第十三回 2001年9月
黒松内ぶなの森自然学校
〜北限のブナの里にできた自然学校
報告:伊藤輝之
北海道の南、渡島半島の付け根に位置する黒松内町には、国の天然記念物に指定されている北限のブナの森「歌才ブナ林」を代表とする森が広がり、朱太川の清流や湿原など美しい自然環境に支えられながら、酪農をはじめとする産業や暮らしがあります。『黒松内ぶなの森自然学校』は、周辺市町村含むこをれらすべてを学びの場として、自然体験型プログラム、そして指導者を提供し、世代を超えたより多くの人々に「環境」の大切さを学んでいただく学校です。
◇誕生の経緯
黒松内町は昭和63年度に策定した「ブナ北限の里づくり構想」にもとづき、「歌才ブナ林」をシンボルに環境と人にやさしい町づくりを進めてきました。その中でリゾート施設などは誘致せず、町にある素材(自然、人、酪農)をうまくソフト化し、多数の来町者を呼び込んだことに特徴があります。その町づくりの中心になったのが町営博物館である「ブナセンター」です。北限のブナ林を取り巻く自然環境や郷土文化を資源にした展示、自然体験型環境学習の開発・実施を行い、特に教育普及活動に力を入れて活動してきました。その継続的な取り組みと実績が評価され、また(社)日本環境教育フォーラムや北海道自然体験学校NEOS(特定非営利活動法人ねおす)などとのネットワークを背景に、当時の環境庁・自治省が推進する「自然体験型環境学習拠点ふるさと自然塾整備事業」が開始されることになりました。それにもとづき、黒松内町における環境学習の質、量ともに更なる発展を目指し、平成10年11月「黒松内ぶなの森自然学校」が誕生したのです。
◇運営形態
設立は黒松内町が行いましたが、運営については任意の民間団体である「ぶなの森自然学校運営協議会」に委託されています。本協議会は、町内外の関連団体や環境教育実践している方々で組織されており、非常勤会員として27名の運営協議委員が所属しています。また、常勤の事務局職員を1名(事業部兼務)、非常勤のコーディネーターを1名、さらに研修生2名を配置して活動しています。
◇活動内容
本校は、以下の3つの事業により活動しています。それぞれについて紹介します。
(1)自然体験型環境学習プログラム事業
国の天然記念物「歌才ブナ林」はもちろん、保存状態が良好な貝化石の採集、寿都湾まで注ぎ込む朱太(しゅぶと)川でのカヌー、黒松内岳登山など黒松内町とその周辺町村の豊かな自然環境を利用し、様々な自然体験プログラムを提供しています。・子どもキャンプ 本校を拠点に、毎第2土日に「イエティくらぶ」という子どもの自然体験活動を1泊2日で実施しています。(北海道自然体験学校NEOSと共同で主催) また、夏休みには20日間、冬休みには5日間、そして春休みには7日間の長期自然体験キャンプを実施しています。・学校向け自然体験プログラム ブナセンターに配置されている「学校教育部」(専門職員)と協力して、小・中学校だけでなく、高校、大学、各種学校など学校団体全般を対象にしています。環境学習や総合学習を視野に入れ、学校側のねらい・テーマ・人数などにより個別に体験内容を作成して対応しています。・一般観光客向け自然ガイド 黒松内を訪れる一般の方々に、四季を通じて黒松内の自然を案内しています。
(2)人材育成事業
研修生制度により、自然案内人や環境教育・自然教育指導者、自然学校指導者を育成しています。期間は1年間で、研修奨励金が支給されています。・実務研修(OJT)による育成 自然学校の業務に携わることにより、プログラムの企画・運営、一般事務業務などについて学びます。
・研修カリキュラムによる育成
自然案内人や環境教育指導者などに必要な基本的な知識、技術について、道内外から講師を招いて講座スタイルで学びます。また、研修生自身が学びたいと考えたことについても、オーダーメイド的に研修カリキュラムに組み込んで学ぶことができます。・人材ネットワークによる育成 既に道内各地で活動を行っている方々とのネットワークを構築すると共に、情報交換や相互研修、ステップアップ研修(セミナー)などを行います。
(3)地域交流促進事業
黒松内と都市との交流を活発にするための活動もしています。
・都市との交流をはかるプログラム実施
