ソープ再処理工場での放射性溶液大量流出事故の報告書
「新しいプラント」文化の蔓延がソープ事故を引き起こした
「ソープは新しいプラントなので漏えいは起き得ない」(BNG)
「六ヶ所再処理工場ではソープと同様の事故は起き得ない」(原燃社長)
六ヶ所にもはびこる「新しいプラント」文化


2005年7月13日 美浜の会

 ソープ再処理工場で起きた、高レベル放射性溶液の大量流出事故の概要が明らかになってきた。ソープを運転する英国原子力グループ(BNG)は、5月26日に事故調査委員会の報告書(以下、BNG報告書という)をまとめ、固有名詞等を黒塗りにして、6月29日に公表した。BNG報告書では、配管破断の原因を金属疲労と結論づけている。そして、各種装置が知らせる漏えいの兆候を9ヶ月間も放置し続けてきた会社の体質の根底には、「新しいプラント」文化への過信があったとしている。すなわち、「ソープは最新鋭の設計でできており漏えいは起き得ない」と誰もが信じていたという。
 一方、六ヶ所再処理工場を運転する日本原燃の兒島社長は、5月30日の定例記者会見で、早くも「六ヶ所では同様の事故は起き得ない」と語った。まさに六ヶ所の「新しいプラント」文化である。最近のバーナブルポイズン取扱ピット(BPピット)の不正溶接に関しても、真の原因や背景を明らかにしないままの報告書を7月12日に公表し、同時に、不正溶接箇所の工事計画書を提出した。相も変わらぬスケジュール最優先の姿勢を示している。
 BNGの事故調査委員会の報告書を基に、ソープの事故概要を紹介しながら、原燃のこのような姿勢を批判したい。

1.ソープ再処理工場での、配管破断による大量の放射性溶液流出事故
(1)事故の態様と原因
 ソープの前処理建屋内の供給清澄セル(密閉された部屋)220の中にある、2つの計量タンクの一方(V2217B)に接続された直径4pの配管が破断した。流出した溶液は、約83.4立方メートルで、その中には、ウラン約19トン、プルトニウム約200sが含まれていた。計量タンクを支える鋼鉄製支持枠の一部も溶けて壊れていた。
 漏えいは、昨年7月から始まり、今年1月15日頃に配管は完全に破断していた。4月20日のカメラ検査で大量漏えいが発見されるまで、実に9ヶ月間も漏えいは放置されていた。
 配管破断の原因は、吊り下げ式の計量タンクにつながる配管が、金属疲労により破損したことにある。計量タンクの内部には攪拌機がついており、溶液を均一にするために常に攪拌されている。タンクが振動しているビデオ映像もあるという。配管破断をもたらした金属疲労の元になった振動は、この攪拌によるタンクの振動であり、タンク頂部に接続された配管がその振動による疲労で破断した。振動を抑制する機構は、設計変更の段階で取り除かれていた。

(2)9ヶ月間も漏えいを放置してきた、ずさん極まりない対応
 漏えいが始まってから9ヶ月間、警報装置やサンプリング結果等、漏えいを知らせるデータがあったにもかかわらず、運転員たちは、それらを放置してきた。BNG報告書で示されているだけでも、以下のようなずさん極まりない運転管理が明らかになっている。BNGは、BNFLの子会社であり、MOX燃料データ不正事件でも明らかになった、ずさんな体質をそのまま引き継いでいる。

 (a)発送受領不一致(SRD)の異常を知らせるデータを「計算エラー」として放置
 ソープの前処理工程では、せん断された使用済み核燃料が硝酸溶液に溶かされ、供給清澄槽で遠心分離器にかけられ、微細な金属屑が取り除かれて計量タンクに入る。計量タンクで重量を測定した後、調整槽へと移送される。この溶液の入と出の差を計量しているのが、発送受領不一致(SRD)データである。このSRDの値の許容範囲は、±0.45%となっている。漏えいが始まった頃の昨年7月14日〜8月3日のSRD値は0.59%であり、既に漏えいの兆候を示していたが放置されていた。
 さらに今年3月17日には、SRDは3%を示したが、これは「計算エラー」として放置された。しかし、4月13日には溶液の損失を表すSRDは3.9%に、翌日の14日には9%にも達した。同じ頃、サンプ(水溜め)のサンプリング結果では、高濃度のウランが存在していることが確認された。また、4月18日になって、物質バランス計算で約19トンのウランが喪失していることが確認された。
 こうして、4月15日に初めて、セルのカメラ検査が要請された。

