シリーズ<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>その18
イラク民間人犠牲者とブッシュ政権の戦争犯罪(上)
イラクでは誰が誰を殺しているのか?
−−「犯人はスンニ派テロリスト」の“神話”。最大の殺人者は米軍−−


(1)イラクのジャーナリストからのメール。
 イラクのジャーナリスト、イサム・ラシードさんから届いたメールを紹介する。彼はバグダッドのアダミヤ地区(今年8月30日、巡礼者約1000人がパニックを起こして犠牲になったその橋の対岸の地区)在住の映像ジャーナリストだ。彼はこの8月に「心に刻む会」の招請で訪日し、イラクの実情について彼自身が撮影したビデオを使って各地を講演して回った。
[集会報告] アジアを共に生きるための戦後60年集会(署名事務局)

 彼のメールは、スンニ派の市民が米軍のみならず、イラク警察やイラク軍によって、あるいはこれらと結びついた正体不明の組織によって殺され続け、危険に晒され続けていることを明白に示している。従来、スンニ派市民や聖職者に対する殺人は、バドル旅団(シーア派のイラク・イスラム革命最高評議会SCIRIの民兵組織)やバドル旅団が多数を占めるイラク警察によるものと言われてきた。しかし、バスラにおいて潜行活動中で市民に対する爆破テロを準備中と思われる英軍特殊部隊員の逮捕は、バドル軍団やイラク警察に加えて、米英軍の特殊部隊がスンニ派、シーア派双方の市民に対する誘拐・殺害・爆弾テロを実行して互いの敵愾心を煽り、内戦の危機まで人為的に作りだし、それを占領に利用している可能性も高まってくる。
英軍による許し難い蛮行。バスラ警察署攻撃を糾弾する!(署名事務局)


 やあ、みなさん。
 私は、イサム・ラシード、イラク人のジャーナリストです。
 この事件は今イラクで起こっている現実を示してます。
 この事件は9月1日に起こりました。友達同士の3人が9月1日の夜に東アダミヤ地区(バグダッド)を車で走っていました。そして、彼らは警察のチェックポイントで止められて、その後警察に逮捕されました。目撃者たちは彼らが車の中に何も持っておらず、なぜ逮捕されたかわからないと言います。9月7日に、彼らの家族が死体置き場を捜していて(今では誰か逮捕されたときには家族が死体置き場を捜すのが普通です)、彼らの内の一人の遺体を見つけました。残りの二人がどこにいるのか、死んでいるのかどうかも私たちにはわかりません。
 これがイラクの現在の状態です。イラクに安全など全然ないということがわかるでしょう。目撃者の一人は、現在の問題は警察が人々を殺しているとことだと言います。そして、なぜ?何のために?と尋ねました。誰もその理由も、彼ら(警察)が誰のために働いているのかもわかりません。イラク政府はそれはイラク警察ではないといいます。しかし、彼らはどうやって、どこからパトカーを手に入れたのか、彼らはどうやって夜間に動き回れるのか?とイラクの人々は尋ねます。バグダッドでは夜間外出禁止令が出されており、夜中の12時以降には町の通りを移動することはできません。
 ある人は私に彼らが警察でないのなら、どうして彼らは銃を持ち運び、自由に移動し、人々を家から逮捕していくのかと言います。米軍と協力しているか(目撃者はそうだったと証言しています)、あるいは政府に協力しているのでなければ誰もそんなことはできません。今のところ私たちは何が本当のことなのかわかりません。
 毎日逮捕された人々が殺されて姿を消し、同じ事が次々と起こっていることが想像できるでしょう。下に添付した写真でこれらの遺体の1つを見ることができます。そして警察が彼を殺す前にどのように拷問したか−脚にドリルで穴を開けたことがわかります。この男性の名前はオマール・アフメッド、29才で、バイヤーで彼は静かに暮らしていたと彼の友達すべてが言います。
私はこれらの写真を9月7日に撮りました。
(追伸)このリストのジャーナリストのどなたか、あるいは私から承諾を得ていないジャーナリストでも構いませんから、この話を新聞で取り上げてください。



(2)AP通信も疑問を呈するイラク民間人犠牲者の真の姿、真の責任の所在。
 10月7日のAP通信は衝撃的な事実を伝えている。AP通信の集計によれば、4月以来少なくとも539体の死体がイラクで発見された。(バグダッドでは204体)。多くの身元は不明だが、判明分について言えばスンニ派市民が116人、シーア派とクルドの市民が43人であるという。ほとんど報道されないがスンニ派市民の中に大量の拉致・虐殺事件の犠牲者が出ていることを明らかにしている。APは、この集計は毎日のように1体、2体と発見される死体は報道されないことが多いので含まれていない可能性が大きい、539体という数字は最低限の数字であるとコメントしている。

