個人情報保護法案の衆院特別委での強行採決を糾弾する!
○国家権力によるメディア規制、言論・表現の自由の剥奪。
○個人情報が知らないところで国家権力に集中・集積・統合され、使い回される恐ろしい事態が「合法化」される。

T


(1) 政府与党は25日、衆院特別委において個人情報保護法案を賛成多数で強行可決した。わずか40時間の審議での強行採決であった。これを受けて連休明け5月6日にも本会議で可決を強行する構えである。私たちは昨年この法案が上程されて以降、一貫して廃案を要求してきた。政府与党の採決強行の暴挙を断じて許すことは出来ない。

 昨年末一旦廃案になった法案である。政府与党の幹部たち、官僚たちの“高笑い”が聞こえてきそうだ。今まさにグロテスクな醜聞をにぎわしている自民党幹事長などはその筆頭だろう。これでメドが付いた。参院があるが一安心。週刊誌や写真誌の暴露から政治家や官僚の不正や贈収賄事件に火がつくことは沈静化できるとほくそ笑んでいることだろう。

(2) 政府与党は強気である。異常に強気である。統一地方選挙前半戦では与党は善戦し勝利した。経済政策で何もせずとも、ただ口先で「改革だ〜」「改革なしに前進なし〜」と言ってれば済む。実際には彼の政策は旧大蔵省の財政緊縮路線をそのままやっているだけなのだ。医療費負担も社会保険の負担増もオーライ。賃下げや雇用不安が急激に進んでいるのに、目立った不満の爆発はまだ見えてこない。
 また軍事外交政策では何をやっても許される状態である。イラク侵略を支持しても軍政と植民地機関に人員を派遣しても、ブッシュの顔色を見て対米追随をやってれば許される。とにかく支持率が下がらないし、最近は上がりさえしているのだから小泉首相や与党が増長するのは当然だ。

 全く不可解な支持率。それをあの右翼的な新聞でさえ「冷めた支持」と評した。小泉政権の支持基盤は盤石ではない。自民党の衰退を宗教政党である公明党が動員によって補完し危機を見えなくしているだけである。今後ますます脆弱になっていくだろう。

(3) なぜこんなに易々と政府与党の強行突破を許したのか。野党の責任は重大だ。与党に誘導され「対案」を作ったことが、致命傷となった。昨年末の廃案に至る過程で与党側は困り果てていた。野党が審議に乗ってこないかったからだ。しかし今回は「弱い環」である民主党を揺さぶり「対案」を出させた。まともに審議する気もないのに出させた。その段階で勝負はあった。形式だけアリバイ的な「審議」を行い、審議尽くしたとの判断で強行採決が可能になるからだ。そして、わずか40時間の審議、地方公聴会も、全大臣質疑もないままの委員会採決を、野党側もあっさり認めた。直前に発覚した、自衛隊員募集への個人情報収集問題もたった1回の集中審議を要求しただけで、正面から追及しようともしなかった。

(4) 今回マスコミが全くといっていいほど法案を批判しなかったことも、強行突破を許した理由の1つだ。「報道機関」が規制の適用除外となったことで、マスコミは完全に丸め込まれてしまったのだ。このことは、この法案が成立する前から、既にマスコミ自らがこの法案に屈服したということだ。私たちは、このマスコミの姿勢に対しても強く抗議する。

(5) 私たちは、あきらめず衆院本会議の採決、参院での論戦に向けて、私たちの周辺の人々に危険性を訴え、個人情報保護法案の廃案を要求する世論を作っていきたい。世論を動かすことで、もう一度腰砕けの野党に政府与党と闘うよう突き上げなければならない。
 個人情報保護法案は有事法制とワンセットのものである。ここで踏ん張ることが、次の有事法制の強行採決への抵抗線にもなるのだ。


U


(1) ここで今一度、個人情報保護法案の危険性についておさらいをしておこう。国民レベルで反対論が沸騰しない理由の一つに、その分かりにくさがある。しかしその分かりにくさ、ごまかし、すり替えにこそ、この法律の本質的があるとも言える。最大のごまかしは、そもそも住基ネット法を成立させる前提として、行政機関(政府や自治体)が扱う個人情報の保護や漏洩防止、とりわけ政府機関内での乱用防止こそが問われていたのに、行政機関は野放しにして、もっぱら民間の「事業者」の情報統制をする法律に完全にすり替えられたことである。一般に「官に甘く民に厳しい」法案と言われるのはそういうことだ。

