シリーズ<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>その21
イラク民間人犠牲者とブッシュ政権の戦争犯罪(下)
イラクでは誰と誰が闘っているのか
−−「テロリスト」だけを誇張し、地元のレジスタンスを消し去るマスコミの報道−−


(1)イラク人の約半数は米英軍への攻撃を正当と考えている。
 2005年10月23日の英デイリーテレグラフ紙の記事は、イラク占領に加担する諸政府にとって非常にショッキングな結果を掲載している。ショーン・レイモント記者の書いた「秘密の世論調査;イラク人は英兵への攻撃を支持している」という記事は、イラク人の45%が占領軍への攻撃を支持していること(イギリスが占領する4つの県のうちの1つメイソン県では65%)、占領軍が治安の改善に役立っていると考えている人はわずか1%未満にすぎないことを示した。また、82%が英米など多国籍軍の駐留に強く反対を表明した。
 この調査はイラクの大学の研究チームにより、多国籍軍が使うことを明らかにしないで行われたもので、イラク全土の住民を対象に行われた。テレグラフが紹介している結果を列挙すると、以下のようになる。
 イラク全国で−−−
 ・45%が米英軍に対する攻撃が正当化されると考えている。
   (英軍の占領地域の1つメイソン県では65%に達する。バスラでは25%である)
 ・82%が連合軍の存在に「強く反対」している。
 ・連合軍が治安の改善に役立っていると考えている人は1%未満しかいない。
 ・67%が占領のために治安が悪くなったと感じている。
 ・43%が平和と安定のための条件が一層悪化したと考えている。
 ・72%が多国籍軍を信用していない。
 ・71%が安全な飲料水が滅多に手に入らない。
 ・47%が電力が不足(停電が多い)。
 ・70%が下水道が機能していない。
 ・イラク南部の住民の40%が失業している。

*テレグラフ2005/10/23 http://telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2005/10/23/wirq23.xml

 この結果は、米英政府がイラク人の「信頼(Heart and Mind)」を獲得することに見事なほど失敗したことを明らかにした。地域別、宗教別など詳しい内訳が発表されていないので、これ以上の立ち入った評価をすることはできないが、少なくとも人口の2割を占めるにすぎないスンニ派だけでなく、イラク人のほとんどが占領に反対し、占領のために彼らの生活、安全が悪化したと考えているのだ。更に約半数の人々が米英占領軍に対する攻撃が正しいと支持しているのである。ブッシュとブレアが振りかざした「自由と民主主義」も「イラク再建」も、占領後2年半も月日が経つのに何の説得力も持っておらず、日が経つ毎に失望と怒りをもたらしているだけである。米英は「フセインは独裁政権」と非難して一つの主権国家を武力で転覆させたが、世論調査は(たとえフセイン政権が独裁政権であったとしても)「フセインに米英軍が取って代わっただけ」「今の方がより悪化した」とイラク人が感じていることを示している。
 日本政府は米英のイラク占領に加担し自衛隊を派兵している。その派兵期限は今月で切れる。小泉政権は「12月8日」という過去に日本が太平洋戦争を始めた歴史的な日に派兵期限を1年延長した。その上で、どのタイミングなら米政府が陸上自衛隊の撤収を許してくれるのか、引き替えに航空自衛隊の活動を広げることで米は許してくれるのかと、しきりにブッシュ政権の顔色を伺っている。しかし、それは上に述べた世論調査に見るイラクの人々の意見を全く無視したものだ。彼らは米英軍の占領を望んでいない。占領が続くほど生活と安全が悪くなると考えている。小泉首相は米の顔色を伺うのではなく、イラクの人々の望みを尊重して、自衛隊を直ちに撤退させるべきである。