 (b)サンプル採取もできず、唯一サンプル採取に成功した情報もコンピュータの接続ダウンで活用されず
 セル220は、事実上二つの区域に分けられている。そして、供給清澄槽などの下には清澄槽サンプがあり、計量タンク・調整タンクの下には調整槽サンプがある。これらのサンプでは、約3ヶ月ごとに自動的にサンプル調査が行われることになっている。サンプル調査では、臨界にいたらないよう、溶液がプルトニウム濃度3.5g/g以内であることを確認するようになっていた。この二つのサンプでのサンプル操作指示が出されたことを示す記録は2000年12月以来残っていないという。
 他方別の資料では、事故の起きた調整槽サンプでは、自動装置がサンプル用の溶液を採取できていなかったことが明らかになった。2003年以降、8回もサンプル採取に失敗しておきながら、再度サンプルを取得しようと試みたのはわずか2回である(しかしこれも採取は失敗)。
 調整槽サンプのサンプル採取は、2003年から漏えいが発覚するまでの約2年間、たった1度だけ成功した。2004年8月28日のそのサンプルは、ウラン濃度が50.1g/gの値を示し、漏えいが起きていることを示していた。
 ところが当時、コンピュータのリンクがダウンしており、この情報は一度FAX送信されただけで、事故後まで活用されることはなかった。
 他方、供給清澄サンプのサンプル調査でも、ウランの存在を示す結果が出ていた。ウラン濃度は、2004年11月26日に9g/g、2005年2月24日には61g/gと上昇していた。しかし、このサンプリング結果もまた放置され、これがコンピュータに入力されたのは、4月14日になってからだった。上記のSRDの値が9%に跳ね上がったのと同じ日であり、既にカメラ検査に向けて動き始めた頃である。
 サンプリング採取も満足にできず、またやっと採取したサンプル結果が漏えいを示しているにも関わらず、これらは放置されてきた。高いウラン濃度を示すサンプル結果に対し、運転員達は、ソープの設計では漏えいは起きるはずはなく、大量漏えいでもない限りそのような結果が出るとは信じられないとして放置してきた。
(調整槽サンプで採取されたサンプル溶液の一部は検査のために実験所に回される。残ったサンプル溶液は、供給清澄サンプに戻される仕組みになっている。当初、供給清澄サンプ区域で漏えいが起きていると思われていた。上記の供給清澄サンプの2つのウラン反応を示すサンプル結果も、実は調整槽サンプのサンプル溶液が戻されたことによって起きていた。そのため、4月19日の供給清澄サンプ区域のカメラ検査で漏えいは発見されず、翌20日の調整槽サンプ区域のカメラ検査で漏えい箇所が特定された。)

 (c)サンプ水位計は故障したまま放置
 調整槽サンプには、溶液の水位を測定するために水位計が取り付けられている。これは、運転員に溶液喪失を警告するためのものだ。
 この水位計は、既に漏えいが始まっていた昨年7月から今年3月までに100回以上の低、低低信号を発していた。昨年12月8・9日にはアラーム検査が行われたが修理されていなかった。
 配管が完全に破断した1月15日には、水位計は急速に8センチメートルの上昇を示したが、その後また低下した。それ以降、カメラ検査で大量漏えいが確認されるまで、正常な水位を示していた。
 カメラ検査後の4月22日に水位計が点検され、故障していたことが確認された。修理後の水位計は、0.2mから1.8mに跳ね上がり、やっとセル床面に大量の放射性溶液のプールができていることを示した。

