シリーズ:自衛隊派兵のウソと危険
シリーズ1:
違憲・違法の大義なき派兵。「人道復興支援」にすり替え
−−新たな侵略の論理=「人道復興支援」「国際貢献」の実態を暴く−−




 新シリーズ[自衛隊派兵のウソと危険]を始めたい。シリーズ第一回目の今回は、政府与党とメディアが連日垂れ流す自衛隊の「人道復興支援」のウソ・デタラメについて考える。政府与党は、違憲・違法の派兵、何の正当性も何の大義もない派兵をごまかすために「人道復興支援」という論理を持ち出し、これを“大義”にすり替えようとしている。しかし侵略者・占領者がいくら水を与えたからと言っても、それは侵略であり占領であることに変わりはない。まさしくそれは“新たな侵略の論理”である。なぜこんなウソ・デタラメがまかり通るのか。
※皆さんもご存じだと思うが、2004年2月14日大手新聞全紙に一面を使って一斉に政府公報・防衛庁の宣伝が出された。「イラク再建のため、自衛隊は人道・復興支援活動を行います」というものだ。ここでは「これまでも世界各地で施設の復旧や医療・給水などの様々な活動を行ってきました」として、今回のイラク派兵が、まるでこれまでのPKOと同じであるかのような錯覚を植え付けようとしている。しかしこれは大ウソだ。今回のイラク派兵は、PKO5原則(停戦合意、紛争当事者の同意、日本の中立、撤収可能、必要最小限の武器使用)を完全に撤廃したのである。
※「派遣」から「派兵」へ 憲法のタガ外れ変質 自衛隊海外活動(西日本新聞)
http://www.nishinippon.co.jp/news/2004/iraq/kiji/040204_2.html

 国会審議は対決にならなかった。戦後初めて日本軍が侵略行為を行うというには、あまりにも弛緩した、冗談や笑いまで飛び交う恥知らずの国会の姿を見せつけられた。なぜか。野党が「人道復興支援」「国際貢献」のウソと虚構を真正面から暴かなかったからである。否、最大野党民主党はむしろその推進者であり、そのための「国連待機部隊」や改憲を言い出しているからだ。

 現在進行している日本軍国主義の本格的な復活は単なる復古主義ではない。「人道復興支援」や「国際貢献」を旗印に推進されつつあるのである。今その実態を暴くことは、単にイラク派兵の実態を暴くだけではなく、「海外派兵恒久法」や改憲の論理を跳ね返していくためにも必要になっている。以下、詳しく「人道復興支援」の実態を暴いていきたい。
 第T章では、米英の侵略軍・占領軍、それに1年遅れで参戦した自衛隊(日本軍)に、人道復興支援を語り行う資格はないことを論じる。第U章では、イラク人道復興支援のあり方を4つに区別して考え、本来の人道復興支援の道を閉ざし、侵略軍・占領軍の似非「人道復興支援」しかないかのような虚構を作り出している米英と日本の非道を批判する。最後に第V章では、自衛隊派兵の実像を全体として捉えることで、政府やメディアが正面切って伝えないところで進められている戦前さながらの日本軍出兵の現実を暴く。それは人道復興支援とは正反対のもの、異質のものである。

2004年2月16日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



T

(1)政府・メディア挙げての「人道復興支援」礼賛。−−違憲・違法の、“大義なき派兵”を「人道復興支援」ですり替え。
 世論調査では、事後承認案をめぐる先の国会審議での首相のデタラメ答弁への不満は圧倒的である。ところが派兵が進む中で派兵への支持が増えている。賛成と支持が逆転した調査もある。内閣の支持率が上がりさえしている。これは一体どうしたことなのか。非常に危険な事態である。
※賛成48%、反対は45% 自衛隊派遣で賛否逆転(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040207-00000160-kyodo-pol