(2)イラクでの現実をゆがめて伝える日本のマスコミ。
 私たちにとって重要なことは、テレグラフが伝えるイラクの人々の世論が、日本のマスコミが伝えるイラクの状況やイラクの人々の姿と全く食い違っていることだ。日本のマスコミ(世界の主要なマスコミも同じだが)は、イラクでは「米英軍とアルカイダなどイスラム原理主義ゲリラが闘っている」「イスラム原理主義は住民に対する無差別テロを行っている」というものである。しかし、もしマスコミの伝える姿が正しければ、住民に対する無差別テロを自らの戦術の柱とするイスラム原理主義をイラク住民の多数が支持するはずがない。私たちは、マスコミによって伝えられない、あるいはねじ曲げて報道されている、イラクにおける反占領闘争の姿をきちんと見なければならないと考えている。占領軍と本当に闘っているのは果たして誰なのか。攻撃目標は本当に住民に向けられているのか。住民が広く支持している闘いとはいかなるものか。これらを明らかにする中で、真実の姿を伝えないマスコミを厳しく糾弾しようと思う。

 もちろん直接の当事者でもない私たちが、イラクにおける武装抵抗闘争の状況を全般的に正確に把握できると言いたいのではない。極度に悪化したイラクの治安状況が事実把握を異常に困難にしている。しかし、米政府・軍当局や欧米系メディアのルポルタージュ・記事・調査などを丹念に追跡していくと、くっきりと実像が浮かんでくるのである。デマや情報操作を含めた米英の政府・軍当局によるプロパガンダ、米英系の翼賛メディアによる大量の虚偽報道、それらに追随する日本のマスコミの真実のねじ曲げ等々の中から、実態を把握することは可能である。把握のカギは、米英軍に必至に抵抗するイラク民衆への限りない共感・連帯の感情であり、国際法を蹂躙したイラク戦争への強い憤り、軍事占領と殺戮・破壊に終始する米英軍、そしてそれに加担する小泉政府への憎悪の感情である。

 マスコミの報道は、欧米でも日本でも、「市民に対する自爆テロ」だけに限定しており、レジスタンスによる米軍への攻撃や米軍によるイラク民衆への攻撃は、ほとんど報道されない。全体のごく一部の事件をまるで全体であるかのように、一面化し誇張して、偏った印象を世論に与えているのである。全体の状況を意図的につかめないようにしているとしか考えられない。そうすることで、米英軍や傀儡政府系の諜報機関、シーア派やクルド系の武装民兵がやる謀略的な「テロ事件」や、「ザルカウィ」なる正体不明のテロ集団、あるいはスンニ派原理主義派がやる犯罪行為をレジスタンスの仕業にし、まるで住民の正当なレジスタンス闘争を丸ごと無法集団のテロ行為であるかのように仕立て上げようとしているのである。そして米英の残虐な「掃討作戦」や劣化ウランや白リン弾使用などの戦争犯罪、あるいは占領支配を正当化しようとしているのである。

 一例として朝日新聞の場合を取り上げよう。朝日新聞が11月27日現在オンライン上で紹介した「イラク国内の動き」は以下のようなものである。
 爆弾テロ相次ぐ 市民ら48人死亡 イラク(11/25)
 武装勢力700人殺害 イラク西部渓谷地帯で駐留米軍(11/24)
 自爆テロで17人死亡、議会選前にテロ急増 イラク(11/23)
 米大使ら出席の式典に砲弾 イラク中部(11/22)
 イラク復興支援事業で爆破事件 イラク人警備員1人死亡(11/21)
 葬儀会場と市場で爆弾テロ 50人死亡 イラク(11/20)
 モスク内で自爆テロ、シーア派信者ら74人死亡 イラク(11/19)
 スンニ派173人虐待か、栄養失調やけが バグダッド(11/16)
 バグダッドのレストランで自爆テロ、33人以上が死亡(11/11)
 フセイン元大統領の弁護士、射殺される バグダット西部(11/08)

 見た通り、その大半が「自爆テロ」に関するもので、米軍およびイラク軍・警察に対する攻撃について触れた記事は少ない。米軍に対する攻撃にほとんど触れないのは朝日新聞だけの傾向ではない。同じ期間(11月8日から27日まで)に読売新聞のオンラインサイトは5件の自爆テロ見出しをつけ、2件が米軍に対する攻撃の見出しを付けていた。ほとんどのメディアの傾向は同じである。これらの伝えるイラクの姿は、先に紹介したデイリーテレグラフ紙にあるように、半数の人々が米英軍への攻撃を支持するイラクの人民大衆の姿とは相容れない。


