森づくりフォーラム活動報告・0311

「新たな森林管理施業モデル林」&
「地域森林資源有効活用事例」視察ツアー

 


 本会では、「市民参加の森づくりシンポジウム〜新ステージへ向かう、市民参加の森づくり〜」(NEWS Vol.90-93参照)を開催して以降、社会性のある“市民参加の森づくり”の推進に向けて「森林施業ガイドライン(仮称)」(NEWS Vol.96参照)の作成を、市民の皆さまやアドバイザー等にご指導頂きながら、鋭意検討を進めております。
 そこで、「森林施業ガイドライン」をより具現化するために、そのモデルとなる「森林管理施業」および「地域森林資源有効活用」の優良事例の視察ツアーを実施しましたので、報告いたします。

(森づくりフォーラム 木俣知大)
「木崎氏経営林」については今月号、「筑波山複層林試験地」および「大沢試験地」については来月号の「日本列島森づくり百科」にて詳細を紹介しますので、これらについては視察の背景を中心に紹介し、本稿では「アサザ基金」の活動を中心に報告します。

森林管理施業モデル林を視察
 森林の多面的機能の高度発揮を保障するためには、大きく2つの考え方が必要となります。1つは、一区域の森林内で重層的・複合的に諸機能を発揮させる多目的管理のための「森林施業法」の導入。もう1つは、流域等ある程度の広がりを持つ区域内に様々な目的の下で管理された森林を配置することによって、総体として多様な価値観に対応した森林管理を可能とする「ゾーニング」の導入です。そこで、この2つの視点から今回のツアーの視察地を選定しました。
●新たな「森林施業法」が求められ る背景(筑波山複層林試験地)
 平成13年7月の「森林・林業基本法」施行により、林野行政は旧来の木材資源の安定供給を重視した資源政策から、森林の多面的機能の高度発揮を指向する環境政策へと転換しました。それに伴って「森林・林業基本計画」では、公益的機能の発揮との調和に向けて、森林管理の多様化・長期化が推奨されています。具体的には、将来指向する森林の状態として、「育成単層林」を大幅に縮小し、総森林面積の約1/3の870万haを「育成複層林」へと誘導することが謳われています。これは、非皆伐という環境面の特性に加えて、下刈りの省力化が可能であるという労働面の特徴、そして木材価格の低迷という社会経済的は情勢を鑑みて構築された施業法といえます。
 また平成14年度からは、継続的に木材を収穫しながら森林の公益的機能の維持が可能な常時多段林、つまり主伐期(10〜18齢級)の人工林を対象に、15年間程度の間隔で点状、あるいは帯状の伐採(ぬき伐り・誘導伐)を数回繰り返すことによって、100年生以上の上層木が循環的に伐採、利用できる複層状態(循環状態)の森林へと誘導する「長期育成循環施業」も推奨されています。
 これらはまさに、所有者の求める木材生産への意向を尊重しつつも、私たち市民が求める環境的機能の高度化も可能とする、これから注目すべき施業法であると思われます。そこで、「長期育成循環施業」も含めて8タイプ20区画の「複層林試験地」を設定している「筑波山複層林試験地」、および空間の付加価値を高めた森林の総合的利用を行っている「木崎氏経営林」を視察しました。
●「ゾーニング」が求められる背景(大 沢試験地)
 1992年の「生物多様性条約」の採択、および「地球サミット」における「森林原則声明」の採択などによって、世界規模で「持続可能な森林経営」が希求されるようになっており、地域住民や国民はもちろん、世界規模で森林に対するニーズが多様化しつつあります。また、奥地山岳地までの拡大造林に対する内省の意味を込めて、気候や地形といった自然的条件に適した森林施業の必要性も指摘されています。
 そこで林野庁は、国有林では平成10年の「国有林野事業の抜本的改革」以降、民有林では平成13年の「森林・林業基本法」の施行以降、森林管理の目的と方法に応じて、「水土保全林」「森林と人との共生林」「資源の循環利用林」の3つに機能類型区分を行うゾーニング制度を導入しています。
 私たちは、ただ活動フィールドだけを見て森林管理を行うだけでなく、幅広く地域の森林資源を大観した中で、活動フィールドに要請される機能や役割を検討する必要があるのではないでしょうか。また、国家規模では大局的な見地からゾーニングを3種類にしていますが、地域や現場レベルでは、より精緻で多彩なゾーニングが必要となってきます。
 そこで、大沢源流部の小集水域の一部の針葉樹一斉林を「針葉樹育成区」「渓畔保残区」「針広二段林区」「広葉樹育成区」に区分し、それぞれの目標に向けた施業を行っている「大沢試験地」を視察地と選定しました。