 なぜ派兵支持が増えたのか? 既成事実の積み重ねを前にして「行ってしまったのだから仕方がない」「あとは安全に返ってくるのを見守るだけ」などの諦めムード、現地からの映像や報道が増えるに従って、「意外と安全」「歓迎されている」など一時的な実情に錯覚、等々の要因が考えられる。
 しかし最大の要因は、政府与党とマス・メディアが繰り返す「人道復興支援」のプロパガンダではないか。毎日毎日テレビや新聞で、現地に到着した自衛隊隊員と市民とのにこやかな談笑や歓迎ムード、学校や病院や浄水場を視察する様子を見せられた視聴者は、侵略・占領行為を「人道」や「復興」という言葉ですり替えられ、感覚を鈍らされいるように思えて仕方がない。民衆も踊り踊らされ壊滅の道を転がり落ちた戦前の危うさが頭の中に浮かぶ。
 
 一つの逸話を紹介したい。昨年秋、派兵の是非を討論するワイドショーで、志方某という元自衛隊幹部がまるで視聴者を脅迫するかのように金切り声でこう言った。「目の前に助けを求めている人がいるのですよ。」「放っておいて良いのですか。」「あなたは助けないのですか。」「議論している時間がないのですよ。」と。異論・反論を唱えていた彼以外のコメンテーターは何も言えなくなった。まるで水戸黄門の印籠を見せつけられたかのように。ある時期から、「人道復興支援」は、違憲・違法行為をごまかす“印籠”のような役割を果たすようになった。

 最近の報道を注意して見聞きして欲しい。「イラクで人道復興支援に当たる自衛隊は・・・」と必ず「人道復興支援」の枕詞を使っている。繰り返し繰り返し、まるで視聴者の頭の中に刷り込み洗脳するかのように。陸自を送り出す際、海自を送り出す際、石破防衛長官は必ず「人道復興支援の任務を果たして欲しい・・・」と訓示を垂れている。それがそのまま報道される。政府・メディアが申し合わせたように平然とデマゴギーを垂れ流しているのだ。ウソも百回付けば本当になるとはこのことだ。
 官邸や防衛庁の報道規制が問題になっているが、何のことはない、大手メディアはすでに「自衛隊の人道復興支援」のデマ宣伝に一役買い、情報操作の加害者になっているのである。

(2)取り返しの付かない戦争犯罪−−殺戮と破壊、産業崩壊と雇用喪失、国家の壊滅−−を犯した者は「人道」や「復興」を語る資格はない。
 「自衛隊の人道復興支援」を考える時、何よりもまず、その基本的な性格、基本的な目的を踏まえなければならない。何のため、誰のために支援するのかということだ。水を配る、学校を修理する、薬を配る等々−−この程度のことならすでに米英軍がやっている。占領支配するため、植民地統治のために必要だからだ。しかし侵略者、占領者がやる「人道復興支援」は、人道復興支援とは言わない。あくまでもそれは侵略行為、占領行為なのだ。一個の主権国家を壊滅させておいて「人道」も「復興」もないだろう。侵略軍・占領軍がやる「復興」など偽善と欺瞞に満ちたものでしかない。今なお「掃討作戦」と称してイラク民衆を殺し抑圧し続けている。イラク民衆が民族解放のレジスタンスを闘うのは当然だ。こんな中で人道も復興もない。

 侵略軍・占領軍が居座る限り、真のイラク復興などあり得ない。元々イラク民衆を数万人も殺し傷付け、病院・医療システムを破壊しておいて、一体何が「人道復興」なのか。電力や上下水道を破壊しておいて、一体何が「人道復興」なのか。何百万、何千万人もの人々の雇用を奪っておいて、何が「人道」、何が「復興」なのか。まるでブラックジョークではないか。侵略者、植民地支配者の側による「人道復興」ほどふざけた行為はない。そもそも殺し傷付け破壊しなければ良いことである。
 しかも彼ら米英の侵略者の犯罪は二重である。なぜならその前の10年以上にわたる経済制裁の過酷な仕打ちがあるからであり、国土を南北に分断し好き放題に空爆を繰り返し、殺戮と破壊をずっと続けてきたからである。こんな長きにわたる殺戮と破壊を続けておいて、今更何が「人道復興」なのか。

 もっと恐ろしいことがある。劣化ウランによる被曝と汚染である。すでに“ほこり”や“ちり”になってイラク全土、アラビア半島全域にまき散らされた劣化ウランは回収のしようがない。この深刻極まりない放射能戦争をやっておいて、よくも「人道」や「復興」を言えるものである。

