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今井恭平の文章
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死の影の谷間から
<死の影の谷間から>
ムミア・アブ=ジャマール/著
今井恭平/訳
現代人文社/刊
今井恭平の文章

死刑廃止運動とインターネット
 ムミア支援活動を中心にして
 1996年8月5日



初出:インパクション 98号(1996年8月5日発行)


 アフリカ系アメリカ人ジャーナリストで、ペンシルヴァニア州の死刑囚監房に十四年余りも幽閉されているムミア・アブ・ジャマルの事件については、本誌No.94に書かせていただいた。一九九五年六、七月の再審請求のための公開審理を経て、九月十五日、一審と同じアルバート・セイボ判事によって,再審請求棄却の判決が下され、現在は州最高裁に舞台を移し、無実の訴えと、再審開始を求める請求を行っている。この訴訟をひきいているのは、人権派として知られるレナード・ワイングラスをはじめとする強力な弁護団である。同時に、世界的な支援組織の網が、弁護団やムミアを支えていることが、この戦いの大きな特徴である。
 私自身、ムミアの支援活動にかかわりえたのは、インターネット上に、そうした支援組織からの情報が豊富に流れていたからにほかならない。もし、そうした情報を得る機会がなければ、そもそも運動を日本で行うこと自体が、まったく不可能であったろう。日本のメインストリーム・メディアは、ムミアの事件そのものを、まったく無視しているからである。
 全米やヨーロッパ各地を中心に多くの支援組織が存在し、デモンストレーションやシンポジウム、詩の朗読や音楽コンサート、あるいは米国政府機関などへの抗議といった活動を、それぞれ自発的に行っていて、その全体を知ることは不可能に近い。しかし、中心となって世界中に情報を流したり、大きな催しを企画しているグループは存在する。International Concerned Family and Friends of Mumia Abu-Jamalという連合組織で、本拠はムミアがラジオ・ジャーナリストとしての活動の拠点としていたフィラデルフィアにおかれている。インターネットのホームページとメーリングリストは、アムステルダムにベースをおくSolidaritygroup Political Prisonersという、政治的囚人の支援グループが管理するサイトに置かれている。ホームページのほうは、世界中のホームページ全体の中で、トップ五%に入るほど多くのアクセスがあるらしく、おかげで以前と比べると、画面の表示やデータの転送に時間がかかる。
 なにか新しい動きや情報があった場合は、メーリングリストを通じて、ほぼ二、三日以内に世界中のムミア支援者に伝えられる。ホームページに情報が掲載されるのは、それより数日遅れるようだ。これは、ホームページに掲載するためには、HTMLという形式の文書に書き直す必要があるためで、コンピュータを使うとはいえ、その作業自体は手作業であり、あれだけのデータを数日でホームページに掲載するには、それなりの数のボランティアが働いているのではないかと想像している。
 ホームページには、データのアーカイブする(いわば書棚のように、文書を整理・分類して保存しておくこと)という役割がある。最新情報だけでなく、過去にさかのぼって情報を検索でき、とても便利だ。いつの時点で運動に参加してきた人でも、過去の経緯や必要な資料などを、自分で探してきて参照することができる。個々人がコピーした資料の山をかかえこんでおく必要がまったくないだけでも、大変ありがたい。
 メーリングリストのほうは、速報性と多様性が生命だろう。昨年夏の再審請求公開審理のときは、傍聴に行った人が、翌日には詳細なレポートを投稿していた。新聞記事のような長さの制限がないから、個々の証人の証言態度が詳しく描写されていたり、会場内外での死刑反対派と死刑推進派との確執、判事の訴訟指揮の批判、弁護団の非公式な談話など、臨場感ある報告を読むことができる。これらは、必ずしもすべてプロのレポーターが書いたものではない。
 大きな集会やデモをやるときには、メーリングリスト自体がオルガナイザーの役割をはたす。どこそこの会場には、あと何人コーディネーターが必要だ、近くの人間はどこへ連絡してくれ、といった具合で、読んでいる方も、計画の早い段階から、直前のあわただしい時期までの、活動家たちの熱気まで共有できる気分になる。今度のデモに参加したいけど、どこそこ方面から一緒に車にのっけてくれる人いませんか、とか、どこそこから何人のグループが来るから、泊めてあげられる人は連絡下さい、といった伝言板的ノリの投稿も見かける。
 こうしたメールなどを見ていると、インターネットは、ある共通の目的や使命感で結びついた人たちのコミュニティーとなっていることが分かる。もちろん、先にあったのは使命感の方だろうが、電子メールが、それをこれほど自然に結びつけていけるのは、その即時性や、雑多なコミュニケーションの欲求をどのようにも取り込んでいける柔軟性によるのだろう。もちろん、システムとしての柔軟性とともに、それに関わる人たちの柔軟性によるところが大きいのだが。
 インターネットには、日本のNGOからも注目が集まり始めている。死刑廃止運動をになっているグループの中にも、ホームページをもうけるところが徐々に増えている。私が知っている範囲でも「かごの鳥をときはなてフォーラム'93」や「死刑制度の廃止に向けて」がある。前者は福井に本拠をおくグループで、昨年末に処刑された木村修治さんと関わりの深かった人々によるもの、後者はアムネスティー・インターナショナル静岡グループによるもの。また、アムネスティー・インターナショナル21G(金沢グループ)や、死刑廃止だけでなく監獄などの刑事拘禁施設における人権の確立のためのNGOである監獄人権センターもホームページをもうけている。
 ホームページが、データを蓄積し、整理しておく場所として有用だと言うことを先に書いた。もう一つの大きな役割は、他のホームページへの入り口ということである。リンクという機能を使って、他の組織やグループと、互いのホームページへ行き来できるようにすることで、運動の横の広がりをアメーバ状に広げていくことができる。
 先に紹介した国内の死刑廃止運動グループのホームページには、監獄人権センターのホームページからリンクをたどって行くことが出来る。

