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2001年4月10日発行157号ピースネットニュースより

【連載】反(経済の)グローバル化の運動のいま(1)

ポルトアレグレでの「世界社会フォーラム」
とATTACの主張

元市民フォーラム2001 田中徹二

世界のうねりとなった反グローバル化の運動
 1990年以降、経済のグローバル化が世界を席巻し、その弱肉強食の経済は世界の貧困人口を増加させ、環境を破壊しつくしてきた。これに対し、第三世界諸国債務の破棄を要求するジュビリー2000の運動、そして国家より企業を優先する多国間投資協定(MAI)に反対する世界のNGOの反対キャンペーン、そしてのWTO(世界貿易機関)第三回閣僚会議を決裂に追い込んだシアトルでのNGO、労働組合、農民の7万人のデモを決定的転換点として、反グローバル化の世界的うねりが登場してきた。
 日本では、まだそのうねりは起きていない。しかし、グローバル化・自由化の波は、農林業から金融、エネルギー、流通などのサービス業まで容赦なく押し寄せており、今後ともその勢いはとどまることはない。こうした自由化とこの10年間のバブル後遺症の清算とがあいまって、失業のかつてない増加が予想される。大借金政策による日本一国の宴もそろそろ終わる。グローバル化の波に翻弄されるか、世界的な反グローバル化のうねりの一環として闘うか、の岐路に立っている。
 本文では、世界的な反グローバル化の運動、とりわけヨーロッパで急速に勢いを増しているATTAC(アタック、下記参照)というNGOの主張と活動について紹介していきたい。また、翻訳等が間に合わない場合には、商業紙で掲載されるグローバル経済について解説を行っていきたい。

ポルトアレグレでの「世界社会フォーラム」
 今年の1月25日から30日まで、スイスのダボスで世界の経済・政治のエリートたちが集まる「世界経済フォーラム年次総会」(通称、ダボス会議)が開催された。このフォーラムについては、日本の森首相も出席し報告するということで、その前後にわたり結構マスコミが取り上げたので、ご記憶の方も多いと思う。ちょうどこの同じ日程で、南のブラジルのポルトアレグレ(ブラジル南部の州都)で「世界社会フォーラム」が開催されていた。これは、ダボス会議への対抗会議であった。しかし、こちらの会議について日本のマスコミにはいっさい取り上げられなかった。
 ところが、1ヵ月後の2月25日の日本経済新聞に、一面での「世界変調」という特集で次のような記事が掲載された。「…経済グローバル化の象徴といわれるダボス会議の今年のテーマの一つは、『格差への対応』だった。同じころ各国の環境団体や農業団体、労組の代表はブラジルのポルトアレグレに集まり、ダボス会議に対抗してグローバル化を唱える国際義を開いていた」、と。続いて「(欧州での左右を問わない大政党の、アメリカでの民主党と共和党の)経済政策での政党間の対立軸が薄れた代りに浮かび上がっているのが、グローバル化に対応する政府・産業界と、それに反対する環境や農業の団体、労組といった勢力の対立軸だ。各国内政は、この摩擦をはらみながら動く」と述べ、このことが世界変調の一つ、つまり「新たな対立軸」であると結論付けている。
 ポルトアレグレには全世界から16,000人が参加したと伝えられている(国際問題評論家の北沢洋子さん jubilee2000japanのウェッブサイトより(注1))。言わば、反グローバル化を求める市民、労働者、農民の総結集であった。この結集に多大な貢献をしたル・モンド・ディプロマティーク誌(注2)は、「ポルト・アレグレで」と題し、次のように意義を述べている。「…この10年の間、資本と市場は繰り返し、社会主義者のユートピア思想と逆の思想、つまり人間ではなく資本と市場が人類の歴史と幸福を生み出していくと語り続けてきた。 新たな世紀を迎えた今、ポルト・アレグレの街では、経済だけがグローバルなのではなく、環境保護も、危機的な社会的不平等も、人権に関する懸念もまたグローバルな問題であるということを、新たな理想主義者たちが指摘しようとしている。そして、これらの問題を突きつけられているのは、全ての地球市民なのである」(2001年1月号)。

ATTACとトービン税
 経済のグローバル化に反対する世界的なムーブメントについては、本紙2000年11月号でも「WTOを分析する(3)NGOの過去・現在−−−反グローバリゼーションを掲げ国際政治に登場」と題し拙文を書いたが、そのムーブメントの欧州で軸となっているNGOについて紹介したい。それはATTAC(アタック;市民のために金融投棄に課税を求める協会)という団体で、1998年にフランスで設立された。この団体の目的は、世界を駆け巡る投機的な資本の移動を抑制するために、すべての外国為替取引に対して「トービン税」(注3)を課税し、これを雇用や福祉、貧困の根絶の資金にしようとする新しい市民運動で、フランス国内だけで25,000人の会員を擁している。この運動は、投機的な資本への課税というきわめてシンプルなメッセージ故に、学者から一般市民、農民まで参加がしやすく、そしてフランスのみならずヨーロッパで大きく拡大しているという(注4)。ちなみにATTCの代表は、ル・モンド・ディプロマティーク誌の社主兼編集長であるベルナール・カッセンで、世界社会フォーラム主催の中心団体の一つとなった。ATTACは、この世界社会フォーラムの成功を受け、経済のグローバル化を推進する国際機関−−−世界貿易機関(WTO)から世界通貨基金(IMF)、世界銀行、経済協力開発機構(OECD)、先進7ヵ国蔵相・中央銀行総裁会議(G7)など−−−へのデモを呼びかけている。

(注1)http://www.ecolink.sf21npo.gr.jp/jubilee/rightmiddle.htm
(注2)フランスのクォリティー・ペーパー「ル・モンド」の関連会社が編集する国際月刊紙。世界中で120万人の読者がいる。国内では岩波書店の月刊「世界」と提携している。http://www.netlaputa.ne.jp/~kagumi/
(注3)ノーベル経済学者のジェームズ・トービンが1970年代から提唱した外国為替取引税のことで、1997年のアジア通貨危機により再注目された。全ての外為取引に対し一定の率で課税するという単純なもので、短期売買を行うと税負担は自然時間当り効率化することによって短期の投機的取引を抑制することが目的。試算によれば、年間1,500〜2,000億ドルの収入を得ることができる。1992年の地球サミット時に途上国の貧困を克服し環境を保全する資金として2,250億ドルが必要といわれていた。
(注4)オリビエ・フーデマン氏の話より。政府の意思決定を超えた企業の政治的な力と国際的な機関(EU、WTO、OECDなど)の活動を監視しているコーポレート・ヨーロッパ・オブザトリー(CEO)というNGOで働いている。3月4日の市民フォーラム2001主催のシンポジウム「NGOの現在、そして未来...」でのお話から。

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