2004年版「防衛白書」を批判する――
「専守防衛」の軍隊から米軍指揮下で世界中に海外派兵・軍事介入する軍隊へ
−−軍事戦略の転換を先取り、新しい軍国主義の強化を宣言−−
○「新しい脅威」、「対テロ戦争」というブッシュと戦争世界観を共有。
○イラク派兵を礼賛し、海外派兵を「本来任務」に格上げ宣言。
○ミサイル防衛を導入、日米同盟を一層強化する。


 7月6日、石破防衛庁長官は閣議で今年度「防衛白書」を報告。閣議はこれを了承しました。昨年度2003年版「防衛白書」は、一口で言えば、防衛庁・自衛隊が「保有する軍隊」から実際に「戦う軍隊」へと脱皮することを宣言したものでした。今後の日本の軍備・軍事政策の大きな方向性を示すものでした。
※「2003年度版『防衛白書』を批判する−−「保有する軍隊」から「戦う軍隊」への脱皮を宣言」(署名事務局)参照。


書店に積まれる04年度版『防衛白書』(表紙イメージは防衛庁HPより)
 それから一年。昨年12月の政府によるミサイル防衛MDシステムの導入決定および今年1月のイラク・サマワへの陸自派兵の決定は、日本の軍備・軍事政策をさらに加速させました。両者は、実際に日本が諸外国(ことに米国)と共に武力行使に踏み切る、すなわち憲法が禁じている「集団自衛権の行使」に踏み切ることそのものを実際の日程に上せるような事態をもたらしています。それらは、かねてから米日支配層の間で、例えばアーミテージ報告といった形で米支配層から強いられた約束――改憲と集団的自衛権の行使――を急速に実現させることを加速させています。

 従来の白書は閣議了承後発刊されるまでに最低一ヶ月ほどかかっていました。ところが今回の白書は閣議了承後すぐに店頭に並びました。事前に用意周到に準備されていたもののようです。それだけではありません。HP上に白書の全内容がすぐに発表されたのです。これもまったく異例のことであり、その素早さにはむしろ異様ささえ感じます。
 石破防衛庁長官は閣議の場で、何と白書の販売部数を2万5千部にすると公言さえしています。販売促進のためにチラシ7万枚、のぼり旗やウチワまで用意したと言われています。本屋の店頭に「防衛白書」が平積みされている光景など、確かにこれまで見たことはありません。
 そしてこれもまったく異例のことですが、小泉首相が白書に巻頭言を寄せています。「防衛白書」が刊行を開始して以来、首相の巻頭言を掲載したのはこれが初めてのことだそうです。そしてこの中で小泉首相は「わが国の代表として国際貢献の最前線で活躍してきた」と、今後の自衛隊活動の目玉にしようとしている海外派兵の意義を強調しています。

 いずれにしてもあれもこれも、政府・防衛庁・自衛隊が、自衛隊と軍備の拡大を、好戦的でより侵略的なものになろうとしている日本の軍事政策を国民に大々的に宣伝し、正当化しようとする姿勢に他なりません。自衛隊に一層の「市民権」を得させようとする必死の試みなのです。政府・防衛庁・自衛隊が何としても、国民を「洗脳」に至るまで宣伝したがっている白書の内容とは何でしょうか。以下それを説明したいと思います。
※『防衛白書』2004年度版 http://www.jda.go.jp/


【1】今年末取りまとめ予定の新軍事戦略=「新防衛大綱」を先取り。

 今年の白書の記述は昨年の白書をさらに超えています。それは昨年12月、MD導入の閣議決定(実際には「新防衛大綱」の内容を提起)に基づき、今年末に出される「新防衛大綱」に向けてその内容を先取りするものになっているのです。従って日本の新しい軍事戦略を、「新防衛大綱」に先だって明らかにしたものであり、日本の新しい軍国主義強化の宣言なのです。
※「内閣官房長官談話[弾道ミサイル防衛システムの整備等について](2003.12.19)
http://www.kantei.go.jp/jp/tyokan/koizumi/2003/1219danwa.html

