−8月7日 ケビン・キャンプス氏講演会 in Osaka 報告−
老朽化に伴い米国で多発する使用済燃料プールからの漏えい
稼働率90%の背後に「まず漏らして、あとで修理」

 
 各地の運動団体が協力して米国から招請したケビン・キャンプス氏を招き、8月7日に大阪で、グリーン・アクションとの共催、ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパンの後援で講演会を開いた。ケビン氏は、米国の有名な反原発団体「Beyond Nuclear(「核の時代を超えて」)」で、核廃棄物問題や原発の安全問題に取り組んでいる。ケビン氏には、2日の来日以降、対経産省交渉(3日)、原発輸出の後ろ盾であるJBIC(国際協力銀行)との交渉(4日)、福島県への申し入れ(5日)、福井県への申し入れ(6日)、と連日のハードスケジュールの中、大阪に来ていただいた。グリーン・アクションのアイリーン・スミスさんのすばらしい通訳だった。
 講演会には、愛知や和歌山、愛媛、富山など遠方から来られた方も含め約60名が参加し、質疑の時間には会場から絶えず質問が出され、予定時間を超過するなど非常に活気ある講演会となった。
 老朽化が進む米国でのプール水漏えいの実態や、新規原発に反対する運動の紹介は、日本の運動にとって貴重な内容だった。今後も日米の運動の協力を強めていきたい。

1.使用済燃料であふれかえる米国のプールと高まる電源喪失、ドレン・ダウンの危険性
 講演は、使用済燃料プールが満杯になっている米国の現状の説明から始まった。米国内には104基の原発があるが、2015年には全ての発電所のプールが満杯になる。文字通りの満杯で、あまりにもぎゅうぎゅう詰めなため、臨界を防ぐために集合体と集合体の間に中性子吸収材を入れなければならないほどだという。除熱もシビアで、電源喪失でプール水の循環ができなくなれば、直ちに燃料棒溶融といった事態に直結する。そのような状況の中、実際に竜巻やハリケーンといった自然災害などによって電源喪失が起こるといった事態が発生しているとケビン氏は指摘した。1992年のハリケーン・アンドリューは南フロリダにある原発を直撃、補助建屋が完全に破壊され電源が失われた。プールに冷却水を循環させるため、ディーゼル発電機を長期にわたって稼動させざるをえなくなり、周辺の病院に備蓄されている自家発電用のディーゼル燃料をかき集めたという。
 また、「ドレン・ダウン」と呼ばれる一挙的な大量漏えい事故も起こっているという。イリノイ州のドレスデン原発では、配管が壊れ大量のプール水が失われるという事故があった。他にも、プールからの配管に補修テープをぐるぐる巻きにしたバスケットボールを詰め込んで修理しようとしたが、水圧に負けて150万リットルの水が一挙に噴出、地下に流れ込むという事例もあったという。ミシガン州のパリセイズ原発では重さ107トンの輸送キャスクを運搬するクレーンが故障し、プールの中で2日間も宙づり状態となった。ケビン氏は、もしキャスクが落下していれば、プールの底を損傷させ、大量漏えいを起こした危険性があったと指摘した。

2.老朽化によって頻発する使用済燃料プールからの漏えい
 次にケビン氏は、米国で頻発する使用済燃料プールからの放射能汚染水の漏えいに話を移した。これらの事故は、気づかれないまま長期間、大量に環境中に漏えいするということが特徴である。ケビン氏は、原発の老朽化と結びついていると強調した。そして、一つ一つの事例に即して具体的に説明を進めた。
 1番目は、1996年に閉鎖されたコネチカット・ヤンキー原発。2009年の解体作業中に1日10〜20リットルのプール水の漏えいが発覚した。モニタリング用の検知井戸はあったが、検出されてことは一度もなく、解体して初めて漏えいが判明した。どの位の期間、したがって、どの程度のプール水が漏えいしたか分からないという。
 2番目は、ニューヨークの中心部からわずか37kmにあるインディアン・ポイント原発。漏えい水はマンハッタンまで流れているハドソン川に流入したと考えられている。すでにハドソン川では魚からストロンチウム90が検出されており、川の水の放射能濃度はEPA(環境保護庁)の安全規制値を上回っている。しかし、電力会社は"Dilution is solution to pollution"=「薄めることが汚染の解決策」と言い、汚染の除去は行わず、川に流出しきるまで放置しているという。
 3番目は、ニュージャージー州の州都デラウェアからわずか27kmに位置し、インディアン・ポイントと同様、人口密集地に設置されているセーレム原発である。セーレム原発の場合は、漏えいを検知する検知溝がホウ酸等で詰まり、5年間も漏えいを確認できなかった。
 さらにケビン氏は、バージニア州にあるBWXテクノロジー社の核燃料施設や、エネルギー省のブルックヘブン国立研究所で起こったプール水漏えいについて解説した。
 また、使用済燃料プールではないが、漏えいの事例として、バーモント・ヤンキー原発の地下埋設配管からの大量漏えいについても紹介があった。バーモント州議会は、この原発の20年の寿命延長申請を拒否する決議を上げた。ケビン氏は、連邦政府のNRCは機能していない、だから、州が行動に移っていると指摘した。一方で環境運動も活発になっている。インディアン・ポイントでは、市民グループであるハドソンリバーキーパーが20年延長の許認可を巡って裁判を起こしている。また、漏洩についても裁判が起こされている等、漏えいを契機に運動が高揚している状況について語った。

