シリーズ:自衛隊派兵のウソと危険
シリーズ5:
自衛隊派兵のもう一つの狙い:「復興支援」ではなく「復興利権」。
派兵で石油権益・復興利権を狙う
−−米軍に付き従い、軍事力で石油資源や市場の「分け前」を分捕る軍事帝国主義への第一歩を踏み出す−−


(1)はじめに−−軍事力を武器に石油資源と経済利権の「戦利品」の分け前に食いつく日本政府と日本型多国籍企業=グローバル独占資本。
 「イラクで命の危険を冒した国だけが契約を得ることができる」−−昨年末ブッシュ大統領と主要閣僚達は相次いでこう発言した。言い換えれば、戦争と軍事力によってのみ石油資源と復興市場を独占することができる。また別の言い方をすれば、イラクの石油資源と復興市場が欲しいなら戦争に加わり、殺戮し、破壊せよ。石油=軍事帝国主義アメリカの狙い、行動様式をこれだけストレートに言い表した発言はない。

 侵略戦争と軍事力で原料資源や市場を強奪する。原料資源や市場の独占的な分割が完了した後、これを再分割するために列強間で熾烈な帝国主義間戦争を争う−−これは第一次世界大戦、第二次世界大戦を引き起こした根本原因であり、帝国主義列強の最も深い衝動力であった。これによって文字通り世界全体が戦場になり、広範な国土が破壊され、5千万〜6千万人という人類史上空前の犠牲者が生み出された。二度とこのような悲劇と悲惨を繰り返してはならない、これが全世界の、そして人類の願いであり、追求すべき目的である。

 ところがベトナム戦争に典型的に表れているように、歴代アメリカ政権は戦後期を通じて、現在に至るまで、幾度もこの古典的な形の帝国主義的植民地主義的侵略戦争を復活させ遂行してきた。そしてブッシュ政権は、その歴代政権の中でも抜きん出て古典的で帝国主義的で植民地主義的な軍事外交政策を特徴としており、公然と武力による中東支配、石油資源の略奪を実質的な戦争目的に掲げた希有な政権である。米系の石油メジャーと軍産複合体がイラクに群がって傍若無人に振る舞い、ボロ儲けをしている。
※私たち署名事務局は、このことを2つのパンフレットにまとめて発刊した。
イラク:石油のための戦争−ブッシュはなぜイラクを攻めたいのか
ブッシュ政権を乗っ取った核・軍産複合体。両者の関係を実証的に暴く。−−ブッシュ政権と軍産複合体

 石油と復興利権獲得のために軍隊を派兵する。小泉政権は、こうしたアメリカ型、ブッシュ型のやり方−−軍事力で原料資源と市場を強奪する−−に、戦後初めて踏み出す政権でもある。石油権益の分け前、復興利権の分け前をアメリカから与えてもらおう。軍隊を送り占領体制に加担することでイラクの「戦利品」にありつこう。日本の政府・支配層の中で、日本経団連という財界のトップの中で政治的な主張をかつてないほど強め始めた日本型多国籍企業=グローバル独占資本は、非常に危険な道に踏み出したのではないか。

 もちろん日本は、こうした軍事帝国主義への道を今回のイラク派兵で踏み出したばかりであり、定着するにはまだまだ紆余曲折があるだろう。何よりもイラクの国家再建が不透明であるし、頼りにしている米政府と米多国籍企業・軍産複合体がどこまで安泰か分からない。企業は恐る恐るであり、韓国企業のように直接イラク現地に殺到しているわけではない。ヨルダンやクウェートなど周辺諸国を拠点に「遠隔操作」している段階である。しかし派兵とワンセットでODA、巨額の「復興援助」の札束の雨を降らせ、石油と復興市場に本格的に食い込もうとしているのは確かである。