森林資源地域循環利用優良事例の視察
 森林を取り巻く諸環境は、自然的にも社会的にも経済的にも課題が山積みであり、根治的な解決策は見出すのが容易ではありません。しかしながら、市民参加型での解決策を模索する上で、霞ヶ浦流域で市民主導型の自然再生事業である「アサザ・プロジェクト」の取り組みは下記の点で非常に示唆に富んでいます。
@既存自然的・社会的・経済的システム(施設・教育・行政・産業など)の中に環境保全機能を戦略的に組み込む。
Aそれぞれの取り組みを点から線、線から面へ、源流の森林から河川、そして湖まで取り組みをつなげる。
B参加主体を個人から集団、集団から地域へと拡げ、行政、企業、市民等の多様な主体との連携・協働。
 そこで、市民参加による森林再生に向けた新たな活路を見出すために、「アサザ・プロジェクト」の取り組みの概要を報告いたします。
●霞ヶ浦流域ではじまる市民参加型 自然再生事業
 茨城、栃木、千葉の三県にまたがり、琵琶湖に次ぐ日本第二の大きさを誇る霞ヶ浦。しかしながらそこには、事業系および生活系排水の増加や、河口堰の閉め切りによる淡水化、そして垂直コンクリート護岸の施工に伴うアシ原の減少等が複合的に絡まりあって、水質汚濁と植物プランクトンの一種であるアオコの大発生を引き起こし、「汚い湖」として定着した姿がありました。
 この霞ヶ浦の水質浄化に向けて、「アサザ」と「トキ」というメッセージ性の高い野生生物の象徴を据えることによって、多くの市民や企業、行政等を巻き込んだ幅広い活動の展開を可能としています。
 絶滅危惧種にも指定されているミツガシワ科の浮葉植物のアサザは、心を和ませる小さな鮮やかな黄色い花を夏から秋にかけて咲かせ、スイレンに似た葉を持つ美しい植物です。またこのアサザは、誰でも「アサザの里親」として自宅や学校ビオトープ等で種から育て、湖に植えつけることができます。この手軽さが、市民参加型の霞ヶ浦再生活動の裾野を広げているとも言えます。
 さらには「100年後に霞ヶ浦にトキをよびもどそう!」との掛け声のもとで、トキが野生で棲息できる社会システムづくりを最終目標に据えることによって、環境保全型の地域社会づくりの具現化を射程に入れた活動としての展望を提示しています。
●始まりは「当たり前に繋がってい るものを繋げる」
 「縦割り行政の中では一体とした総合的な政策が進められない」。これが「アサザ・プロジェクト」の原点にありました。つまり、霞ヶ浦の水質や環境の改善にむけて、湖と河川、そして水田や森林という当たり前に繋がっている自然システムが行政システムの中では繋がっておらず、それが霞ヶ浦の水質や環境の改善の進展を妨げ、また決め手が見出せない一因であるとの認識の上で、公共事業の変革を目指して「アサザ・プロジェクト」が立ち上がったのです。
 その全体的なコーディネートを担うのが「NPO法人アサザ基金」。横の繋がりに則った計画づくりや事業展開が可能であるNPOならではの長所を活かし、科学的に裏付けされた調査結果等をもとに専門的な見地に立った企画立案から全体調整までを行うことで、この事業の具体的展開を可能としてきました。
●普請から学ぶ、市民参加型自然再生事業
 農書ではお馴染みの「道普請」「川普請」「山普請」という地域の生活環境の保全を目的とした公共事業は、地域住民が自ら実施するもの。この思想は、「アサザ・プロジェクト」の重要なコンセプトとして位置づけられており、前述の「アサザの里親」制度から、粗朶消波堤作成に向けた「1日きこり」まで、地域の主役である多様な市民が参加しやすい仕組みづくりが画策されていました。
 その結果、「アサザ・プロジェクト」には霞ヶ浦流域の全学区(170)の小学校が参加しています。つまり地域コミュニティの基本単位である学区毎に「アサザ・プロジェクト」の参加拠点がつくられてきたことになり、それによる地域社会への波及効果は容易に窺い知れます。
 また、この生活者の参画は、画一的な事業実施によるデメリットを未然に防ぐべく柔軟な対応が可能になるばかりでなく、その後の維持管理が自主的になされることによって、結果としてローコストでの事業展開を可能としています。
●地域資源循環型の自然再生事業 の可能性
 今回の視察ツアーでは、地域住民が参加し、伝統的な生活文化や習慣の中に埋め込まれてきた地域の個々人の経験地の集積の技術を活かし、地域の様々な自然資源を有効に活用して地域の自然環境を再生していくという、まさに地域資源循環型の自然再生事業の姿が垣間見ることができました。
 そして何よりも、地域の多様な主体の参加と、地域の公共事業の横断的取り組みを可能とする、専門性と創造性を兼ね揃えたコーディネート役としての「NPO法人アサザ基金」の存在には、私たち森林系NPOも学ぶところが多く、様々な知見を与えてくれる有意義な視察ツアーでした。

参考図書
「市民型公共事業−霞ヶ浦アサザプロジェクト−」 (飯島博・著 (財)淡海文化振興財団)
「よみがえれアサザ咲く水辺〜霞ヶ浦からの挑戦」 (鷲谷いずみ・飯島博・編 文一総合出版)

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