保護はうち切られ、高齢者はなけなしの年金から保険料を天引きされた挙げ句に病院から閉め出されています。障害者や要介護者も本当に必要な支援や介護を受けられなくなりました。橋下知事がやろうとしているのはこれと全く同じ事です。橋下批判をすればバッシングをうけるというような風潮にも同じような危うさを感じます。
 財政赤字の犠牲を府民、とりわけ社会的弱者に押しつけようとする、全く不当なやり方と言わねばなりません。予算削減によって、どのような事態が起ころうとしているのか、わたしのいる教育現場の実態を、ぜひ多くのみなさんにお知らせし、この「橋下改革」がいかに、弱者を切り捨て、教育を破壊するものかを知っていただく必要を感じました。

 劣悪な条件に置かれる公務パートの賃下げ・首切り問題

 教員以外の事務的職種の非常勤(公務パート 学期雇用=4月8日〜7月20日、9月1日〜12月20日、1月8日〜3月15日、時給990円の一日6時間労働 )の問題です。現在、府下の多くの高校では、教員を実務的に補助するために、実習教員4名(理科実験2名、家庭科実習1名、図書室1名)が配置されています。橋下案では、そのうちパート雇用の2〜3名(正規職員が1〜2名)、印刷補助員1名のパート雇用を解雇(雇い止め)しようというのです。
 彼女らの賃金は、印刷などの費用の方に入っていて、分類上は人件費に入っていません。これ自身が人権蹂躙だと思います。印刷補助員および非常勤実習補助員の単価引き下げについては、日額現行5430円については5220円、時間額990円→960円、時間額1080円→1040円という4%削減に加えて、雇用日数・時間数の削減を含めて10%削減というものです。そしてそのいずれも08年度末をもって全廃する(解雇する)というものです。
 つまり、予算の10%削減を達成するためだけに、今年度については一方的に時給・日給が削られた上、雇用日数・時間を減らされ、そして年度末の3月には雇い止め=解雇になってしまいます。20年以上も勤めてきた補助員の方もいます。学校現場の実状や働いている人の生活を全く無視して、財政の都合だけで有無を言わさず切り捨てていくということが許されるのでしょうか。
 このような公務パートの首切り問題は、教育現場だけでなく、行政全般で生じているのではないかと思います。
※大阪府のホームページより、財政再建プログラム案参照
http://www.pref.osaka.jp/zaisei/kaikaku-pt/fuan/index.html

 教育現場にも深刻な影響

 この件では、年収150万円弱という補助員のシングルマザーの方が、5月はじめに朝日新聞の声欄に投書していました。「橋下知事発案のイルミネーションの予算で、大阪府下のすべての補助員の人たちの首がつながる」。「教育現場で、なくてはならない仕事だから、劣悪な労働条件でも自負をもって働いてきたのに」という、切実な内容のものでした。もともと、学期終了時の7月、12月、3月は月末までに雇用が切れるため、社会保険料上不利があったり、退職の場合、公務ということで、会社都合でなく自己都合扱いとなって、雇用(失業)保険上不利になるなど、劣悪な労働条件です。教育の現場でも、補助員が減らされると授業の質が低下したり、ただでさえ忙殺されている教員にさらに多大な業務が覆い被さってくるという事態になりかねません。理科の教員全員で「理科の実験ができなくなる。現場が困る。校長から、教育委員会に上申してほしい」と校長に詰め寄った学校もあります。保護者・中学生むけの学校説明会なども、印刷補助員の方の働きなしでは、支障きたす学校も少なくありません。
 私たち現場の教員は、給料を減らされたあげく、公務パートの削減でもさらなる激務を強いられ、子どもたちと向き合う時間がますますなくなってしまうのです。今回、PTAなどの強い反対で、小学校1・2年の35人学級廃止は撤回されましたが、教育を切り捨てていくという橋下知事の基本方針は変わりありません。「改革案」の削減項目には、「出産・育児支援事業」「放課後児童クラブ等時間延長促進支援事業」「義務就学指導費」などが入り、あの手この手で子育てや教育予算を削ろうとしています。
 政策決定に関与した幹部に責任を取らせるというならわかりますが、財政赤字のつけを公務員の下部にしわ寄せするのは全く理不尽です。まして、現場で重要な役割を担う公務パートを首切りするなどもってのほかです。その中でもっとも被害を受けるのは結局子どもたちなのです。幹部が責任をとらず、何の責任もない下部の従業員に犠牲を強いて、パート労働者の首をきる橋下知事のやり方は、この面でもまさに「民間」の手法を取り入れたといえるのでしょう。このような府民を省みない財政再建案を、絶対に撤回させねばなりません。

2008.6.8.大阪高校教員
(見出しを付けるなど、署名事務局の責任で加筆・訂正を行っています。)