有事法制:討論と報告
有事法制の危険性とデタラメ
(第7号 2002/05/26)
石原東京都知事が先鞭付けた自衛隊=軍隊主導の似非防災訓練「ビッグレスキュー」の異常と危険
−−有事法制成立後、全国レベルで「防災訓練」が「軍事訓練」「治安出動訓練」に変質する危険がある−−

                           ピースニュース(東京)




■ 全国に先駆けて「軍事訓練」への大衆動員の先鞭を付けた「ビッグレスキュー」。
 石原東京都知事の提唱により2000年、2001年と続けて行われた、東京都の総合防災訓練「ビッグレスキュー」は、予想された通り、「防災」に名を借りた軍事訓練、治安出動訓練であった。有事法制がまだ議論も国会提出もされていない段階で、そうであった。
 しかし現在国会審議中の有事法制が成立すれば、ビッグレスキューは一体どのような変貌を遂げるだろうか、考えてみたい。まず第一に、関与する範囲が、これまでの自治体、警察、消防、医療、一部の学校等から更に拡大され、交通・運輸を始めとする民間企業、公共団体、より広い範囲の学校等に広げられるだろう。
 第二に、これまでは一応名目は「防災訓練」だったが、石原知事のことである。オブラートでくるまず直接「有事に備えた訓練」「軍事訓練」と銘打つだろう。さらに「防災の日」だけでなく、「平時から有事に備えよ」とばかりに、「有事訓練」を公然とうたって自衛隊が主導し自治体、公共機関や民間企業までをも巻き込んだ軍事訓練が画策される危険性がある。
 第三に、こうした「有事訓練」は、その実働演習による実際の錬度の向上もさることながら、そうしたきな臭さに反対したり反発する市民を「非国民」としてあぶり出す危険が増すかも知れない。国民の戦争準備、自衛隊への協力を半ば強制する中で、自衛隊の指示に基づく行動への違和感をなくさせ、反戦平和志向の市民を差別選別し、「公共心」や「愛国心」の欠如した人間として孤立させ、そうした行動を容易に取らせない風潮を作り出すことにつながるだろう。
 有事法制が成立してしまえば「防災訓練」、軍事訓練は一層の国民の思想統制を計るメカニズムとして働く危険が強まる。以下に、私たちが批判・監視活動の中から実体験した過去のビッグレスキューの具体的な特徴を整理し、今後予想される有事法制成立後の「防災訓練」、軍事訓練の内容や狙い、その危険性について考えてみたい。

■ 「ビッグレスキュー東京2000」−−「防災」を隠れ蓑に自衛隊が市街地で大規模な「治安出動訓練」を実施。
 2000年9月3日「防災の日」に石原東京都知事は、「ビックレスキュー2000」と銘打って、東京の市街地を中心に極めて大規模な自衛隊の軍事訓練を行わせた。これは明らかに、「防災」を隠れ蓑にして、国では正面切ってできない新ガイドライン体制、周辺事態法に基づく市街地での自衛隊の軍事演習を先取りして行ったものである。更には災害や有事における治安出動をも念頭においた訓練であった。
 ビッグレスキュー2000の特徴をもう一度整理してみよう。
@ 極めて大規模な自衛隊部隊が参加したこと。
 参加者総数約2万5千人に対して、陸海空自衛隊員7千名余り、自衛隊車両1090台、航空機82機、艦船5隻が参加した。首都圏の市街地にこれだけの規模の自衛隊員と装備が集結したのは歴史上初めてのことである。
A いくつかの会場で首都圏・市街地での自衛隊の治安出動を念頭においた自衛隊中心の自衛隊のための行動訓練が行われた。
 篠崎会場では参加者はほとんど自衛隊員のみであり、木場での中心は自衛隊員であった。ここでは自衛隊のための訓練が行われた。公開された訓練以外に広域応援訓練、航空統制訓練、部隊集結訓練などが行われ、全国の自衛隊基地からの移動・集結、航空機での輸送、東京都上空での航空管制など首都圏・市街地を念頭においた行動訓練が行われたのである。これらは周辺事態、有事や治安出動時を想定した訓練であろう。
B 東京都と政府・防衛庁が一体となった周辺事態・有事、治安維持における指揮命令系統のテスト・訓練。
 新設の防衛庁の中央指揮所に設置された「政府緊急対策本部」と都庁「防災センター」を直結してのテレビ会議が行われた。
C 銀座での装甲車両の行動など自衛隊活動をアピールし軍事アレルギーをなくすパフォーマンス。
 銀座のど真ん中の通りをわざと装甲車両を走らせたり、各会場で自衛隊の装備展示、体験入浴、カレーを振舞うなど、自衛隊を積極的に露出させ国民を自衛隊に慣れさせ親近感をもたせようとした。

