イラク戦争後、3ヶ国協議後の米朝関係、朝鮮半島情勢と有事法制の危険
日本の反戦平和運動の緊急課題は、米日政権による対北朝鮮戦争挑発政策を阻止し平和的解決を要求すること


T.イラク侵略、3ヶ国協議の結果と朝鮮半島危機の再燃。危機の根源はブッシュの北朝鮮封じ込め政策。

(1)3ヶ国協議と対北朝鮮危機の再燃。米韓日の勢揃いの慎重対応の裏には何があるのか。
・3ヶ国協議と北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の「核保有発言」報道。再び朝鮮半島危機が再燃。一方で北朝鮮の「新しく寛大な解決方法」。
・イラク侵略の衝撃、軍事脅迫の大きさ。今回の危機再燃の根底にはブッシュの戦争政策、とりわけ先制攻撃戦略の初めての発動、先制攻撃戦争の圧勝がある。「悪の枢軸」と勝手に決め付けられ打倒の筆頭にされた北朝鮮が極度の軍事的緊張と防衛態勢を取るのは当然。脅迫している側とされている側を間違ってはならない。
・しかし3ヶ国協議後の米・韓・日の対応が異常なほどの抑制的姿勢。この背景には一体何があるのか。
−−ブッシュ政権の内外政策の重点の変更。大統領選挙最優先への転換。
−−ブッシュ政権内部の対北朝鮮政策をめぐる戦略不在。閣内不統一。
−−それでも残るネオコンが暴走する危険。

(2)米朝関係史を歴史的に捉えることが必要。
・イラク侵略後、3ヶ国協議の現在の米朝関係を見るだけでは決定的に不十分。
・本質を捉えるには歴史的なパースペクティブが必要。
−−昨年来の米朝関係史:第V章。
−−1990年代を通じた米朝関係史:第W章。

(3)日本の反戦平和運動の責務は重大。絶対起こさせてはならない。
・日本の反戦平和運動は重要な局面を迎えている。米朝関係が、方向が定まらない極度に不安定な局面に入った中で、今こそ朝鮮半島とアジアの平和と安定のために全力を挙げて闘わねばならない。
私たちの仕事は少なくとも3つある。
 第一に、ブッシュ政権の対北朝鮮戦争政策の揺れ、不安定、危険性を暴くこと。朝鮮半島危機の根源は北朝鮮ではなくアメリカであることを明らかにすること。(第U章、第V章、第W章)
 第二に、核兵器、ミサイルなどいわゆる「北朝鮮の脅威」論の超危険な“戦争プロパガンダ”を批判すること。(第X章、第Y章)
 第三に、朝鮮半島での戦争を防止するためにも、朝鮮半島の非核化を実現するためにも平和的外交的な交渉しか解決の道はないことを明らかにすること。とりわけ日本の役割、小泉政権の北朝鮮敵視政策が非常に危険な段階に入っていること、中でも有事法制は最も戦争挑発的な政策であることを、広く民衆に訴えること。(第\章)


U.ブッシュ外交の限界と軌道修正の兆し。大統領選に向けた国内政策・経済政策重視。

(1)イラク戦争終結後、来年の大統領選挙に向けて国内政策・国内景気対策重視へ転換を図ろうとしている。「親父の二の舞にはならない。」


(2)イラク戦争の後処理で行き詰まり。対欧関係、対仏、対独、対露関係のぎくしゃくが収まらない。ORHAについても国連制裁解除についても、対国連、対安保理外交が行き詰まり。


