[翻訳と分析]イラク占領経済の崩壊 シリーズ1:軍事占領だけでなく経済占領でも破綻
それでも武力を使ってイラクの石油・国家資産の略奪・支配を狙う
−−米国と日本の政府=多国籍企業の際立つ貪欲さ−−


(1)軍事占領だけでなく経済占領でも破綻は明らか。
 米のイラク占領支配はすでに破綻しています。4月のファルージャに続いて8月のナジャフの戦闘は、米軍・傀儡軍の敗北を強く印象付けました。圧倒的な最新鋭の軍事力で武装した米軍が、都市市街戦で苦戦しイラク民衆のゲリラ戦に守勢に立たされているのです。軍事占領は完全に破綻しました。
 最近ブッシュ政権は、「年内に総攻撃をやって反米武装勢力を壊滅させる」「米軍は掃討に自信を表明」「来年1月の総選挙は予定通り」等々、米系メディアを利用して威勢のいいことを並べ立て、米大統領選を意識して意図的に楽観論を吹聴しています。しかし、これまでことごとく失敗してきた作戦が突如スムーズに進むなどあり得ないことです。
※軍事的政治的な占領支配の破綻については私たちは詳しい論説を出しました。「2004年8月:“ナジャフの戦い”の政治的・軍事的意味」(署名事務局)

 軍事占領だけでなく、経済占領の破綻も明らかです。今回ここに翻訳紹介するのは、米のリベラルな調査研究NGO「フォーリン・ポリシー・イン・フォーカス」(FPIF)が7月に発表した「復興支援」関連のレポートです。ごまかしの「主権委譲」後、「復興支援」はどうなっているのかを解明しようとするものです。レポートの骨子は、米国がイラクの国家資本主義経済を完全な「市場経済」に改変しようとして定めた多数の「ブレマー命令」をそのまま暫定政府が引き継いだこと、従って、権力と軍事力だけではなく、米政府と米系多国籍企業の「経済支配」もまた引き継がれたことを暴露することです。

しかし、昨年来の米のイラク占領支配の泥沼化は、@米国は、政治軍事占領支配に失敗しただけではなく、当初ネオコンが夢想した壮大なイラク収奪計画が頓挫し、経済占領支配にも失敗した。Aにもかかわらず米政府は、あくまでも石油資源の略奪、国家資産の収奪にしがみついている、このことを強く確信させます。
※レポートを書いたアントニア・ユーハズ氏は、サンフランシスコを拠点とするInternational Forum on Globalization (IFG、http://www.ifg.org/)の主任研究員です。彼はこれまで継続して「ブレマー命令」の違法性、略奪性を暴露してきましたが、「主権委譲」でそれがどうなったのかを、ここで改めて論じています。『季刊ピープルズ・プラン』27号にはこの同じユーハズ氏の「主権委譲」前の論文「占領軍と米企業によるイラクの経済的植民地化――「復興」がイラクを食い荒らす」が収められています。(http://www.jca.apc.org/ppsg/

 以下、いわゆるイラクの「復興支援」「復興事業」の現状と進捗状況について簡単にコメントしておきたいと思います。


(2)総崩れ状態のブッシュの「復興支援」−−米による「第二の侵略」=経済収奪の壮大な計画とその破綻。
 ブッシュ政権は昨年3月のイラク侵略開始前、イラク国家の壮大な収奪計画を立てました。今では有名な話です。開戦前、国連安保理で米英の武力行使新決議のごり押しをめぐる外交戦が土壇場を迎える中、ワシントンの政財界で一つの“巨大公共事業プロジェクト”が注目を集めたのです。ブッシュを大統領に担ぎ上げ、政権に自分たちの経営陣やロビイストたちを送り込んだ石油・軍事・建設エンジニアリング等々の関連業界が族議員やロビイストを巻き込んで、ブッシュ政権と一緒に「フセイン後」の石油強奪計画、戦争特需計画を相次いで打ち出し、談合によってこの血塗られた戦争ビジネスの「戦利品」分配に狂奔していたのです。
※「石油強奪と戦争特需:対イラク戦争は石油=軍事帝国アメリカの“巨大公共事業”」(署名事務局)