 昨年12月19日閣議決定された「弾道ミサイル防衛システムの整備等について」中の(我が国の防衛力の見直し)は以下のように述べています。そしてこの閣議決定をふまえた形で今回の「防衛白書」は作成されています。
−−我が国をめぐる安全保障環境については、「大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の進展、国際テロ組織等の活動を含む新たな脅威や平和と安全に影響を与える多様な事態」すなわち「新たな脅威等」への対応が国際社会の差し迫った課題となっているとの認識を示し、「防衛力全般について見直しが必要な状況が生じている」と述べます。
−−このため、「新たな脅威等に対して、その特性に応じて、実効的に対応するとともに、我が国を含む国際社会の平和と安定のために活動に主体的・積極的に取り組み得るよう、防衛力全般について見直しを行う」とします。その際「従来の整備構想や装備体系について抜本的な見直しを行い適切に規模の縮小等を図ることとし、これらにより新たな安全保障環境に実効的に対応できる防衛力を構築する」としています。
−−上記のような考えの下に、「自衛隊の新たな体制への転換に当たっては、即応性、機動性、柔軟性及び多目的性の向上、高度の技術力・情報能力を追求しつつ、既存の組織・装備等の抜本的な見直し、効率化を図る。その際、以下の事項を重視して実効的な体制を確立するものとする」として、以下四点にわたり重要事項を述べています。
「(1)現在の組織等を見直して、統合運用を基本とした自衛隊の運用に必要な防衛庁長官の補佐機構等を設ける。
(2)陸上、海上及び航空自衛隊の基幹部隊については、新たな脅威等により実効的に対処し得るよう、新たな編成等の考え方を構築する。
(3)国際社会の平和と安定のための活動を実効的に実施し得るよう、所要の機能、組織及び装備を整備する」とした上で、三自衛隊それぞれについて、その整備の目標を述べます。
※「弾道ミサイル防衛システムの整備等について(2003.12.19安全保障会議決定・閣議決定)
http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2003/1219seibi.html


【2】今年度白書の特徴:「機能する自衛隊」=実際に「使える軍隊」、「戦える軍隊」創設の具体策を宣言。

 今年度白書は「わが国に対する本格的な侵略事態生起の可能性は低下している」と明言します(p.322など)。その上で、「国際社会の差し迫った課題」として、「大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の進展、国際テロ社会などの活動を含む新たな脅威や平和と安全に影響を与える多様な事態」すなわち「新たな脅威など」への対応があると言い(p.325)、テロ対策などに「防衛政策」の重点が移っていることを強調します。

 これは抑止のために軍事力を整備するとしてきた戦後日本の伝統的な軍事戦略の根本的な転換です。日本を侵略するような危険は存在しないので、たとえ日本に脅威でなくともテロやミサイル開発を行う国家やグループを「仮想敵」にして米国と協力して積極的に軍事力を使って撃退する−−これが日本の軍事戦略の柱に置かれたのです。

このような「新たな脅威論」こそブッシュ・ネオコンとうり二つのものであり、超大国アメリカによる世界支配と対テロ戦争の継続というアメリカの戦争世界観そのものであり、ブッシュの先制攻撃論を正当化する情勢認識なのです。「防衛白書」はこのブッシュ・ネオコンの先制攻撃戦略を全く無批判にそっくりそのまま受け入れ、自分の戦略にしています。そこにはイラクがテロと何の関係もなかったこと、大量破壊兵器を持っていたという米英の情報機関の情報が全くデマであり、米英が国際法を無視して一国を侵略し、今も占領し続けていることへの批判も反省も一言もありません。米国が敵と認め、国際的な脅威と決めつければ、喜んで自衛隊を派兵し戦争を仕掛ける米軍に協力しようというのです。米軍の一支隊、補助部隊になることに自衛隊の将来を見い出しているのです。

 上のような認識の下に、「新たな脅威」への対応として「即応性や機動性をより一層向上させるとともに、柔軟性も高めることにより、実効的に対応する能力を保有する。これによって、極力、事態発生の未然防止に努めるとともに、事態が発生した場合には迅速かつ効果的に対処する」などの方針を明記します(p.327)。

 その上で、「検討されている新たな自衛隊の体制の一例として」ということで、三自衛隊についてそれぞれ具体的に「新たな体制への転換の考え方」を示します。
−−すなわち、「陸自では、各地域に即応性の高い部隊を適切に配置することや、核・生物・化学兵器などに即応できる部隊を保持すること、さらには、国際活動を実施する上で必要な教育を平素から実施する部隊を保持することなどがある。
−−海自においては、現在個別部隊ごとに行っている艦艇・航空機の練度管理を一元化することや、護衛艦部隊を現在の固定的な編成から柔軟編成を基本とすること、さらに、固定翼哨戒機については、平時の警戒監視体制を確保するとともに、多様な事態などに対応し得る態勢に転換することなどにより、任務の拡大・長期化に対応し得る効率的な体制の構築を検討している。
−−空自においては、航空機のみならず弾道ミサイル・巡航ミサイルなどにも対応できる防空体制を構築することや、作戦用航空機などの効率化を追求しつつ警戒監視能力及び戦闘機部隊の即応性の向上などを図ることにより多様な事態に対応し得る体制の構築を検討している。
−−また、国際活動に積極的に対応できるような輸送・補給力を確保し得る体制の構築を検討している。」などの目標を示しています(p.328)。