(3)アメリカの景気低迷、循環的構造的危機の進行の下で、国内経済対策に優先せざるを得なくなっている。


V.3ヶ国協議に映し出されたブッシュの対北朝鮮外交の揺れ、不安定、危険性。

(1)3ヶ国協議終了直後の抑制対応とそれが示す危うさ。−−国務省にも国防総省にも北朝鮮の現体制を今具体的にどう対処するかはっきりした戦略がない。
・ここ2、3日の動きを見る限り、アメリカも韓国も日本も予想以上に慎重で抑制した言動を見せている。今すぐに一途戦争へエスカレーション、一直線に緊張が高まるという状況ではない。しかしこの一種不気味な慎重さと抑制的姿勢の中にこそ、対北朝鮮危機の深刻さ、危機的状況が隠されている。
・なぜ米国務省が、韓国政府が、あの好戦的な小泉政権の官邸が、取り敢えず押さえにかかっているのか。それは大統領選対策だけではない。国務省にも国防総省にも、昨年1月段階では「悪の枢軸」で打倒の対象としたが、そしてそれが今も基本ではあるが、来年の選挙に向けて、今具体的にどう対処するかの戦略はない。政策不在、政策の揺れ、不安定が特徴的。
・その背景にはブッシュ政権の権力構造に深く根ざしたネオコンとそれ以外の対立、「タカ派」と「ハト派」との対立。それを反映した対北朝鮮政策をめぐる対立、政策論争、権力抗争がある。
・CNNやワシントン・ポストに流れた「核保有」「再処理」「実験と輸出」という“爆弾発言”は、ネオコンが国務省の動きを封じ込める狙いがあると言われている。
・最も危ないのがネオコン。ラムズフェルドは確かに今はおとなしくしている。しかしいつ豹変するか分からない。

(2)早くも外交圧力、経済制裁の動きが前へ。
・現時点で事態はどこへ、どのようなテンポで進むか全く不透明。しかし早くも米政府は、外交的圧力を加えること、北朝鮮の核開発を非難する国連安全保障理事会の議長声明の採択などを目指すこと、更に経済制裁や日本からの送金停止などの強硬措置を追求すること等々を検討している。非常に危険なこと。
・もし北朝鮮が再処理工場を稼働させたとき、次の危機的な局面がやってくるだろう。
・今後の展開如何によって、経済制裁という準軍事制裁措置が前に出る危険がある。また海上封鎖も検討されている。場合によっては核施設に対する先制攻撃もあり得る。まずは初発で止めることが必要。

(3)「10月核騒動」:ブッシュの北朝鮮封じ込め・政権崩壊戦略からの逸脱を許さない横暴。韓国政府、日本政府の属国的な屈服的姿勢。
・国務省の一貫性のなさは、昨年10月にも顕在化した。北朝鮮側が韓国と日本に対して平和攻勢をかけたことを妨害するため。7月25日の南北閣僚会談の再開提案と南北対話再開の動き、9月17日の日朝首脳会談と日朝国交正常化交渉開始等々、金正日政権は敵対姿勢を崩さないブッシュ政権を迂回した大胆な政策転換を行った。
・これにブッシュ政権と国務省は狼狽した。ここに勃発した事件が有名な「10月核騒動」。陰謀めいた事件。この時も役者は今回と同じケリー特使。「濃縮ウラン核爆弾開発計画」と米系メディアを使った「北の脅威」の扇動。これで南北対話、日朝交渉をぶっ潰した。
・この直後北朝鮮は米朝不可侵条約締結を提案したが米側はこれを無視、昨年12月分の重油供給中断の脅しで米朝枠組み合意(ジュネーブ合意)破棄という強硬手段に出たため米朝間の緊張は一気にエスカレートした。
・私たちが「核騒動」で毎日のようにマス・メディアで頭に叩き込まれたのは、ここから。今回と同様、いつも北朝鮮が問題を起こすシナリオ。原因ではなく結果が煽り立てられる。・昨年12月ついに北朝鮮は“対抗措置”に打って出た。寧辺(ヨンビョン)の核施設凍結を解除し、国際原子力機関(IAEA)要員の国外退去を命じた。その後米側はIAEAを使った再凍結決議、北朝鮮側は核拡散防止条約(NPT)からの脱退宣言と更にエスカレートしていく。
・「10月核騒動」をリードしたのは国務省。この事件はブッシュ政権内部にブレーキがないことを証明した。歯止めなき権力抗争はいつ暴走するか分からない。韓国の反対、中国やロシアのブレーキなどの外的制約以外に、ブッシュの暴走を止める手だてがない。そこで日本の役割が浮上してくる。ブッシュの暴発に手を貸すのか貸さないのか。日本の反戦平和運動は決定的に重要な役割を果たす。

(4)北朝鮮側の基本目的ははっきりしている。体制保証とエネルギー確保。
・3ヶ国協議の中で北朝鮮は核問題などの解消へ向けて「新しく寛大な解決方法」を提案したと発表。ワシントン・ポストによると、北朝鮮側は、核放棄の見返りに米朝関係正常化への道筋や軽水炉提供などを盛った94年の「米朝枠組み合意」を復活させ再構築することを提案。体制存続の保証やエネルギーの安定的支援を求め、米国が行動を果たした段階で核放棄に応じるとの提案を行った。
・これに対して米側は、体制保証は行わないと突っぱね、無条件の核開発破棄を要求。つまり「悪の枢軸」や「先制攻撃戦略」や「体制変換」というブッシュ政権の公式の軍事外交戦略をただ繰り返しただけ