 まさにイラク戦争は米国の「大規模公共事業」となるはずでした。現に、今回翻訳したアントニア・ユーハズ氏の論文が述べているように、暫定占領当局(CPA)のブレマー総督は、「暫定政権法」(TAL)という名の100の「命令」(Order)を出し、石油を初めとするイラク経済の根幹をなす国有部門を一挙に解体・分割・民営化するという、市場原理主義に基づく「ショック療法」を開始しました。それはブッシュ政権に食い込んだ軍産複合体・石油メジャー・多国籍企業にとって文字通り笑いが止まらないやりたい放題の“天国”のような収奪計画でした。
※当初米政府は、国有石油事業の解体・民営化を目論んでいました。しかし、石油の復旧と生産を現場で担うイラクの旧石油省の官僚・職員・技術者の反対があまりにも強いことから、米政府は方針転換したようです。「とにかく増産することが先決で、所有問題は後回しにする」と。増産の結果増えた収入を自分達で取り込もうという狙いです。「後退するイラク石油産業の早期民営化論」(IDCJ、2004年1月30日更新) http://www.idcj.or.jp/1DS/11ee_josei040130.htm

 しかしこれまで決まったのは「復興支援」の“枠組み”だけです。2004年からの4年間で総額330億ドル(2003年10/23−24のマドリード会議)、石油収入の「石油・食糧交換計画」の終了と「イラク開発基金」(DFI)への移管、イラクの決済窓口であるイラク貿易銀行の設立、イラク輸出向け短期貿易保険の枠組み合意、新旧通貨の交換、「ブレマー命令」に基づいた外国投資法、会社法、金融法、商法など各種法整備等々、外枠は幾つか決まっているのですが、実際の復興事業が停滞、中断・中止に追い込まれているのです。
 米は、CPA、米国国際開発庁(USAID)、米陸軍工兵隊を通じて、2003年4月の9件、24億ドルに続いて、2004年第1四半期に31件、82億8700万ドルのインフラ復旧事業を発注しました。しかしこれも発注したものの事業が完遂しているものは数が少ない状態です。
※『ジェトロセンサー』2004年8月号 「手探り状態が続く復興ビジネス」

 そしてこの「ブレマー命令」と収奪計画は6月28日の「主権委譲」後に、傀儡であり「米国人」であるアラウィ首相にそっくりそのまま引き継がれました。しかしブッシュのこのとらぬタヌキの皮算用は見事に当てが外れてしまいました。
 まず第一に、米占領行政そのものの腐敗です。ホワイトハウス・国防総省・国務省の縄張り争い、それぞれに群がる米系多国籍企業の「戦利品」をめぐる分捕り合いです。間違ってはなりません。メディアは「治安悪化」だけを「復興支援」とん挫の理由にしていますが、これはウソです。CPA自体の官僚的腐敗・浪費、これに群がる多国籍企業とその下請け企業の略奪・横領、関与する亡命イラク人関連企業の使い込み・横流し等々、占領支配の収奪行為・腐敗行為によって貴重なイラク民衆の資源と資金がどこかへ消えてしまったのです。ユーハズ氏が指摘しているように、2300のプロジェクトのうち進行中(これも完成ではない)のものはたった6%、140件に過ぎず、ほとんどが浪費・不正・腐敗・乱用でストップした状態です。
 電力、上下水道、学校、建設など、インフラは破壊されたままで、部分的復旧にとどまり、イラク民衆が実感するにはほど遠い状況です。何よりも失業率は70%を越えており、膨大な失業者・半失業者が、労働も生活も出来ない状況下にあります。

 第二に、「治安状況の悪化」です。この4月、8月の反米武装勢力のレジスタンス闘争によって、ブッシュも多国籍企業も、金儲けどころではなくなってきました。収奪計画の大前提となる「治安維持」が事実上不可能な状況に陥っているからです。
 しかしこれは当然のことです。主権国家を一方的に崩壊させ軍事占領で石油資源や国家財産を民営化して奪い去ろうというのですから、強大な軍事力にささやかな武装で抵抗するのはイラク民衆の当然の権利だからです。治安回復の近道、それは米英・日・多国籍軍の無条件の撤退なのです。ユーハズ氏も、即刻の占領終結、米軍の撤退、収奪計画の根拠である違法な「ブレマー命令」の撤廃を要求しています。