 最後に、死刑廃止や監獄問題などのホームページの中から、いくつかを、ご紹介しておく。

THE PRISON ISSUES DESK
http://www.igc.apc.org/prisons/
NGOのための世界的なコンピュータネットワークAPC(進歩的コミュニケーション教会)にサイトをおくピースネットによるもので、監獄問題で、もっとも信頼されている情報源のひとつ。

National Commision on Capital Punishment
http://www.bruderhof.org/issues/deathpen/nccp/
今年三月のフィラデルフィアをかわきりに、全米各地で死刑問題を全国民的に論じようというキャンペーンが繰り広げられている。その運動体によるもの。

New Peak in Execution in the USA
http://www.derechos.org/amnesty/dp/ExecPeakUSA.html
アムネスティー・インターナショナルがもうけているページのひとつ。一九九五年に全米で処刑された五六人の死刑囚の一人一人について、情報が掲載されている。

INMATE HOME PAGE
http://www.inmate.com/
じつはこの原稿を書いている最中に見つけたサイトで、詳しいことは分からないが、アメリカの囚人自身のホームページ。もちろん、実際に作っているのは外部のボランティアだろうが、被収容者自身が、写真付きでペンパル募集や、獄中で作った刺青のデザイン画集を販売したい、といった広告などを出している。「私は電子メールを受け取ることは出来るが、出すことは出来ないので、必ず住所を書いて返事をくれ」、などと書いてあるところを見ると、獄中でコンピュータと電話回線にアクセスすることまではできないようだが、外部のボランティアを通じて、インターネットへのアクセスも可能なようだ。

その他、文中に登場したもの
Free Mumia Abu-Jamal
http://www.xs4all.nl/~tank/spg-l/mumia002.htm

ムミアの死刑執行停止を求める市民の会(日本語)
http://www.jca.ax.apc.org/~pebble/mumia/

監獄人権センター
http://www.jca.ax.apc.org/cpr

かごの鳥をときはなてフォーラム'93
http://www.vcnet.fukui.fukui.jp/~bird/

死刑制度の廃止に向けて(アムネスティー静岡グループ)
http://www.asahi-net.or.jp/~ef4j-tkgi/dp.htm

アムネスティー・インターナショナル21G(金沢グループ)
http://www.incl.or.jp/ktrs/ai21g/deathpen.htm

今井恭平
ムミアの死刑執行停止を求める市民の会会員/監獄人権センター会員