 今イラクで米国系の多国籍企業のビジネスマン達がやっているのはどういうことか。それは「復興支援」ではなく「復興利権」である。結局は彼らが戦争で破壊した学校・病院、電力・下水道、工場や建物を「再建する」「復興する」「人道復興支援をする」と称して、徹底的に壊したものを作り直すことで食い物にする。これこそアメリカの石油=軍事帝国主義の正体である。しかしこれは今や他人事ではなくなった。日本もまた軍事帝国主義への第一歩を踏み入れようとしているのである。
※米国の一部のNGOは、ハリバートンやベクテルなど巨大多国籍企業によるこのような「復興支援」の名を借りたイラクに対する石油資源と経済の収奪を「第二の侵略」と呼んで告発キャンペーンを進めている。
「STOP THE WAR PROFITEERS AND END THE CORPORATE INVASION OF IRAQ」(The Institute for Southern Studies )http://www.southernstudies.org/campaignpage.asp

 私たちは、自衛隊派兵の問題を、日米安保や軍事の問題、憲法や国家のあり方の問題だけではなく、日本の政財界の経済戦略の問題、日本帝国主義の進むべきあり方の問題としても、捉えなければならない。


(2)小泉首相イラク担当補佐官・岡本行夫のセメント工場・復興利権スキャンダル。
 イラク問題担当の首相補佐官・岡本行夫氏が、2003年9月にイラクへ視察に行った際、自分が社外取締役を務める三菱マテリアルに利益誘導した、という疑惑が浮上している。
 岡本氏は、昨年9月6日から8日間、バグダッドをはじめとして11都市を回り、各市評議会、各地のCPA調整官、軍司令部などを訪れた。首相への現状視察報告が目的とされ、費用は公費である(内閣官房から支給)。ところが、北部で産業復興をしているCPA(連合軍暫定占領当局)から、北部セメント工場を建て直すために日本から専門家に来てもらえないかと依頼され、岡本氏は、自分が社外取締役を務める三菱マテリアルの社長にイラクから直接電話をかけたという。その上で、岡本氏は帰国後、経済産業省の通商政策局長に、三菱マテリアル社員をイラクに派遣する直接交渉をした。そして10月に、三菱マテリアルの常務執行役員と部長の2人が経済産業省の産業調査員という身分で、経済産業省中東アフリカ室長とともにイラク入りした。北部シンジャーの工場を訪れた後、米軍の要請でキルクークのセメント工場にも立ち寄った。
 結果的に、三菱マテリアルは、この件では受注はなかったが、日本企業がイラク復興利権に参入していく道筋をつけるという役割を、首相補佐官が公費による「視察」中に果たしていたのである。
※「首相補佐官岡本行夫『二つの顔』」(「文藝春秋」2004年3月号)

 岡本氏の本業は、国際コンサルティング会社「岡本アソシエイツ」の代表取締役である。同時に、アサヒビール、三菱マテリアルの社外取締役、NTTドコモのアドバイザリーボードメンバー、東芝の経営諮問会議メンバーであり、米シリコンバレーでIT産業に投資するベンチャーキャピタル「パシフィカファンド」の共同代表でもある。「非常勤」補佐官だから何をしても良いという訳ではないはずだ。民主党の首藤信彦氏は、政府に質問主意書を出し、岡本氏は、国家公務員法第百条「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。」に明確に違反するとして追及した。ところが政府はこれにまともに答えようとせず、開き直ったのである。
※「内閣総理大臣補佐官の適性に関する質問主意書」首藤信彦。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a159020.htm
※「中立性を欠いていない 岡本補佐官問題で政府」(京都新聞)
http://www.kyoto-np.co.jp/news/flash/2004mar/02/CN2004030201000713A1Z10.html

