子どもたちは二度殺される【事例】



注 :
被害者の氏名は、一人ひとりの墓碑銘を私たちの心に深く刻むために、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA
030505 いじめ自殺 2003.7.212007.9.23 2009.3.3 2011.2.15更新
2003/5/5 愛知県名古屋市の市立北陵中学校の柴田祐美子さん(中3・14)が、マンション14階から飛び降り自殺。
遺 書 ほか 机の中から「遺書」と大書した封筒が見つかる。

「皆へ
今まで本当にありがとう。お世話になりました。
肉体的にも、精神的にも疲れ果てたので、先に死なせてもらいます。
最大の理由はA子のこと。まだムカツクよ。でもまぁどうでもいいや。
この現実から逃げ出したいんだ。ひきょう者でごめん。
だけど、もうたえられないんだよね。わがままな自分をどうか許して下さい。
こんど生まれ変われるなら、また人間がいいな。
性別は男で、性格もよくて、頼りになって、肌がきれいで、顔もだいたい今のままで
ちょっと改良してカッコ良くして、身長も175以上あって、頭もよくて、アレルギーなんか
もなくて、声もカッコ良くて…。とにかく完璧な人間になりたい。
そして死ぬまで幸せな一生を送りたい。
絶対にまたこの家族の一員として生まれてきたい。この家、この場所で…。
それでは皆さんさようなら。また会う日まで!
                                                    平成15年5月5日(月)
                                                           柴田祐美子」

先生方へ…これが自分なりの最大の「けじめ」です。どうかわかって下さい。

経 緯 2003/ 2年生の3学期頃、祐美子さんはA子について母親に「何を怒っているのか、よくシカトする」と話していた。また、A子から電話がかかってくると「また人の悪口ばっかりで、よくあんな人の悪口ばっかりよく言えるもんだ」などと言い、嫌がっている様子だった。
A子との仲がうまくいっていないことを、母親は祐美子さんから聞かされていた。

4/後半頃、祐美子さんは母親に、「殴ってもいいかな」と聞いた。母親は祐美子さんに「腐った人間を殴ったりしたら、お前まで腐ってしまう。その大事な腕までも」と言うと「ふーんそうか分かった。でも痛いだろうな」と言って、こぶしを見つめていた。
いじめの態様
(裁判で出てき
たものを含む)
クラスで一対大勢になっていた。
「ウザイ」「キモイ」「男」と言われる。無視される。肩に手をおいたところ、払いのけられる。
トイレに先回りされて、各個室にグループのメンバーが入って、祐美子さんが入るのを妨害される。
被害者 1年生時から陸上部で、砲丸投げや円盤投げ等で数々の大会で優秀な成績を残していた。
(2年生のとき、名古屋支部新人陸上の砲丸投げ及び円盤投げでの部で、それぞれ1位。愛知県総合体育大会の砲丸投げの部に出場、名古屋市中学校陸上大会の砲丸投げの部で1位。3年生のときも、名古屋市中学校陸上大会の砲丸投げの部で1位。など)

祐美子さんは大柄で、髪を短くカットしていたために男っぽく見えた。

祐美子さんとA子は小学校からの友だちだった。中学2年では別のクラスだったが、3年で同じクラスになった。以前から2人はけんかしては仲直りすることを何度か繰り返していた。

「修学旅行に行きたくない」と言っていたことがあった。
加害者 A子と祐美子さんは、小学校からの友だち。同じ陸上部に所属。
A子以外にも、C子、D子の名前が、遺族の調査ではあがっていた。

5/6 A子の父親から電話があり、A子が担任に話がしたいと言われて、担任教諭と主任教諭の2人が訪問。
A子は、祐美子さんと3年生になってから気まずい関係になっていたが、クラスの生徒も祐美子さんとA子がけんかしていることを知り、A子のほうに何人か集まり、祐美子さんが一人になることがあって、つらい思いをしていたかもしれないと話したという。

5/21 A子の父親が、教頭、教務主任、担任とともに、柴田家を訪れ、「非常に驚いている。うちの娘の数少ない友だちで私自身も混乱している状態です。うちの子はとくに混乱している」と話した。
一方で
遺族は、学校帰りのA子が仲間とともに柴田家の前をゲラゲラ笑いながら通る姿を目撃。

6/14 A子と両親、担任、校長、教頭、教務主任、PTA3人の計10名が柴田家を訪問。
A子が話した内容は学校の報告書そのままだった。祐美子さんとの関係については、「親友でした。一番仲のよい友だちだと思ってました」と話し、いじめを否定。

