TOPに戻るアーカイブINDEXに戻る

2005年6月10日発行205号ピースネットニュースより

(続)愛国主義教育はいらない!
子どもにも社会にも思想・表現・内心の自由の実現を!

ピースネット・市民平和基金 青山 正

 「教育の世界においてもジェンダーフリー教育だとか過激な性教育とかがはびこっている。日本をダメにしたいかのようなグループがある」(朝日新聞6月6日の記事より)と宮崎県で開かれた教育関連の集会で述べたのは中山成彬文部科学相でした。これはこのところの教育基本法の改悪をめざす保守的な愛国主義勢力の論調そのままの、一連の「ジェンダーフリー教育」批判です。こういう発言を文科相が言うところに日本の政治家の意識の貧困さがあらわれている気がします。しかし、問題は一部政治家の意識の低さだけではありません。
 前回も触れたように憲法の改悪を急ぐ勢力の大きな焦点として、教育問題が浮上しています。今年は特に4年に一度見直される中学校の教科書採択の年にあたり、「新しい歴史教科書をつくる会」という愛国主義の歪んだ教育をめざす勢力が作った、扶桑社版の歴史・公民の教科書採択が再び大きな問題となっています。戦争を賛美し、人権を制限し、男女平等にも反する主張を掲げる時代錯誤の教科書を子どもたちに使わせてはならないとして、教育基本法の改悪反対と併せ各地で「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書の不採択を求める運動が行われています。しかし各地で最近作られる公立校での中高一貫校ではこの教科書採択の動きがあり、そこを突破口として同教科書の拡大をめざす動きも活発です。また各自治体では現在の歴史教育を「自虐史観に基づくもの」と批判し、実質的に同教科書の採択をめざす請願運動も草の根レベルで行われており、予断は許されない状況にあります。
 そしてこの間の「日の丸・君が代」の学校現場での強制をめぐって、多くの教員に対する処分も行われています。以前本誌にも報告を書いてもらったことのある立川市立立川第二中学校教諭の根津公子さんに対して、入学式での「君が代」不起立で東京都教育委員会は5月28日から1ヶ月の停職処分に処しました。この処分に抗議して根津さんは「処分を取り消し、学校に戻せ!」と要求して校門前に立って道行く人や生徒たちにいろいろに声をかけていきました。近所のお年寄りの中には「戦争中のものの言えない時代に戻るようで本当に恐ろしい」と言う方がいたり、生徒の中からは「石原知事からひどいことをされても、正しいことをする先生を尊敬します。私もそう生きたい」とか「大勢の先生たちが君が代に反対の考えを持っているのに、実際に行動に移す先生はなかなかいない。だから先生は偉い」という発言もあったりしたそうです。根津さんの勇気ある行動は多くの人々の心を動かしています。
 自らの思想・表現・内心の自由が保障されていない、今の日本のあり方は、とても民主主義社会とは言えません。自らの意思に反することを強いられ、あたりまえの自由が国家や行政から否定されて処分される社会や教育の状況を変えていきましょう。それは子どもにとっても、おとなにとっても大事なことです。
 本誌の今号の11ページで紹介している書籍の『あなたの手で平和を!』の中で、米国のハワード・ジンさんは、テキサス市のある大学教授の話を書いています。その教授は同僚から「過激で反米的である」と非難され、解雇要請が出され大学の理事会で議論された時に、彼がいかにすばらしい教授であるか、いかに多様な方法で学生の思考の幅を広げたかという学生たちの発言を聞いた教授会の会長が、「もし政府を批判することが反米で共産主義的だというなら、……私たちはみな有罪だということになる」と語り、理事会は全会一致で彼の留任を決めた、というのです。おそらく日本ではこうはいかないでしょう。異質な者や「お上」に逆らう者を排除しようという日本社会が抱える問題の根は深いと思います。それだけに勇気を持って自由で平和な社会を求めていきたいと思います。

TOPに戻るアーカイブINDEXに戻る