 確かに「機能する軍隊」、すなわち「即応性、機動性、柔軟性」という提起は昨年来のものです。しかし、昨年の白書と今年の白書との間には大きな違いがあります。自衛隊の戦後初めての海外派兵です。イラクに自衛隊を海外派兵し、米英の占領体制に組み込まれて行く中で、海外派兵と「国際貢献」への積極性は一層強まっています。国民が自衛隊を見る目が変わり、メディアの論調も変わりました。翼賛報道の中で自衛隊批判はほとんどタブーになったかの感があります。防衛庁や自衛隊内部では、「専守防衛」や「護憲」の声は小さくなり、海外派兵や改憲が大手を振って一人歩きし始めています。自衛隊員の「戦死」や他国の民衆殺害が現実のものとなり、自衛隊の戦闘訓練や演習も相手を撃ち殺すことが前提のものに変わっています。白書という「紙の上だけの機能する軍隊」ではなく、「実際に機能する軍隊」へ大きく第一歩を踏み出したことを受けての白書なのです。
※「陸自北富士演習場に“ミニサマワ宿営地”を造営==イラクで武力行使をする軍事演習を開始」(署名事務局)
※「「人道復興」などそっちのけ。“至近距離の敵に対処する新たな訓練”に終始する陸上自衛隊」(署名事務局)

 白書はまた、新軍事戦略、「機能する軍隊」として3つの柱を打ち出しています。以下、順次それを見ていきましょう。

(1)海外派兵を「本来任務」に格上げし、「使える軍隊」創出を追求
 先に述べたように政府は昨年末の閣議決定で、新大綱の策定に向けて、「国際社会の平和のための活動を実効的に実施する組織を整備する」との方針を打ち出しました。米軍と共に、いや米軍と一体となって世界中どこへでも侵略する軍隊を創出するとの宣言です。そして今やこれが、今回白書の最大の目玉です。

 政府は昨年この方針と同時に、各自衛隊について具体的に整備方針を明らかにしました。今回白書はそれをも継承しています。閣議で決定された具体策とは次のようなものです。
 「ア 陸上自衛隊については、対機甲戦を重視した整備構想を転換し、機動力等の向上により新たな脅威等に即応できる体制の整備を図る一方、戦車及び火砲等の在り方について見直しを行い適切に規模の縮小等を図る。
  イ 海上自衛隊については、対潜戦を重視した整備構想を転換し、弾道ミサイル等新たな脅威への対応体制の整備を図る一方、護衛艦、固定翼哨戒機等の在り方について見直しを行い適切に規模の縮小等を図る。
  ウ 航空自衛隊については、対航空侵攻を重視した整備構想を転換し、弾道ミサイル等新たな脅威等への対応体制の整備を図る一方、作戦用航空機等の在り方について見直しを行い適切に規模の縮小等を図る。」

 上の閣議決定を受け、今回白書で、防衛庁・自衛隊は戦後史を画する軍事戦略の大転換を行いました。米のグローバルな軍事介入への協力・加担を前面に打ち出したのです。最大のポイントは、世界各地への海外派兵を「本来任務」に格上げし、自衛隊を迅速かつ機動的に動ける侵略軍に仕立て上げることです。

 白書は、国連平和維持活動(PKO)や「イラク復興支援活動」など「国際的」な活動に関しては、「独裁政権や国際テロ組織に蝕まれた国家が崩壊した場合、責任ある国家へと再生させることも国際社会の課題」(p.3)と指摘し、アフガニスタン戦争やイラク戦争など、米国が国際法と国際秩序に違反して、内政干渉を行い、ついには主権国家を転覆させたことにほお被りし、なおも占領支配によって内政干渉を継続している現状を当たり前のように受け入れ、米主導の戦争世界観を臆面もなく吐露しています。
 そして自衛隊が「必要な地域に部隊を迅速に派遣し、継続的に活動できるよう、即応性、機動性、柔軟性を確保する」(p.327)と、米と一体となった海外侵略の意図を隠そうともしていません。