 それだけではない。岡本という人物はその周りに、あのアーミテージを筆頭にきな臭い米軍出身者、軍産複合体の関係者を集めており、こういった人物をイラク担当補佐官に任命する首相の責任は重大である。
 岡本氏の政府機関への参画は、96年の橋本龍太郎内閣沖縄担当首相補佐官から始まり、科学技術庁参与、原子力計画長期策定会議、森首相「有識者」勉強会、小泉内閣の内閣官房参与、JICA(国際協力機構)参与などを経て、昨年4月に、内閣参与からイラク担当の首相補佐官に格上げされた。
 岡本氏は、第1次湾岸戦争当時は外務省北米一課長であったが、湾岸戦争直後、外務省を退職し、「アーミテージ・アソシエイツ」をモデルにした「岡本アソシエイツ」を設立。岡本氏は、アーミテージ米国務副長官の最も親しい日本人のひとりだといわれており、また、マイケル・グリーン国家安全保障会議アジア担当上級部長やトーケル・パターソン駐日米国大使上級顧問とツーカーの仲といわれる。そして、この「岡本アソシエイツ」の顧客に、米政権と一体であるといわれる世界一のゼネコン「ベクテル」と、パトリオットミサイルで有名な軍産複合体「レイセオン」があるとされているのである。岡本氏と親しいパターソン駐日米国大使上級顧問は、98年から2000年までレイセオン日本支社長であった。

 自衛隊のイラク派兵のかげに、日本企業のイラク復興利権への参入と日本の中東石油権益確保という経済的利害があることは、これまでほとんど問題にされてこなかった。しかし、岡本氏のイラク視察のころから日本企業のイラク復興事業受注への動きが活発化しはじめた。そして、自衛隊派兵が着々と進むのと並行して、日本企業による受注が行なわれ始め、新たな石油権益獲得の動きも活発化し始めたのである。また、自衛隊の派兵をめぐる議論の中で、中東の石油の安定確保が日本にとって死活的に重要な問題であるということが露骨に語られ、石油の確保が自衛隊派兵の最も重要な理由のひとつであることが浮き彫りになってきているのである。


(3)「自衛隊派兵は86%を依存する中東石油の確保のため」−−政府与党首脳、石油略奪戦争への支援をあからさまに語る。
 昨年10月15日、政府が「イラク復興」のための15億ドル無償資金供与を発表した際、福田官房長官は、「イラク再建は石油資源の9割近くを中東地域に依存するわが国の国益に直結する」と強調した。
 12月24日「イラク復興支援派遣輸送航空隊」の編成完結式で、小泉首相が「勇気と自信をもって任務を果たしてもらいたい」と激励した後、石破防衛庁長官は、「国益の観点から派遣は重要な意義がある」として、日本が中東の石油に依存していることや、日米関係の強化につながることを強調。
 2月3日の参院予算委員会で、小泉首相は、「日本はエネルギーの多くを中東に依存しており、イラク、中東が安定すれば日本にとって利益になる」と述べ、石油確保の観点から派遣の意義を強調した。
※「変遷する戦争の『大義』/派遣の正当性にも疑義も」(共同通信2003.12.9)
http://news.kyodo.co.jp/kyodonews/2003/iraq3/news/1210-185.html
※「自衛隊イラク派遣始動/小牧で空自編成完結式/首相訓示」(中日新聞2003. 12.25)
http://www.chunichi.co.jp/iraq/031225T1358001.html
※「石油依存の日本に利益/首相、イラク派遣で」(共同通信2004.2.3)(東奥日報Web版)
http://www.toonippo.co.jp/news_kyo/news/20040203010029392.asp

 「小泉内閣メールマガジン」にはこう書かれている。「86.0% とは、平成14年における我が国の原油輸入のうち、中東地域に依存する割合です。...イラクにはサウジアラビアに次ぐ世界第2位の石油埋蔵量が確認されています。イラクが復興し、中東地域に平和と安全がもたらされることは、日本の国益に直結しています。」
※小泉内閣メールマガジン第120号「[数字で見る日本]86.0%」
http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/2003/1211.html