(3)「消えた石油収入」=米による石油収入の略奪・横領。払底するイラクの国家財政。
 米政府が拠出を決めたイラク復興資金184億ドル(約2兆円)のうち実際に使われたのはたった2%、3億6600万ドルであり、「復興事業」が大きく停滞していることが7月に明らかになりました。これは占領行政の腐敗もありますが、もう一つ重要なのは、米政府が、自国の財政には手を着けず、イラクの石油収入をまずは略奪することを優先させたからです。もちろん、インフラ復旧を名目にハリバートンやベクテルなど米系石油企業や米系多国籍企業に支払われるわけですから、正真正銘の略奪行為です。
※復興資金、使ったのは2% 米、イラク治安悪化で停滞(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040705-00000035-kyodo-int

 現に今年6月28日に発表された英のNGOクリスチャン・エイド(CA)の報告によれば、CPAが管理していた「イラク開発資金」(DFI)にあるはずのイラクの石油収入の帳尻が合わず、少なくとも200億ドルもの巨額の使途不明金があるというのです。別の情報源によれば、「主権委譲」後も、このDFIの口座を牛耳るのは米政府であるということです。
※CAのプレスリリースは、http://www.christian-aid.org.uk/news/media/pressrel/040627.htm http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2004/06/200.html 参照。
※これとは別に米民主党の上院議員3人が、同じDFI口座の使途不明金88億ドルについて、ラムズフェルドに回答するよう要求しました。イラクの一部省庁で数千人の職員の数が水増しされたり、治安部隊の給与が不正に水増しされたりして支払われていると言います。August 21, 2004 by the Inter Press Service 「'Staggering Amount' of Cash Missing In Iraq」by Emad Mekay http://www.commondreams.org/headlines04/0821-01.htm
※「Iraq's 'Sovereign' Government to Have Little Control ver Oil Money」(イラクの「独立」政府は石油収入をほとんど支配できない)ニュー・スタンダード 2004.06.23 by Chris Shumway http://www.antiwar.com/orig/shumway.php?articleid=2867(英文) http://www.geocities.jp/urknews/little_control.html(翻訳:イラク情勢ニュース

 そしてブッシュ政権は9月14日、イラクの石油収入をも使い切ってしまったのか、遂にイラク復興予算184億ドルを武装勢力掃討作戦向けに使うことを決定しなければならなくなったのです。治安弾圧費用を50%増額し、警官・国境警備隊員を増強するというものです。もちろんこのあおりを受けて民生インフラ(電力・上下水道など)予算はますますカットされます。それでなくとも電力・上下水道の復旧は遅れに遅れてきました。これで完全にストップするでしょう。もはや末期症状です。


(4)ほとんどが軍事予算=治安弾圧費に使われる。つまり米系軍産複合体、軍事請負会社へのくれてやり。
 CPAは今年3月に、2004年度(暦年)の国家予算を200億ドルと5割り増しに増額修正しましたが、引き継いだ暫定政府にはもはや国庫は払底しているはずです。米軍の側も資金不足に汲々としています。すでにペンタゴンは4月段階で、2004会計年度(9月末終了)の米軍イラク駐留予算が8月末で底を尽き、少なくとも40億ドル(約4370億円)が不足することを明らかにしました。これとは別に、「治安悪化」への対処で米軍2万人の駐留期間を3カ月間延長する費用が、7億ドル(765億円)に達するとの見通しも示しました。
※<米軍>治安悪化でイラク駐留予算不足が深刻化(毎日新聞)http://blog.melma.com/00112192/20040423

 米国際開発庁(USAID)の次官として184億ドルの予算を決定し、現在米戦略国際問題研究所で上級副所長を務めるパトリック・クローニン氏は言います。184億ドルのうち「執行されたのはわずか40億ドル。しかも、そのほとんどが軍・警察など治安関連に回され、イラク国民に使われたものはほとんどない。また20億ドルは米政府と契約した企業の保安業務に使われた。これはそのために使うとは誰も思っていなかった予算だった。」また彼はこう批判します。「それ以上に問題なのは、実は米政府内の官僚的な弊害だ。」つまり「はびこる官僚主義が最大の問題だ」と主張するのです。
※「主権回復後のイラク復興事業 政経癒着の『功』と『罪』」週刊東洋経済 2004.7.10号。