W.クリントン政権からブッシュ政権へ:「米朝枠組み合意」の破棄から金正日政権崩壊戦略への転換。

(1)クリントン政権時に確立した金正日政権容認の政治的外交的戦略=「米朝枠組み合意」破棄。そこに危機の根源がある。
・対北朝鮮危機の危機たる所以は、ブッシュ政権にそもそも北朝鮮の金正日政権を前提とする外交的平和的解決の確固とした政治的意志がないという点にある。相手の政権の打倒を前提とする限り、安定した外交関係は築けないのは当然。
・朝鮮半島は1953年以来50年間にわたって「休戦」状態にあり、戦争状態が続いている。しかも「休戦」の当事者は南北間ではなく米朝間。米朝直接対話で米朝間の「戦争」状態に終止符を打つことが、朝鮮半島の平和と安定の出発点。それを米側が拒否している。
・危機の根源を明らかにするにはブッシュ政権の誕生時に遡る必要がある。2001年6月6日、ブッシュは政権誕生後初めて米朝協議の再開。ところがその内容は協議とは名ばかり。クリントン政権下で積み上げられてきた対北朝鮮政策を全面的に廃棄する方針。
 第一に、1994年枠組み合意の否定。戦後もっとも良好な関係になりつつあった米朝関係を一方的にぶちこわした。黒鉛減速炉の建設を中止する代わりに軽水炉2基を2003年までに建設・提供する約束は完全に反故。米側の義務である重油供給の停止。
 第二に、2000年10月「米朝コミュニケ」の否定。当時のオルブライト国務長官との間で交わされた合意(500km以上のミサイル開発の中断、ミサイル合意に関する検証手段の保証、見返りとしての食糧・エネルギーの安定供給、米大統領の北朝鮮訪問と米朝関係の正常化等々)も反故。
 第三に、その他通常兵力の削減や生物化学兵器の査察問題など次々と難癖・難題を持ち出した。要するに正常な外交関係を拒否したいだけ。

(2)「米朝枠組み合意」に代わる公式の対北朝鮮戦略=金正日政権の崩壊。
・2002年の1月、ブッシュ大統領は「一般教書」において北朝鮮を「悪の枢軸」と決めつけた。公式に「戦略敵」、武力で打倒する対象と見なした。しかし即戦争で打倒するのか、それとも「兵糧責め」=「封じ込め」で打倒するのかははっきりしていない。この基本戦略がある限り、ブッシュ政権の対北朝鮮政策の危険はずっと残る。
・同年5月にも、「テロ支援国家」「ならず者国家」と繰り返し攻撃した。
・今年1月の一般教書でも「無法政権」と呼び、「対話はするが交渉はしない」と言い切った。
・実際ブッシュ政権は9・11後の2001年11月、北朝鮮崩壊シナリオを作成したと言われている。
・ブッシュ政権の公式戦略は、あくまでも「金正日政権の打倒」にあるが、上述したように、今それを具体的にどうするかは決まっていない。だから政策は漂流し続けるしかない。

(3)国務省にも明確な平和的外交的解決の戦略はない。
・「協議はしても交渉せず。」「対話はしても合意せず。」−−それが3ヶ国協議に臨む国務省に許された方針。パウエルや国務省に妥結の権限がない。
・国防総省は、武力による打倒を排除していないが、最低限形を変えた「兵糧責め」=「封じ込め政策」を追求。すぐに戦争はしない。だが対話もしない。もし国務省が対話をやるとしても交渉は許さない。対話の振りをしながら時間稼ぎをして「政権崩壊」を促す。南北間、日朝間の外交関係の発展は阻止する。北朝鮮を八方ふさがりにし、干上がらせる戦略。北朝鮮は現在、極度の経済危機に陥っている。外交的な妥結を先送りすればするほど、北朝鮮の危機は先鋭化する。放置すれば自壊すると考えている。
・しかし国務省が、国防総省のこの「兵糧責め」戦略に別のもの、例えばクリントン政権時代の「米朝枠組み合意」への復帰を真正面から対置しネオコンやブッシュ大統領と対立した事実がない。
・ここから見えてくるのは、私たちがマス・メディアから受ける印象−−ブッシュはイラクは戦争で打倒したが、北朝鮮はあくまでも対話と外交で解決する−−とは異なる現実。その「対話と外交」の中身が「兵糧責め」=「封じ込め」なら非常に危険。“相手の存在を前提とする外交”と“相手を打倒するための外交”とは根本的に異なる。