.進まないオバマ政権の新規立地推進政策
 最後にケビン氏は、オバマ政権の債務保証の問題について語った。彼は、オバマ政権が進めている債務保証による新規立地推進に対する反対運動のリーダーである。オバマ政権は新規立地の後押しを一層進めるために、債務保証枠の拡大を狙っている。しかし、建設コスト上昇や、東芝WHが進めるAP1000型炉の安全性の問題が障害となって思うようには進んでいないとのことだった。GAO(米国会計検査院)は、新規計画されている原発の半数は破綻するだろうとの見解を出しているという。連邦議会ではNRCの基準を緩和させて、AP1000型炉を認可させようという動きがあるとのことだった。一方運動の側は、革新の政治家だけではなく、公金の無駄使いに厳しい保守系の政治家とも連携を強化して、ブッシュ政権以来、原子力の復権を阻止する運動を進めてきた。反原発運動、環境運動、税金の無駄使いを監視する納税者の運動が一緒になって、さらに闘いを進めているということだった。東芝WHが進めているサウス・テキサス原発でのAP1000型炉の新規立地について、米国の債務保証で賄えない部分は東芝と東京電力が同率で出資金を負担している。日本政府は、JBICや NEXI(日本貿易保険)を通じて金融的支援を行っている。これに対して、米国の運動は連名で、いかにアメリカの新規立地の実態がひどいものであるか、原発ではなく再生可能エネルギーに投資すべきだということを訴える手紙を、これらの政府系金融機関および、経産省、財務省に送ったとのことだった。

4.被害を追及する市民の力によって暴かれた漏えい
 その後、休憩を挟んで質疑となった。モニタリングの実態について質問を受けたケビン氏は、使用済み燃料プールからの漏えいについて、たまたま分かっただけで、モニタリングで発覚した事例は一つもないこと、すべての事例が偶然発覚したものに過ぎないと強調した。また、関連してイリノイ州にあるエクセロン社の施設で、1996年から2000年にわたって計22回、トリチウム水漏れが起き、そのうち2回は1200万リットルずつと大量の漏えいだったという事例が紹介された。同社は10年間それを隠していたが、1人の女性の闘いがきっかけで発覚したという。その女性、シンシアさんの娘サラは7歳の時に脳腫瘍にかかった。その後、彼女の娘が通っていた小学校では5人の子供に脳腫瘍が発生しており、同じ郡の中で20件の小児脳腫瘍が発生していることが分かった。統計的には、その郡では1例も小児の脳腫瘍は起こらないはずだという。シンシアさんは原因究明を開始し、その結果エクセロン社が大量漏えいを起こしていたことを突きとめた。結局、被害が出て初めて環境汚染があったことが分かったのだ。しかし、NRCは因果関係を否定しているという。このように、漏えいは、シンシアさんのように市民の力によって暴かれていると彼は強調した。
 また、バーモント・ヤンキー原発の埋設配管からの漏えいに関して、米国のマスコミは取り上げているのかという質問もあった。ケビン氏は、地元メディアには少数の良心的で熱心な記者はいるが、大手メディアは取り上げようとしないと語った。
 さらにケビン氏は、「アメリカでは水漏れが見つかっても原発を止めないのか」という質問に対して、電力会社はプールや配管からの漏えいや、その他安全上の問題が起こっていても、「まず漏らして、あとで修理」という姿勢であり絶対に止めないと語った。さらにデービス・ベッセ原発で起こった原子炉容器上蓋の大規模腐食の事例を紹介し、もはやNRCが規制当局として機能していないとした。そして、このような経済性最優先の電力会社とNRCの姿勢が90%という米国での異常に高い原発稼働率の背景にあると指摘し、話を締めくくった。

 その後、講演会を後援したノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパンの佐藤氏から日本の原発輸出に反対していこうとのアピールがあった。続いて、主催者側から8月3日に行われた使用済MOXに関する国との交渉、8月6日の福井県への要望書提出と交渉についての報告があった。
 最後に、ケビン氏に対して、感謝と心からの連帯をしめす大きな拍手がわいた。
 また参加者は、玄海プルサーマル裁判闘争の9日提訴に向け、布にそれぞれ思い思いの応援メッセージを書いた。


 ビヨンド・ニュークリアが出した報告書「まず漏らして、あとで修理」は、米国で起きている使用済燃料プールと埋設配管からの漏えいの実態を具体的に紹介している。米国での実態を日本の運動に役立てるため、この報告書を翻訳発行した。是非、活用していただきたい。

<発行にあたって>  <目次>
翻訳発行:グリーン・アクション/玄海原発プルサーマル裁判の会/ふくろうの会/美浜の会/
頒価:500円(発行2010年8月)

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(10/08/11UP)