 「国際活動」が自衛隊法で「付随的任務」に位置付けられていることに対し、白書は「国際社会の平和と安定のための活動を自衛隊の本来の任務の一つと位置付けるべきではないかとの考え方もある」(p.328)と指摘し、今年末に決定される政府の「新防衛大綱」をにらみ、「国際社会の平和と安定のための活動に主体的・積極的な取り組みを行うとの観点から、当該活動の自衛隊の任務における位置付けについても検討中だ」(p.329)と本来任務への格上げを強調しています。
 政府与党は合意が得られれば、来年の通常国会にも、国際活動を本来任務にすることを盛り込んだ自衛隊法改正案を提出する構えだといわれています。

(2)三軍が一体となり、実際に戦えるように統合運用の具体化を進める。
 世界中で軍事介入や戦争を引き起こす米軍に忠実に付き従い、自衛隊の海外派兵を拡大する上で最も重要なのは部隊の統合運用、統合指揮です。ところが現状では自衛隊は陸海空それぞれバラバラに組織され、各軍ごとに指揮系統が分かれています。たとえば陸と空の現場の部隊が共同する場合でさえ、それぞれの司令部を通じなければ一緒に運用することができません。4軍統合の米軍との共同作戦はもっと難しいのは言うまでもありません。

 実際に世界中に軍事介入をしてきた米軍は4軍を統合して地域ごとの統合部隊を作って作戦行動を行っています。米軍部隊と行動をともにするためには、自衛隊の部隊も3軍が統合されている必要があるというのが白書の狙いなのです。
 具体的には「防衛白書」は、統合運用と指揮系統の統合のために従来自衛隊ごとの幕僚会議を「統合幕僚組織」に改組し、防衛庁長官の指揮権を一人で補佐する「統合幕僚長」(いわば参謀総長)の体制に移行することを強調します。しかし、統合運用を強調すればするほど、その目的が米軍との共同作戦であり、海外派兵の拡大であることがますます明白になるのは言うまでもありません。

 このような統合運用の考え方が図示までされて発表されているのは、白書では初めてのことです。そもそも三自衛隊の統合運用が問題になるのは、自衛隊を実際に「運用できる」=「戦闘に参加させる」ことを真剣に考えていることの証左であり、実際米軍自身がイラク等では四軍統合の形で戦闘に参加しているからであり、将来的に日本が米軍と一体となって戦闘行動に参加する場合には統合運用の形がどうしても必要であるからだ、ということを念頭に置いておく必要があります。

 また、計画によると、統合幕僚会議の下で国際軍事情勢を分析し、防衛庁の政策判断のための情報収集をしている情報本部を、新体制では「庁の中央情報機関」と位置付け、長官直轄とするとしています。具体的には、情報本部に「統合情報部(仮称)」を新設し、統合の要の統合幕僚長(仮称)と三自衛隊の各実動部隊に対する情報支援機能を強化するとしています。

(3)MDで日米同盟の一層の強化。そのために武器輸出三原則の撤廃を要求。
 昨年12月政府によってミサイル防衛(MD)導入が決定されました。MDはブッシュ政権の軍事戦略の最重要の柱の一つです。米はすでに可能なものからMDを実験・配備し始めています。アラスカ配備地上発射ミサイル、イージス艦搭載ミサイル、新型パトリオットPAC3ミサイルが配備直前です。日本はこの3つのうちの2つに協力することで、特にイージス艦搭載ミサイルの開発と製造の一部を分担することで、日米の軍事的一体化・結合をさらに進めようとしています。

 MDが実際に配備されるのはアラスカを除けば日本だけです。これだけを見ても日本へのMD配備は異様です。アジア・極東をにらんで、日米の軍事同盟を一層強めようとしていること、このMDの対象が当座の北朝鮮にあるだけでなく、米が長期的に“強力なライバル”になると考えている中国の軍事的経済的な台頭を押さえ込むことにあるのは明白です。

 白書はMDを「開発・生産に移行する場合には、わが国より米国に武器を輸出する必要性が生じる」(p.345)とし、「(武器輸出三原則の見直しを)各般の観点から検討していく」(p.345)と明言しています。何としてもMD参加をごり押しするために、とうとう歴代内閣が曲がりなりにも守ってきた武器輸出3原則をも放棄し、逆に武器輸出に日本の軍需産業の生き残りと復活を賭けようとしているのです。

 MD導入には一兆円以上の経費がかかります。この費用捻出とあわせて、「従来の整備構想や装備体系について抜本的な見直しを行い、適切に規模の縮小や装備、部隊の効率的な保持による規模の変更を図る」(p.327)としています。いわば日本版の“自衛隊トランスフォーメーション”です。しかし、これは一方で、米ソ冷戦時代に膨れ上がった巨大な軍備、兵力、組織である「官僚機構」としての防衛庁・自衛隊の生き残り策であることを示しています。日本周辺の軍事的緊張が緩和していることを認めながら、軍縮をさせない口実として防衛庁・自衛隊は「ミサイル・大量破壊兵器の拡散」「新しい脅威」「対テロ戦争」を結局は持ち出しているのです。