(5)またもや独断決定、イラク派兵期間1年延長−−サマワ居座りで米が食い荒らした後を狙うまるでハイエナのような存在。
 政府は9月20日、またもや日本ではなく米ニューヨークのホテルで国民や国会で何の論議もせずに、一方的にアラウィ首相との間で、自衛隊派兵の1年間延長を「公約」しました。細田官房長官も21日、「日本国民の理解」ではなく「米国の理解が得られない」「積極関与が必要」という理由で派兵期間の延長(来年12月14日まで)を公言しました。こんなバカなことはありません。パウエルの「大量破壊兵器発見を断念」発言、アナン国連事務総長のイラク戦争「国際法違反」発言が相次ぎ、イラク戦争・占領の「大義」が崩れたにも関わらず、あくまでも居座ろうというのですから。

 しかも今回の派兵期間延長の意味はこれまでとは全く異なるものです。なぜなら、来年3月末にはサマワの治安維持を担当してきたオランダ軍が撤退、政府がなし崩しで治安維持=直接的武力行使に走る危険が出てくるからです。これまでも独断専行で憲法と法律を次々と破ってきた小泉のこと、更に冒険主義的な火遊びに出る恐れがあります。

 なぜそこまでして小泉政権は、サマワ駐留に固執するのか。それは一方では、政府与党が自発的な無条件の対米追随こそが「国益」だという戦略転換を行ったことです。従来の対米追随とは異なるものです。政府、防衛庁・自衛隊、外務省、あるいは財界までもが、この対米追随を正当化するかのように、「米国の国益は日本の国益」「世界の安全は日本の安全」「石油の9割を中東に依存」という到底考えられない異常で侵略的な軍事外交政策、軍事外交イデオロギーを破廉恥に打ち出しています。
※この日本の軍国主義の新しい展開については、「自衛隊の多国籍軍参加と日本の新しい軍国主義」という報告を参照して下さい。報告の第W章第[2]節「日本軍国主義の新しい段階:自衛隊海外派兵、米軍・自衛隊の統合運用、日米安保体制強化を3本柱とする日本軍国主義の根本的な再編成。」(1)「日米同盟」概念の拡大・変質。狭義の軍事同盟だけではなく、政治的にも経済的にも、日本が自ら進んで“主体的に”対米従属・依存関係の強化を追求。」において、詳しくこの「自発的で無条件の対米従属」を紹介しました。

 他方では、かつてフセイン政権時代にイラク南部一帯で日本の多国籍企業が大きな経済権益を築いてきたからです。政府与党は、サマワで軍事的プレゼンスを維持し、ブッシュにゴマをすればイラク南部で日本企業がやりたい放題するのを見逃してくれると見ていたのでしょう。ブッシュの楽観論に悪乗りし、イラク戦争・占領が直ちに片付き、石油資源や国家資産の収奪の「戦利品」のおこぼれに預かることが出来ると踏んでいたことは間違いありません。
※実は、イラク派兵が日本多国籍企業によるイラク進出の“先兵”“先遣隊”だったことについては、森哲志氏のイラク現地報告『自衛隊がサマワに行った本当の理由 テロを呼ぶ「復興利権」の行方』に詳しく描かれています。(事務局書評)


(6)10月13−14日に東京で第3回「イラク復興支援国会議」を開催。何としても石油利権、経済権益にしがみつこうとする小泉と財界。
 政府は、米の「復興支援」の窮地を米に成り代わって救済するために、わざわざ東京で来月10月13、14日両日に、第3回「イラク復興支援国会議」を行うことを決めました。あくまでも石油利権と経済権益を追求しようと目論んでのことです。
 政府は2003年10月にマドリードで開催されたイラク復興支援会議で、2004年度分として無償資金協力15億ドル、2005年度からの3年度分として有償資金協力35億ドルの合計50億ドルの拠出を表明していましたが、今月9月9日になってようやく2005年度分として約4億ドルの無償資金協力を追加拠出する方針をほぼ決めました。これだけブッシュべったりの日本がようやく動き出したのですから、他の国々は推して知るべしです。
※「治安情勢のいっそうの悪化から遅延するイラクの復興事業」(国際開発センターIDCJ、2004年9月13日) http://www.idcj.or.jp/1DS/11ee_josei040913_3.htm

