美浜の会ニュース No.87


 アクティブ試験開始から2ヶ月半が経過した。この間に、次の点がリアルな問題として浮上してきた。(1)日本原燃の安全管理のずさんさが、事故・トラブルの頻発を通じて如実に明らかになってきた。原因究明を放棄し、他方で情報を極力公開しない姿勢、スケジュール優先の姿勢が人々の目に映るようになった。5月までの2ヶ月間で、公開されているだけでも7件の事故・トラブルが続き、作業員のプルトニウム被ばく事故まで起きた。(2)大量の放射能を大気と海に実際に放出しているが、その実態を極力隠し、放出量を低く見せかけようとしている。
 このような状況に対して、アクティブ試験開始までは推進一辺倒だった青森県議会の自民党議員や隣接市町村長、自民党県連などが原燃に対して苦言を呈し始めている。岩手県内では、市町村長達が引き続き情報の公開等を要求している。さらに、アクティブ試験開始後、ネットなどを通じて、新たな人々が再処理工場反対の意思表示を始め、新しい流れが始まっている。原燃と再処理工場を見つめる人々の目は、徐々にではあるが、確実に変化してきている。
 アクティブ試験・第1ステップ終了後の6月末から7月初めにかけて、「第1ステップの評価」が行われる。この時期に、原燃の安全管理のずさんさと情報非公開の問題をリアルに具体的に批判し、アクティブ試験を早期に中止させる力を創り出していこう。

頻発する事故 T字配管からの漏えい−「事後保全」という原燃の施設
 アクティブ試験開始から2ヶ月で、原燃が公表しているだけでも7件の事故・トラブルが起きている(6頁の「事故日誌」参照)。その中でも、原燃の安全管理のずさんさと事故に対する姿勢を端的に表しているのが、5月17日に起きた、精製建屋内のプルトニウム精製系にある配管のT字継ぎ手からの放射性試薬の漏えい事故である。
 実は、昨年7月のウラン試験の最中にも、同種継ぎ手から漏えいが起きていた。その原因は、この継ぎ手の製造過程で不純物が混入したため、不純物が硝酸腐食を促進させたためであることが分かっていた。それゆえ、(1)同じ製作ロットで製作され、かつ(2)硝酸溶液が内部に通るすべての継ぎ手で漏えいが起こる危険性のあることは明らかであった。この2条件を満たす継ぎ手はすべて直ちに交換すべきであった。しかし原燃は、他の同種の配管T字継ぎ手については表面の目視検査のみで問題なしと済ませていた。5月に起きた漏えい箇所は、当時「問題なし」とされていた継ぎ手だった。漏えいが起きるのは必然だったのである。
 今回の事故は、昨年のウラン試験のずさんな安全管理が、アクティブ試験で顕在化したものだ。青森県議会でも自民党議員から、このあまりにずさんな原燃の安全管理を批判する声が出始めた。そのため原燃は、今度は同種の38のT字継ぎ手を交換せざるを得なくなった。そして5月30日にプルトニウム精製系の運転を再開した。
 しかし、事故の原因究明は放棄したままだ。なぜ当該ロットに不純物が混在したのかの原因や、不純物が具体的に何かも明らかになっていない。これでは他のロットで同様の不純物が混入していないという保証はない。このような事故対応では、今後も同様の事故が起きてもなんら不思議ではない。
 事実原燃はそう考えている。電話で問い合わせると、今回のT字継ぎ手も、同種の継ぎ手(全部で62箇所)もすべてセル外にあるという。漏れが起きても取替えができる場所にあるというのだ。それゆえに、これらの管理は基本的に「事後保全」、つまり漏れが起きれば取り替えるという管理の仕方でいいのだという(事実、原燃の発表では、漏れても飛び散らないように継ぎ手をビニールで包んでいたという)。昨年7月に漏えいが起こっていながら同種継ぎ手を取り替えなかった姿勢も、結局は「事後保全」方式から来ていたのである。
 セル外だから事後保全でいいという姿勢は、(1)事故原因の究明を一切放棄し、(2)漏えい事故の頻発を容認するものである。(3)その結果として、事故のたびにプルトニウムを含む溶液のふき取り作業に地元採用の下請け労働者が動員される。「事後保全」は裏を返せば、被ばく労働の強要を前提としている。事故原因の徹底究明を求めることを通じて、この原燃の姿勢を厳しく批判していこう。