 AP通信はまた、次のように伝えている。
−−スンニ、シーア両派はお互い相手が殺人部隊を使っていると非難しあっている。
−−シーア派の虐殺の犠牲者は一般的にはスンニ派武装抵抗勢力によるとコメントしている。
−−しかしスンニ派の市民が大量に拉致され、虐殺され、放置されたケースが何件かある。
−−バグダッド郊外で発見された最大の犠牲者のグループ−−36人−−はスンニ派であり、スンニ派の市民は、シーア派が支配する現政権と警察(内務省)がスンニ派に対して「静かな死の作戦」を実行していると信じている。
−−9月27日にイラン国境付近の砂漠に1ヶ月放置されているのが見つかった22体のスンニ派市民について、8月18日に約50台の車に満載された警察(内務省)の制服を着た男たちが夜明け前にバグダッドのイスカン地区を包囲し、22人の若者を拘束して連れ去った人々であった。彼らは後ろ手に縛られたまま処刑され、砂漠に放置されていたのだ。等々。

 日本のマスコミは、ザルカウィなど「外国人テロリスト」のシーア派に対する無差別攻撃やスンニ派武装勢力による自爆テロばかりを報道し、まるでイラクで多発する自爆テロの犠牲者、市民に対する暗殺、謀殺も、全て「加害者=スンニ派、被害者=シーア派」というイメージが作り上げられるように、意図的に一面化と誇張による報道が行われている。

 AP通信のこうした記事は、このことに重大な疑問を投げかけ、これまで欧米と日本の大手メディア自身が作り上げてきたイラクの現状がウソと虚構で塗り固められていた可能性を強く示唆しているのである。実際には、このような真実をねじ曲げる、従って米英占領軍や傀儡政権が自らに都合の良い事件だけを誇張して意図的に垂れ流す似非報道の陰で、スンニ派市民に対する暗殺部隊が組織され、多数の市民がその犠牲として殺されている。APが紹介するように、イラク警察の制服を着た大量の人間が組織的に行動している。外出禁止令の出ている夜明けに自由に行動し、住民の包囲、拘束を行い、そして捕まえたものたちを処刑し、死体を川岸や国境近くの砂漠に放置するのだ。

 この暗殺部隊は一体誰なのか。イラク内務省がとぼけるような「制服泥棒」であるはずがない。外出禁止時間にパトカーに乗って制服を着て武装している部隊−−これは警察(内務省部隊)であるか、それと結託した部隊(バドル旅団とスンニ派の市民たちは信じている)である。そして、当然のことながらバグダッドを支配する米軍とこの部隊の間には密接な連携があるはずである(そうでなければ米軍から攻撃されるであろう)。
 先に紹介したイサム・ラシードさんは、今年8月15日の「心を刻む会」での講演会で、スンニ派地域にわざとシーア派犯行を匂わせてスンニ派の惨殺死体を置き去りにし、シーア派地域にはわざとスンニ派犯行を匂わせてシーア派の惨殺死体を置き去りにするような犯罪が増えている、と述べた。まさにこれらは諜報機関が関与する陰謀であり謀略である。

 私たちは今年1月に、ブッシュ政権(米軍とCIA)がイラク軍・治安組織を指導し、「エルサルバドル型の殺人部隊」の組織とスンニ派指導者暗殺の活動を行っていること、攻撃の対象は指導者だけでなく一般市民にも向けられ、暗殺と死の恐怖による支配が始まっていると指摘した。米軍、イラク軍、警察と一体となり、無差別に市民を拘束し、残虐極まりないやり方で虐殺する「死の部隊」こそ、米軍がエルサルバドルでやったやり方そのものに他ならない。さらにこの部隊の裏にはそれを指導する米軍特殊部隊、CIAが存在し、時には自ら謀略を行っていることを意味する。それはバスラで拘束された英軍特殊部隊の姿と重なりはしないだろうか。
※539 Bodies Found in Iraq Since April (AP)
http://news.yahoo.com/s/ap/20051007/ap_on_re_mi_ea/iraq_death_squads
※武装勢力、小学校教師ら6人を教室で射殺 イラク(朝日新聞)
http://www2.asahi.com/special/iraq/domestic.html
イラク戦争被害の記録−−米軍がイラクでエルサルバドル型「殺人部隊」という正真正銘のテロ部隊を組織−−エルサルバドルでもここイラクでもネグロポンテ米国大使が陰の指揮官。(署名事務局)