X.誇張され人為的にでっち上げられた「北朝鮮の軍事的脅威」。

(1)日本版ネオコンの危険な役割。
・今回の北朝鮮の「核保有宣言」報道を取り上げて、日本に対する重大かつ深刻な軍事的脅威だと決めつけ、有事法制の強行を筆頭にミサイル防衛や北朝鮮に対する軍事態勢を強化せよとの動きが出ている。
・特に一部右翼的なマスコミや論壇、政府与党の極右的な部分、外務省や防衛庁や自衛隊の右の部分から強く聞こえてくる。日本版ネオコンたち。
・しかし、彼らが進める軍事的緊張激化政策こそが、朝鮮半島の危機を煽り立て、その平和と安定、更には日本の平和と安定に脅威を与える非常に危険な行為。

(2)「北朝鮮の強大な軍事力」「北朝鮮の深刻な脅威」はでっち上げ。
・北朝鮮が本当に核兵器を保有するに至ったのか、それとも持っていると主張しているだけなのか、今のところ評価できない。しかし保有しているとしても最大でも1〜2発と極めて限定的なもの。これは米政府自身の評価。
・仮に保有していたとして、それは如何なるものなのか、幾つか区別して考えてみよう。
−−まず北朝鮮が核武装しようとすれば2つの方法がある。
a)一つは所有している原子炉(黒鉛ガス炉)の使用済み燃料を再処理してプルトニウムを取り出しナガサキ型原爆を作る場合。
b)もう一つはウランの濃縮工場を造って濃縮ウランでヒロシマ型原爆を作る方法。


−−今回の発言が本当だとすれば、それはプルトニウム型。94年の米朝枠組み合意以降は使用済み燃料は厳重な監視下に保管されてきたので、それ以前に少量取り出したものから再処理したとしか考えられない。その量が最大で原爆1〜2発分だと言われている。CNNの報道が騒ぎ立てる「核実験」などやる余裕さえない。
−−これ以上のプルトニウムの抽出、したがって追加的な核兵器の生産は、94年以降停止しており現在稼働に向けて準備していると言われる再処理工場で保管されている8000本の使用済み燃料から取り出さなければならない。この分でも5〜8発分に限定されている。それ以上は国内の黒鉛炉を全面運転し、それを再処理に回してはじめて継続的なプルトニウム生産が可能になるにすぎない。
−−濃縮ウランによるヒロシマ型の原爆は、昨年10月にアメリカがウラン濃縮の証拠を突きつけ北朝鮮も認めたと報道されているが、実際にウラン濃縮工場が建設され稼働しているという証拠は何も出ていない。この方法による核兵器の開発は少なくともここ数年間はあり得ない状況。
−−プルトニウム型原爆は設計が難しい。ウラニウムの2つの塊を合体させるだけで爆発するウラニウム型と異なり、“爆縮”という技術が必要だから。本当に計算通り爆発するかどうか確かめるために核実験が必要。北朝鮮の場合、“爆縮”の実験は「何十回も実施したのを人工衛星から確認した」と言われるので技術を持っているかもしれない。その場合、取り出したプルトニウムから核爆弾(あるいは技術水準が低ければ核爆発装置)を作ることは可能。
−−しかし、ミサイルで運搬できる実用的な核弾頭にするためには1トン以下の重量にまで小型化する技術が必要。核実験なしにわずか1〜2発の核爆弾を作れる材料だけで、ミサイルで運搬可能な実用的核弾頭まで作れる可能性は小さい。

・以上のように、もしも北朝鮮が核兵器を保有していたとしても、その能力は極めて限定的なもの。初歩的な1〜2発の核爆弾をもし持ったとしても、それを使用できる状況にはない。
・なぜならアメリカは北朝鮮上空を絶えず偵察しており、北朝鮮が本気で再処理工場を稼働させたり、ウラン濃縮工場が稼働させたりすれば、その核施設に先制攻撃をかける。
・また核を背景に対峙すれば、今も韓国や日本・東アジア地域にあると思われる米軍の核兵器、あるいは米本土から数百、数千発の戦略核、戦術核を北朝鮮に向けて照準を合わせる。周辺の制空権・制海権を握る米軍が大量の核兵器で先制攻撃し、あっという間に北朝鮮全土を文字通り滅ぼしてしまう。
・北朝鮮の「核兵器」とは、仮にあったとしても“象徴的な兵器”にすぎない。