(3)侵略軍・占領軍に加勢した日本軍、日本政府にも人道復興支援を語る資格はない。
 彼ら米英が言う「戦争の大義」ですらでっち上げがばれたのだ。本気でイラクの人道復興支援を考えるなら、まずは米英が侵略戦争の責任をとって、軍隊を即時無条件に撤兵させ、国連ではなくイラク民衆へ政権を委譲することである。国連がどう関わるかはイラク民衆が決めることである。その上で、ブッシュとブレアがイラク民衆に謝罪し、殺戮と破壊行為に対して誠意のある十全な補償を行うことである。そして戦争責任をとって退陣すべきだろう。

 劣化ウラン弾の最低限の清掃と除去、被曝者の最低限の治療と補償ですら、莫大な費用と気の遠くなる時間がかかる。この他にクラスター爆弾がある。こうした米英軍が犯したとてつもない戦争犯罪に比べ、一滴の水、一つの建物の復旧、一袋の薬が何の意味を持つというのであろうか。ふざけるにも程がある。
 イラクの復興は、米英の謝罪と補償を元にして行うべきである。そして米英や日本などの戦争遂行者とその支援者が一切関与しない形で、主権者イラク民衆とその国家が計画し決定することである。

 日本も同罪だ。米英のイラク侵略戦争を支持した時点から、日本の「人道復興支援」は、支配者の側、植民地支配者の側の、殺し傷付け破壊した側のまやかしの「人道復興支援」なのであり、その本質は侵略軍、占領軍への加担以外の何物でもない。ましてや自衛隊本体を派兵した時点で、事後にイラク戦争に参戦し侵略軍・占領軍に加わったのである。人道や復興を語る資格はもはやない。これを偽善と呼ばず何というのか。
 日本政府が、本当にイラクの人道復興を考えるなら、米英のイラク侵略支持を撤回し侵略者・占領統治者の立場を自己批判し即刻退くことである。派兵作業を即刻中止し、すでに派兵した部隊を撤兵させることである。その上で、米英に即時無条件撤退を促し、主権委譲をイラク民衆に委ね、民族自決権を認めるよう要請することである。そして真のイラク民衆の主権国家が樹立された後、そのイラク民衆が立案した復興計画に協力することである。それ以外に人道復興を語る資格はない。それ以外の「人道復興支援」は全て侵略軍・占領軍の支配のための“手段”“方便”でしかない。


U

(1)イラク人道復興支援を4つに区別して考える。−−イラク民衆は現在、自らの考えと自らの力で人道復興計画を進める権利を奪われている。
 現にイラクの人々は、復興を成し遂げたいとの強い欲求と願望を持っている。何よりも雇用が先決だ。最近の雇用を要求するデモ行進がそのことを如実に示している。フセイン政権崩壊から10ヶ月、ギリギリまで追い詰められた民衆の生活は爆発寸前にまで来ている。上下水道、電力、医療、学校等々、インフラと公的社会基盤の復興も急務である。
 しかし、こうした急務のイラク復興が全然進まないのはなぜか。それは現在のイラクには親米亡命者だけからなる、米英の侵略を支持し占領を支持している「傀儡政権」しか存在せず、真のイラク民衆の国家権力が存在しないからである。現在のイラク民衆には、自分の判断で人道復興計画を立て、それを実行する権利、すなわち“復興する権利”が奪われているのだ。そしてその“復興する権利”を回復するには、真の主権委譲しかない。

 筋道を立てて考えてみよう。現在のイラクで人道復興支援を問題にする際には下記の4つを区別して考えねばならない。
a)イラクに真の主権国家が樹立された後、この主権国家が独力で、あるいは国連や世界各国に要請する形で進められる長期的な計画と見通しに基づく本格的な人道復興支援。
b)国連事務総長や安保理が主導する人道復興支援。これは事務総長の政治的性格、安保理の政治的力関係を反映している。イラクについて言えば、長期にわたって米英主導の国連経済制裁を推進してきており、すでに十分すぎるほど手を汚している。国連に任せば何でも解決するかのように美化するのは誤りである。
c)戦時下、占領下の困難な条件の下で、世界中のNGOが、武器を持たず、特定の国家の政策や利権追求から離れて行っている人道復興支援。国連とも関係がない全くの純然たるNGOの活動である。
d)侵略軍・占領軍の「人道復興支援」。戦争と占領支配を円滑に進めるための、戦争と占領支配の“手段”としての「人道復興支援」。