(3)憲法の国民投票を前に誰が誰を殺しているのか。
 バグダッドの女性リバーベンドは、米軍、イラク軍(国家警備隊)がスンニ派地域の掃討を行うことで、国民投票で反対票を投じさせない、無力化しようとしている、と以下のように書いている。
「数週間の間、スンニ派サイド、とくに農村地域では、国民投票参加についての関心は明らかにあった。選挙のときのようにボイコットすべきか、あるいは投票によって否決することがイラク国民としての義務なのか、について議論があった。
 そこへ再び、タル・アファル、ラマディ、カイム、サマッラなどのスンニ派地域に対する軍事攻撃があった。それ以来、スンニ派を投票させないために、国民投票に先立って、スンニ派地域が意図的に狙われていると誰もが感じている。自分の町が爆撃され、家族全員が赤新月社(赤十字社に当たる)のテントに収容されたとしたら、誰が憲法のことなんか気にかけるだろう。(略)
 スンニ派はバドル旅団と国家警備隊にいまや公然と脅されている。2日前、国家警備隊は、アダミヤで襲われたことの報復として、バグダード、アダミヤ地区の「ラス・イル・ハワシ」の家々を強制家宅捜索した。その地域から逃れてきた人々は、家宅捜索された家はすべて、ガラスを割られ、ドアは蹴破られ、テーブルはひっくり返され、人々は虐待され、金品が略奪されたと訴えている。」
※バグダッドバーニングhttp://www.geocities.jp/riverbendblog/

 リバーベンドの書いていることは真実である。誰が連日の攻撃の中にさらされて、なおかつ憲法草案に対して向かい続けられようか。
 イラク駐留米軍は10月4日から、西部アンバル県のユーフラテス川流域、ハディサ、ハクラニヤ、バーワナなど近郊の町で、大規模な武装勢力掃討作戦「リバー・ゲート」を開始した。投入兵員数は2500人とされ、単独の作戦としては今年に入って最大規模だ。多国籍軍によれば(5日付)アルカイダ6人を殺害し、110人のテロリスト容疑者を拘束した。すでに米軍は10月1日からサダハなどに海兵隊1000人を投入して掃討作戦「アイアン・フィスク」を開始していた。これらイラク西部アンバル県に対する大規模掃討作戦は、米軍4千、イラク軍6千を投入した大規模なタル・アファール掃討作戦「リストアリング・ライツ」(9月10日開始)、ルトバハに対する「サイクロン」作戦(9月11日開始)、ザファラニアに対する「フリー・フリッカー」(9月15日)に続くものである。9月以降スンニ派の居住区、特にアンバル県のユーフラテス川流域諸都市、さらにタル・アファール、キルクーク、モスルなどに対しては攻撃に次ぐ攻撃が繰り返されている。

 バグダッドのアダミヤなどスンニ派地域、さらにはサドル師支持者の多いサドルシティなどのシーア派地区も上に紹介したスンニ派地域に劣らぬ、いやそれを上回る激しい攻撃を受けている。米軍は文字通り連日連夜、攻撃、掃討を繰り返している。10月1日から5日の間だけでも、18人を拘束(1日)、5カ所の武器庫を発見(2日)、早朝攻撃で7人拘束(3日)、14人を拘束(3日)、78人を拘束、兵器を発見(4日)、未明の攻撃で20人を拘束、バグダッド南部で11人拘束(5日)という有様である。(多国籍軍プレスリリースより)

 リバーベンドの日記にあるように、これらの地域では絶え間のない空爆が繰り返され、住民は避難を余儀なくされ、帰ってみれば家は破壊され、あるいは捜索で家の中は滅茶苦茶にされ、さらには空爆、攻撃で殺されたり負傷させられたりしている。住民は命の危険に晒され、身内を「テロリスト容疑者」として拘束され、あるいは殺されているのだ。こんな状況で誰が憲法の国民投票のことを真剣に考え続けられるだろう。米軍はこのような掃討の繰り返しで、スンニ派の住民が疲弊し、無力感を感じてシーア・クルド有利の憲法案への闘争をあきらめ、断念せざるを得ない状況に追い込むことを狙っているのだ。このような、イラク民衆の意志をむりやり押しつぶすような卑劣で無法なやり方では、たとえ憲法を見せ掛けの国民投票で「成立」させようと、それは真にイラク民衆全体から正当なものとは見なされず、イラク国家の分断を一層深め、占領と憲法に対する憎悪と闘争を激化させるだけである。
※バグダードバーニング「2005年10月3日 月曜日 憲法をめぐる会話・・・」(池田真里訳)
http://www.geocities.jp/riverbendblog/
※多国籍軍プレスリリース http://www.mnf-iraq.com/releases.htm