・次に、核爆弾と同様に政府やマスコミで大騒ぎしている北朝鮮のミサイルについて
−−北朝鮮のミサイルに対して日本は防衛できない、だからアメリカのミサイル防衛(MD)に莫大な予算をつぎ込んで全面的に協力しなければならないという。本当か。
−−日本に届くミサイルはノドン(より長射程のテポドンは実験を1度しただけです)で、仮に実戦配備していてもせいぜい数十発。ノドンは射程1300キロ程度と言われるが、まだ性能が低く目標地点で1〜2キロの誤差を持つので特定の目標を狙うことはできない。狙っても命中しないから。
−−唯一意味を持ち得るのが核兵器や化学兵器の弾頭を積んだ場合。だが核兵器については上述したように、まだまだミサイル搭載の段階にはない。また使用しようと準備に入った途端、米による何十倍、何百倍もの威力を持つ全面核攻撃の先制攻撃を受けることが前提になる。核兵器はやはり使えない。“象徴的な兵器”、あるいは“交渉手段”。

(3)朝鮮半島で絶対戦争をしてはならない。甚大な被害が出るのは必至。
・朝鮮半島では、たとえ米側が「限定的」と思って先制攻撃を加えれば、それは直ちに全面戦争にならざるを得ない。勝敗は明か。イラク軍よりも旧装備。従って、北朝鮮の民衆と兵士に想像を絶する甚大な犠牲者をだすのは不可避。おそらく今回のイラク戦争の比ではないだろう。
・同時に韓国側でも未曾有の犠牲者が避けられない。ソウルは北朝鮮からの砲撃の射程内であり、戦争開始とともに市民、兵士、在韓米軍兵士に膨大な犠牲が避けられない。数百、数千発の長距離砲弾が何百万人がすむ大都市に打ち込まれる事態になる。この被害は「ノドンの脅威」どころではない。ここに北朝鮮の「防衛力」の意味がある。
・これが朝鮮半島の特殊性。現実を直視すれば、朝鮮半島では絶対、どんなことがあっても戦争を起こしてはならない。かつて朝鮮半島に侵略し植民地支配を行い、戦後の朝鮮半島分断に重大な責任を持ち、朝鮮戦争にも加担した日本が、再び朝鮮半島とその民衆の殺戮に加担することは絶対してはならない。ここが全ての出発点。


Y.アメリカの軍事的脅威。朝鮮半島、東アジアにおける米軍事力の圧倒的優位と侵略的攻撃的性格の強まり。

(1)北朝鮮の「核問題」の解決は、米の核戦力を根幹とする朝鮮半島とアジア・太平洋の非核化と同時になされなければならない。
・今問題になっている「核保有発言」はまだ北朝鮮側の公式発言ではない。米政府も韓国政府も、むしろその真偽を慎重に検証する段階だと表明している。メディア報道だけが先走っていることを前提に、しかし私たち反戦平和運動として言えることがある。
・北朝鮮をギリギリの状況に追い込んでいるのはアメリカ。仮に核保有発言が本当だとして、それは北朝鮮の選択の問題だが、同時に北朝鮮にそうさせているのはブッシュ政権の封じ込め政策。ブッシュ政権が94年枠組み合意をサボタージュしてから北朝鮮が選んできた道は同時に余儀なくされたものでもある。
・しかしそれにもかかわらず私たちは、いかなる国であっても核保有、核武装、核使用は絶対許されない行為だと考える。もし報道が事実であるとして、北朝鮮がたとえ交渉の手段としてであれ、あるいは最終的防衛の手段としてであれ、核保有、核武装することには反対する。
・北朝鮮のいわゆる「核問題」の解決は、朝鮮半島とアジア・太平洋全体の非核化と同時に包括的に解決しなければならない。最大の癌は戦略潜水艦を含む日本や韓国への持ち込み自由なアメリカの巨大な核戦力。これを対象に含め、全面撤去、配備・持ち込みの禁止を要求しなければならない。