 石原東京都知事は、こうしたビックレスキューの狙いについて雑誌「VOICE」であからさまに語っている。−−やっぱり陸海空の「三軍」(!)を使った災害時の合同大救済演習をやってもらいたい、東京を舞台に。総司令官は小渕首相だから彼が先頭を切って。私は203高地で苦戦している乃木大将みたいなもんだね(笑)。なんていったて首都・東京ですから、首相が総司令官になった陸海空の大演習が行われるということは、政治的なパフォーマンスといったら怒られるかもかもしれないけれど、大事なことだし、すべての意味でマイナスのものは何もないから。・・・(その大演習は)絶対日本のためになるし、東京のためになる。そしてそれは同時に、北朝鮮とか中国に対するある意味での威圧にもなる。やるときは日本はすごいことをやるなっていう。だからせめて実戦に近い演習をしたい。相手は災害でも、ここでやるのは市街戦ですよ。(1999年8月号『VOICE』)

■ 「ビッグレスキュー東京2001」−−医療関係者・生徒を動員して周辺事態・有事体制での民間動員の先取り訓練。
 2001年のビッグレスキューは、自衛隊員の参加は2千人程度と規模においては2000年と比較して縮小されたが、内容面では2000年の内容をさらに一歩進める形になった。
 ビッグレスキュー東京2001の特徴は以下のようなものである。
@ 訓練全体が自衛隊の指導による自衛隊中心のものとなった。
 都庁を会場として7月に2日間昼夜連続で図上演習が行われた。この演習は陸上自衛隊の「指揮所演習」と同時並行で行われ、東京都の職員は自衛隊の指導、指示をうけてこの自衛隊の図上演習を実施した。9月1日の演習でも主な会場で自衛隊が指揮・指導を行い、自衛隊の統裁官が演習状況をチェックする自衛隊の訓練そのものの雰囲気が主流であった。
A 自衛隊のリードによる医療関係者・看護学生・自治会・民間の動員・指揮、周辺事態体制の訓練。
 訓練には赤十字、公立病院、看護学校の学生、地域自治会、電力、ガス、NTTなどが多く動員され、高校生も動員された。これらの参加者を対象に自衛隊員がリードしてトリアージ訓練を行っていた。民間人を相手に自衛隊員がリード・指導する訓練。ヘリによる血液輸送、患者搬送、物資搬送なども自衛隊が消防、医療、一般を動員して指揮・指導する訓練の感があった。
B 看護学生、高校生など若い層の動員。
 会場でめだったのは、町内自治会からの動員組とともに、看護学校の学生と思われる若い人々であった。「奉仕活動」の一環として、高校生、看護学生等の若い人々が動員された。自衛隊の指揮を受け、自衛隊と共に行動をすることへのアレルギーの払拭、あるいは自衛隊への親近感の醸成をねらったものといえる。
C 米軍との協力体制強化。
 「実施細目」が発行された後になって急遽、追加的にタイムテーブルだけが直前に加えられたのが横田基地からの自衛隊、警察、消防の飛行機発着訓練である。横田からの発着となれば当然米軍の指揮管制が必要であり、米軍が協力し、米軍との連携を訓練するものである。唐突な追加は石原都知事、自衛隊幹部、政府首脳からの圧力をうかがわせる。
D 監視・抗議者の徹底排除と治安弾圧訓練。
 多摩河川敷、調布会場では、多数の私服刑事・機動隊がビッグレスキューに抗議する者や監視者を会場に入れさせないよう徹底的に排除する暴挙に出た。調布会場では爆発音、煙があがり警察、自衛隊、消防が駆けつける訓練が行われた。治安弾圧訓練が行われたと推定される。
E 「防災訓練」への自衛隊参加の広がり。
 川崎市で行われた首都圏7都県市による訓練にも川崎埠頭へ自衛艦3隻が入港した。なぜ防災訓練に自衛艦が必要なのか。石原知事の狙いが露骨に出ている。ただ問題は東京都だけではない。ビッグレスキュー東京を突破口として各自治体の「防災訓練」への自衛隊参加が始まっているのだ。