(4)「イラク・ボディカウント」の『新報告書』−−イラク民間人の最大の殺人者は米軍である。
 シーア派市民を狙った攻撃、あるいは「無差別テロ」、自爆攻撃による市民の犠牲は大きなものがある。9月だけでバグダッドのカドミヤ地区で114人死亡(14日)、バラドで85人死亡(30日)と大規模な被害が続いている。しかし同時に、すべてを「テロリスト」のせいにするやり方、人々を殺しているのは「外国人テロリスト」の仕業という宣伝がイラクで実際に起こっていることを完全に歪めている。「武装抵抗勢力=悪、イラク政府=米軍=善」というイメージを、イラク国内は言うまでもなく、米英や世界中のほとんど情報を知らされない人々に植え付けること−−これは米軍と傀儡政府の常套手段であり、同時に西側主要メディアが繰り返すプロパガンダの手法でもある。

 しかし、少なくともイラクの人道に関する報道に関する限り、欧米と日本の大手メディアが作り出すイメージを、まずは疑って掛かることからしか、真実の姿、本当の姿を見い出すことはできないのである。私たち日本で伝えられるイメージ−−米軍やイラク政府は、ならず者であるスンニ派武装勢力の攻撃やザルカウィ派の自爆テロを撲滅するために「正義の戦い」を行っている。武装勢力の主力をなすスンニ派はテロリストの巣窟だ。被害者は民間人ばかり、それもシーア派ばかり。等々−−は、ことごとくウソと虚構、作り上げられた“神話”である。
 真実は逆である。米軍・傀儡政府軍が、「死の部隊」による虐殺と米軍・イラク軍による大規模包囲・制圧作戦などスンニ派市民に対する無差別攻撃を強行することで、必死になって占領支配維持のためにスンニ派の弾圧と抵抗の鎮圧を行っているのである。そして米国製の政策や慣習や国家機関を押し付け、連邦制導入でイラクを分裂に導く憲法に反対し、国民投票に反対するスンニ派を武力で屈服させようとしているのである。

 イラクにおける市民の犠牲とその責任をさらに別の角度から明らかにするために、以下に2つの客観的な資料と分析を紹介する。1つは、イラクの民間人犠牲者を記録し続ける「イラク・ボディカウント」(Iraq Body Count)の報告書で、「誰がイラクでの殺人者であるのか」を論じている。もう一つは、アメリカの「レフトフック」という左翼系のウェブサイトが紹介するデータと記事であり、これは「誰が米英占領軍と闘っているのか」を明らかにしている。
 今回の(上)では、最初の資料の紹介である。「イラク・ボディカウント」の記事に沿いながら、誰がイラクでの殺人者であるのかを見ていきたい。

 「イラク・ボディカウント」は7月下旬に新しい報告書を発表した。そのタイトルは、「2003〜2005年における民間人犠牲者の記録」(A DOSSIER OF CIVILIAN CASUALTIES 2003-2005)である。報告書は、以下のように記述している。「殺されているのは誰か?−2万4865人の民間人が2年間で殺された。その大半が、暴力(戦争とその後の混乱)によるものであった」、「殺人者は誰か?−米主導の軍隊は民間人犠牲者の37%の殺人者であり、米軍による殺害数は“同盟軍”(多国籍軍)全体の98.5%である」。イラク戦争の犠牲となった2万4865人の民間人、この中の4割弱が米軍の銃撃、砲撃、空爆によって殺害されたことを調査結果は明らかにした。そして「殺人行為が実行された時期はいつか?」の中で指摘されているように、今日に至る民間人犠牲者の70%が、大規模戦闘終了後(2003年5月)以後に発生していることを明らかにしている。その記録は、血塗られた米軍の占領支配の実態とともに、破綻した占領支配の実態を裏付けている。「イラク・ボディカウント」は、民間人殺害者を、米軍(37.3%)、反占領武装勢力(9.5%)、犯罪行為(35.9%)、不明な主体(11%)等々に分類している。

 この報告書から以下のようなことが明らかになる。
 @ すべての犠牲者は米英軍による侵略が生み出した結果である。米が戦争の口実とした大量破壊兵器など存在しなかったことはすでに明らかにされている。戦争そのものが、ウソとでっち上げに基づく不当な侵略戦争であり不当な占領であったのだ。そして言うまでもなく、この不当な戦争や占領が無ければ彼らの犠牲はありえないのである。その意味で、米軍と占領軍は全ての犠牲者に責任が有るのである。不当な戦争や占領なしに、武装抵抗闘争や「テロリスト」の闘争など起こりえなかった。もちろん市民に対する無差別テロなどあり得なかったのである。そのことをまず最初に確認しなければならない。