 内閣官房・総務省が作成した図式がある。これに即して考えてみよう。政府与党が提出したのは5本。T.個人情報保護法案(基本法制)、U.行政機関個人情報保護法案、V.独立行政法人等個人情報保護法案、W.情報公開・個人情報保護審査会設置法案、X.整備法案である。公的部門を対象とするU〜Xは、現行法をほとんどそのまま流用し、一部手直しを加えただけのものだ。Tの基本法部分が新たに作られた部分で、いわゆる一般に個人情報保護法案と呼ばれている。ここで具体的に義務規定を行っているのは、もっぱら「個人情報取り扱い事業者」に対してである。同時に、この基本法は包括法的な性格を持っている。私たちは特にTとUに注目する。


内閣官房・総務省 「個人情報保護関連5法案の概要」より

(2) 今回政府与党が強行してきているこの悪法の本質は、一言で言えば、「国家による個人と言論の支配」である。誤解を恐れずに極論すれば、2つの危険な本質を持っている。私たちはこの2つの本質的な危険性の両方を糾弾し弾劾する。

 第一に、Tの個人情報保護法案(基本法制)で規定されているように、「事業者」に対しては、全面的に情報規制の網をかぶせ、厳罰を背景に情報の国家統制の仕組みを構築することである。メディア規制はその中心的な部分だ。
 今回の与党修正案は、昨年のメディア規制との批判をかわすため、「報道」「著述」を規制の適用除外とした。しかし、「出版社」は除外されず、フリージャーナリストや雑誌はもとより実際上大部分の著述活動は依然として規制対象となるのである。新聞や放送などマスコミとそれ以外とを分断する意図が見え見えだ。また、与党政治家たちが、何を一番嫌がっているかがもろに表れてもいる。

 しかしもっと本質的に重要な点は、強大な「主務大臣の監督権限」が法の根幹をなし、一切の個人情報に関する管理・運用を主務大臣が恣意的に自由自在に扱えるようになるという点である。「個人情報取扱事業者」という規制対象をどこまでにするのか、「報道」とは一体何を意味するのか等々、全て監督官庁と官僚が決められるのだ。
 さらに「包括法」となっているため「主務大臣」が誰になるのかはっきりしない分野もすき間なく規制対象となる余地を作っている。非営利目的の市民活動まで含めた幅広い分野が義務規定の適用を受け得るし、従来高い独立性が保障されてきた弁護士にも法務省という監督官庁ができるおそれも指摘されている。企業の不正疑惑を調査しようとするNGOの活動が妨害される危険性、内部告発が違法とされる危険性なども既に指摘されている。
 つまり、事実上、すべての国民・市民を対象として、その表現・言論活動に対して政府や官僚が監督し、その「是正」や「中止」を「勧告又は命令」する権限を持つ。これが、この法律の最も危険な本質である。
※週刊現代が、「『個人情報保護法』の正体暴く」という増刊号を緊急出版している(講談社、200円)。予想される規制事例を具体的に紹介しているので、是非参考にしてください。