■ 有事法制成立後、「防災訓練」は露骨に「軍事訓練」の場となる可能性がある。さらには直接に有事を想定した訓練が強行される危険。
 2000年のビッグレスキューを突破口にして、「防災訓練」の軍事化は確実に進行している。その内容は周辺事態、有事、治安出動を想定して、さまざまな側面での活動を具体的に計画し実施し評価している。政府、防衛庁・自衛隊幹部は決して思いつきではなく、周辺事態、有事で必要となるプログラムをその時々の政治情勢も勘案しながら訓練に織り込んでいることが2年間の流れの中からも窺われる。
 2000年版「防衛白書」ではそれまでの白書と異なり「自衛隊の運用強化」を強調した。そしてその主張通り、沖縄サミットにおける自衛隊の大量動員による「警戒・監視」=治安維持活動、ビッグレスキューへの大量動員と自衛隊訓練、自衛隊と警察の間での「治安維持に関する協定」の46年ぶりの改訂による治安維持活動への自衛隊の前面への進出などが行われている。
 有事法制が成立することになれば、こうした「防災」という隠れ蓑を脱ぎ捨て、防災と周辺事態・有事対応、治安維持活動が一体のものとして、自衛隊(これに米軍が加わる)が公然と前面に出た訓練が全国各地で行われる危険性がある。更には、自衛隊の訓練そのものに自治体、公共団体、民間企業、学生等が動員され、それらを巻き込んだ新しい「有事訓練」が行われる危険性も高まるだろう。

■ 有事法制、その後の法整備と同時に進行する「防災訓練」の軍事化、軍事訓練への大衆動員,自衛隊の運用強化の一つ一つの現れに対する反撃が必要。
 今国会で審議中の有事法案では、今後2年間をメドに、さまざま項目での具体的な法整備、政令化をしていくことが唱われている。そしてこのような法整備と並んで、軍事訓練に大衆を動員する具体的な動きが現れてくるだろう。こうした動きは、当然のことながら多くの人々に疑問と動揺、軋轢、反対の動きを生み出すはずだ。法整備と軍事訓練への大衆動員、自衛隊の運用強化の具体的な現れを監視し、その意味を暴露して批判して行くことが重要である。



有事法制:討論と報告


(第6号 2002/05/20)
    [医療から見た有事法制]
    平時から戦時医療訓練が常態化する危険
    有事法制は真っ先に医療従事者を動員する

(第5号 2002/05/18)
    教育現場と有事法制の危険−−加速する教育反動と教員統制
    私たち教職員は再び子どもたちを戦争に駆り立てるのか?
    −−法律成立後学校現場で直ぐに始まる、「平時」からの「国防教育」・「有事向け教育」・「有事訓練」の強要−−

(第4号 2002/05/15)
    既に「原発防災訓練」には自衛隊が多数参加
    警察庁はサブマシンガンで重装備の「原発警備隊」を新設
        (美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会)

(第3号 2002/05/12)
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    有事法制が通ればすぐに始まる「軍事訓練」の強要。参加を嫌がれば「非国民」扱いになる危険。

(第2号 2002/05/09)
    5月7日衆院有事法制特別委員会での論戦で浮き彫りになった有事法制の危険性

(第1号 2002/05/08; 05/09 加筆訂正)
    有事法制の危険性とデタラメ
    インド洋に居座る自衛艦、対イラク戦争への支援・関与を画策
    文民統制を無視した自衛隊「制服組」の暴走