 昨年11月27日、「日本戦略研究フォーラム」(会長・瀬島龍三/1999年3月設立)は、「イラクへの自衛隊派遣に関する政策提言」と題する小泉首相への提言を安倍幹事長に提出した。そこでは、「国会答弁、公開メディア等を通じて、次ぎの事項を国民へアピールするよう要望いたします。」として、「1.自由、平和、繁栄を享受している日本は、イラク復興支援の責任を分担しなければならない。(1)イラクの復興が、中東の安定、さらに、世界の安定と発展に、極めて重要だということを強調し、日本も参加する。(2)イラクを、テロの根拠地とせず、民主主義、人権尊重、法の支配による平和的、友好的な中東の国とする。(3)中東の石油に大きく依存するわが国にとって、イラクの安定は経済の発展に大きな影響がある。(以下略)」という事項が列挙されている。
 このシンクタンクは会長である瀬島龍三氏を筆頭に自衛隊出身者と財界の右翼的部分が結集し、政府に改憲と集団自衛権行使、海外派兵を、要するに現在小泉政権が推進している軍事外交政策を採用するように提言し圧力を加えてきた最も危険な団体の一つである。
※日本戦略研究フォーラム「イラクへの自衛隊派遣に関する政策提言」
http://www.jfss.gr.jp/jp/teigen-iraku-jieitai-kinkyu-j.html
※この「日本戦略研究フォーラム」は、「政治、経済、軍事、科学技術など広範かつ総合的な国家戦略研究を目的としたシンクタンク」で、「国際政治戦略、国際経済戦略、軍事戦略及び科学技術戦略研究を重点的に行うとともに、その研究によって導き出された戦略遂行のために、現行憲法、その他の法体系の不備の是正などをはじめとした国内態勢整備の案件についても、提言」することを目的としている(会長挨拶)。政財界の中枢を占める人々と自衛隊関係者が中心的に参画している。

 1月に始まった「イラク国会」での質疑や、その他さまざまな場で、「わが国の石油輸入の9割近くが中東に依存している」「中東、特にイラクの安定は日本の国益に直結している」ということが、露骨に強調されるようになってきている。その背景には、グローバルな経済権益を持つに至った日本経済があり、その「国益」を自国軍隊(=自衛隊)によって直接守ることができる「普通の国」にしていこうという、支配層中枢の系統的な意志がはたらいている。


(4)米欧の多国籍企業と競って、あるいは結託してイラクの油田・ガス田開発と石油利権の略奪を狙う日本の多国籍企業=商社・エンジニアリング企業。
 「ダウ・ジョーンズ・ニュースワイア」のリポート(1月5日)によれば、三菱商事が率いる企業団が、イラク南部のアル・ガラフ油田の開発権を追求しているという。この油田開発の交渉は、かつて1980年代後半に行われていた。そのころは、イラクが日本の主要なエネルギー供給国のひとつで、日本がイラクの最も主要な貿易相手国のひとつであった。それが1991年の湾岸戦争で途絶え、その後の経済制裁の中で棚上げになっていたのである。
 また、三菱商事は、昨年すでにイラク国家石油市場機構から原油を購入する契約を結んで、日量 40,000バレルまでのバスラ・ライト原油の輸入を開始している。
 さらに、「フィナンシャル・タイムズ」(2003.12.18)によれば、三菱商事に率いられる日本企業団が、イラク西部の巨大ガス田開発プロジェクトに入札する計画をすすめているという。日本企業団は、三菱商事、三井物産、丸紅、伊藤忠、トーメン、千代田化工建設、JGC(日揮)、東洋エンジニアリング、三菱重工の9社である。これにハリバートンの子会社KBRを加えて、入札しようとしているのである。このプロジェクトの目玉は、推定7兆5千億立方フィートといわれる未開発のアクラ・ガス田である。日本企業団は、昨年7月、イラク石油省との間にこのプロジェクトを推し進めていく利益を共有するという覚書を調印したとされている。
※「イラク当局者が確認、石油・ガス田で日本企業と交渉」(Iraq Confirms Talks With Japan Cos Over Oil, Gas Fields)January 5, 2004 DOW JONES NEWSWIRES
※「イラクのガスプロジェクトに入札する日本企業団」(Japanese consortium to bid for Iraq gas project )
By Bayan Rahman in Tokyo and Carola Hoyos FT.com Dec 18, 2003
※「サンデー毎日」(2004.2.15)に、国際問題では定評のあるシンクタンク「ストラットフォール」の分析記事「日本の自衛隊イラクに派遣、“賄賂”を渡し石油を求める」が紹介された。「サンデー毎日」は、「日本政府がサマワの部族長たちに100億円を支払った」という誤報に基づいて自衛隊派遣の意図を「誤解」しているとして紹介いるのだが、分析記事の次の結論は客観的な事実と一致している。「日本は湾岸戦争以前、サマワから約60キロ離れた油田の権益交渉の最終段階にあった。サマワへの自衛隊派遣は、この油田の権益確保という隠れた意図がある。」(「サンデー毎日」2004.2.15「日本から部族長に100億円!? 誤解される自衛隊派遣の意図」)