 (d)生産を優先し、カメラ検査を渋っていた
 発送受領不一致(SRD)のデータが9%を示したこと、さらに供給調整槽サンプのサンプリング結果で2つのウラン陽性反応が出ていたことに基づき、4月15日(金)にカメラ検査の依頼が出された。この時には、漏えいは供給調整槽サンプ区域であると考えられ、カメラ検査もその区域で予定された。
 カメラ検査は当初4月16・17日の週末に計画された。検査は生産より優先されるとされていたが、実際はそうではなかった。週末ではカメラ検査の準備のために人手がたりないとして、準備は月曜日(18日)に延期された。それでも19日には、カメラ検査のために生産が中止されたが、供給清澄槽区域の検査では漏えいは発見されなかった。そのため生産は引き続き中止され、翌20日の調整槽区域のカメラ検査で、セルの床に大量の(約83立方メートル)の放射性溶液が溜まっていることが確認された。
 ソープ再処理工場では、度重なる事故や、高レベル廃棄物のガラス固化過程の停滞等で、再処理は遅れ続けていた。そのため経営陣は、生産を中止してのカメラ検査を少しでも引きのばしたいと考えていた。BNG報告書でも「検査の準備よりもソープでの生産の方がより高い優先順位をつけられていたように見える」と記している。

2.「新しいプラント」文化への過信が事故を招いた
 BNG報告書は、これら一連の事故と事故対応の根底には、ソープにはびこる「新しいプラント」文化への過信があったと指摘している。
 「新しいプラント」文化とは、ソープは最高水準で建設された再処理工場であり(1994年に運転開始)、漏えいはあり得ないと信じ込んでいたことである。そのため、異常を示すデータがあっても、運転員も管理者も全て「計算間違い」だと思いこんでいたという。ソープの安全性説明書には「供給清澄及び計量セル内の容器と配管とはすべて溶接構造であって、高い基準の健全性を満足するように製作されている。 したがって、セル床面への大きな漏えいはありそうもないと考えられる。それにもかかわらず、もしもそのような事象が起こったならば、サンプ警報によって運転員には注意が喚起されることになる」(下線は引用者)と書かれている。しかし、運転員は警報に注意を払わなかった。
 報告書は、今後の改善策として、上司が現場を見回るなど、関電が美浜3号機事故の再発防止策としてあげたものと同様のものをあげている。しかし、下記のいくつかの点については注目する必要がある。
 BNG報告書では、「漏えいなどあり得ない、最高の水準で建設された新しいプラントであるという思い込みがあった。プラントの健全性に対するそのような信頼は間違いであった;強固な設計は、格納機能喪失のリスクを小さくすることはあっても、それを無くすることを保証するものではない」と書かれている。
 さらにBNG報告書では、過去に起きた事故(1998年の溶解槽セルに付属する装置がエロージョンで穴があき、高濃度の放射性溶液が流出する事故等)を示しながら、過去の事故の教訓は生かされなかったとしている。これに関して「『新しいプラント』文化は、ソープ組織内のあらゆるレベルに浸透している。漏えいは起こりうるし、実際に起こることを証明した経験が以前にあったにもかかわらず、このような文化が続いていた」と指摘し、「プラントの故障が将来起きる可能性は相当な程度残されそうである」とも書いている。
 これは、オブザーバー紙が7月3日の記事で指摘しているように、BNFLの解体・分割を望む政府にとっては、この報告書は格好の武器になるだろう(オブザーバー紙の記事の表題は、「報告書はセラフィールドの漏えいは再び起こりうると言う」翻訳資料)。また、この記事の中でグリーンピースのスタッフが述べているように、この報告書は「BNFLにソープ再処理工場を運転する資格がない」ことも明らかにしている。
 BNG報告書では、漏えいした溶液の回収が完了したことは書かれているが、今後のソープの運転再開についてどのような措置をとるのか等々については何も書かれていない。政府の原子力施設検査局(NII)の事故調査も継続中であり、今年いっぱいかかるとも言われている。いずれにしても、ソープが長期間運転を停止することは紛れもない事実であり、その先についても何も決まっていない。ソープの所有者である原子力廃止措置機関(NDA)はソープの運転再開を望んでいないとも言われている。
 ソープの事故が示しているのは、再処理工場において、溶液漏えいが起きれば、お手上げだということだ。密閉されたセル内では、溶液の回収や封じ込めはできたとしても、高レベルの放射能で汚染されているため人が近づくことはできず、セル床面の汚染除去は極めて困難である。また、原発のように部品交換を行うことも非常に難しい。事実、BNGの報告書では、これらの対策は一切示されていない。

