[投稿]夏淑琴さん名誉毀損訴訟 東京地裁勝利判決によせて

 11月2日、東京地裁において夏淑琴(シャー・スーチン)さんの名誉毀損裁判の判決が言い渡された。原告である夏淑琴さんは南京虐殺からの幸存者。被告は名だたる歴史改
竄主義者である東中野修道と、その著作の出版社である展転社。東中野修道は自らの著作で夏淑琴さんをニセ証言者であるかのような主張をしたため、傷つき怒った夏淑琴さんは
東中野修道を訴えたのだ。
 東京地裁でのその判決は、完膚無き勝利だった!
 判決文には「被告東中野の原資料の解釈はおよそ妥当なものとは言い難く、学問研究の成果というに値しないと言って過言ではない」とまで書かれた。まさに東中野修道の学者
としての資質まで疑われているのだ。

 凄惨な虐殺現場から生き延びた人を、実際に存在するその人を、「偽物だ」と断定する東中野修道の神経とはいかなるものだろうか。彼は一度たりとも法廷には姿を見せなかっ
た。そして性懲りもなく、今でもまだ雑誌で「南京虐殺はなかった」とうそぶいている。被害者のことを徹底的に貶めておいて、訴えられるとこそこそと逃げ回り、しかし雑誌で
は未だにデマゴギーを吹聴している。まともな神経をしているとは思えない。

 自分の最も苦しかった体験を勇気を振り絞って証言した結果、それを否定され、あろうことか本にまで書かれ、電車の中吊広告などで誹謗されるというのは、一体どういう気持
ちがするだろうか。悶絶して憤死してしまうか。いやそれどころではない。まさにいじめそのもの。自分の存在そのものが否定され、2度石を投げつけられているのだ。

 大阪でも今年の8月15日、「アジア太平洋戦争の犠牲者に思いを馳せ心に刻む会」で、夏淑琴さんが証言をされた。 
 1937年12月、夏淑琴さんがまだ8歳の少女の時、日本兵二十数人が家に押し込んできた。夏さんは祖父母に連れられて姉妹と一緒に奥の部屋に逃げたが、祖父母は頭を撃
ち抜かれ、15歳と13歳の姉が服を脱がされるのを目撃した直後、夏さんは銃剣で3カ所刺されて気を失った。
 夏さんが再び目を覚ましたとき、あたりは文字通りの血の海だったという。二人の姉も殺されている。4歳の妹一人が泣き叫んでいる。傷ついた身体を這って隣の部屋に移動し、父母を揺するが微動だにしない。乳飲み子は壁に打ちつけて殺され、母も服を脱がされていた。血の海の中、傷つき痛くてたまらない身体と泣き叫ぶ妹に途方に暮れ、助けが来
るまで幼い姉妹二人昼夜オコゲで飢えをしのいだと言うが…………その光景を思い描くだけでも、たまらなくなる。

 こんな辛い出来事を証言するのにどれだけ勇気を必要とするか、まったく想像の域を出ている。
 「過去のことなんだと忘れようと」
 「しかし日本の右翼は私を偽物だと」
 東中野のやっていることとは、まさに癒えることのない傷にあえて塩を塗り込み、笑いものにしているようなものだ。

 今年も12月がやってくる。南京虐殺から70年。
 「何度謝罪すれば」という人もいるが、日本は国家として明確に謝罪したことはない。ましてや東中野修道のような人物がいる限り、問題は何度でも蒸し返され、解決すること
はない。悔しいし、悲しいし、怒りがこみ上げてくる。
 戦争責任の問題にどう決着をつけるのか、日本人としての責任が問われている。

(2007.11.29.D)