 正月元旦の「日本経済新聞」に、あまり大きな記事ではないが「イラク原油購入本格化」という記事が掲載された。それによれば、昭和シェル石油は、昨年12月に62万バレルの原油を輸入したが、1月は、前月の 1.8倍の113万バレルに拡大するという。同社の筆頭株主の英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルを通じて調達する。その解説によると、「イラク産原油はサウジアラビアなど他国産に比べて価格が安いため、一カ月ごとの短期契約を結ぶ石油会社が増えている」という。
※「イラク原油購入本格化 昭和シェル 今月、前月の1.8倍に」日本経済新聞2004.1.1。

 米欧の石油メジャー・多国籍企業によるイラク原油の略奪競争が激化していることがうかがわれる。そこへ日本の企業も、自衛隊派兵と多額の復興資金供与を背景に、参入しようとしているのである。
 日本の中東石油利権獲得の努力は、イラクだけに限られているわけではない。あらゆる機会をとらえて権益を確保しようとこれまでも努めてきたし今も努めている。それは、米国の意向に反してでも追求されている。イラン・アザデガン油田は、その実例である。米国がイランを「悪の枢軸」のひとつと名指しする前、さらに9・11よりも前、2000年11月来日したイラン・ハタミ大統領と森首相(当時)が原則合意して交渉が始まった。サウジアラビアのカフジ油田を失った直後で、新たな「日の丸油田」開発として期待された。しかし、イランを「悪の枢軸」として敵視するブッシュ政権の方針によって、頓挫する危機に立たされていた。自衛隊派兵によって米国と裏取引が行われたという推測がかけめぐった。「東京新聞」は、「米国の反対を押し切った形だが、業界ではイラク派遣と引き換えの『黙認』説も流れる。」と報じた(2004.2.20)。「京都新聞」の報道によると、「『(日本が)米国に同意しないことは了解した』。1月のある日、米国務省高官からワシントンの日本大使館幹部に連絡が入った。米国側はこの遠回しな表現で、日本のアザデガン油田開発への参加を黙認するとの意向を伝えてきたのだ。」という。
 このアザデガン油田に続いて、日本の国際石油開発が参加するカザフスタン・北カスピ海油田の開発計画が2月25日に同国政府によって承認された。「日本経済新聞」によれば、伊エニ、米エクソンモビール、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなど国際石油メジャーが参加しており、日本側は国際石油開発の子会社が 8.33%の権益を持ち、石油公団などが出資している。「すでにインドネシアで権益を持つ国際石油開発は『北カスピ海、アザデガンが順調に開発できれば、一つの事業に依存しない態勢が整う』と期待する。」という。
※「イラン油田開発合意/イラク派遣で米黙認か」(「東京新聞」2004.2.20)
※「米“黙認”へ工作実る/日の丸油田獲得に執念/『仏よりまし』本音読み説得」(「京都新聞」2004.2.22)
※「北カスピ海油田着々と/カザフ政府開発を承認/企業連合3兆円投資」(「日本経済新聞」2004.2.27)
※しかし、このイラク・アザデガン油田については、日本の支配層の間で深刻な意見対立があることがうかがわれる。それは対米関係をめぐる対立であるとも言える。自衛隊のイラク派遣を強力に後押しして小泉政権の今の路線に全面的支持を与えてきた「日本経済新聞」が、2月21日社説で、コスト面からも、投資リスクの面からも、外交、安全保障など日本の政策との一致という面からも、「アザデガン油田には疑問が残る」と論じたのである。その数日後、イランとの交渉で技術顧問の役割を果たしていたロイヤル・ダッチ・シェルが不参加を表明した。表向き、採算面で疑問であるとされているが、米欧石油メジャーを含めた石油略奪競争の複雑なかけひきが背後にあると思われる。