3.六ヶ所にもはびこる「新しいプラント」文化
(1)「計量タンクは吊り下げ式ではないので、同様の事故は起きない」原燃社長
 日本原燃の社長は、5月30日の定例記者会見で、ソープ事故に関連して、六ヶ所再処理工場では、同様の事故は起きないと述べている。その内容は以下のようなものだ。
 ・ソープで事故の起きた計量タンクに該当するのは、六ヶ所再処理工場の場合「計量・調整槽」にあたる。
 ・その箇所の配管はステンレス鋼製で、溶接は継ぎ手構造ではなく溶接構造で漏えいし難い設計になっている。
 ・万一漏えいがあっても、セルには漏えい受け皿を設置し、漏えい検知装置を設置している。漏えい液を回収するスチームジェットポンフも設置している。臨界の恐れはない。
 ・セル内の空気はフィルタ等で放射性微粒子を除去した後、主排気筒から放出するようになっている。
 ・吊り下げて重量を測定するタイプの貯槽はない。
 よって、六ヶ所では「Thorpの計量槽のように吊り下げて重量を測定するタイプの貯槽はなく、同様の漏えいは発生し得ないと考える」と結んでいる。
 基本的にソープと異なるのは、吊り下げ式の計量タンクではないということだ。セルの受け皿(サンプ)も、漏えい検知等もソープにも設置されていた。
 「吊り下げ式ではない」から本当に大丈夫なのだろうか。ソープの配管が破断した原因は、配管の金属疲労によるものだ。その繰り返しの運動をもたらしたものは、基本的に、攪拌機による振動である。均一の溶液を作り出すために、計量タンクの内部に備えてある攪拌機が常時振動を生み出していた。それが配管に伝わって破断した。BNG報告書では、最近はこの攪拌の時間が長くなっていたとも書かれている。
 配管の破断をもたらした振動が攪拌から来ているとすれば、「吊り下げ式だから大丈夫」では済まされない。六ヶ所再処理工場では、多くのタンクに攪拌装置がつけられている。例えば、供給清澄槽では、金属屑を除去するために内部に遠心分離器が設置され、激しく振動するはずだ。このようなタンクに接続された配管で破断の危険性はないと言えるのだろうか。

(2)スケジュール最優先の原燃の姿勢は「新しいプラント」文化
 六ヶ所の使用済み燃料プールの水漏れでは、大量の不正溶接が行われていた。その後原燃は、「総点検」によって、これ以上不正溶接はありえないと主張していた。しかし今回明らかになったBPピットでの漏えい事故でも、またも不正溶接が見つかった。
 BPピットの漏えいについては、7月15日に開かれる国の「六ヶ所再処理施設総点検に関する検討会」でも議論されることになっている。しかし原燃は、それすら待たずに、その真の原因や背景について自ら明らかにしないままの報告書を7月12日に公表し、同時に、漏えい箇所の修理工事の申請を出した。
 このような原燃の姿勢は、以前から批判されているスケジュール最優先の姿勢である。原因究明よりも補修という既成事実を先行させて、真の原因究明を後景に退かせている。
 ソープのような事故は六ヶ所では起きないとする原燃社長の姿勢は、「ソープでは漏えいは起きえない」と信じていたBNGの「新しいプラント」文化そのものではないだろうか。既に紹介したが、大事故を引き起こし、ずさん極まりない管理を行っていたBNGの報告書でさえ、「そのような信頼は間違いであった;強固な設計は、格納機能喪失のリスクを小さくすることはあっても、それを無くすることを保証するものではない」とし、「プラントの故障が将来起きる可能性は相当な程度残されそう」とも書いている。
 「六ヶ所では漏えいは起こり得ない」ではなく、この報告書に照らして、六ヶ所の「新しいプラント」文化を見直すべきだ。BPピットでまたも明らかになった不正溶接は、「将来起きる可能性は相当な程度残され」ていたことを現に示した。
 スケジュール優先ではなく、原燃にはびこる「新しいプラント」文化を見直し、その根本姿勢を正すべきだ。