同級生の話では、葬儀のあと、祐美子さんをいじめていたと思われる2、3人の女子生徒が「うそ泣き成功」「死んでよかった」と話していたという。
学校の対応
5/6 学校管理職と主任級の教師、担任教師との運営委員会議で、校長が出席者から事情聴取。担任から、
後日予定されていた修学旅行の部屋割りに関して、佑美子さんと相部屋の予定だったA子が、C子に、部屋を変わってもらいたいと言っている旨をC子から相談されたという話が出た。(部屋割は生徒の自由意思で決定されていた)

5/16 3年生の学年集会開催。

学校側は当初、「柴田家の意向を優先して話を進める」と約束したが、何の情報提供もない。
学校が生徒らに何も知らせないなかで、調査に協力してくれていた祐美子さんの友人らが周囲から疑いの目で見られる。

学校側は、「友人関係の感情のもつれ、行き違いがあったものの、一方的に身体的、心理的な攻撃を継続的加えるといったいじめといわれる問題行動は認められませんでした」として、いじめを否定。
記者会見でもいじめを否定する。

5/27 PTA役員集会(約50名参加)。
校長、教頭が今回の事件の説明文書で持ってくると約束していたが、口頭で説明。遺族が集会に同席させてもらうよう頼むが、学校側は拒否。校長がPTA主催だと言ったため、PTAの許可をとって、同席する。PTA集会で校長は、今後の生徒に対する取組みばかりを説明。事件についての言及を避ける。

5/31 校長、教頭、教務主任が調査の中間報告書を持参。祐美子さんの行動に関する内容のみ書かれていた

6/4 PTA全校集会に遺族も同席。校長からの事件についての説明は進展なし。
両親が、これまでの学校の対応の悪さと、真相究明の協力を要望。
集会にA子の両親が「校長先生から5月16日に、遺書に名前があることを聞かされた。どういった内容の遺書があったかというのは納得していない。私の娘は親友だと思っている。学校で確認作業がきちっとされ私の子どもがいじめをしていたということならお詫びする。校長が柴田さんが娘を連れてきてほしいと言っている返事につきましては、正直言って事実がまったくわからない状態。5月21日に私は柴田さんの家で教頭、教務主任、担任とともに伺わせてもらったときに再度、遺書の存在と名前があることまでしか知らされておりません。私の子どもがいじめを行った根拠を、さまざまな証言を確認させて頂きたいのは当然。自分の娘に遺書に名前があることを伝えたのは5月25日。ただ皆さんに私の子どもの心情をご理解していただきたい。」と話した。
遺族は「理解できない」と反発。

6/7 校長、教頭、教務主任が、3年4組と陸上部の生徒を対象にした聞き取りしたという「調査報告書」を持参。
中間報告書(5/31付け)に会話がはいった内容で、「いじめ」ではなく感情のもつれとあった。

教師や遺族に生徒たちが話した内容や、担任が本人から聞いたという内容が入っていなかった
この内容を立証するため、聴き取りした生徒たちに無記名のアンケートを実施して欲しいと要望するが、これ以上のことはできないと言われる。
また、この席で校長は「ようするに祐美子さんはしゃべれないでしょ」と発言。

マスコミの取材に対しても、祐美子さんへのいじめの報告は生徒たちから「全然ない」という。
事故報告書 中間報告書(5/31付け)に会話がはいった内容で、「いじめ」ではなく感情のもつれとあった。
教師や遺族に生徒たちが話した内容や、担任が本人から聞いたという内容が入っていなかった。

報告書に、修学旅行の部屋割りのことが書いていないことについて、校長はC子とA子の話であり、祐美子さんに関して述べられたものではないとして載せなかったとした。

多数対1の構図になっていたことが書かれていないことについて、校長は「教室では、○○さんは、○○さん、○○さんと行動をともにしていることがありました。柴田さんは、一人か、時々○○さんと行動をともにしていることがありました。」の記載に含まれるとする。

報告書には、遺書の存在が書かれていなかった。

親の調査ほか 5/7 遺族は、3年生全員と陸上部の生徒たちに、祐美子さんの自殺について、遺書を残し何らかの原因で死に追い込まれたことを正直に話してくれるよう要望。