(2)「中立性と公平性」こそが真の人道復興支援の大原則。−−民間NGOの活動を妨害する自衛隊派兵。
 a)は米英が自らの占領支配、軍事占領をやめる意志がないため、全くメドが付いていない。これが問題解決を妨害している最大の原因である。米英が居座り続けることが、本格的な人道復興計画が進まない根本原因なのだ。最近になって、当初今年6月と言われていた主権委譲の日程の延期が浮上している。仮に何らかの主権委譲があったとしても、米英や日本を含む占領軍が居座り続け、事実上新たな傀儡政権樹立にしかならないとすれば、本質は変わらない。いつまで経ってもイラク民衆のための真の人道復興支援などあり得ないだろう。

 b)は、国連と関係機関がCPA(占領軍暫定当局)の下請け機関のような役割を果たし始めたため、昨秋イラク民衆のレジスタンスの攻撃を受け、撤退を余儀なくされたことによって挫折した。米英の占領中止と撤退を実現せずに占領下で国連活動を行うことは、米英の占領支援にしかならないのである。

 c)米英の占領下で数多くの民間NGOも撤退を余儀なくされている。日本の有力なNGOである日本国際ボランティアセンター(JVC)は、米英の戦争を支持した日本は人道復興支援の中立性と公平性の原則に真っ向から反する、正当なイラク政権作りを支援することこそが大事な仕事だとして、政府の自衛隊派兵に反対した。
 米英と同様、日本が侵略者・占領者に成り下がったため、日本のNGOもまたイラク民衆から敵と見なされるだろう。自衛隊派兵は人道復興支援をするどころか、逆に地道かつ真面目にイラク現地でボランティア活動を行ってきたこうした民間NGOを危険に陥れ排除するのだ。サマワに関して言えば、浄水活動を進めてきたフランスのNGO活動を邪魔し妨害し潰すことにしかならないだろう。
 「人道復興支援に武器は不要。」「非武装・非暴力が大原則。」−−真剣に継続的にイラク現地でNGO活動をやってきた市民グループは口々に主張する。「人道復興支援をやるなら軍服を脱げ」と。
※『軍隊』の人道支援に潜む危険(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20031210/mng_____tokuho__000.shtml
※日本国際ボランティアセンター(JVC):イラク戦争/「復興」に関する国際協力NGOの緊急アピール 2003/12/8。
http://www1.jca.apc.org/jvc/jp/notice/notice20031208_iraq.html

(3)「自衛隊で人道復興支援」の大ウソ。CPA(占領軍暫定当局)の一部、占領軍として動く日本軍。
 d)がまさに小泉政権が強行している自衛隊派兵である。自衛隊は、事実上米英軍・オランダ軍の指揮下で占領軍として活動する。サマワ市の部族支配の上に君臨するCPA(占領軍暫定当局)の下で働く。
 米英は、イラク人による本格的で長期的な人道復興の展望を潰し、国連やNGOの人道復興支援も潰し、人道復興支援のa)〜c)の選択肢の全てをイラク民衆から奪い取った。結局は、米英や日本がアリバイ程度にやるデマゴギーとしての「人道復興支援」しかないかのような状況、d)しかない状況に追い込んでいるのだ。しかしそれは人道復興支援ではなく、侵略行為・占領行為の一部でしかない。
 