 A その上で確認されるべきは、最大の殺人者は米軍であるということだ。戦争の過程で6000人以上の市民(数万の兵士の虐殺はのぞいたとしても)を殺しただけではない。それ以後も直接市民を殺し続けているのだ。全犠牲者の3分の1以上が米軍に殺された。誰が米軍を解放軍だとか復興に来たと考えるだろうか。

 B 市民の犠牲者の3分の1以上が「犯罪」による犠牲者である。今ではイラクの人々は強盗、殺人、誘拐を恐れずに生きていくことはできない。しかし、この犠牲についても米軍・占領軍の直接的責任が大きい。彼らはイラクの国家機構もろとも警察機構を破壊した。占領軍は当然イラク警察に代わって治安責任を負わなければならない。しかし、今日の殺人、誘拐など凶悪犯罪の横行は、米軍が市民を巻き込んだ武装勢力への攻撃にしか関心が無く、略奪、殺人、強盗などの犯罪の取り締まりに何の関心も払ってこなかった事の結果である。米軍がバグダッド陥落後全土で起こった略奪を制止もしなかった事は有名である。米軍がバグダッドの警察機構を破壊し犯罪の巣窟に変えたことが多数の市民の犠牲を生み出したのだ。

 C イラク人武装抵抗組織の対米攻撃に巻き込まれた犠牲者は1割弱である。西側メディアが大きく取り上げる「テロリスト」の市民向けの無差別自爆テロ(攻撃目標が米軍やイラク治安組織に向いていない)などは「不明な主体」の一部を占めるにすぎないが、仮にそれを全部含めても抵抗闘争による犠牲は2割である。しかも上のAP通信の記事が伝えるように、実際にはこの「不明な主体」の多くをイラク政府系の「死の部隊」が占めている可能性が大きいのである。いずれにせよ武装抵抗勢力による被害を最大に見積もっても、イラクの市民の犠牲の8割が米軍・占領軍によるか、彼らに直接の責任があるという結論が出てくる。それはブッシュ政権とブレア政権、占領支配を支える小泉政権をはじめとする多国籍軍各国政府の責任である。イラクの民衆のこうした犠牲者の分類による真の姿、真の責任の所在について欧米や日本の主要メディアは取り上げたことがあるだろうか。

 この「イラク・ボディカウント」の調査結果は、欧米や日本のメディアにおいて毎日のように喧伝される「自爆テロ」や「武装勢力による襲撃」等のイラク民衆の反米・反占領闘争による被害の意図的な誇張に対する真っ向からの批判である。最大の民間人殺害者は米軍なのである!もちろん「イラク・ボディカウント」はあくまでも客観的な立場を貫いており、極めて慎重である。「侵略後の米軍を主導とする軍隊による死者は2004年の4〜10月の間にピークを付けた」ことをはっきり指摘した上で、「反占領武装勢力、犯罪、不明な部隊による死者は、全期間を通して拡大傾向にある」と指摘している。この調査の期間はイラク戦争開始からの2年間であり、2005年4月以降は対象としていない。そしてこの4月以降市民に対する無差別攻撃が増えていることも事実である。しかし、それでもなおかつ米軍が犠牲者について最大の責任を負う戦争犯罪者であることは動かせない。

 この報告書は、ブッシュ政権と共に占領支配を担うイラク移行政府から非難と敵意をもって迎えられた。「イラク人は、民間人をターゲットにしたテロリストの危険にさらされている」、「多国籍軍は民間人の犠牲を避けようとしている一方、テロリストは民間人をターゲットにし、皆殺しにしようとしている」、「イラク人犠牲者の根本(原因)はテロリストにある」等々。民間人犠牲の責任を「テロリスト」の責任に帰すやり方は、ブッシュ政権と米軍、イラク移行政府=傀儡政権の常套手段である。しかしイラク移行政府は、一民間団体の報告書に強い批判を表明せざるを得えなかった。イラク戦争犠牲者、占領支配下の犠牲者の問題は、米軍の民間人殺害を黙認し米軍とともに民間人に銃を向ける(昨年末のファルージャの大虐殺を見よ!)移行政府=傀儡政権にとって隠し通したい弱点であり恥部であることを示している。それは同時に、民間人犠牲者の主犯であるブッシュ政権と米軍の戦争責任の追及の問題でもある。