プルトニウムによる体内被ばく−原因説明は全て推定で証拠示さず
 5月25日、原燃は分析建屋で協力会社作業員の内部被ばく事故が起きたと発表した。作業着の右胸の汚染の最大値は、α核種で1.5Bq/cm3、β核種で0.17Bq/cm3だったという。推定被ばく量は0.014mSvで「レントゲンによる被ばくよりも低い」と発表した。しかし、この作業員は汚染が恒常化している職場でかなり以前に放射能を吸引していた可能性があり、吸引の時期が未確定なままでは尿や糞の放射能から評価したこの被ばく線量はあてにはならない。また、内部被ばくの影響をレントゲン等の外部被ばくと単純には比較できない。また原燃社長は、今回は初めての被ばく事故だったので公表したが、今後は2mSv未満の被ばくは公表しないとまで語った。
 T字継ぎ手からの漏えい事故に続いて起きた被ばく事故により、青森県当局は重い腰を上げざるを得なくなった。26日に異例の「立入調査」を行い、原燃に原因究明、安全意識の徹底等を要請した。隣接市町村連絡会も29日に同趣旨を要請した。これらを受けて原燃は、5月31日に、再処理事業所体育館で「安全集会」を開いた。下請け会社も含めて約1800人を集め、安全旗を指さしながら「ゼロ災、ゼロ災」と叫んだ。これが「安全意識の徹底」である。電力会社を見習っての「お題目教」で青森県知事のメンツを立てるパフォーマンスである。
 6月9日になって原燃は被ばく事故の「調査結果と今後の対応」を出した。そこに書かれている被ばくの原因説明は、全て推測だけである。どのような経緯で作業着の右胸が汚染されたのか、その汚染源は一体何かについて、具体的証拠は何一つ示されていない。「作業に使用する試料皿の裏面が汚染されていた可能性」、二重に着用していたゴム手袋のうち「汚染した可能性のある二重目(外側)のゴム手袋を廃棄する際に、廃棄物袋から一重目のゴム手袋に放射性物質が移行した可能性」をあげているが、試料皿や廃棄物袋の汚染を示す具体的数値などは何も書かれていない。そして今後の対策は、「口の広い廃棄物容器の設置」である。全くの茶番だ。さらに作業員のマスク着用については、「マスクを着用すれば作業効率が悪くなる」として、この「対策」が定着するまでの間だけマスクを着用させるという。作業員の安全より作業効率を優先するというわけだ。
 原子力資料情報室に届いた告発メールの内容について、原燃は16日に見解を出した。その中で、「アクティブ試験開始以降、管理区域用被服の汚染が今回の事象の前に2回確認されています」と告発メールの内容を認めている。原燃社長が記者会見で語った「今回は初の被ばくだったため」がデタラメであったことを自ら暴露した。告発があって初めて被ばくを認めるということ自体が原燃の隠ぺい体質を表している。
 このような「被ばく隠し」の姿勢では、「事後保全」と相まって、地元採用の作業員や下請け労働者の健康被害は深刻なものとならざるをえない。3回の被ばく事故の実態と関連資料を全て明らかにするよう要求しよう。

放出放射能量についてもあの手この手で非公開
 海への放射能放出については、アクティブ試験以前から岩手県内で反対の声が強まっていた。4月の海洋放出直前に、宮古市長をはじめ岩手10市町村長達が再処理工場を視察した。宮古市長は県内での説明会要求を原燃が踏みにじっていることを厳しく批判し、謝罪を要求した。その場で原燃社長は、海洋に放出される放射能が47,700人分の致死量に当たることを認めた。これは「三陸の海を放射能から守る岩手の会」が一貫して主張してきたことだった。さらに、「安全なら近くの川に流せばいい」と追及されると、「川では薄まらない、トリチウムを飲んでもいいということではない」と答えている。それほどの毒物を海に放出するのに、原燃は被害を受ける人々の了承もなく、また情報の公開もなく強行している。4月28日の第1回目の海洋放出直後の5月2日には、岩手県市長会が海洋汚染の懸念を表明した。また6月13日には同県町村長会が原燃に提言書を出し、三陸沿岸の漁業者達の不安を表明して情報の公開、安全対策に万全をきし住民に説明すること等を求めた。しかし原燃は、これらの声を全く無視して、岩手県内での説明会も開かず、情報を隠したまま放出を続けている。
 原燃はアクティブ試験の第1ステップで予定していた67体の使用済み核燃料のせん断を6月10日に終えた。4月に8体、5月に28体、6月7〜10日で31体をせん断した。これに伴い、大気中には放射能が放出されている。また、海への放出は、第一回目の放出以降、いつ、どれだけの放射能を放出したかについては「月毎にまとめて報告する」としてきた。「4月報告書」は5月30日に公表したが、「5月報告書」はまだ公表していない。そのため、この「4月報告書」の内容から、原燃の放出放射能に関する情報公開の問題点を指摘する。