(3)戦略国際研究センター(CSIS)や国防情報局(DIA)の調査結果が指し示す武装抵抗闘争の実像。
 私たちが、イラクにおいて誰と誰が闘っているのか、人民大衆の半数が誰を支持しているのか考える上で重要なデータがアメリカの「レフトフック」というグループのウェブサイトに2005年4月に公表された。筆者であるジュナイド・アラムは有名なシンクタンク「戦略国際研究センター(CSIS、Center for Strategic and International Studies)」による「発展するイラク人の反乱:2004年末の状況("The Developing Iraqi Insurgency: Status at end-2004.")」(アンソニー・コーデスマン)のデータを引用しながら、イラクにおける武装抵抗闘争の実像について論じている。

 その中で最も重要な事実は、「『連合軍』への攻撃回数が、リストに載っている他のどのカテゴリーの回数よりもはるかに上回っている」「『連合軍』に対する攻撃が、全ての攻撃の75%を占める」「一方、民間人の目標は、攻撃のほんの4.1%」にすぎないと言うことである。アラムが言うように「この現実は、新聞報道によって描かれた、ナルシスト的で、愚かで、邪悪な、混沌と破壊に向けられただけの反乱という絵図とは著しく反する」のである。(このCSISの調査期間は2003年9月から2004年10月)。
 アラムは、イラク国内での攻撃の75%が米軍および連合軍に向けられているという事実の別の論証をニューヨークタイムズの中にも発見している。2005年4月11日付けのニューヨークタイムズには国防情報局DIAの調査結果が引用されており、2003年7月から2005年2月までの間の「攻撃目標(比率)Target of Attack(Portion)」を表すグラフも、極めて明確に攻撃回数の75%あるいはそれ以上が一貫して「連合軍」に向けられていることを示している。
 アラムも述べているが、攻撃の圧倒的部分が米軍と連合軍に向けられていることは、死傷者で見れば結果が逆転し市民に対する攻撃が多数を占めることと矛盾しない。CSISの調査に基づけば、「連合軍」の死者が451人、負傷者が1002人であったのに対して、同じ期間の市民の死者は1981人、負傷者は3467人で3倍以上を占めているのである。厳重に警備され、防護された米軍、連合軍に対する攻撃に対して、無防備の市民を無差別に標的にする卑劣な攻撃が比較にならないほど簡単に多数の犠牲者を出していることは想像に難くない。そのことが攻撃による市民の被害だけを一面的にメディアが取り上げる余地を作っている。

 しかし、より重要な問題は占領軍と市民という二つの攻撃目標に対する攻撃は、二つの異なる攻撃主体によって行われているということである。一方にはあくまでも米軍と連合軍に対して抵抗し攻撃を行う人々がいる。彼らの目標は占領軍に打撃を与え、イラクから追い出すことである。彼らは地元の人々であり、占領軍への怒りやイラクの解放などさまざまな動機から闘いに参加し、イラクの市民に対する無差別攻撃を手段として決して認めない。彼らが米軍と連合軍に対する闘争の中心をなしているのである。もう一つのグループは市民への無差別攻撃を採用し、イスラム原理主義者と外国人参加者と言われる少数者である。アラムが紹介するように、後者と前者の間には路線と戦術を巡る対立関係が増大している。