主催事業として、参加者を広く募り黒松内の自然を満喫できるプログラムを提供しています。また、町のイベントなどにも講師役や運営側のスタッフとして参加し、都市の方々と交流を持っています。
・黒松内ファンクラブ「ブナ里週末田舎人」事務局
会員の事務手続きや管理を行うと共に、町の広報誌や各施設の通信誌など黒松内の情報を毎月発信しています。
・通信誌「Fagus「(ファーガス・ドゥ)」の発行
本校のプログラム情報や活動報告、そして黒松内のローカル情報などをお知らせする通信誌を毎月発行しています。
◇活動の特徴
(1)官設市民営タイプの新しい自然学校を目指す。国と黒松内町の補助事業ではありますが、行政からの人材派遣などは一切なく(第3セクターではない)、町内外の有識者からなる「ぶなの森自然学校運営協議会」が運営を行っています。運営委員会の代表には、企業と同様の経営責任を明確に課したNPOタイプの自然学校を目指しています。
(2)アメリカのスチューデントホスピタルのような研修生制度研修生が現場スタッフとしてプログラムを進めています。全国公募から選ばれた二人の研修生を指導しながら自然体験型環境学習プログラムを提供しています。研修医(レジデンス)が実際の医療に携わるアメリカのスチュウデント・ホスピタルに似ている制度です。ここで研修した指導者が本校に残るか、他に職を求めるか、あるいはあらたな自然学校を創るなどして、それぞれがネットワークで結ばれることを理想としています。
(3)ブナセンターとのすみわけ
町営博物館であるブナセンターとのすみわけもはっきりしています。自然体験教育については、ブナセンターが調査・プログラム開発を担当し、自然学校がそれをもとに営業(プログラム提供)を実施しています。例えて言うと、作曲家と演奏者の関係です。その両方がうまく機能することにより、より質の高いプログラムを多く提供できると考えています。
◇今後について
これからより社会的ニーズが強くなるであろう子どもの自然体験活動を幅広く展開するとともに、黒松内の自然環境だけでなく基盤産業である一次産業や充実した福祉事業などとも協力し、より地域に根ざした活動をしたいと考えています。また、人材育成についても、研修生制度だけではなく、これから自然案内人や環境教育指導者を目指す方や、現在活動されている方に向けての短期研修も充実させていきたいと考えています。
DATA
●連絡先
〒048-0127 北海道寿都郡黒松内町南作開76
Tel/Fax:0136-72-4249
E-mail:buna_ns@d2.dion.ne.jp
URL=http://www.d2.dion.ne.jp/~buna_ns/
●設立
平成10年11月(活動開始:平成11年4月)
●活動場所
黒松内町および周辺町村
●活動の目的
環境や自然にかかわる体験学習において、現在の社会が要望しているソフト面(プログラム)の開発を町内にある素材を活かして行うと共に、それらを総合的な学習に応用させること、またこれらの開発・指導を担える人材を育成することを目的としています。さらに、本校の活動が、黒松内町の活性化の一助になることも期待しています。
●活動内容
子どもに関わる活動を中心に一般来町者(家族や大人)も含め、黒松内町および周辺市町村の豊かな自然環境を利用した自然体験型プログラムを提供しています。また、研修生制度により、自然案内人、環境教育・自然体験教育指導者、自然学校指導者などの人材を育成しています。
●組織
民間の任意団体「ぶなの森自然学校運営協議会」により運営されています。組織は運営委員長1名、副委員長2名、代表委員4名、監事2名、協議委員18名、事務局1名、研修生2名により構成されています。将来的にはNPO法人化する予定。 また、黒松内ファンクラブである「ブナ里週末田舎人」という会員制度の事務局も担当しています。現在の会員数は約100名で、月に1度、黒松内の情報を発信しています。
会員募集中!! 「ブナ里週末田舎人」は、自然いっぱいの黒松内を満喫して頂くための黒松内ファンクラブです。会員の方には、黒松内のイベントや自然に関する情報など毎月お届けします。入会ご希望の方はご連絡下さい。年会費2,000円。
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