 多額の費用がかかるこのMDシステムについて「純粋に防御的な、かつ、他に代替手段のない唯一の手段であり、専守防衛を旨とするわが国の防衛政策にふさわしいものである。また、それ自体が攻撃能力を有することはなく、周辺諸国に脅威を与えるものではない。憲法上行使を禁じられる集団的自衛権との関係については、同システムはあくまでもわが国を防衛することを目的とするものであって、わが国自身の主体的判断に基づいて運用し、第3国の防衛のために用いられることはないことから問題は生じない」(p.336〜337)と、予め批判されそうな問題をすべて並べて言い訳をしています。

 もちろん、これらの論理は全てウソ・デタラメです。米ソ冷戦時代の最中、1970年代に、なぜ迎撃システムの開発・配備が大論争になり、結局は米ソ両国がABM条約(弾道弾迎撃ミサイル制限条約)を結ぶことで、迎撃システムの配備禁止で合意したのか。少し歴史を振り返るだけですぐに分かることです。迎撃システムが完全であればあるほど第2撃を封じ込めることになり、第1撃、つまり先制攻撃能力が高まるのです。当時、米ソ先制核攻撃戦争の脅威を封じるためにこの条約を締結したのです。

 この軍事的常識は当然、現在も通用することです。ブッシュが大統領に就任した2001年、まず最初にこのABM条約を一方的に破棄したことを想起してください。ブッシュ・ドクトリン=先制攻撃戦略を堅持する米の現政権が、MDに執着するということは、MDが先制攻撃戦略の根幹であることを示しているのです。
 米日が共同で、北朝鮮と中国の目と鼻の先でこのシステム配備を進めるということは、先制攻撃戦争の脅威を惹起する戦争挑発そのものであり、軍事的緊張を一層加速させるものなのです。私たちは、MDの導入・配備にも、武器輸出三原則見直しにも絶対反対です。


【3】イラク侵略と他民族支配の破綻が明白になったときに、米に追随し同じ道を歩もうとする愚挙=“新しい軍国主義”。
 参院選で自民党は敗北しました。国民へのこれっぽっちの説明もなしに、ブッシュに迎合した多国籍軍参加決定は、選挙民から不信任をたたきつけられたのです。
 民主党は大幅に議席を伸ばし躍進しました。しかし民主党の勝利は二面的で複雑です。一方では、年金の仕切り直しを求めて選挙民がこぞって民主党に投票しました。他方では、小泉政治批判票、自民批判票の「受け皿」としても大勢の民衆が投票したのです。消極支持です。民主党は勘違いしてはなりません。民衆は、民主党が創憲=改憲だから、多国籍軍参加が曖昧だから支持したのではないのです。

 私たちはそれでも、今回の選挙結果が、日本の政治全体の右傾化の進行の中での自民党の敗北であったという事実を見ておかねばなりません。民主党の若い無邪気なタカ派は米政府や米日の軍需産業に取り入り、自民党国防族と一緒に行動し得意気になっています。何をしでかすか分かりません。新しい軍事政策の既成事実化、なし崩し的な先行実施が粛々と進む危険性は十分にあり得るのです。なぜなら民主党は“前科”があるからです。前の国会で有事法制の成立に手を貸しました。多国籍軍参加反対も全く信用できません。ミサイル防衛や対北朝鮮制裁では自民党以上にタカ派です。またいつ“創憲”で動き出すか分かりません。

 「防衛白書」にも端的に表されているこの間の日本の新しい軍国主義、それと共に進行する新しい政治反動が、イラク派兵・多国籍軍参加、MD参加を“テコ”としてエスカレートしています。だからこそ何よりもまず最大の“テコ”となっているイラク派兵と多国籍軍参加を断念させることが、この新たな軍国主義の加速化を阻止する力となるのです。

 米国のイラク侵略と占領はすでに行き詰まっています。超軍事大国アメリカをもってしても他民族を支配し続けることはできないのです。米英のイラク占領への支持は減り続けています。侵略と他民族支配が行き詰まり、まさにその限界を見せつけているときに、日本は再び侵略と他民族支配への道を本格的に踏み出そうとしているのです。この歴史の流れに逆行する暴挙は、必ずや国内的にも国際的にもしっぺ返しを受けるでしょう。

2004年7月18日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局