 メディアが行っているように後者だけを過大に報道すること、市民への無差別攻撃を非難することは、それを通じてあたかも米軍とイラク現政権の方が正しいとの印象を植え付けるために意図的に行われている。それは、不当極まりない侵略者、占領軍と戦うイラクの人々の正当な権利を否定するだけではない。より重要なことは、米軍と連合軍の占領に見通しが全くないという現実を押し隠す事なのである。「一部の外国人」「原理主義者」だけであれば、米軍がシリア国境付近で行っているような徹底した掃討作戦を行うことで人員や武器の流入を阻止し、抵抗闘争を衰退させることも不可能ではない。しかし、地元のイラク人自身があくまでも闘うのをやめないのであれば、そのような規模の抵抗闘争を力でつぶすことはできない。徹底した掃討作戦と弾圧、虐殺、虐待は、かえって抵抗闘争への参加者を増やすだけである。スンニ派だけでイラク国民の約二割、数百万人がいる。冒頭に述べた秘密の世論調査はイラク人の半分が武装抵抗闘争を支持していると示している。彼らの支持しているのは、メディアが決して触れることのない、イラク人自身の民衆レベルからの米軍と連合軍に対するレジスタンスなのである。


(4)「イラクで誰と誰が闘っているのか」の実体を知るための情報源。
 イラクで誰と誰が闘っているのか、その実体を知るためには多くの情報を総合するしかない。幾つかのサイトはそのための参考になる。これらのサイトを見れば、上で紹介したレフトフックの論文の姿が真実を表していることがわかる。その1つにロイター通信の「アラートネット」のイラクの項がある。毎日の「治安事件」と言う形で、どのような攻撃が行われているか、攻撃対象と被害を知る事ができる。もちろんこれは全体をカバーしている訳ではない。ここで報道されるのは一日数件にすぎないが、一般のメディアよりもはるかに多くの情報を提供している。
※ロイター通信「アラートネット」 http://www.alertnet.org/db/cp/iraq.htm

 また、「イラク・ボディカウント」(IBC)のデータベースも多くの情報を提供している。カウントされた被害者について、職業(市民なのか警官なのか、契約業者か)、どんな状況での被害かをIBCはデータベースで公表している。
※イラクボディカウント(IBC) http://www.iraqbodycount.net/database/


 日本語のサイトでは、「終わらないイラク戦争ー年表 2003年2月〜」(慶應義塾大学 経済学部 延近研究会 編著)がサイトで内外メディアの報じた事実からイラクで起こっていることの再構成を試みている。その継続的な努力には敬意を表したい。
※「終わらないイラク戦争」http://www.econ.keio.ac.jp/staff/nobu/iraq/chrono.htm

 この「終わらないイラク戦争」のサイトで紹介されている【イラク戦争の犠牲者】は国防総省やIBCの公表するデータを最新のものまでカバーしている。このデータは米政府発表と主要なメディアの報道が、イラクの現実と最重要の幾つかの点で大きく乖離している事を示している。その第一は米軍の被害である。<第1図 米軍の死者 月別の推移>は、2005年に入って戦死者のレベルが前年より増加し、戦死者数のレベルが上がっていることを明瞭に示している。私たちは2004年4月以降、米軍の戦死者のレベルが跳ね上がったこと、特に4月と11月のファルージャ侵攻、8・9月のナジャフ侵攻での戦死者がずば抜けていることを指摘してきた。
 「終わらない戦争」が示すこのグラフは、昨年の4月と11月のような突出した月はないが、毎月の傾向では今年はさらに高い水準にあることを示している。もし、そうだとすると「イラクの状況は進歩している」「イラク治安部隊が整備されれば米軍は縮小される」というブッシュ政権の言明は全く事実と反することになる。逆に武装抵抗闘争の攻撃技術は更に洗練され、米軍が米国兵士と置き換えようと試みているイラク軍・イラク警察の部隊では抵抗闘争を押さえきれず、相変わらず米軍が前に立って攻撃作戦をしているために犠牲が増えている事が想像できる。ブッシュ政権の言明にもかかわらず、軍事情勢は客観的には米軍の部分撤退どころではないのだ。泥沼はさらに深まっているのではないだろうか。