(5)政府主導でイラク「復興」利権にも参入し始めた日本企業。
 昨年11月に、住友商事とNECが米モトローラの下請けとして、イラクでの携帯電話事業の一部受注に成功した。今後2年間で受注額は 1,000万ドルを超える見通し。イラク復興事業での、日本企業の初めての受注である。

 1月28日、ジェトロ(日本貿易振興機構)は、1970〜80年代に日本企業などがイラク南部のバスラ、ルメイラ、ウムカスルに建設した石油プラントの復旧整備に向け、予備調査を実施すると発表した。三菱商事とトーメンが、プラント会社や三菱重工業などの協力を得て、施設の現状や復旧の可能性を調査する。来年3月末までに具体的な復旧整備計画を策定する予定である。
※「イラク復興、国内勢初受注/住商・NECが携帯電話設備」(「日本経済新聞」2003.11.2)
※「石油プラントの復旧調査/ジェトロがイラク復興で」(共同通信2004.1.28)

 「日経産業新聞」(2003.12.1)によれば、昨年11月上旬に、外務省、経済産業省が、商社の集まりである日本貿易会に「援助資金の使途について具体的なプロジェクトを提案してほしい」と要請し、各社は案件の洗い出しを進めているという。住友商事は、救急車や消防車の提供、固定電話設備の納入など50件、事業規模合計は 4,500億円。丸紅は、かつて建設を手がけたイラク国内の13病院への機器納入など10件。三菱商事や伊藤忠商事も電力や道路などのインフラ改良案件を検討中、等々。
 「東京新聞」(2003.12.26)によれば、日本のイラク復興支援資金協力50億ドルのうち、ODAによる無償協力の15億ドルについて、外務省が一部商社だけに非公式の場で事業リストの提出を求めていたことが、入札の透明性や公平性の観点から問題視されている。11月中旬には、日本経済団体連合会の一部会員企業の会合でも、外務省と経済産業省の関係者が情報提供を呼びかけていたという。
※「イラク復興/商社そろり/インフラ案件検討着手」(「日経産業新聞」2003. 12.1)
※「イラク復興/事前に事業リスト求める/外務省/一部商社だけ対象に」(「東京新聞」2003.12.26)

 米国に次ぐ巨額の「イラク復興」支援資金協力を約束した日本政府の援助資金を、どの企業がどれだけ獲得するのか、「イラク復興」事業をめぐる利権に群がる企業の競争が、国内的にも激化し始めているのである。


(6)米と組んでイラク復興支援会議を取り仕切る日本政府−−「復興援助」はイラク利権確保の呼び水。ODAは日本企業への“くれてやり”。
 2月28、29日、イラク復興支援国会議がアラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで開かれ、支援国委員会の議長国に日本が選出された。昨年10月のスペイン・マドリード会議で330億ドル以上の支援が表明されたが、それを受けて国連と世界銀行がそれぞれ信託基金を設立した。支援国委員会は、両基金を監督し、重複などを調整し一元化するもので、資金の使いみちの全般的な優先順位の認可や、進行状況の審査、支援国に対する報告などをおこなうとされる。日本がその議長国に選ばれた理由は、米国を除けば最大の資金拠出国だからである。米国は、自国の拠出金については独自に、連合軍暫定占領当局(CPA)の下に運営事務局をおいて実施・運営するという。
※「イラク復興計画具体化へ始動/国連・世銀、別々に基金」(「日本経済新聞」2004.3.1)
※「復興資金監視委、日本が議長に」(「朝日新聞」2004.3.1)