(2)いつでも北朝鮮に襲いかかれる圧倒的な先制攻撃体制。
・どちらが軍事的に包囲されどちらが包囲しているのか。そちらが軍事的に脅迫されどちらが脅迫しているのか。米日両政府やメディアの垂れ流す情報は、これを全く転倒させている。
・何よりも私たちは北朝鮮が日米韓軍事同盟の軍事的脅威にさらされていること、軍事的に包囲されていることを見なければならない。世界最大最強の軍事超大国アメリカの軍事力。恐るべき最新鋭ハイテク兵器の数々、軍事的威力・破壊力はイラクで見せつけられたばかり。
−−アメリカは極東に空軍力、海軍力、陸軍力、海兵隊を維持するだけでなく、米本土やアジアから中東にかけての軍事基地網から瞬時に展開させることによって、それをいつでも何倍にも強化できる。
−−米軍の背後には何百発、何千発の核兵器がいつでも朝鮮半島に向けられる状態にある。
−−この巨大な極東米軍に韓国の軍隊が全面的に組み込まれている。重要なことは、韓国軍の指揮命令権は全面的に米軍にある。したがって近代化された韓国軍は空でも陸でも海でも完全に米軍の一部隊として行動するように訓練されている。
−−これに出撃基地としての日本の在沖・在日米軍基地と米軍に協力する自衛隊の戦力が加わる。自衛隊も事実上完全に米韓両軍と連動している。日米韓の軍事力は米軍を軸に一体的に運用され任務分担がされている。事実上北朝鮮軍はこの3国の圧倒的に強大な軍事力と対峙している。


Z.盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の動揺的姿勢。韓国の反米民族民主運動、反戦運動との連帯。

(1)盧武鉉政権の慎重姿勢。最近の対米協調への転換。
・盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の3ヶ国協議の結果に対する反応は冷静で抑制されたもの。事実関係を一つ一つ確認しながら、南北対話を続け、北朝鮮の核問題については引き続き外交的解決を目指す方向を明らかにしている。
・ともかく戦争に発展する事態だけは絶対に許すわけには行かないとの態度は鮮明。これは若干の相違はあれ韓国の与野党を問わず共通の立場。
・盧武鉉政権成立後、政権のスタンスは対米協調の方向に傾斜している。昨年末の大統領選挙までの反米・中立の線から、対米協調の線への一定の右転換。@イラク戦争支持、A支持基盤や国民の反対を押し切ってのイラク派兵、B教育の中での反米教育の抑制など。

(2)駐韓米軍基地問題をめぐっても複雑な状況に。
・駐韓米軍基地問題をめぐっても複雑な状況に。政府は米政府による米軍基地の再編・統合・強化に当惑しつつ協力。米軍は再編・統合を通じて米軍基地の機能強化・近代化を狙っている。米軍の長期駐留が前提。
・しかし同時にソウルに配備される米第2師団を後方に下げることで北朝鮮からの砲撃範囲から離脱させる計画。これは一方では攻撃される危険性を減らすことで米軍の先制攻撃の敷居を低くするものであり、他方では「米軍が韓国の防衛を保障する」という象徴を下げることで盧武鉉政権の反米主義に対する「それなら最前線から下げるぞ」という恫喝でもある。盧武鉉政権は現在の北朝鮮の核問題が落ち着くまでは、第2師団の後方移転に反対しながら、今年11月以降4、5年かけて米軍移転を行うことに合意せざるを得なくなっている。

(3)韓国における反戦平和運動、反米・自主的平和的統一を求める民族民主運動の前進。
・韓国の反戦平和運動はこれら盧武鉉政権の対米協調政策とは一線を画している。反米・自主、平和的統一優先を掲げて進んでいる。ブッシュ政権の戦争挑発が強まれば強まるほど、韓国内における反米感情、反米闘争は強まるだろう。
・こうした韓国の民族民主勢力、反戦平和勢力との連帯を通じて、私たち日本の運動は、ブッシュの戦争挑発を阻止していく。


[.「悪の枢軸」:ブッシュの軍事戦略で「戦略敵」に位置付けられたイラクと北朝鮮。イラク反戦運動と北朝鮮反戦運動は密接に結び付いている。

(1)軍事的勝利と政治的勝利は全く別問題。ブッシュの苦難はむしろこれから。
・ブッシュの対北朝鮮強硬政策の行方は、対イラク戦争の行方と密接不可分の関係にある。・軍事的勝利と政治的勝利は全く別問題。イラク全体を植民地化するのは至難の業。ブッシュ政権のイラク戦略の破綻と行き詰まりは、むしろこれから始まる。

(2)イラクの軍政と植民地支配は必ず失敗する。
・イラクの「植民地総督府」の政策が破綻する、人道的危機が爆発する、民族間・宗教間・宗派間の内戦が勃発する、イラク民衆による反米反軍政・反植民地闘争が高揚する等々、イラクの政治的軍事的、経済的社会的危機はどこから爆発するか、見通しは付かない。
・しかしかつての弱肉強食の時代「帝国主義と植民地主義の時代」が歴史的に瓦解してから半世紀から1世紀以上も経った現在、これほど露骨な占領と植民地化はスムーズに進むとは考えられない。