 メディアの報道からするともう一つ意外な結果がこのページにある。それはIBCのデータベースから作成したイラク人市民の死者についての<第3図 「大規模戦闘終結宣言」以降の民間人の死者 月別の推移>である。今年に入って、特に4月以降主要なメディアは市民に対する「自爆テロ」の増加、市民の犠牲者の増大というイメージを与えてきた。それが現実に合致しているのかどうかが問題となるのである。このグラフによれば、昨年より今年に入ってからの市民の犠牲者数は若干低い水準にとどまっている。その理由がどこにあるのかは明確ではない。メディアの宣伝ほど市民を標的にした攻撃が増加していないのか、それとも昨年の市民の犠牲が米軍のファルージャ攻撃を始め徹底した大規模殺戮によって大きすぎ、反動で今年はやや減少したのか。市民を標的にした攻撃は増えているが、それを上回って去年の米軍による市民虐殺が多かったのか。現実を簡単に判断することはできない。しかし、いずれにしても事態は極めて複雑であり、「市民のテロによる犠牲が増えている」ということだけで解釈できる状態にはないことははっきりしている。少なくともきちんと事実に基づいて検証しなければ、メディアの報道を鵜呑みにすることはできない、その実例がここにあるといえよう。

 以下、アメリカの「レフトフック」のジュナイド・アラム氏の記事を全訳紹介する。本シリーズ「<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>その18 イラク民間人犠牲者とブッシュ政権の戦争犯罪(上) イラクでは誰が誰を殺しているのか? −−「犯人はスンニ派テロリスト」の“神話”。最大の殺人者は米軍−− 」と併せて検討していただきたい。

2005年12月21日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局





レジスタンスは民間人を標的としているか? 米情報研究機関によると、実際はそうではない。
Does the Resistance Target Civilians? According to US Intel, Not Really
by M. Junaid Alam M. ジュナイド・アラム
『レフト・フック』現在の国内外の政治的事件の解説と分析 2005年4月16日

http://lefthook.org/Politics/Alam041605.html

 外国による自国の支配を終えさせることに身を捧げたイラク人を不断に悪魔のように見せることは、米の占領を維持するための重要なイデオロギー的支柱である。武装レジスタンスを残忍な凶悪犯の一団として中傷することは、効果的な対反乱工作の重要な一部であると、米国の戦争計画者たちにはよくわかっている。(1) もちろん、イラクの民間人への残忍で恐ろしい攻撃が、レジスタンスの一部分であると自称する若干の勢力によって行われた。しかし、この現象がひどく誇張され、前後関係から引き離されて非難されており、占領に対する国内の支持を補強するのに役立つ間違った一般の認識をつくったことを示す、米政府および独立系情報研究機関のデータからの有力な証拠がある。

 2004年12月22日に発表された、アンソニー・コーデスマンが率いる高名な「戦略国際研究センター(Center for Strategic and International Studies)」による、「発展するイラク人の反乱:2004年末の状況("The Developing Iraqi Insurgency: Status at end-2004.")」と題する情報レポートを検討してみよう。 (2) コーデスマンは、反乱の範囲と性格についての米政府の無知に対する鈍い批評を行っている。すなわち、「[米国は、]イラクにおけるイラク人の反乱の成長に対応するのが遅かった。それが性格的には主として国内的なものであり、かなり大衆的な支持を得ていることを認めるのが遅かった」と。

 レポートの最も興味をそそる部分は、2003年9月から2004年10月までのレジスタンスによって行われた攻撃についてまとめられた一組の統計である。それは、攻撃対象の種類、攻撃回数、死傷者数について整理されている。そのデータは、「NGO調整委員会("NGO coordinating committee")」によって収集されたと記されており、レポートの中の表にまとめられている。私は、特に「攻撃または事件の回数」に関するデータを選別し、下のリンクに入っている図表としてそれを示した:
http://www.lefthook.org/Charts/CSIS.jpg




※戦略国際研究センター(CSIS) http://www.csis.org/component/option,com_csis_pubs/task,view/id,1226/


 「連合軍」への攻撃回数が、リストに載っている他のどのカテゴリーの回数よりもはるかに上回っていることがはっきりとわかる。実際、軍事占領軍隊、ひいては大部分が米軍隊に対する攻撃が、全ての攻撃の75%を占める。一方、民間人の目標は、攻撃のほんの4.1%を構成するだけである。この現実は、新聞報道によって描かれた、ナルシスト的で、愚かで、邪悪な、混沌と破壊に向けられただけの反乱という絵図とは著しく反する。