 自衛隊の「人道復興支援」が如何にデタラメかは、この間の経緯にもよく出ている。「まず自衛隊派兵ありき」から進めてきたので、全てが場当たり的で泥縄式だった。
−−大きな顔をして給水活動と言うが、最初は対米軍への給水活動だった。それでは米軍支援があまりにも露骨だ支持を得られないとして、急遽サマワ市民への給水に変更したのだ。
−−そのサマワ市民への給水についても、本当は浄水設備の修理・整備で済ませることができるのに、単発的でほとんど給水能力が限られている「給水車」方式でアリバイ的に給水をやろうとしている。
−−しかも安全確保と称して、欲しいなら「宿営地へ取りに来い」という身勝手さ、傲慢さだ。一体何様なのか。こんな人道復興支援など聞いたことがない。
−−そして最後は得意の“札束攻勢”。「安全」をカネで買おうとする始末だ。「軍隊はいらない。雇用が欲しい。」まるで松下やソニーやトヨタなど日本企業が来るかのような幻想が広がっている。現地サマワで企業誘致や資金援助の過剰期待が膨らんでいる。資金援助と雇用創出の空手形を切りまくっている。宿営地の地代に莫大な資金を使い、学校・医療支援等々に巨額のODAを投入しようとしている。

 こうした場当たり的なその場限りの対応、ウソ・デタラメのどこが「人道復興支援」なのか。サマワに派兵先が決定されてからの日本政府の対応を見れば、イラク民衆のこと、イラクの人道復興のことを全く考えていないことは一目瞭然ではないか。
※給水や医療、施設整備 「安全」も重視、陸自本隊(共同通信)
http://news.kyodo.co.jp/kyodonews/2004/iraq4/news/0126-446.html
※際だつ安全への配慮 イラクでの陸自活動、具体像判明(アサヒコム)
http://fpj.peopledaily.com.cn/2003/12/20/jp20031220_35147.html

(4)兵糧責めで追い詰めて「人道復興支援をしてやる」、「カネを与えれば大人しくするだろう」という帝国主義者の発想、唾棄すべき差別意識。
 「イラクの人々はかわいそう。」「貧しくて援助してあげなければ大変。」「だから自衛隊でも何でも行って、援助してあげなくては。」一見正しいかのように聞こえるこれらの意識が、実は帝国主義的で傲慢な意識、イラク民衆に対する差別と偏見でしかない。私たちはどこまで自覚しているだろうか。
 確かに、サマワ市民も、イラクの民衆全体も、人道復興援助を求めている。限界に近づいている。フセイン政権崩壊後10ヶ月も経っているのだ。生活が窮迫するのは当然である。米英の侵略者は、今なお「掃討作戦」と軍政維持に躍起となっており、しかも全ての人道復興支援の道を閉ざしている。兵糧責めにしておいて、餌を投げ与える。人為的に飢餓状態を作り出しておいて、そこに餌を与える。このようなやり方は、帝国主義者のやり方そのものである。

 イラク民衆は全てを自力で成し遂げる力を持っている。カネを与えれば何とかなるだろう、カネを与えれば大人しくしているだろう。こんな「人道復興」ほどイラク民衆をバカにすることはない。侮辱でしかないだろう。
 アラブ社会主義を標榜したイラクは中東随一の近代工業国であり、アラブ有数の教育国家、医療先進国であった。教育と医療は無料であり、教育水準、技術水準は非常に高かった。イラクの民衆は自らの力で民族独立を果たし、米英の帝国主義大国と渡り合って国作りを進めてきた。フセイン政権下、その独裁性と侵略性が頂点に達したのは、イラン革命を阻止するために米政府が介入し全面支援した時期であった。その後米英の手を放れて一人歩きをしたフセインを叩き潰すため、米英は手のひらを返したように、クウェート侵略を利用して多国籍軍を投入して徹底的に破壊し、その後も国連経済制裁で滅茶苦茶にしてきたのだ。これまでの数々の戦争行為、破壊行為を棚に上げて、「だから今援助が必要だ」と主張するのは侵略者、略奪者の論理に過ぎない。

 2月8日私たちはフォトジャーナリスト豊田直巳氏を招いて現地イラク・サマワからの報告をしてもらった。そこで何よりも私たちの頭を一撃したのは、「人道復興支援をやらねばならない」という発想の基本的な考え方にある差別と蔑視と偏見である。
 豊田氏自らが体験した話をしてもらった。昨年の衆院選である保守新党の幹部が「イラクの子供は裸足で歩いている。助けなくてどうするのだ。」「今こそ自衛隊を送れ」と連呼したという。しかし豊田氏は言う。「連中は現地のこと、イラクのことを何も知らない。」「一体イラクをどう考えているのか。ヨルダンからイラクへ入った途端、片道3車線の舗装道路だ。医療も学校も無料。イラクは豊かな産油国なのだ。サマワのホテルの主人はインターネットどころかIP電話をやっていたのですよ。イラクより貧しい国々があるのに、なぜそこではなくイラクなのか。全くおかしい。」「そもそも、そうした考えの中にはさげすみと差別があるのではないか。」
※「フォトジャーナリストの豊田直巳さん−−サマワ現地での調査に基づき、米軍支援のための自衛隊派兵のウソ・デタラメを暴く」(署名事務局)