(3) 第二に、主としてU.行政機関個人情報保護法案に規定されていることだが、政府、行政機関がありとあらゆる個人情報を集中・集積・統合し「使い回し」することを「合法化」することである。本来なら「基本法制」が公的部門にもかぶさっているのだから、厳しい統制と罰則は公的部門にも適用されて当然なのだが、逆に公的部門が例外扱いになっている。
 なぜそんなことができるのか。二重の装置が埋め込まれている。一つ目は、T「基本法制」の根幹において監督官庁と主務大臣の強大な権力を規定していることである。行政機関を行政自身が監督する、取り締まる側と取り締まられる側が同一なのである。こんなバカなことはない。
 そして二つ目はUにおいて「相当の理由」や「合理的に認められる範囲内」であれば、「目的外利用」が自由自在に可能になること、「職務」の範囲内であれば罰則もないことである。国家や行政機関や官僚は「犯罪を犯すはずがない」との理由で、一切の罰則から免除され、罰則や法的制約なしに権力は自由自在に個人情報をコントロールできるというわけである。
※法案のU部分は、現行の「行政機関の保有する電算機処理にかかる個人情報保護法」を電子ファイル以外の形態の情報にも拡大したものであるが、重要な点は、元々危険性が指摘されていた「目的外利用」を容認しより一層無制限なものにしようとしていることである。
 もちろん、それは行政機関の個人情報保有そのものを法的に正当な根拠がある場合に限定しており、「目的外使用」も原則として禁止している。私たちは、昨年の防衛庁ブラックリスト問題でも、今回の自衛官募集問題でも、この現行法の規定を根拠の一つとして、違法だと批判してきた。それに対し、政府は常に「相当の理由」や「職務の範囲内」を理由にして、違法性はないと居直ってきたのである。その恣意的な解釈を既成事実化し、「目的外使用」を無制限に合法化しようとしているのである。
※少しでも行政のフリーハンドを拡大しようという意図は、例えば、現行法で「法律の定める」となっているところを「法令の定める」と変える等のような姑息な手直しにも表れている。


V


(1) 今個人情報をめぐって複数の危険な事態が、並行して進行している。昨年発覚した防衛庁ブラックリスト問題、最近発覚した自衛隊募集のための適齢期青年の個人情報の違法な提供問題、そして昨年多くの反対を押し切って強行された住基ネット、今年8月の本格稼動に向けたなし崩し的な準備、それら全体を超えたところで、つまり闇で政府や自治体によって既成事実として進められているもっと違法な個人情報の集中・集積・統合等々。

(2) もしこんな状況の下で、個人情報保護法案のような悪法が通ってしまえば一体どうなるのだろうか。
 昨年の防衛庁ブラックリストでも、限られた関係者の処分で片付けられ、防衛庁全体で組織的に行われたリスト作成そのものは、「業務の範囲内」として不問にされた。「情報公開法」に基づいて情報を請求した者が、逆にブラックリストに載せられてしまう。言論弾圧と国家による個人情報管理が一体のものであるという実例ともいえる。このようなやり方が、一層堂々とやられるようになるだろう。今回の自衛隊募集のようなやり方も、「職務」内だからと居直れる。ありとあらゆる政府や地方自治体による、不正で違法な個人情報の集中・集積・統合や「使い回し」全体が「合法化」されてしまうのだ。

(3) 目に見える形で真っ先に表れてくるのは、住基ネットの一層強硬な推進だろう。個人情報保護法案が成立していないことを理由に、住基ネットへの接続を凍結していた自治体がまず、接続を迫られる。政府・総務省が法律成立を口実にして、接続しない自治体を違法だといって恫喝する事態が目に見えている。
 昨年末には、住基ネットの利用範囲を大幅に拡大する電子政府(行政手続きのオンライン化)関連3法が与党の賛成多数で可決し、住基ネットの対象業務は264件へと一気に3倍に拡大された。「システム利用の安易な拡大はしない」という99年の附帯決議などは、まったく何の歯止めにもなっていない。既に、4月より実際にパスポートや各種資格試験の受験資格確認などに使われ始めており、国の機関が堂々と住基ネットを使って基本4情報にアクセスしている。市町村の現場では、業務の混乱で困っているにもかかわらず、義務でもない申請書への住基番号記入を国側が指導するようになっているという。
 そして一般の目に見えないところでは、8月からの本格稼動に向けて、インターネット上での税務申告の導入とその統合準備、住基カードのIDカード化などの準備が進められているという。

(4) イラク戦争は、一方で国家権力が情報を思うがままに操ることの魅力を権力者に教え、他方で民衆にとってその社会的な意識や心理を操られることの危険性をいやというほど思い知らせた。個人情報保護法は「平時」から権力が情報を一元的に国家がコントロールすることの危険性を明らかにするとすれば、有事法制は「戦時」「準戦時」に国家が全一的一元的にコントロールするものである。両者は一体のものなのだ。私たちは、その両方に反対し続ける。


2003年4月26日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局


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