(3)イラク反戦運動の目標と戦略的課題は変更されつつある。
・イラク情勢は大きく変化し、フセイン政権の崩壊から米の軍政と植民地化への移行過程にある。
・闘いの諸課題も変化している:軍政打倒と占領中止。米侵略軍のイラクからの撤退。石油の略奪や戦争特需など「戦利品」の強奪や血にまみれた金儲けをやめさせ植民地支配を阻止すること。等々。

(4)イラクでネオコンの野望を挫折させることが北朝鮮での火遊びを抑え込む。
・イラク反戦運動はブッシュに北朝鮮を攻撃させないためにも決定的に重要。とにかくブッシュとネオコンの暴走と勢いをイラクで挫折させることが必要。イラクに釘付けすること。イラク軍政と駐留で徹底的に苦しませ消耗させること。イラクと世界の民衆と運動の力で撤退に追い込まれること。


\.ブッシュの対北朝鮮封じ込め政策への小泉政権の加担と有事法制の危険。

(1)有事法制発動は対北朝鮮戦争への参戦を意味する。
・私たちは真正面から考え自覚しなければならない。有事法制とは対北朝鮮戦争への参戦を意味する。今この時点でアメリカの北朝鮮への侵略に参戦することは一体何を意味するか。如何なる結果を招くかを。
・かつて36年に及ぶ侵略と植民地支配の歴史を公式に謝罪も補償もしないまま再び侵略することは如何なる意味を持つのか。北朝鮮に対してはついに国交正常化も果たさぬまま、侵略することになる。
・日本国内に住む在日韓国・朝鮮人の人々は、政府から極右反動勢力から弾圧や迫害を受ける。私たちは再び彼らの運命を翻弄し弄ぶことになる。
・韓国は政権を挙げて民衆とともに反対するだろう。韓国の反対を押し切ってブッシュの冒険主義に付き従えば、北朝鮮だけではなく韓国を含む民族的憎悪をはアメリカだけではなく日本にも向くだろう。戦場になるのは朝鮮半島全体。

(2)有事法制の制定前と制定後で大きく変わってくる。有事法制の持つ対北朝鮮先制攻撃に占める超危険な役割。
・有事法制が制定される以前と以後で、日本の状況は大きく変わってくる。有事法制が制定されていなければ、されていないことが対北朝鮮戦争に対する「抑止力」になる。
・なぜ「抑止力」になるのか、その答えは起点にある。有事法制が、米政府とペンタゴンから催促された起点は、1993〜94年の北朝鮮危機。
・当時米政府・軍当局は日本政府の中央と地方自治体、自衛隊、日本国民全体を北朝鮮戦争へ動員できなかったことに腹を立てた。つまり米政府・軍当局が北朝鮮攻撃のその時になって、平和憲法が邪魔になり、在日米軍や自衛隊が自由自在に動ける法的裏付けがなかった。自らの手痛い教訓から催促したもの。
・その後アメリカの圧力で日米安保再定義、日米ガイドライン、周辺事態法等々が相次いで強行された。その総仕上げとして有事法制が今まさに強行されようとしている。

・来る北朝鮮戦争の時、有事法制が通っていたらどうなるか。
−−ブッシュの戦略は先制攻撃戦略。とりわけ核施設に対する先制攻撃が想定されている。ブッシュはマス・メディアを総動員して北朝鮮危機キャンペーンを煽り挑発して、攻撃時期を決める。北朝鮮を叩く前に日本政府に通告し小泉政権はブッシュの命令を忠実に日本国民に命令し有事法制が発動され、国家総動員体制が緊急命令される。
−−日本は対北朝鮮戦争の出撃拠点・現地司令部・兵站基地(いわばイラク戦争で言えば、クウェートとカタールの両方の役割)を果たす。韓国が戦場になるから。
−−平和憲法は緊急停止される。戦争を理由に基本的人権は抑圧され集会や表現の自由、言論の自由は剥奪される。中でも反戦運動は徹底的に弾圧される。
−−米軍や自衛隊は何をやってもいい自由を保証される。日本本土とその周辺地域で好き放題に軍事行動するため、土地や個人財産が破壊され移動させられる。
−−地方自治体や病院や公的機関だけではなく、民間も戦争へ駆り立てられ、これに反対すれば罰せられる。
−−それ以前に全国に張り巡らされた「地域防衛組織」(戦前の「隣組」)や軍国主義・反動勢力が政府や米軍の代わりに総動員態勢の先兵になり、言うことを聞かない者や事業体を「非国民」呼ばわりし糾弾を組織する。
−−NHKも民法もメディア全体が国家統制の下に厳重に管理され、世論誘導体制が構築される。翼賛報道機関が「北朝鮮の脅威」を煽り立てる。国民全体をヒステリー状態にしながら、国家総動員態勢作りをやりやすくする。等々。

