発行にあたって

 米国の著名な反原発団体Beyond Nuclear(核の時代を超えて)から出された「まず漏らして、あとで修理」は衝撃的な報告書だ。私達がこの報告書を知ったのは、プルサーマルを阻止するために、使用済MOX燃料が超長期に原発プールで保管される危険性を訴える運動の中でだった。

 この報告書では、米国で起きている使用済燃料プールと地下に埋設された配管からの放射能汚染水の漏えいの実態が具体的に紹介されている。漏れ出した放射能汚染水は、地下水や湖、海に流れだし、周辺住民の飲料水を汚染して被曝と環境汚染を引き起こしている。住民や州政府が電力会社を裁判に訴えたり、原発の20年間の寿命延長を拒否する州議会決議があげられる等、米国では社会的に大きな問題となっている。このようなことは日本では紹介されていない。そしてこの報告書は、電力会社の経済性最優先の姿勢と、それを容認してなんら実行力を伴った安全規制を行おうとしないNRC(米国原子力規制委員会)の姿勢を厳しく批判している。
 日本では、稼働率90%を超える米国に追いつけと、定検期間の短縮、長期連続運転などの検査制度の改悪、そして、予防保全ではなく「事後保全」、まさに事実上「まず漏らして、あとで修理」の精神で、安全規制を骨抜きにしようとしている。これら老朽原発にむち打つ危険な運転は、米国のように深刻な環境汚染をもたらすに違いない。その意味で、この報告書は、日本の私達にとって貴重なものだ。
 さらに報告書は、軽視されているトリチウム被曝の危険性について、詳しく述べている。原発は通常運転でも事故時にも大量のトリチウムを海と空に放出している。トリチウム(三重水素)は放射性の水素であり、トリチウム水となって体内の至るところに到達し、生物の最も深い遺伝子レベルで損傷を与える。発ガン性を有するトリチウムの生物学的影響について、これまでの定説を覆す内容が紹介されている。
 
 この貴重な報告書の翻訳・発行を快く承諾してくださったBeyond Nuclearに感謝します。とりわけ、協力していただいた報告書の執筆者であるポール・ガンター氏(Paul Gunter)と、来日して各地で講演していただいたケビン・キャンプス氏(Kevin Kamps)に深く感謝します。

 この翻訳資料が日本の運動を進める上で一助になれば幸いです。

2010年8月

グリーン・アクション / 玄海原発プルサーマル裁判の会
福島老朽原発を考える会 / 美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会

(10/08/09UP)