憲法改悪の第一歩=国民投票法案に反対する世論を広げよう
マンガリーフレット『本当は恐ろしい国民投票法』の活用を!

(1) 安倍首相は、自分の任期中の改憲の実現を明言し、そのための第一歩として今通常国会での国民投票法の成立を最重要課題の一つにしようとしています。これを受け中川秀直幹事長は、5月3日の憲法記念日までに国民投票法を成立させる意向を表明しています。
 今通常国会は、異例の状況になっています。「政治とカネ」を巡るスキャンダルの続出と内閣支持率の急落等々。通常なら会期が始まったのだから、どんな国会かが見えてくるのですが、今国会の性格を巡って闘いの真っ最中にあるのです。安倍も「憲法国会」と言ったり、突如「教育再生国会」と言ったりと右往左往の状況で、これに対して民主党は「格差是正国会」にしようとしています。
 このことは、まさに今、改憲反対、国民投票法反対で世論に訴えることが重要であることを意味しています。朝日新聞の調査では、今夏の参院選の争点に「憲法改正」を掲げていることを「妥当だ」とする人は32%にとどまり、「そうは思わない」の48%を大きく下回ることが明らかになりました。闘いはまだまだこれからです。今国会を「改憲国会」にしないために頑張りましょう。
※改憲、参院選で争点化「妥当でない」48% 世論調査(朝日新聞)http://www.asahi.com/special/060926/TKY200701220409.html
※衆院憲法調査会特別委の自民党理事は1月25日、自公民3党による共同修正案を提出するのが望ましい、民主党の出方を2月中旬までに見極める、同党が応じなければ与党単独提出を検討するなどを確認した。 まずはここ半月が勝負だということになります。http://www.asahi.com/politics/update/0126/002.html

 すでに昨年末には与党と民主党との間で「有権者18歳以上」など9項目の修正内容が大筋合意されたと伝えられ、両者の対立点は条文の上ではほぼなくなり、民主党の対応は参院選に向けた「政治判断」に委ねられる状況になっています。小沢代表は、参議院選挙での対決を考慮して国民投票法に対しては「慎重」姿勢をとっていますが、基本的に国民投票法には賛成です。鳩山幹事長はむしろ「手続法」は必要であるという立場です。党内は揺れています。与党が「憲法国会」にしたがっているのは、これを持ち出して民主党を混乱・分裂させ、参院選挙を有利に進めようとの意図があるからです。
 社民党、共産党は反対していますが、力足らずは否めません。民主党のこのていたらくを、世論と運動の圧力で抑え込まなければ、国民投票法が成立してしまう危険性が大いにあるのです。ある意味で、憲法改悪のカギを握っているのは民主党の側の、与党とのなれ合いと妥協的姿勢なのです。広範な反対の世論を作り上げ、民主党の裏切りを何としても阻止しなければなりません。


(2) 私たちは、2001年と2004年に作られた国民投票法案を詳しく分析・検討した結果、その驚くべき内容に危機感を持ち、広く一般市民に知ってもらうために、2006年4月にマンガリーフレット『本当は恐ろしい国民投票法』を作成しました。こんな国民投票法が通ってしまえば、教育者、公務員、外国人に国民投票運動が禁止されるなどのカセがはめられる、マスコミでも改憲反対の意見表明ができなくなってしまう。そこに言論弾圧的な恐ろしさを感じ取ったのです。政府与党や右翼勢力が改悪を目論む憲法改悪の中身、つまり」思想・良心の自由や表現の自由の圧殺を、まるで先取りするような国民投票法になっているのです。私たちは絶対反対しなければならない、と強く感じました。

 その後、幾つかの修正が加えられたとの報道がありました。2006年5月に国会に提出された国民投票法案では、当初の与党案にあった外国人による国民投票運動の禁止という条項が削除され、マスコミの報道規制も原則撤廃されるなどいくつかの修正が加えられたと言います。従って、マンガリーフレットに描かれた「外国人による運動やカンパが国民投票法違反である」という場面など、実際の提出法案の中身と違っているところが若干あるかもしれません。
 しかし厳密な中身については、まだ私たちに伝わっていないのです。現に、日本新聞協会が1月25日、政党などが改憲への賛否を表明する新聞向けの意見広告について、「あらゆる法規制に反対する」との意見書を衆院憲法調査特別委員会に提出しました。「マスコミの報道規制の原則撤廃」とはいったいどういうことだったのか。実は「原則撤廃」などではなかったのです。新聞協会は民主党案にも疑問を呈しています。このことからも分かるように、「報道規制の原則撤廃」というのも、ごまかしと偽善に満ちたものなのです。このような状況からすれば、「外国人による国民投票運動の禁止という条項」の撤廃も本当かどうか強い疑問が残ります。
※日本新聞協会のホームページに、ニュースと「意見書」全文が掲載されています。
http://www.pressnet.or.jp/