 米の軍事侵略に追随し、米の政商企業や多国籍企業が食い荒らした資源や市場の残り物に食い付こうとする、まるでハイエナのような日本の多国籍企業の醜い姿。政府や財界はこの自分自身の何とも卑劣で醜悪な姿を見るべきでしょう。
 かつて朝鮮戦争やベトナム戦争で日本は経済復興と高度経済成長を遂げた経験があります。しかし自衛隊派兵=軍事力、戦争や占領支配を自国企業の市場参入・利潤追求の“直接の手段”としたことはありませんでした。軍事力をテコに市場進出を目論む−−これは戦後日本の帝国主義が全く新しい段階に入りつつあることを示すものです。
※国土交通省傘下の社団法人・国際建設技術協会はそのHPの「国建協 プレスリリース 2004.2.25」で「日本のイラク復興支援の現状」と題する詳しい現状報告を出しています。http://www.idi.or.jp/


2004年9月21日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



[翻訳資料]
存在しなかった主権移譲:
イラクの占領はどのように継続するか

The Hand-Over that Wasn’t: How the Occupation of Iraq Continues

アントニア・ユーハズ
フォーリン・ポリシー・イン・フォーカス
http://www.fpif.org/papers/0407iraqtransf.html
By Antonia Juhasz FPIF Policy Report July 2004


米国のイラク占領は、公式には、2004年6月28日のバグダッドの秘密式典で終わったことになっている。公式には、「完全な主権」が米国人からイラク暫定政府に渡された。しかし、これが名目上の主権であり、実行の伴うものでないことは、スタートから明らかだった。まず、軍事占領の継続がある。138,000人の米国の兵士と海兵隊、他の国々の20,000人の軍隊を加えて、さらに概算20,000人の請負業者、これらはすべて完全に米国の管理の下におかれ、イラクの法律に対して治外法権を持っている。さらにそれと同じぐらい暫定政府を弱体化させているものは、詳しく報告されることは著しく少ないが、ブッシュ政権とその協力企業による政治的かつ経済的な占領の継続である。

イラクの様々なレベルで、経済的かつ政治的支配を維持するために、ブッシュ政権が用いている最も重要な道具は、今はなくなった連合国暫定当局(CPA)の代表を最後まで務めていた、L・ポール・ブレマーVによって発せられた100の命令である。占領の「終了」が、同様にこれらの命令の終了を意味するだろうと思われていた。しかしそうはならずに、ブレマーは、この国での彼の最後の日に発せられた最終の命令で、単に新しい首相イヤド・アラウィに命令を発する権限を移しただけであった。アラウィの方はと言えば――CIAと英国情報局の両方と密接なつながりを持った30年にわたるイラクの亡命者で──、イラクを監督する米国の新しい代理人と考えられている。

ブレマーはまた、あらゆる省に、米国が5年の任期で任命した当局者を置くことにより、命令の実行を確保した。5年というのは、今年の終わりまでに発足する予定の、選挙で選ばれる新政府の期間に十分に入る。

命令は、イラクの暫定憲法である暫定政権法(Transitional Administration Law、TAL)に従って行使される。TALの付属文書は、大統領、2人の副大統領および過半数の大臣の承認があれば、命令を覆すことができると述べている。

しかし同時に、付属文書は、暫定政府が選挙を越えて「イラクの運命に影響するいかなる処置」を取ることも否定している。同一の文言は、イラクの「主権国家」への移行の輪郭を描いている国連安全保障理事会の決議1546に現れている。したがって、アラウィが、米国から独立していること実証するためだけの理由で、少数のそれほど広範にわたらない命令を覆すことに成功したとしても、基本法にいかなる変更を加えることも彼の権限を超えている。

また、ブレマーが命令に関して言ったように、「いったんこれらのものを創設すると、それは確かな生命と推進力を自分で展開し始める――そして、逆コースへ戻ることは困難になる。」

命令がどれくらい広範囲に及ぶか、いくら述べても過剰にはならないだろう。外国からの投資に関する命令#39に記述されているように、命令は、「‥‥[イラクを]中央計画経済から市場経済へ移行させること」をまさしく意図している。このゴールは、ベアリング・ポイント社(BearingPoint Inc.)による、より細かな詳細の中で説明されている。同社は、この移行促進のための2億5000万ドルの契約を請け負った、ヴァージニアが本拠の株式会社である。契約書は次のように述べている。