V

(1)派兵要員の8割、9割が「戦闘=後方支援要員」。あれほど大見得切った給水要員は何とわずか30人。−−派兵部隊の編成に現れている侵略の本質。
 自衛隊派兵がなぜ人道復興支援ではないのか。それは今自衛隊が何をやっているかを全体として見れば分かることである。なぜあえて大手メディアがこの当たり前の現実を追及しないのか。メディアの堕落に恐ろしさを感じざるを得ない。

 最も露骨な本質は、陸上自衛隊の派兵要員550人の部隊編成に現れている。それは1年遅れで米英の侵略軍・占領軍に参戦する実態を如実に示している。
−−派遣要員のうち機関銃や対戦車火器の射撃技術を持った隊員や、装甲車両の操縦ができる「警備要員」=「戦闘要員」に約130人を割いているが、これは「人道復興支援」にあたる約120人を上回っている。過去の国連平和維持活動(PKO)とは異質の部隊編成である。
−−「人道復興支援」に直接従事する約120人の内訳は、浄水・給水活動にあたる給水隊が約30人、派遣隊員の治療と同時に現地での医療支援にもあたる衛生隊が約40人、宿営地の設営後に公共施設の復旧活動にもあたる施設隊は約50人となっている。
−−残る約300人は「司令部」にあたる部署のほか、通信、整備、補給、輸送など部隊全体の「後方支援」にあたる要員が占めている。つまり120:430、全体の8割が、戦闘=後方支援要員なのである。
−−2月14日に出航した海上自衛艦は、武器・弾薬、食糧などである。総量はコンテナ1100個分に当たる。装甲車両・トラックなど車両が約200両、大型輸送艦「おおすみ」と護衛艦「むらさめ」の2隻、300人の乗組員は、戦闘=後方支援部隊用である。すでにインド洋にはアフガン出撃の米軍艦艇支援の給油を行っている640人が従事する部隊がいる。
−−同じく物資の輸送を行う航空自衛隊は先遣隊48人とC130部隊130人、計178人が、米兵と米の武器・弾薬をも輸送するという。彼らもその本質は「人道復興支援」などではない。
−−「人道復興支援」要員とは、結局は陸自の120人のみ。インド洋で米艦艇に給油する海自艦艇の乗組員を合わせると陸海空三軍を含めて、何と120:1548、全体の93%が戦闘=後方支援要員なのだ。一体これのどこが「人道復興支援」なのか。

(2)陸自は全国各地で対ゲリラ戦闘訓練、射撃訓練を展開中。−−「人道復興支援」は、何の大義もない違憲・違法の派兵を正当化する口実に過ぎない。

.(AFP/JIJI Press)
 以上様々な側面から述べてきたように、「人道復興支援」とは、何の正当性も、何の大義もない今回のイラク派兵に何らかの意味付与をするための方便、口実に過ぎない。このままでは自衛隊員の士気が保てない、その家族への説明がつかない。方便として仮に「人道復興支援」を「正当性の根拠」だと偽っているのである。国際法違反の米英の侵略に加勢に行くのである。大量破壊兵器のでっち上げは政治問題にまでなっている。違憲行為、違法行為であるが故に、尚更「意味」を見い出さねばならないのである。−−一切の責任は小泉首相とその政府与党にある。何か事が起これば即刻辞任するのは当然である。