(3) 従って、私たちがマンガリーフレットで描いた国民投票法の基本的な危険性は、提出法案や修正合意によっても全く変わらないと考えています。誰が見ても露骨な言論弾圧的な規定が一見後退したかのように見えますが、実は別の規制にすり替えられたり、より巧妙になったにすぎません。その意味では、国民をごまかし騙すという意味では、より危険になったと言えるかも知れないのです。
 万が一にでも「憲法改正」が否決されないように抜かりなく手を打ち、憲法に関する国民の自由な言論活動を封じ込め、改悪反対の議論や運動を圧殺するという国民投票法案の本質は全く変わっていないのです。

 第一に、修正されたと言われている、外国人による国民投票運動の禁止という問題、マスコミの報道規制の原則撤廃という問題について、与党や民主党の「修正」の中身を疑ってかかる必要があります。これらの点について早急に情報をつかんで、お知らせしたいと思います。
 第二に、国民投票の過半数の問題があります。改憲の発議は、96条において通常の法律とは違い総議員の2/3以上の賛成という厳しい条件が課せられています。これに従えば、国民投票における過半数も、国会議員で総議員を分母としているのと同じく、全有権者を分母とし、その過半数と考えるべきです。ところが、国民投票法案では、この「過半数」が全有権者の過半数でもなければ全投票者数の過半数でもなく、全投票数から無効票を差し引いた有効投票の過半数とされています。しかも、国民投票が成立するための最低投票率については何も定められていません。非常に低い投票率でも、そこで過半数を取れば国民の承認があったとみなされてしまい、たとえば有権者のわずか2割程度の圧倒的少数の賛成でも改憲が実現してしまう危険性をもっているのです。
 第三に、修正合意された、「18歳以上」に投票年齢を引き下げる件については、それに関連する民法の「成人」年齢や公職選挙法の規定を大掛かりに変更することになります。しかしその一方で、在日外国人の投票権については話題にすらのぼっていません。朝鮮・韓国・台湾出身の人々は、かつての日本の植民地政策で一方的に「日本人」とされた挙句、戦後はまた一方的に「外国人」とみなされ、様々な諸権利を享受することができないまま現在に至っています。その問題が一顧だにされないところにも、現在の国民投票法とそれを成立させようと目論む人々の本質が如実に現れていると考えます。
 第四に、教育者や公務員の「地位利用」による国民投票運動は罰則をもって禁じられています。修正合意では、国民投票法に罰則が新設されることは削除されましたが、その代わりに公務員法などによる懲戒が適用されることになりました。また何をもって「地位利用」とするのか、何をもって「国民投票運動」とするのかなどは曖昧であり、際限ない「拡大解釈」の危険があります。公務員法などをテコに、言論・思想弾圧がなされる危険性が極めて高く、またそのことから憲法改悪について問題にする教育や反対運動を自粛させるような雰囲気が作られる可能性さえあります。マンガリーフレットでは、授業で現行憲法の意義を語り改憲に反対の考えを述べた女性教師が逮捕され、また公務員による改憲反対の組合運動が法律違反とされる場面が登場しますが、これは決してオーバーな表現ではありません。
 見せかけの「修正」や規制の“緩和”によって、この国民投票法を「憲法を改正するという国民の権利を実現するための純粋な手続法」と捉えることなどできないのは明かです。


(4) この国民投票法を作ることによって政府与党が進めようとしている改憲の中身が、憲法というものの根幹を揺るがすような改悪であることに注目しなければなりません。それは、何よりもまず、憲法9条の平和主義的原則−−戦力の不保持と戦争放棄−−を破棄するという大問題です。しかし、あまり知られていないもう一つの大問題があります。国民主権や基本的人権に関わるものです。
 近代憲法は、基本的人権が国家権力に侵害されないように国家権力を制限するために存在します。これは、人類が封建制の時代から資本主義の時代に移行する時のブルジョア革命が達成した普遍的原則、人類が多くの血を流して闘い取った歴史的原則なのです。日本国憲法は、君主制と共和制、天皇制と国民主権との根本的矛盾を含めて枠組みそのもので矛盾を持ったものですが、基本的にはこの近代ブルジョア憲法の原則の上に成り立っています。つまり憲法は、国家権力の横暴から国民を守るためのものであり、国家が国民に対してやってはいけないこと、国家が国民のためにやらなければならないことを定めたものです。こうした憲法の基本的性格は、学校教育の場でも明瞭には教えられず、一般の人たちの常識になっているとはいえません。
 改憲を推進しようとする人々は、マスメディアを使って、憲法における「権利」には「義務」が伴っていないなどとして、それがいかにも日本国憲法の「欠陥」であるかのようなデマゴギーを垂れ流しています。しかし、国民の義務や罰則を定めるのは民法や刑法など一般の法律の役割であって、憲法の役割ではありません。憲法の役割は、あくまでこれらの法律が国民の基本的人権を侵していないかをチェックすることなのです。彼らは、本来国家を規制するはずの憲法を「国民が遵守しなければならないもの」に180度転換しようというのです。
 一人でも多くの人に憲法改悪に直結する国民投票法案の危険性を知らせ、これに反対する世論を広げることが急務です。そのために是非マンガリーフレット『本当は恐ろしい国民投票法』を活用して下さい。3党共同であるにしろ、与党単独であるにしろ、国民投票法案の国会提出をなんとしても阻止しましょう。

2007年1月26日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局