(5)公表数字は氷山の一角−−「イラク・ボディカウント」の『新報告書』と『ランセット』の相互補完性。
 “イラク民衆の虐殺”、“イラク戦争の犠牲者”−−これはイラク戦争犯罪の最も集中的な表現である。ブッシュ政権・米軍に対する戦争犯罪とその責任追及の核心である。しかし、ブッシュ政権・米軍は沈黙を守っている。過去、米軍司令官は、「米軍は市民のボディカウント(犠牲者を記録すること)をしない」と言い放ったが、今なお掃討作戦を繰り広げ、多くの民間人を殺害している。8月12日、ラマディ近郊において米軍はモスクから出てきた民衆に発砲、その結果15人を超える民間人が犠牲となったことが報じられた。また「テロリストの拠点を叩く」として空爆を繰り返し、子供を含む多くの無実の民間人の殺害を今なお繰り広げている。これらは氷山の一角である。米軍と移行政府はマスコミへの統制を強め、民間人の犠牲をめぐる情報の多くは闇に葬られている。

 これまでも伝えてきた点であるが、「イラク・ボディカウント」の民間人犠牲者に関する評価は複数のマス・メディアの報道に基づいている。それ故、慎重かつ控えめな(conservative)評価である。だからこそ、誰にも否定できない真実の一部分を映し出し、説得力を持っている。実際にはイラク戦争と占領による犠牲者の数ははるかに多い。その中での米軍が責任を負うべき犠牲者の比率ももっと高いのである。
 イラク人犠牲者の全体像に迫る調査結果として、英の医学誌『ランセット』(オンライン版)2004年10月30日号(10月28日オンライン掲載)に発表された論文「2003年のイラク侵略前後における死者数:集落抽出調査」(Mortality before and after the 2003 invasion of Iraq:cluster sample survey)がある。これは、イラク国内約1000世帯に対して聞き取り調査を実施し、米軍侵攻以前と侵攻以後における家族の出生や死亡の状況に関する実地調査を行い、統計的手法で死者数を推計するという方法を使って行われた調査である。それによれば、少なくとも10万人のイラク市民が犠牲になったという。今回のイラク・ボディカウントの2万4865人と比較しても高い数字である。犠牲者を生み出した最大の要因は人口が密集する地域への空爆であること、ファルージャへの攻撃が非常に大きな犠牲者を生み出したこと、米軍によって殺された犠牲者の45%が子どもであること等々、侵略と犠牲者との関わりを科学的、統計学的に証明した。

 『ランセット』の結果を見るならば、メディアがとらえた死者数がいかに少なく、氷山の一角でしかないことは明白である。メディアが犠牲者数を報じること自体が少なく、また、空爆などによって現場で殺された人だけを報道していることを考えればこれも当然である。その場では一命を取りとめても、十分な手当を受けられずに数日後に死んでしまった人などは絶対に報道されない。しかし、繰り返しになるが、「イラク・ボディカウント」の調査結果は複数のマスメディアの報道に基づく慎重なかつ控えめな評価であり、真実を十二分に反映している。例えば「誰が殺されているのか?−おおよそ2人に1人が0〜2歳の幼児である」としており、この割合は両調査結果においてもほぼ同様である。調査結果の手法の違いや調査カテゴリーの違いが反映されているが、相互補完的である。だからこそ、確かな報道記録に基づき犠牲者を記録し続ける「イラク・ボディカウント」の地道な活動は、戦争に加わり占領支配に加担した各国政府の戦争責任への鋭い追及なのである。
※イラク中部で市民15人死亡、米軍は銃撃を否定  8月14日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050814-00000710-reu-int
※米軍空爆で56人死亡 イラク西部
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050830-00000203-kyodo-int
※米軍、イラクでのロイタークルー殺害事実を認める
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050902-00000502-reu-int
※イラク中部で市民15人死亡、米軍は銃撃を否定  8月14日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050814-00000710-reu-int
『最低10万人の衝撃:学術調査が初めて明らかにした米侵略・占領軍による“イラク人大量虐殺”ファルージャの犠牲者が異常に突出』(署名事務局)

2005年10月21日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局





イラク・ボディ・カウント 最新報告
http://www.iraqbodycount.net/press/pr12.php

 この報告書本文は28ページに及び、各パート毎に結論、注釈、議論とノートで構成されている。ここでは各部の冒頭におかれている結論の部分を訳して紹介する。ただし、第3番目の「殺人者は誰か」の部分については、注釈の部分もあわせて紹介する。