 CSISが広く認められており、アンソニー・コーデスマンは定期的に主流の新聞で見かけるのに、普通の自由主義の発表の場(雑誌など)のただの一つもこのレポートを採りあげず、特にこの統計に言及することも、その政治的な意味を議論することもしなかった点についても、ここで注意しておかなければならない。これは多分、それが彼らの占領賛成路線に対する脅威をもたらすからであり、イラク人が自らを救済するにはあまりにも無力だと断定する「White Man's Burden(訳注)」の哲学に対する脅威をもたらすからである。この今では発表から3ヵ月以上経つ文書を考察した唯一の出版物は、「マルクス主義月刊国際社会主義批評(”the Marxist monthly International Socialist Review”)」である。(3)
※(訳注)「White Man's Burden」:人種差別を扱ったジョン・トラボルタ主演の映画(1995)のことだと思われる。(邦題「ジャンクション」。)

 この統計を偶然として退けることはできない。4月11日付の「米司令官はイラクの軍隊削減がありうると予見」と題するニューヨークタイムズの記事には、2003年3月から2005年3月までの期間のレジスタンス攻撃を回数と割合について表すグラフが付いている。このグラフは、以下のカテゴリーに分類されている:米軍および連合軍への攻撃、民間人への攻撃、イラク軍隊への攻撃、その他の目標への攻撃。データの出典は、国防情報局である。このグラフへの直接的なリンクがなく、タイムズのオンライン版のグラフがいくぶんぼんやりしているので、私はイメージをシャープにして、再びリンクとして、参考のためにそれをここに掲載した:
http://www.lefthook.org/Charts/NYTimes.jpg
http://www.gao.gov/cgi-bin/getrpt?GAO-05-431T


 もう一度、一貫した基礎の上で、持続する期間にわたって、民間人への攻撃が全体的な攻撃のほんの小部分をなすだけであることが明白である。また、過去数ヶ月間、新しいイラク治安部隊を反乱と戦うために訓練する大きな努力があったが、米国の訓練を受けた創設途上のイラク軍を狙う攻撃の割合は、増加したとしてもごくわずかだったことにも注意しよう。これらの新しい軍隊の編成が主に民族的な方針に沿って構成されているとすれば、グラフは、レジスタンスによる宗派的な攻撃の何らかの大きな爆発があったという考えと一致しない。

 なぜ、こうした展開がほとんど気づかれずに済んでいるのだろうか? 一つの理由は、 ―― いやむしろ、一つの言いわけは、 ―― 軍隊が圧倒的多数の攻撃の焦点であるとはいえ、民間の犠牲者が優位を占めるからである。CSIS報告によって調べられた期間の死傷者数を見ると、451人の「連合軍」が殺され、1,002人が負傷したのに対し、1,981人の民間人が死に、3,467人が負傷したことがわかる。この相違の最も明らかな理由は、市場で一団のイラクの民間人を爆弾攻撃することが、高性能の軍用防護服に護られた専門的に訓練された兵士を襲うことよりはるかに多くの犠牲者を生むということである。

 シニカルな批評家は、攻撃の分布と犠牲者の分布との間の相違が、民間人を殺す方がより少ない資源しか必要としないので、攻撃を正確に軍隊に集中させるための、レジスタンスによるある種の支配的な計画があるような分布であることを説明すると主張する。そのような見解は、何よりもまず、中央の統一指令構造があることを仮定するが、それは存在しない。それはまた、特に死の可能性を最小にするように調整された慎重な攻撃を行うことを動機づけられた反乱軍が、民間人への最も致死的な攻撃を特徴づける自爆攻撃で喜んで自分自身を吹き飛ばすと仮定している: 反乱軍は理性を失った人々であるとでも仮定するのでなければおかしな主張である。