 ところが、各国の拠出金の運営についても、米国が取りしきる形になっているという指摘がある。「週刊東洋経済」(03.12.27−04.1.3)によれば、各国の拠出金は、世界銀行と国連開発計画(UNDP)が管理する信託基金「イラク復興国際基金」で運営する仕組みということになっているが、実際は、連合軍暫定占領当局(CPA)が管理する「イラク開発基金」に直接供与され、ここでの事業を通じて資金が分配される。このことによって米国政府が復興事業の発注先を選定できるのだという。
※「週刊東洋経済」2003.12.27−2004.1.3「自衛隊のイラク派兵/利権が絡むオイルゲーム/リスク大きい米国追従策」

 いずれにしても、米国に寄り添わなければ利権は獲得できないのである。拠出金の管理運営・監督をおこなう支援国委員会の議長国となった日本は、米国と一体となって、これから本格的にイラク復興利権にあずかろうとしているのである。

 自衛隊派遣とイラク復興事業をめぐって、関連企業への大盤振る舞い、水増し価格などによる税金の“くれてやり”が、すでに始まっている。
 1月25日、陸上自衛隊の連絡官用コンテナハウスを運搬していたトレーラーがバグダッドで襲撃された。防衛庁から発注を受けたのは山田洋行だが、防衛庁が陸自本隊の派遣命令を見越して発注していたことが分かった。この山田洋行は、軽装甲機動車をクウェートまで運んだ日本通運と並んで、防衛官僚の天下り先だという。また、自衛隊派遣費用は377億円と見込まれているが、そのうちの7割近い250億円が「装備費」とされ、その内容が公表されていない。そのことが疑惑を呼んでいる。
 政府はイラク復興支援に、ODA予算などで1620億円(約15億ドル)を無償供与すると発表しているが、この使途についても疑惑がもち上がっている。ODA第一弾として発表されたのは、パトカーを620台供与するというものだが、その費用見積もりが約30億円。1台当たりの費用は、警視庁予算での1台270万円の約2倍。「ドンブリ勘定の水増し請求」という批判の声が上がった。最初の発表は1月13日だが、2月27日には川口外相が、同額の予算で約2倍の1150台供与することになったと発表した。入札で、当初の半額近い落札となったからだという。批判の声が上がらなければどうなっていたかは明らかだ。
※「日本商社の下請け殺害/防衛庁発注品を運搬中」「本隊派遣命令先取り発注」(「東京新聞」2004.1.27)
※「自衛隊派遣費用377億円/欧米は全部公表なのになぜ隠す?」(「日刊ゲンダイ」2004.1.16)
※「イラク関連予算は2000億円/疑惑だらけ」(「日刊ゲンダイ」2004年1月29日)
※「イラク支援/治安・雇用に40億円/ODA第1弾パトカー600台」(「朝日新聞」2004.1.14)
※「イラク支援値引き合戦/パトカー1150台提供、予定の倍」(「朝日新聞」2004.2.28)


(7)米国の利権独占への高まる不満。対米追従と派兵を通じて利権に喰い込む日本。
 冒頭にも紹介したが昨年12月11日、ブッシュ大統領は記者会見で、「イラクで命の危険を冒した国だけが契約を得ることができる」と明言した。仏独など反戦国企業を復興事業の入札から締め出すという、12月5日付のウォルフォウィッツ国防副長官が出した通達を踏まえた発言である。その露骨さには驚きあきれるほかないが、しかし戦争とビジネスとの関係をストレートにまた見事に表現している。