2003〜2005年における民間人犠牲者の記録(要約)
イラク・ボディ・カウント 2005年7月発表

殺されているのは誰か?
・ 2万4865人の民間人がはじめの2年間で殺された。その大半が暴力によるものであった。
・ 殺された人々の82%が成人男性であり、9%が成人女性である。
・ 殺された人々のほぼ10人に1人が18歳以下であった。
・ おおよそ2人に1人が0〜2歳の幼児である。
・ 成人の犠牲者の大部分は、子供を失ったり、未亡人になった。



犠牲者はどこで暮らしていたのか?
・ 死者の大部分は、民間人の人口が集中している地域で発生している。
・ その77%が12の都市で発生している。
・ バグダッドだけで全死者のほぼ半数に相当する。
・ ファルージャはバグダッドに次ぐ二番目の犠牲者を記録している。




殺人者は誰か?
・ 米主導の軍隊は民間人犠牲者の37%の殺人者である。
・ 36%に相当する犠牲者が犯罪に巻き込まれ殺された。
・ 反占領武装勢力は民間人犠牲者の9%の殺人者である。
・ 米軍による殺害数は“同盟軍”全体の98.5%に相当する。





殺人者の分類

米主導の連合軍(US-led forces)
 侵攻局面(2003年3月20日から4月30日までと定義する)と侵攻後の局面(2003年5月1日からその期間の終了まで)には異なった考えが適用される。侵攻局面では米軍主導の軍事的攻撃の直接の結果として起こったすべての死者は米軍主導軍だけに帰せられた。これは、(a)このいわゆる「畏怖と衝撃」作戦の局面で報告された市民の死者のほとんどが米主導軍の空からの攻撃−−主要には空爆−−の結果であり、イラク軍はその責任を負う事はできないからであり(死者のファクトシート3参照)、(b)この期間には比較できるようなイラク軍の軍事攻勢は報告されていないからだ。しかし、犯罪行為(例えば盗みや略奪)や民族間の緊張(例えば報復殺人)による死者は侵攻局面にも起こっており、それらはしかるべく分類されている。2003年5月−−米主導の連合軍暫定当局(CPA)が事実上の政府となり、国連によって占領権力としての責任を負うと承認されて以降、反占領勢力や未確認の攻撃者による具体的な計画された攻撃の明確な諸報告が、市民の死を、当該事件の報告された状況に従って、1つ、あるいは複数の攻撃者のせいだとするのが適切だとすることを許すようになり始めた。

反占領武装勢力(Anti-occupation forces)
 殺人者(あるいは殺人者のグループ)は、メディアの報告が彼らの標的が米主導連合軍の兵士か連合軍のために働いている、あるいは連合軍に協力しているイラク人であると明らかにした時、反占領軍とする。現在のイラクの状況が厳密に言って占領かどうかはこの分類には関係がない;反占領勢力が自分たちをそのように見ていればそれで十分だ。

米主導連合軍と反占領勢力の両方(Both US-led and anti-occupation forces)
 死者が米主導の連合軍と反占領の反対者たちの間の軍事的衝突の結果として生じたところでは、これらの死者は攻撃者双方の犠牲−−交戦にまきこまれた−−と分類した。メディアが報じた米主導連合軍と反占領勢力の直接の交戦に巻き込まれて死んだ市民623人がいた。しかし、この総計には保健省によって「軍事行動」の結果として報告されている死者の数のうち3分の2下参照)を加算しなければならない。

イラク保健省(MoH)(Iraq Ministry of Health (MoH))
 イラク保健省は、保健省の市民の犠牲者の記録は2004年6月以降、二つのカテゴリーに分類されていると述べている;「自動車爆弾、その他のはっきりとテロ攻撃と識別できるものによる犠牲者は、テロ事件によって引き起こされたものと記録される。他のすべての犠牲者は軍事行動(の結果)と記録される。・・・この犠牲者はテロロストによってか連合軍によって殺されるか傷つけられたものである。連合軍にはイラク警察、イラク軍、多国籍軍が含まれる」(1) これら二つのカテゴリーの殺人者の分配は、約3分の1が「テロ攻撃」、3分の2が「軍事行動」(その中には連合軍への敵対者ばかりでなく米主導の連合軍が入っている)と報告されている。私たちはこれらをそれに合うように私たちのデータに加えている。