 もっとはるかに本当にありそうなことは、レジスタンス内部の民族主義者の潮流が米軍やその他の占領のシンボルに対峙し攻撃するのに対し、周辺の狂信的で日和見主義的な要素がセンセーショナルなメディア報道を必ず得ることのできる、はなばなしい宗派的な攻撃を実行するということである。実際、パトリック・コックバーンの2005年4月11日付けのイラクからの最新報告は、正確にこの評価を裏づける。彼はこう書いている:「政府とほんの少しでも関係がある者を誰でも殺そうとするイスラム狂信主義者と、イラクに駐留する13万の米軍を攻撃することに集中しようとするイラク民族主義者の間に分裂がある。」 コックバーンは、「過激なレジスタンス戦士を脅すポスターがラマディの壁に現れた」ことに注目し、「[狂信主義者は、]我々のイメージを傷つけて、個人的な利益を得るために聖戦を利用した」という、あるスンニ派のイマームの言葉を引用した。 (4)

 そして、これらの狂信主義者は、レジスタンス全体を常軌を逸したものと特徴づけることをひどく切望する米政府によって、惜しみなくその努力を援助されている。イラクの米情報工作員は、例えば、狂信的な反シーア派の宗派ザルカウィについての話をでっち上げるために人々を雇っていることを認めた:

 「我々は、動かせない事実としてザルカウィについての作り話や仮説を受け流した日和見主義者、犯罪者、危ないことをやる奴らに、基本的に1回につき最高1万米ドル($A13,700)を払っていた。そして、彼をイラクでのほとんどすべての攻撃のかなめだと言い立てさせた」と、1人の工作員は言った。

 「米国に戻ると、このスタッフは感謝で迎えられ、政策決定の基礎をつくった。我々は悪者、つまり一般向けに捕らえるべき識別可能な誰かを必要とした。そして、我々は一人見つけた。」(5)

 大部分のレジスタンス勢力が民間人への宗派的で残忍な攻撃に参加していないという評価は、重要な政治的出来事でさらに裏書きされている。4月9日に、ロサンゼルス・タイムズが引用した評価によれば、大部分はシーア派のおそらく30万人を数えるデモ参加者の一団が、2年前にサダムの像が取り除かれたフィルドス広場に殺到し、米のイラク駐留を終わらせることを大声で要求した。ジュアン・コールが「1958年以降イラクで最大の大衆的デモンストレーション」(6)(デモ参加者は15万人だけと想定しているが)と表現した行動において、抗議者はブッシュ、ブレア、サダムの人形を燃やし、「ノー、ノー、アメリカ!ノー、ノー、占領!("No, no to America! No, no to occupation!")」とスローガンを繰り返した。一人のデモ参加者は、大衆の気分を簡潔に捉えて宣言した:「米国はテロの母だ。全ての爆発は、彼らがここにいるから起こっているんだ。」

 もし(シーア派のイラク人が)、スンニ派に基礎を置く武装レジスタンスの大部分が、占領に反対しており、自分たちを殺そうとしていると考えているならば、そのような多数のシーア派が占領に抗議するために現れただろうか? それどころか、多数のスンニー派教徒がデモンストレーションに加わった。何人かのスンニ派のイマームが金曜日礼拝で、彼らの支持者にそうするように勧めたのである。 (8)

 結局、情報研究機関のデータ、地上の政治的現実、そして若干の基本的常識の組み合わせは、レジスタンスが、しばしば西側の想像に浮かぶような、役立たずの狂った茶色の野蛮人というステレオタイプの群れではないという事実を示している。我々がこれを早く理解するほど、戦争の野蛮行為自体を早く終えることができる。

注:
1. マーク・ダナーのイラクについての優れた記事/レポートの序文の引用を参照:
http://www.markdanner.com/nyreview/042805_Iraq_election.htm
2. http://www.csis.org/features/iraq_deviraqinsurgency.pdf
3. http://www.isreview.org/
4. http://news.independent.co.uk/world/middle_east/story.jsp?story=628300
5. http://fairuse.1accesshost.com/news2/age14.html
6. http://www.juancole.com/2005/04/up-to-300000-demonstrate-in-baghdad.html
7. http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iraq10apr10,0,1677779.story?coll=la-home-world
8. http://www.rfi.fr/actufr/afp/une/050409200742.iw5ba5fq.asp (French)