ニュース第68号 01年5月号より

『森の列島(しま)に暮らす』 内山節編著 コモンズ 1,700円+税

             紹介  編 集 部

 定価:本体1,700円+税
 会員割引:1,500円+送料160円

 第1章 広がる森林ボランティア
 第2章 森林ボランティアからの「森林政策への提
     言」の思想
 第3章 日本の森林と林業のいま
 第4章 森林政策への提言

 森づくりフォーラムの会員の方はすでにご存じのとおり、森づくりフォーラムと連動して「森づくり政策市民研究会」が2回にわたって市民提言を出しました。今回紹介する本は、この提言をまとめてきた、研究会のメンバーが提言にいたる背景や現状を明らかにしたものです。提言だけではわかりにくかった諸点がこれによってずいぶんと見えるようになっていると思います。それは森林ボランティアが到達した地平というより、目指そうとする地平という意味において。ぜひ、一読され、どこにいくべきかという提案をさらにいただけたら幸いです。この本の編著者である内山節さんのあとがきを要約して、紹介に代えさせてもらいます。

◇あとがきから
 まず、「森づくり政策市民研究会」について記しておこうと思う。
 「森づくりフォーラム」はNPO法人化される前から、実質的にシンクタンク的部門を持っていた。この部門は、形式的には「森づくり政策市民研究会」として別組織のかたちをとっていたが、メンバー構成からいっても、また、私が代表を引き受けていたという展も含めて、実質的には「森づくりフォーラム」のシンクタンク的部門としての役割を受け持っていたといってもよい。
 「森づくり政策市民研究会」をつくった目的は、次のような点にあった。森林ボランティアとは、森を健全なかたちで守るために、林業や森林管理を生業としていないにもかかわらず、自発的に森のなかで汗を流す人々のことである。ところが、この活動を進めてみてわかったことは、森林ボランティアの力だけでは、けっして日本の森を守ることはできないということだった。
 日本の山は深い。そのうえ急峻である。つまり、日本には、休日に活動する森林ボランティアでは現場に到達することもできない、深い山が展開しているのである。しかも、このような条件下に森があるからこそ、森林の手入れで用いられる技術も複雑であり、簡単に習得できるものではない。そのうえ、山が急峻なこともあって、プロの林業家でさえ、一年の間には何人もが労災事故で死亡するといった

危険性がたえず目の前にある。
 素直に述べれば、ボランティアに守れる森は、全体の1%か2%がいいところだろう。
 とすれば、どうすればよいか。森林ボランティアは、可能な限り自分たちで汗を流し、森が健全な状態で守られるために森での作業を進める。だが、それだけでは十分でない。森で働くプロの人びとが、安心して、誇り高く働くことができる社会をつくらなければならない。森とともに暮らしている山村の人々が、森とかかわりながら生きることのできる社会をつくらなければならない。森林ボランティアは、自分たちの作業だけでなく、このような問題意識をもちつづける人びとでなければ、日本の森林全体に責任を負える森林ボランティアとはいえないのである。
 現在では、日本の林業は経営的には維持困難なところに追い込まれている。山村では、いまもなお過疎化と高齢化がすすんでいる。その村人は、林業危機が進行するなかで、ますます森から離れざるをえなくなっている。このような現実の森林ボランティアはどう対応していったらよいのか。
 森林ボランティアは、これからの日本の森を守っていくにはどうしたらよいかを提案できる、総合的な力をつけるべきではないのか。森林と人間の関係を良好に維持することが可能な、総合的な政策立案能力をもつべきではないのか。こうして、このような役割担う部門として「森づくり政策市民研究会」が生まれた。
「森づくり政策市民研究会」は、これまでに四回にわたって、林野庁をはじめとする森林とかかわる官庁などに「森林ボランティア活動に参加する市民からの政策提言」を行ってきた。その主旨は、「提言」を重ねるごとに深められてきたと私たちは思っている。
 本書は、「森づくり政策市民研究会」が」おこなってきたこれまでの検討作業を基礎にして、森林ボランティアが考える森林に対する思想、日本の森林のとらえ方、これからの森林政策への「提言」をまとめるかたちでつくりだされた。これからの日本の森を健全なかたちで守っていくにはどうすればよいのか。このことを、さまざまなかたちで森とかかわりながら暮らしていこうと考えるすべての人びとと、共同で議論していく場を拡げていくために。その基礎の上に、市民参加型の森を守る活動を展開していくために。そして「森の列島(しま)」に暮らしていくことの喜びを、多くの人びととともに行動で示していくために。
 刊行にあたっては、私が編著者としての役割を引き受けた。しかし、もちろん、この本は、この三十年間の森林ボランティアの活動の蓄積が生み出したものであり,この活動を支えてくださった全国各地の林業家や農山村の人々、都市の人々、森を守ろうとする行政の方々などに包まれ、議論を重ねながらつくられてきたものである。すなわち本書は、森とかかわりながら暮らそうとする無数の人々が生み出した共著本である。

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