1億ベクレル放出しても検出限界以下(ND)
 「4月報告書」では、4月に放出した放射能量が「当月の放出量」として書かれている。海洋放出についてはトリチウム(H-3)だけ数値があり、他はすべてND(検出限界以下)となっている。大気放出については、クリプトン85(Kr-85)、トリチウム、ヨウ素129(I-129)以外はNDである。全量放出するはずの炭素14もNDだNDとは事実上ゼロ放出と同じ扱いである。たとえばヨウ素129の5月分以降の放出量もNDだったとすると、ND+ND=NDとなり、年間を通じてヨウ素129は放出されなかったのと同じ扱いになる。
 NDとは、濃度が国のいわゆる測定指針(発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針)で規定されている「測定下限濃度」未満である場合をいうのである。
 たとえば、トリチウムの海洋放出では、「測定下限濃度」は0.2Bq/cm3である。4月の放出量は600m3(1バッチ)であることが新聞報道で分かっている。もし測定下限濃度の廃液を600m3放出したとすれば、その中にはトリチウムが1.2×10Bq含まれていることになる。今回放出したトリチウム量は1.7×10Bqだから、これは検出限界を超えていたことになる。そのため、放出量の項に数値が書かれている。ところが、放出量が仮にたとえば1.0×10Bq(1億Bq)だったとすると、このときの濃度は検出限界未満になるのでNDとなる。毎秒1億個の放射線を出してもゼロ放出と同じ扱いになる。これが原燃の情報公開のやり方だ。
 そもそも測定指針がつくられたのは1978年9月のことで、そのときから「測定下限濃度」は基本的に変わっていない。測定技術の進歩を考慮すれば、実際には測定値が存在するに違いない。測定指針は現実に事実を覆い隠すための役割を果たしているのである。
 また「4月報告書」には、最も基本的な情報である、何日にどれだけの廃液を出したという記載すらない。5月には、当然複数回の海洋放出を行っているはずだ。以上の観点から、まもなく公表されるはずの「5月報告書」も批判し、問題点を具体的に宣伝していこう。
 さらに、原燃がホームページで公開している「リアルタイム」の施設や周辺の環境モニタリング情報も問題だらけだ。一例を示せば、再処理工場の主排気筒のガスモニタ等の数値は、「リアルタイム」といいながら10分間の平均値で、10分毎に更新される。そのため、10分前の数値を見ることもできない。

ずさんな安全管理を厳しく追及し、
事故や放出放射能の実態を把握できる情報公開を要求しよう

 アクティブ試験開始からの2ヶ月半で明らかなことは、事故が頻発してもその原因究明はまったく放棄して、スケジュールを最優先させて強引に試運転を続けていることだ。さらに、事故の情報に関しても、放出放射能の情報に関しても、原燃がいかに非公開とするために労力をさいているかということだ。事故や放出放射能の実態が分かるようなデータをどうすれば極力隠すことができるかということに血道を上げて実行している。
これでは事故は続き、労働者の被ばくは増加し、知らないうちに大量の放射能が放出され続けることになる。
 まずは、この間明らかになった事故の原因究明放棄、情報非公開の実態を広範な人々に知らせていこう。アクティブ試験開始前までは推進一色だった青森県自民党県連も、6月9日に原燃社長に「緊張感をもって当たってほしい」と原燃の管理体制を批判せざるを得ないほどになっている。岩手県や宮城県で三陸の放射能汚染を危惧し、原燃に説明を求める声がさらに大きく広がっている。岩手県内の各自治体も継続して原燃を監視している。青森や岩手の運動と連携して、県議会議員などへの働きかけを強めていこう。
 プルサーマル反対で果敢に闘う各地の運動と連帯し、また「食品の安全」を求める運動とも連帯していこう。アクティブ試験開始後には、グローバリゼーションに反対する活動やイラク戦争に反対する活動を行っている若い人々が、新たに六ヶ所再処理反対の意思表示を始めている。ネット署名も始まっている(16頁の投稿参照)。六ヶ所反対のこの新しい流れと連帯し、原燃の卑劣な情報公開のやり方等を宣伝していこう。これらを通じて、アクティブ試験を早期に止める力を創り出していこう。
 第1ステップ終了後の6月末から7月初めてにかけて、「第1ステップの評価」が行われる。この時期に、原燃の安全管理放棄の姿勢と、情報非公開の問題点を具体的に追及していこう。