「着手された取り組みが、機能する市場経済のための基礎的な法的枠組みを確立するように構想されるだろうということは、明白に理解されるべきである。政治的な環境の現状によってもたらされている、この分野における躍進のためのユニークな機会を、適切に利用しながら‥‥。改革は、財政改革、金融セクター改革、貿易、法律と規制、民営化の分野で構想を描かれる。」


(新しくかつ改善された)ブレマーの命令

最も重要な命令を取り出してみると、ブレマーによって後に残された経済的な刻印がはっきりと示されている。

命令#39は以下を可能にする。(1)イラクの200の国有企業の民営化、(2)イラクにおける事業の100%外資による所有、(3)外国企業の「内国民待遇」、(4)すべての利益と他の資金の無制限かつ免税での送金、(5)40年の所有権ライセンス。したがって、この命令は、イラクで活動する米国企業に対し、あらゆる事業を所有し、あらゆる業務を行い、すべての金を本国に送金することを許している。イラク経済に役立つようイラクに再投資する必要もなく、イラク人を雇う必要もなく、公共事業を保証する必要もなく、労働者の権利は容易に無視することができる。また、企業はいつでも投資を引き上げることができる。

命令#40は、外国銀行がイラクの市場に参入し、イラクの銀行の50%まで買収することを可能にすることにより、銀行業セクターを、国営から市場依存のシステムへと、一夜にして転換させる。

命令#49は、企業の税率を40%もの高率から15%の均一税率に下げる。所得税率もまた、上限15%とされる。

2003年6月7日に制定され、2004年2月24日に更新された命令#12は、「すべての関税制度、関税、輸入税、イラクに出入りする品物に対するライセンス料および類似の課徴金、そのような品物に適用される他のすべての貿易規制」を停止する。これは、安い消費財の即時かつ劇的な流入をもたらし、同じ製品の地元の生産者をすべて根本的に一掃した。これはその上、国内の生産にとって、かなりの長期的意味合いを持つ可能性がある。

命令#17は、民間の安全保障企業を含む外国の請負業者に、イラクの法律からの完全な免責を与えている。彼らが、誰かを殺したり、有毒化学薬品を投棄するような環境破壊を引き起こしたり、飲料水に毒を入れたりして、第三者を害したとしても、傷つけられた第三者は、イラクの法律制度に訴えることはできず、起訴は米国の法律下で米国の裁判所に対し行われなければならない。

命令#77は、最高会計検査院(the Board of Supreme Audit)を設立し、その委員長と彼の2人の代理人を指名した。政府契約を調査し、分類されたプログラムを監査し、規制と手続きを規定する、広範囲の権限を持って、検査院はすべての省の検査官を監督する。

命令#57は、監査を実行し、政策を立案し、省のすべてのオフィス、物品、人員に完全にアクセスすることができる5年任期の検査官を、イラクのすべての省に創設し任命した。

それから、公式の占領が終了した後、イラクのすべての省に顧問として埋め込まれて残る約200人の、ほとんどが米国人で一部他国人の国際的なアドバイザーがいる。

明らかに、ブレマーの命令は、イラクの既存の法律を根本的に変更した。この理由から、ブレマーの命令もまた不法である。占領された国の法律を変えることは、1907年のハーグ条令(1949年のジュネーブ協定と対をなし、両方とも米国によって批准されている)、および米陸軍の陸戦法(the U.S. Army's Law of Land Warfare)に違反する。実際、リークされたメモで、英国の司法長官ゴールドスミス卿は、「大規模な経済構造改革をイラクに課したことは、国際法によって認められないだろう」とトニー・ブレアに警告した。


金(カネ)の追求

米国はまた、この国最大の財布に見通せる将来にわたってヒモをつけたことにより、イラクに対する重要なコントロールを効かせるだろう。

2004年6月、米国会計検査院は、「大規模な戦闘」の終了以来ずっとCPAは事実上イラクの資金のすべてを費やしたが、自身の資金は比較的少額しか費やしていない、と報告した。

イラクの復興に充当する資金の、主要な壺は2つある。最大のものは、昨年議会によって承認された、米国の納税者の払う約240億ドルである。第2のものは、イラク開発基金(DFI)として知られる約180億ドルである。これは主としてイラクの石油収入からの金で、6月28日に資金に対する権限が新しい暫定政府に移管されるまで、CPAによってコントロールされていた。