 小泉や福田、石破など政府与党の指導者、自衛隊の軍幹部の中で、本気で「人道復興支援」を考えている者は一人もいないだろう。日本の支配層は遂に戦後初めて憲法の枠を突破し、戦争をしにいくために軍隊を派兵したのだ。保守論壇は次を、ずなわち戦死者を催促し始め、「国家のために死ぬこと」の大切さを宣伝し始めた。「戦死」の衝撃こそが、保守支配層の野望である改憲への道、靖国神社の国家護持化への道につながるからだ。
※「自衛隊イラク派遣 国家のために命をかけるということ 対談 御厨 貴 山折哲雄」(中央公論2004年3月号)

 それでは自衛隊派兵で忙しい派兵元では「人道復興支援」を必至にやっているであろうか。「人道復興支援」にふさわしい送り方をやっているであろうか。否、である。メディアが真正面から批判しない情報をつなげるとどんな全体像、実像が浮かび上がってくるか。それはまさに戦前・戦中に見られた光景、侵略軍がフル稼働する姿であり、出征の姿でなのある。違うのは「八紘一宇」「大東亜共栄圏」「五族協和の王道楽土」の代わりに「国際貢献」「人道復興支援」スローガンである。

 以下にざっと派兵の全体像を見てみよう。そこには「人道」も「復興」もない。侵略軍の戦闘訓練・射撃訓練、走行訓練、出征式等々、恐ろしい姿でしかない。一体どこが「人道復興支援」なのか。
−−全国の陸海空の自衛隊基地、自衛隊駐屯地は「準臨戦状態」に入っている。陸海空三軍が同時に統合して戦場イラクで出動しているのである。これを受けて、防衛庁は、「陸海空統合部隊」を常設する方針を固めた。全自衛隊を指揮するポストに「統合幕僚長」を新設する。
 アフガニスタン戦争の時、動いたのは海上自衛隊と航空自衛隊だけ。反対運動の力でアフガニスタン国内への陸自の派兵は阻止された。それが今回は、陸上自衛隊がこれに加わり、陸海空三軍が連携して派兵されることとなった。
※「陸海空統合部隊を常設 自衛隊改革案」(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sei/20040208/mng_____sei_____002.shtml

−−首相官邸・自衛隊司令部−−日本全国の自衛隊基地−−クウェート米軍基地−−イラク・バグダッド米軍基地−−サマワ米軍・オランダ軍基地、自衛隊宿営地−−インド洋、アラビア海を含む広大な海外領土で、日本軍全体が「戦争態勢」「戦闘態勢」に入っている。

−−陸上自衛隊全国各地で陸上自衛隊の各方面隊の基地・駐屯地で何が行われているか。「人道復興支援」の訓練などではない。至近距離からイラク人を仮想敵にした銃撃訓練、戦闘訓練である。
 すでに自衛隊が米軍関連施設などを警護する「警備出動」が2001年秋に新たな任務に加わってから「武装工作員対処訓練」という名のテロ対策訓練が増えてきていた。今回の派兵で、それがまさに現実のものとなったのだ。ソ連を敵とした戦後長く続いた「専守防衛」の訓練とも、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を仮想敵国とした「有事訓練」とも根本的に異なる。これまでは敵陣との距離は離れていた。至近距離での判断を必要とする殺すか殺されるかの実戦訓練は、戦後の陸上自衛隊の訓練の中でも初めてのことである。
※NHKスペシャル「陸上自衛隊 イラク派遣〜ある部隊の4か月〜」2004年2月1日。

−−しかも表向きは、「部隊行動基準」(ROE=交戦規則)を作成し、口頭で警告、威嚇射撃など順序を踏んだ武器使用基準で訓練しているというが、実際には「警告なし射撃」や「先制射撃」など、なし崩し的な武器使用基準の大幅な緩和でやっている。現場では判断する余裕がないのを理由に、正当防衛・緊急避難のための武器使用は許されるとして武器使用基準が歯止めなしにエスカレートされようとしている。殺される前に相手をテロリストと決め付けて殺せと叩き込んでいるのである。
※「警告せずに射撃も イラク派遣武器使用基準に特例」「例外だらけ 戸惑いも」(中日新聞)
http://www.chunichi.co.jp/iraq/040101T1752001.html