主に犯罪による殺人(Predominantly criminal killings)
 遺体安置所から報告された死者数は、イラクで毎日起こる犯罪による暴力の最も正確な測定値を提供する。IBCデータベースに追加され、この研究に含まれる死者数は、侵略前に記録されたそのような(犯罪による)暴力の非常に低い「バックグラウンド」レベルを越える死者数だけである。その「バックグラウンド」の平均値は2002年に1ヶ月当たり14人だった(2)。現在死体安置所で記録される死者数の大部分、特にIBCの死体安置所のデータの大半を提供するバグダッド市の安置所のデータは、犯罪と関係していて、保健省によって記録される戦争関連の死者と明確に区別されるといわれている。「(死体安置所で記録された死者の)圧倒的多数は武装抵抗勢力とは直接関係する理由で死亡したのではなく、首都の通りを苦しめている犯罪の波の結果である。」(3) 死体安置所の死者は、従って主に−−しかし、全部ではないが−−犯罪に関係したものと考えるべきである。ロサンゼルス・タイムスが報告しているように、「当局筋が言うには、いくつかのケースでは、彼らが戦争行為を偽装した犯罪を調査しているのか、暴力的ビジネスを偽装した政治的暗殺を調査しているのかわからないほど、動機が不透明である。」(4)

未確認の攻撃者(Unknown agents)
 私たちは、目標が占領に関係すると確信できないときには、殺人者を「未確認の攻撃者」に分類した。これは、市民だけを目標にしたと見られる攻撃、あるいはいかなる軍事的な目的も確認できない攻撃を含んでいる。例えば市場やモスクでの自爆テロ、個人的なあるいはグループ間の復讐を動機とするものと見られる攻撃などである。このカテゴリーは、メディアが殺人者についてどんなはっきりした情報も提供しなかった334人の死者も含む。それゆえ、「未確認の攻撃者」のカテゴリーは、「犯罪」や「反占領勢力」のカテゴリーの範囲と重なりそうでであるが、しかし、「米主導の連合軍」のカテゴリーとも重なるりうる。なぜならこれらの死者のいくらかは明らかに軍事占領に反対していたからである。

1 Knight Ridder 25 Sep 2004; Dr Shakir Al-ainachi D.G. Medical operations Ministry of Health, HMGOV Freedom of Information request by Edward Hibbert.
2 Morgue records show 5,500 Iraqis killed. Daniel Cooney & Omar Sinan Associated Press, 24 May 2004.
3 6,634 bodies found in Baghdad mortuary. Anthony Lloyd. Times (London), 27 Nov 2004.
4 Crime as lethal as warfare in Iraq. Monte Morin. Los Angeles Times, 20 March 2005.


殺人行為が実行された時期はいつか?
・ 民間人30%の死者は、2003年5月1日の侵略期に発生している。
・ 侵略以後に殺害された民間人の数は、はじめの1年間では6215人であったの対して、その後の1年間では約2倍の11351人であった。
・ 侵略以後の米軍を主導とする軍隊による死者は2004年の4〜10月の間にピークを持つ。
・ 反占領武装勢力、犯罪、不明な部隊による死者は、全期間を通して拡大傾向にある。






どのような兵器が殺害に用いられたのか?
・ 民間人死者の半数以上(53%)が爆発物によるものである。
・ 空爆は爆弾による死者の64%を占めている。
・ 子供は、不釣り合いなまでに全種類の爆弾によって殺されている。しかしそのほとんどが、空爆と不発弾によるものである。
・ 民間人の4.3%が、自動車爆弾による自殺攻撃、非自殺攻撃によって殺害された。
・ 小火器による銃撃は、死者の相対的に小さな部分(8%)を占めるに過ぎないが、犯罪行為による犠牲者の大部分を占めている。




負傷したのは誰なのか?
・ 4万2500人もの民間人が負傷したと報道されている。
・ 死者1人に対して3人を超える負傷者が出ている。
・ 成人男性は負傷した人々の88%以上を占め、女性と子供はそれぞれ6%を占める。
・ 手足と頭部の負傷が一般的であること報道されている。






いつ、どのような状況で負傷したのか?
・ 負傷したと報道された4万2500人の中の2万1000人が米軍によるものである。
・ 2003年5月1日以前の侵略時における1日当たりの負傷者は突出しており、全期間の41%がその期間に集中している。
・ 爆弾による負傷者の割合は小火器によるものよりも高い。
・ 死者に対して高い負傷者の割合は、侵略時に発生している。




イラクにおける目撃者は誰か?
・ もっとも頻繁に目撃情報を流したのは遺体安置所と医療施設である。
・ 全期間を通して警察は、主要な情報源として重要さを増している。



世界に向けて発信したのは誰か?
・ 著者(IBC)は、犠牲者の情報源を一つのソースだけではなく、複数のソースから得ている。
・ イラク人ジャーナリスは報道作業の中核を担うようになっている。
・ 三つの報道機関がデータベースの内容の1/3を提供している。
・ IBCのデータは、その他の組織的統計と遜色のない犠牲者の全体像を明らかにしている。