いろんな人に聞いてみました。森との関係。  

森の列島に暮らす・15

静岡のクマと環境教育と面倒くさいから面白い社会

春田亜紀さん
野生動物ワークショップHAL

 

 

春田亜紀さんは地元静岡県で“野生動物ワークショップHAL”を立ち上げ、クマを中心とした野生動物の管理をテーマとした調査や環境教育に奮闘中。2000年に富士山麓で行われた第3回グリーンカレッジには、スタッフとして参加していただいている。今回は、そんな春田さんにお話しを伺った。

 いくら動物好きな子供でも、自分の身近にも森があって動物が棲んでいるということを、全然知らないんです。かく言う私もそうでした。子供のころの想いは、アフリカとかアラスカとか、遠く外国に行っていましたね。
 私の最初の野生動物体験は、大学を出た後に入った動物系の専門学校で行ったカモシカ調査。それは山形県の朝日村というものすごい山奥で、「幻の動物に出会った」というくらいの衝撃でした。それで日本の野生動物にはまって、日光や奥多摩での動物調査を始めたのですが、それでも地元静岡のことは考えもしませんでした。ところが、実家の都合で静岡に帰ってみたら、すぐ裏の山に野生のシカがいたという…。ちょっとショックでしたね。
 私がHALを立ち上げて環境教育を始めたのは、すぐ近くにも野生動物は暮らしていることを子供たちに伝えたい、ということがありました。そして、日常生活と動物、そして森はつながっていることを知って欲しいと考えています。



 個人で受けた仕事はHALとして活動しますが、それ以外にもしずおか環境教育研究会や静岡野生動物研究会、静岡県自然環境調査ほ乳類部会といった団体に所属し、野生動物の調査と環境教育、エコツアーの3本立てで活動しています。
 動物の調査・研究をやっている人って、ちょっと暗め?の人が多いんです(笑)。傾向的には閉鎖的で、「こうしたらいい」という考えがあっても、それを広めようとする人は少ないですね。逆に環境教育をやっている人は大らかだけれど、既存の知識だけで活動をしてしまう向きがあると思います。本当は、地元の実際のデータを踏まえた上で環境教育をすれば、もっと良いものができるはずなんです。ただ、突き詰めて研究をする人は必要だし、人それぞれのタイプがありますから、そういう人に環境教育をやれと言っても無理でしょう。だから私は、研究と環境教育の仲立ちの役目をしたいと思っています。

 静岡県のクマは、駆除で激減した時期からすれば、世論が保護に変わったこともあって、その数は回復しています。若い個体が里に下り始めたりもしていますが、幸い農業被害や人身被害は出ておらず、案外騒がれていませんね。
 野生動物は慣れると図々しくなるもので、軽井沢ではゴミあさりをする不良クマが増えていると言います。また、人の方もクマに慣れてしまうんですね。でも、人がクマに慣れてはいけないし、クマも人に慣れては困ります。ですから何かの弾みで事故が起こってしまう前に、里に出てくるクマに対して「人間は怖いものだ」と教育することを、何らかの方法で行う必要があります。
 ただ、日本は狭くて野生動物と人とが常に混在する状態ですから、必ず軋轢は起こります。それをきれいに解決することも無理でしょう。私は、常に動物や森に想いを馳せて対処し、ときには戦い、ときにはあいまいなまま、ということを続けていくことが共生だと思います。自然と共生していたといわれる時代だってそうだったわけで、それがノーマルな状態なのです。

 森を考えても、動物にとっても人にとっても、多様な森があることが大切なのですから、いろんな環境が混在しているのがいいんだと思います。すごく手間は掛かることですけれど。だから森とともに暮らす社会といっても、共生という決まった形がある訳じゃないですから、いつまでも解決せずに手間がかかる、面倒くさい社会のはずです。でも、だからこそ面白いんですよ。
 自然は、1+1≠2の世界です。確固たる決まりがなく、行くたびに面白いことが発見できるから、私は森が好きなんです。私が環境教育を行っている理由のひとつには、型にはまったものなどひとつもない世界を子供たちに教えてあげたい、ということもあるんです。

 (編集部)

AKI HARUTA


静岡県生まれ。東京農業大学卒業後、日本動物植物専門学校に再入学、(株)野生動物保護管理事務所を経て現在に至る。国土交通省の漂着物対策調査検討委員、静岡県の河川審議会、環境影響調査審査会等にも名を連ねる。静岡県自然環境調査ほ乳類部会員として、静岡県版の「レッドデータブック」を執筆中。

 

森の列島に暮らす・目次

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