 現在イラク復興事業への入札が許されているのは63か国だが、派兵しているのは日本を含めて38か国である。そしてイラク復興支援国会議の参加国も38か国であった。しかし、それらの諸国でさえ、これまでのところ復興事業にはほとんど参入できていない。米国が独占しているのである。開戦のときから米国とともに戦い米国に次いで「命の危険を冒した」英国さえ、不満をつのらせているほどである。

 しかし当初の占領政策が破綻をきたしている米国は、強気一辺倒ではやっていけない。他方では、ベーカー特使を仏独に送り込み、米国が呼びかけた対イラク債務削減への合意を取りつけることに成功している。思うようには石油収入を確保できていないもとで、債務が削減されなければ、米国はいっそうの財政支出を余儀なくされるおそれがある。それを避けるためには、「国際協調」が必要なのである。ロシアも米国の呼びかけに前向きの姿勢を示した。おそらくは、仏独露の今後の利権参入に道を開くような裏取引があったのであろう。ベーカー特使は、凍結には応じるが削減には難色を示していた最大の債権国である日本を最後に訪問して、小泉首相の削減への同意発言を引き出した。12月29日のことである。この段階で日本は米国に次ぐ利権参入を約束されたと考えるのは、自然なことではないだろうか。
※「イラク復興のウラ/『盟友』不満たらたら/英国『危険冒したのに」「開戦前にシナリオ/『石油を守る』/『総額2000億ドル米国が牛耳る』」(「東京新聞」2003.12.13)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20031213/mng_____tokuho__000.shtml
※「利権めぐり同床異夢/国際協調狙う仏独/米『血流した者優先』」(「毎日新聞」2003.12.30)
※「イラク債権放棄/米政権に助け船」(「毎日新聞」2003.12.30)
※「対イラク債権大幅放棄/首相『国際協調』抗せず」(「読売新聞」2003.12.30)

 米国企業は、イラク戦争の準備段階から大いに活躍してきた。軍の後方支援やキャンプ設営など、戦争のいわば「サービスの側面」がハリバートンをはじめとする「軍事私企業」によって担われてきたのである。「戦争の民営化」と言われている。「イラクの自由作戦」では米国兵士10人に1人の割合で「軍事私企業」の従業員が配置され、米軍兵士と肩を並べて“活躍”していたのである。これらの「軍事私企業」は、政権中枢と結びついた“政商”企業でもある。これらの米国企業が、その後の占領政策においても重要な役割を果たし、その延長線上で復興事業を独占してきたのである。(詳しくは、[シリーズ]ブッシュと“復興利権”(その1)参照)
※[シリーズ]ブッシュと“復興利権”(その1)「ブッシュが世界中から集めた「復興資金」は誰のポケットに入るのか?−−ブッシュ政権と癒着し、戦争と軍拡で儲けるだけではなく、占領と復興事業で暴利をむさぼる軍産複合体・政商企業・石油メジャー−−」(署名事務局)

 しかし、占領政策が破綻をきたし始めるにつれて、米国は増大する負担の一部を国連に担わせる方向へ転換せざるをえなくなった。だが利権はできる限り手放したくはない。そのためのあらゆる駆け引きが進行中である。締め出されている仏独露は、米国の独占をいかに掘り崩して参入するか、そのチャンスをうかがっている。日本は、自衛隊派兵を切り札に、石油権益と復興利権に喰い込もうとしている。

 小泉政権は単なる「対米追従」「属国」と見るのは間違いである。小泉政権は、確かに米国に脅され、ゆすられ、たかられて「対米追従」している一面を持っている。しかしもう一つの側面がある。それは自らの意志で、自らの目的を追求するために、自ら進んで米国に取り入り協調しているのである。小泉政権とそれを支えている日本の支配層のやりたいこと、これまでやりたくてもできなかったことを米国が強く要請してくれるという、願ってもない状況が生まれているのである。そのもとで、唯一の超大国にピッタリ寄り添って、戦後50年来の懸案を次々と実現させながら、中東の石油権益の確保とボロ儲けのイラク復興事業への参入を追求しているのである。

2004年3月8日