祐美子さんの友人らが柴田家を弔問し、知っている事や調べたことを話してくれた。

両親はA子から直接、話を聞きたいと何度も要望するが、精神的な不安定さを理由に断られる。

5/14 校長、担任が修学旅行の報告と言って弔問。担任の証言からA子は多数対1の構図になっていた事を認めて担任へ話していた。担任はA子と仲が悪くなっていた事は知っていたが、多数対1の構図になっていた事は知らなかったと遺族に話す。

5/26 両親が、下校中の生徒たちに情報提供のビラを配る。

6/18 生徒たちにアンケート用紙を配る。

6/24 来訪した担任、教頭、教務主任に、両親が調査報告書の内容について納得できないとして、再調査を要望書として渡す。いろいろ証言をした生徒たちのことを質問しても教師たちは答えない。
遺族が請求していた学校事故報告書をとりに行く。

6/25 この日から学校側から連絡も、焼香にも来なくなる。再調査の要望に対する返事もない。

6/30 アンケート集計で、いろいろな事実が出る。

7/7 住所がわかる3年生にアンケートを郵送。

9/16 両親が独自にとったアンケートの一部を氏名、クラスを黒塗りにして提示。

10/27 両親が、同アンケートを、教育委員会に提示。
生徒たちの証言(両親の調べ)
事件後、校長らは全校集会、学年集会でも情報提供を呼びかけたと言っているが、生徒たちの回答では「いいえ」に多く丸が付けられていた。(「はい」に丸をしたもの、「あったけれど、強く記憶に残る言い方ではなかったと回答したものもいた。)

A子以外にも、数名の生徒の名前が挙がっていた。

5/5 中学校の下駄箱前で、祐美子さんとA子が口論していたのを見た生徒がいた。

同級生が「いじめだよね」と事件のことを話していると、教師から「聞いたことは噂だから、そういう話はするな」と言われたという。「じゃあ、実際に私たちが見たことは信じますよね。いじめですよね」と言うと、「それを否定するつもりはないけど、お前たちの言うことが全部あっているとは限らんだろ」と言われた。


祐美子さんから「いじめられて辛い」「こわいから学校に行きたくない」と相談された友人がいた。

祐美子さんが、「キモイ」「男が、うるさい!」と言われているのを聞いた生徒がいた。

トイレに先回りされて、いけないようにされたりしていた。

裁 判 2006/12/26 両親が名古屋市を相手どって、慰謝料など550万円の損害賠償を求めて名古屋地裁に提訴。

両親は、いじめに加わった子どもらの個人的な責任を追及するよりも、子どもが学校生活でいじめに苦しむ悲劇を防ぎ、学校教育の場を真に子どもにとって安全で安心して過ごすことができる場にしてほしいとの思いから、北陵中学校関係者の
在学関係(在学契約) に伴う信義則に基づく安全配慮義務を問う訴えを提起。 「娘はいじめが原因で自殺したのに、学校は調査を尽くさず、保護者への説明を怠っている」と主張。
判 決 1 2010/3/31 名古屋地裁で、棄却判決。

戸田久裁判長は、
「祐美子が残した本件遺書には、『肉低的にも、精神的にも疲れ果てたので』『最大の理由はA子のこと』『先生方へ』などと記載されており、自殺の最大の原因が。本件クラスの生徒であるA子との人間関係にあると推察され、本件中学校における学校生活が何らかの関係を有していることは容易に想起されるものである。したがって、本件中学校の校長は、本件事故につき、その自殺の原因を調査し、調査結果を原告らに報告する義務を負っていたというべきである」

いじめが自殺原因であることが客観的状況から明らかであれば、いじめに至った経緯等を調査報告することが必要になるのは当然のことであるが、自殺の原因が明らかでないからといって、直ちに調査報告義務がないということにはならず、調査報告の不実施が正当化されるものではない
としながらも、

「本件事故に係わる調査及び報告の方法及び態様等が、校長の裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたものと認めることはできず、調査報告義務に違反した違法があるとはいえない。また、同時に、教育委員会についても、調査報告義務に違反があるとは認められない」とした。
判 決 2  2011/1/27 名古屋高裁で、棄却判決。

渡辺修明裁判長は、中学校や校長には生徒や保護者を対象に調査を行う権限がない、遺書はいじめの存在を推認させるほどのものとは言えないなどととした。
参考資料 サイト「いじめで亡くした我が子 MY Angel 」 http://www18.ocn.ne.jp/~just-exp/index.html(2009/ URL変更)、2003/9/25フジテレビニュース、ほか





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