日本列島森づくり百科

(19)森林の多目的利用の可能性をひらく森づくり

木崎 眞(茨城県八郷町) 

 

 


 森林の育成に情熱と信念を持って、様々な挑戦し続ける人が“八郷町”にいる。林業を取りまく時代の変化に振り回されることなく森林を適正に管理するために、過度に森林の木材生産機能に依存せず、森林の環境的機能の保持と森林空間の有効利用を進める。それが木崎眞氏である。
 木崎眞夫妻が31.2haの森林の林業部門を、長男夫妻が果樹園、水田、畑の農業果樹部門に取り組んでおり、役割分担をしながら農林業複合経営を行っている。その農林業複合経営の視点と知恵と技術によって、“森林の多目的利用”の可能性を切りひらいている。

■自家労働による柔軟な林業経営

 森林の内訳は、スギ・ヒノキの人工林28.81ha、天然林1.89ha、竹林0.5ha。戦時には軍需用材、戦後復興期は薪炭材や土木用材等の供給源として、その後は拡大造林政策に則ってクヌギ林を人工林に転換するなど、社会の要請に応えながら森林を育成してきた歴史をもつ。もちろん、50年生を中心に、幼齢木から100年生までと多様な林齢の森林を前にして、「成果が得られる時になって、さまざまなマイナス要因が生じている」との困惑もある。
 しかしながら木崎氏はこれまで、造林から保育、伐採、搬出、販売、さらには林道敷設などまでを、全て家族で行ってきた。それは、「きめの細かい作業ができる」とともに、農業果樹部門との複合経営により自家労力を柔軟に分配することによって「コストダウンにも繋がる」がゆえだ。また、身の丈にあった取り組みに止めることによって、負の遺産は生んでこなかった。


■森林施業の高度化への試み

 一方では、短伐期の収穫が期待される森林の手入れも怠ってはいない。「林業は、自分の植えた木は孫の代にならないと伐れない、といわれているが、管理のしようによっては一生で2回伐れる」といい、現に新家屋は「35年ほどで伐って建てた」ものであると言う。
 林内の路網密度も高く、250m/haを目標に現在220m/haが敷設され、作業道も自力で2kmほど入れている。整備された路網と林業機械を有効に活かし、集約的な施業によって無節の柱材を中心とする高品質材生産と長伐期大径材生産を心がけているためだ。
 また、優良品種の育成にも力をいれており、林内の精英樹の穂木や、県外の優良な品種の穂木を試験的に植栽して適地性を調査するなど、より良い森林の育成を目指した試みには余念がない。
 もちろん、大部分の森林の林床には、草本から低木、亜高木などの下層植生が豊かに生育した階層構造を形成しており、“環境に配慮した森林”として適切に管理がなされている。

■森林空間の階層的利用

 0.3haのイチョウ林を前に、「これが一番うまくいっている」と木崎さんは言う。一般の街路樹からは想像もできないほどに樹高は低く、強剪定された樹形のイチョウ林は、様々な試行錯誤を繰り返す中で、その努力が結実した姿である。銀杏は街路樹で見られるものよりも、実も形もしっかりと大きく成長している。
 「銀杏栽培の一番いいところは、コストがかからないこと。害虫やイノシシなどの被害もない。毎年実をつける。手がかる事といえば収穫時だけ」
 とはいえ、オリジナリティのある取り組みには、予期せぬ苦労も伴う。「栽培のマニュアルというものはなく、試行錯誤の連続だ。樹勢を抑えるために環状剥皮をしたりして樹をいじめており、15年ほどで実をつけるようになるが、時にはブドウ状の実をつけることがあったり、隔年でしか実をつけなくなったりしてしまう。また、実のなる枝とならない枝があり、ならないからといってそれを切ってしまってよいものかどうかも分からない」という。
 木崎氏による創造的な農林業複合経営の森づくりは、今も試行錯誤が続いている。しかし、常に次を見据えた挑戦的で多彩な取り組みから生まれてきた森づくりの多面性や複合性に、これからの森づくりの可能性が秘められているように思われた。 

(編集部)

MAKOTO KIZAKI
農林業家。
茨城県森林審議会会長。八郷町森林組合長。

 
目次へ 前号へ 次号へ