・有事法制とは、「日本防衛」のためのものではない。北朝鮮を先制攻撃するためのもの。それは日本の国民をアメリカの軍産複合体の金儲けのため、金正日政権打倒というネオコンの世界支配の野望のために好き勝手に利用し総動員できる恐ろしい体制作り。

(3)有事法制の廃案。対北朝鮮政策の一貫した平和外交への根本的転換を要求する。
・朝鮮半島の危機を打開するには日本の果たす役割が決定的。ブッシュ政権の政策は揺れまくっている。最後は「兵糧責め」=「封じ込め」で崩壊を加速する戦略。しびれを切らしたネオコンが暴走する時、政権内には何の歯止めもない。日本がそんなブッシュの北朝鮮崩壊戦略を支持するかどうか、政権崩壊に直接加担するのか否か、これが決定的。
・このブッシュ政権の極めて不安定で漂流する北朝鮮政策にただ追随するのは無責任の極みであり、非常に危険な行為。

・ブッシュの対北朝鮮戦争を絶対阻止すること、戦争準備になる経済制裁を絶対阻止すること、更にそれにつながる封じ込め政策をやめさせること−−これが私たち日本の反戦平和運動の目下の最大の任務。

・私たちは小泉政権に対北朝鮮外交政策の根本的な転換を要求する。平和憲法を前に出して、対北朝鮮、対中国、対アジアで首尾一貫した覚悟を決めた平和外交を展開するよう要求する。
−−何よりもまず有事法制の今国会での強行をやめること。有事法制こそが、北朝鮮先制攻撃時に、予め日本を出撃拠点、司令部に国家全体を一新させる「国家総動員体制」作りの戦争法だから。今有事法制を国民の反対を押し切ってまで成立させるということは、対北朝鮮戦争を始める準備に着手するという非常に危険なメッセージを北朝鮮に与えることになる。
−−ブッシュの対北朝鮮戦争政策(先制攻撃戦略、悪の枢軸論など)にも、封じ込め=崩壊待機戦略にも反対すること。小泉政権は歴代自民党政権の中でも異様なほど対米追随的、属国的な政権。反戦平和運動の力で、いかなることがあってもブッシュに朝鮮半島で戦争をさせないことを迫って行かねばならない。
−−今すぐ日朝国交正常化交渉を再開すること。拉致問題での日朝間の約束を破ったのは日本の側。一部の右翼的メディアが扇動するように、この問題をブッシュ政権の強硬政策に期待したり、経済制裁実施で解決することなどできない。ますます問題をこじらすだけ。日朝国交正常化交渉を成功裏に進める中でこそ、事態は改善に向かって進む。
−−ミサイル防衛(MD)への自衛隊の参加と協力。ノドン・ミサイル防衛のためと称する先制攻撃論の「正当化」。イージス艦の日本海配備と監視強化。偵察衛星打ち上げ等々、対北朝鮮軍事態勢強化、軍事的緊張激化政策を即刻取りやめ撤回すること。逆に軍事的緊張緩和措置を打ち出すこと。
−−イラク戦争でメディアの「戦争プロパガンダ」の危険、メディアの戦争責任が問題になっている。一つ間違えば戦争が起こる。日本のメディアも責任を自覚すべき。TV・雑誌などで今も続く金正日氏の個人攻撃を含むネガティブ・キャンペーン、拉致問題を利用した反北朝鮮キャンペーンをやめること。ありもしない「核兵器の脅威」「ミサイルの脅威」など「北朝鮮の脅威」キャンペーンをやめること。政治的信頼醸成措置は政府だけの仕事ではない。
−−イラク占領・植民地化への加担をやめること。ORHAへの要員派遣反対。武器使用基準緩和による自衛隊派兵反対。一切の資金協力反対。

2003年4月29日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局

[有事法制反対! イラク植民地化に反対し、ブッシュの戦争犯罪を追及する4・29集会 報告]


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