CPAがコントロールしている間、DFIは基金からおよそ130億ドルを支出した。他方、米国の予算からは約82億ドル支出しただけであった。したがって、米国の予算がほとんど触れられていない間に、DFIの金はほとんど使い尽くされている。この金のコントロールは、新しい駐イラク米国大使、ジョン・ネグロポンテに現在は移っている。イラク最大の金の壺に加え、ネグロポンテは、約1,500人の職員とイラク中にオフィスを持つ全世界で最大の大使館の1つに対するコントロールを行使することになる。


復興のための支払い

復興は、国際法上、米国がイラクで行うべきこととして義務づけられることの1つである。米国の納税者は、この努力に数百数十億ドル支出することを保証した。しかしながら、2,300の約束された建設計画のうちイラクで進行中なのは140未満であり、既に開始されたプロジェクトの中に浪費、不正行為、乱用に関する広範囲の報告があったと、ニューヨーク・タイムズが2004年6月30日に報告した。

電気と水の供給は、ほとんどのイラク人にとっては改善されていない。さらに、侵略前よりはるかに悪くなっている場合もある。実際、国連特使ブラヒミは、イラクに到着するとすぐに、安全確保に次いで電気の安定供給の欠如が現在のイラクのナンバーワンの問題であると述べた。国中で飲料水は危機状態にあり、比較的大きな都市が1日の約50%の時間帯で水を受け取っている一方、いくつかの村は水を全く得られない――これは、コレラ、下痢、吐き気、腎臓結石および死の大発生に結びつく。破壊された橋は、国の多くの地域で巨大なボトルネックを作り続けている。イラクの恐ろしく過大な負担が集中する病院は、機能するために電気、水、下水を必要とする。病院はまた、薬および医療用の備品を必要とするが、供給は全く不十分である。

進行中の復興プロジェクトが少数であり、かつ米国の企業に有利なブレマーの規則により、イラク人が仕事に戻る機会はほとんどなく、侵略後1年半経っても200万人近くの失業者が放置されている。独立国家への形式的な移転の前、ブレマーが建設現場で50,000人のイラク人が仕事を見つけるだろうと保証した、そのわずか3か月後、雇用された地元の労働者は20,000人未満でしかない。

これらの問題を一層ひどくしているのは、治安の現状であり、それは復興を遅らせ、大いにコストを増加させている。最初フセインの追放を歓迎していたイラク人さえ、ますますその真実の目的を明らかにしつつある占領の、敵になった。その目的とは、米国の政治的経済的搾取と支配である。これは、復興のための3ドルのうちの1ドル程度が、再建ではなく治安コストの方に使われていると、米国の請負契約者たちが報告する1つの理由となっている。


占領を終わらせよ

ブレマーの命令は、不道徳かつ不法であり、イラク人が自分の経済的及び政治的な前途を決定することを可能にするために、撤廃されなければならない。米国の復興資金を素早く、適正に、あるいは透明に分配することにブッシュ政権が失敗したこと、また、DFIのほぼすべてを枯渇させるまでにCPAの監督が完全に欠如していたことを受けて、自由で民主的な選挙がイラクで行われるまでは、米国の復興資金の残りは、完全に国連の権限に委ねられるべきである。そして、選挙が行われれば、金はイラク人自身に委ねられるべきである。

イラクの復興は、イラク人の長期的必要を満たし、最大限活用するための、経済の再建に基礎を置くべきである。契約プロセスはすべて、イラク人にとって、完全に透明でアクセス可能であるべきである。契約を認めるにあたっては、最初にイラクの会社、専門家、労働者に優先権を与えるべきである。イラクの会社が必要な業務を実行することができないなら、優先権は国際的な人道組織に与えられるべきである。イラク以外の国の会社が必要なら、契約は、国際的な競争に開かれていなければならず、固定料金の使用により利ざやをできるだけ低くするようにしなければならない。監督は、即時で、独立していて、透明で、徹底していなければならない。

米国は、復興──イラク人による、イラク人のための──のために払う資金、そして復興と真に自由で民主的な選挙のために必要な安定をもたらす、真に多国籍の(米軍でない)平和維持軍のために必要な資金、これらの資金の供給以外、すべての分野でイラクから手を引かなければならない。占領は終わらせなければならない。