−−それだけではない。北海道旭川で、海上自衛隊の呉で、航空自衛隊の小牧で、戦前の出征さながらの出陣式が行われてた。青いヘルメットと国連旗でなされたPKOの風景とは一変している。まるで時代をトリップしたかのような大小の日の丸の旗の林立、君が代、軍艦マーチ。これが「人道復興支援」であろうか。
 そして旭川から呉にまで広がっている“黄色いハンカチ”運動、予備自衛官らが仕掛け人と言われるこのさりげない「無事に帰ってこい」活動は、出征兵士の無事を祈った女性達のかつての“千人針”とどう違うのか。

−−2月7日クウェート西部の砂漠地帯で陸自本体の第一陣は何を行ったか。「人道復興支援」訓練ではない。軽装甲機動車上で機関銃を構え、周囲を警戒しながら走る80〜100台の車列で走る走行訓練であり、無反動砲など重火器を使った射撃訓練である。
※「陸自本体が走行訓練 イラク目前 緊迫の車列 手に機関銃、周囲威圧」(日経新聞2004年2月8日)。
※サマワ入りを前に走行訓練 車列の前後に武装機動車(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040207-00000205-kyodo-int

−−現地サマワでは「宿営地」ではなくまるで「陣地」の構築をやっている。政府与党は、勝手に「犠牲者が出ても撤退しない」と米英に約束している。こんな米に忠実な小泉政権のことである。米英が撤退しても「残れ」と言われれば残るだろう。オランダ軍が攻撃されたら「自衛隊が援護可能」とまで言う始末。オランダ軍が援護可能なら米英軍も援護可能になるだろう。暴走はもうどうにも止まらなくなっている。
※「陸自 宿営地、『陣地』並み」(朝日新聞2004年1月27日)
※<イラク派遣>戦闘中の他国軍支援は可能 石破防衛庁長官(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040207-00000034-mai-pol

(3)自衛隊が受動から能動に変わるとき。侵略軍・占領軍の本性を現すとき、「人道復興支援」の仮面と虚構が剥がれるだろう。
 かつて天皇制日本は、中国大陸を侵略し朝鮮を植民地支配した。傀儡国家満州国という天皇制の軍隊の出先機関=関東軍の植民地を建設した。朝鮮半島を支配する朝鮮総督府は、現地の近代化・工業化を推進した。しかしこれらの国家建設や近代化・工業化は全て植民地支配強化のためであった。植民地支配とはそういうものなのだ。
 日本を米英、朝鮮をイラクに置き換えればいい。植民地支配者が、自らの統治のために道具として、インフラ整備をしたり雇用をすることを申し訳程度に行うことが、果たして「人道」や「復興」に値するのか。正当化されるのか。そんなバカなことはない。
 自衛隊派兵は、どんなに言い訳をしようと戦闘部隊、日本の陸海空軍全部隊の派兵であり、米英のイラク植民地支配、軍事占領支配の一端を軍事的に担うこと、事後に参戦すること加担することに他ならない。

 自衛隊がいくら「占領軍ではない」、「侵略軍ではない」と言い繕っても、米英軍とイラク民衆との対立が今後ますます激化するにつれて、その侵略軍・占領軍としての本性は、いずれ不可避的に現れずにはおかない。受動的対応が出来なくなり能動的対応が迫られるときが来るだろう。札束攻勢が効かなくなったとき、米英と同様の占領軍意識を前に出したとき、イラク民衆を弾圧し殺したとき。何がきっかけかになるかは分からない。しかし日本軍の本質は必ずやイラク民衆によって見抜かれ、「人道復興支援」の仮面と虚構は引き剥がされるだろう。
 「わずかばかりの水をサマワ市民に配ったのがどうしたのか。」「わずかばかりの学校を修理したのがどうしたのか。」「わずかばかりの人々を雇用したのがどうしたのか。」イラク民衆は対峙し叫ぶだろう。「お前たちは一体何をしに来たのか」「なぜお前たちはここにいるのだ」「なぜ侵略した米英軍と一緒にいるのだ」と。イラク民衆を「解放しに来た」「歓迎される」と思い込んで勇んで侵攻した若い米軍兵士たちが、イラク民衆のレジスタンスを前にして、士気を低下させ、心と精神を病み、苦しみ悩んでいるのとよく似た状況に追い込まれるだろう。