「当該材料の実績値」(ミルシート)による2次系配管の余寿命延ばし
関電は 未だに「実績値」を使った余寿命延ばしに執着
保安院は 曖昧な態度に終始


 美浜3号機事故で明るみに出たずさんな2次系配管管理について、関電は、肉厚が薄くなり赤信号が点灯している配管に限って、余寿命を延ばす手法を駆使していた。
 その一つは、『発電用火力設備の技術基準』(以下、技術基準。)の「ただし書き」を歪めて使用した寿命延ばしである。これについては、保安院が「1年未満と評価された余寿命が数年から数十年と延びることになるが・・、不適当」と指示した。すると今度は、「当該材料の実績値」を使って寿命を延ばしたのである。「実績値」とは、日本工業規格=JIS=に適合していることを証明する「検査証明書」(製造所が発行するのでミルシート=mill sheet=という。)に記載された当該材料の「試験値」であり、この数値を用いて「次期定検までは問題ない」としたのである。
 関電のこれらの手法は、決して「過失」ではなく、「悪意のある」規制逃れというべきものである。ところが、保安院は、関電の手法の妥当性について、文書等で正式に適切か不適切かの評価を下していない。
 ミルシートの「実績値」を用いることは、工学の常識から逸脱している。関電の「『実績値』を使っても健全性が証明できる」との言い分は、意識的に余寿命を延ばすための悪意に満ちている。
 保安院は、「実績値」の使用は極めて不適切であることを関電に通告し、安全性を最優先した適切な配管管理の厳格な規制を行うべきである。

ミルシートの実績値を使って余寿命を8.6年も延ばしていた
「実績値」を使い 技術基準を下回る最小必要肉厚を計算

 最初に、ミルシートの実績値を使えば、余寿命や必要最小肉厚がどうなるかを示す。表1は、関電が、国の美浜3号機2次系配管破損事故調査委員会(以下、事故調)や福井県原子力安全専門委員会(以下、県・専門委員会)に提出した資料をまとめたものである。 

 「実績値」を用いて必要肉厚を小さくし、余寿命を延ばしたのは明白である。長谷部統括原子力保安検査官は、第4回事故調(昨年9月6日)で、「(美浜1号機では)技術基準上の式で計算しますと、15.4mmが最小必要肉厚でございます。従いまして、(測定した)15.2mmは技術基準の最小肉厚を割っている」と説明した。既に寿命の尽きた配管に「実績値」を使い、余寿命を8.6年も延ばしたのである。

ミルシートとは、製造所が発行する「検査証明書」
材料の試験結果によってJISの適合製品であることを証明するのが「実績値」
 図1が実際のミルシートである。□部分の拡大が図2。図3は、国が技術基準で定めた「許容引張応力」(強度)である。(これらは、美浜3号機の破断した当該配管の材料。)
 図2での「計測値」が関電のいう「実績値」であり、引張試験での値である。
 この「計測値」が「基準値」を満たす場合にはJIS適合品、満たさなければ不合格品となる。だから、製造メーカは、製造でのバラツキを考慮して余裕をもたせて製造するのであり、基準値を上回る程度は同一の製造所でも、異なることがあるのである。
 従って、このような「計測値」(試験値)を配管管理や設計に使用することは工学の常識を逸脱している。また、国が定めた基準に従わない規制逃れというべきものである。

【注釈】単純化して説明すると、「降伏点」(強度)とは、材料に加わる力(圧力など)がなくなれば、歪(変形)が残らず、元の形状に戻るぎりぎりの強度のことである。「引張強さ」は、これ以上力を加えると壊れる限界の強度であるが、圧力などがなくなっても歪(変形)が残るので繰り返しての使用は困難となる。「許容応力」とは、材料が安全に機能を果たすために許される最大の強度であり、許容応力=規準の強さ/安全率で示される。安全率は、製品のバラツキ、加工や施工でのバラツキ、および予測しきれない不確定要因があることを考慮し、機器の重要度に応じて決定される。通常、機器の設計、管理には材料ごとに決められている許容応力を使用する。図3の許容引張応力10.5kg/mm2は、このような要素を盛り込んで国の技術基準で定められた強度である。図2と図3より、およその安全率は、23/10.5=2.19であり、機械設計工学関係での目安安全率などからして、高い部類の安全率ではない。また、安全率が低すぎると危険性が増し、高すぎると経済性が失われる。「事業者の自由裁量」で安全率を決めれば、経済性を優先することができる。今回の場合、関電が、どのように安全率を設定し、降伏点と引張強さのどちらを使用して計算したのかについては不明であるため、関電に質問している。

関電/手順を定めていないことが不適切 実績値で健全性の証明は可能
「余寿命を延ばすためにやったのではない」と居直る

 実績値を使用した配管管理について、今年1月20日の交渉で関電は次のように回答した。
 「実機材料に関しては、技術基準に明記されていないものでも健全性の証明は可能。ただし、評価の手順を社内基準に定めずにやるのは不適切だと(保安院)から指摘されている」と。
 これは、今なお「実績値」を使った余寿命延ばしを反省せず、社内基準に定めれば問題ないとの驚くべき回答である。この回答は、10月8日の第9回県・専門委員会での岸田副社長の弁明に反している。副社長は「今後、ただし書き等を含めて(そういった解釈は用いずに)、現在の技術基準通りで実施していくと決めており、社内に周知徹底している。」と弁明した。また、関電が公表した「中間とりまとめ」(9/27)にも反し、心底は別であることを象徴している。
 交渉で「なぜ余寿命の少ない配管にだけ適用したのか」と質問すれば、「健全性を確認するため」「余寿命を引き伸ばす意図でない」と居直り続けたのである。(詳細はホームページに掲載
 この問題について、グリーン・アクションと共同して保安院に質問書を、福井県の安全専門委員会には要請書を提出し、関電を問いただすよう要求している。安全性を最優先した2次系配管管理を徹底させるために、実績値を使用するなどの手法を徹底して批判しなければならない。

関電の「実績値」による手法について適切か不適切かを明らかにしていない保安院
保安院は 関電を事情聴取し、使用した動機・意図を明らかにせよ

 実績値を使用した最小必要肉厚の算出に関して、保安院の関電に対する対応は曖昧である。
(1)第3回事故調(8/27)で梶田原子力発電検査課長:「・・ミルシート上の、もともとその材料、配管が持っている許容応力を入れれば、今現在も十分な強度が保たれている可能性はあるというふうに、・・計算はすぐできると思いますが・・・評価の仕方、ルールの問題である・・」「・・保守管理、保安規定の運用としては不適切、問題があると考えている」。
(2) 第9回県・専門委員会(10/8)で同課長:「(実績値から必要肉厚を算出した)美浜1号機の配管取替えについて、念のために取替えると記載しているが、これは関西電力の技術基準に対する認識が不十分であると言わざるを得ない」。
(3)同じく、第7回県・専門委員会(9/18)で:「我々としては、技術基準の必要肉厚を割ったものは、取替えるべきであると考えている」。
(4)また、第7回事故調(12/13)資料7-1-4では、日本原電の敦賀2号機について「平成13年、余寿命が1年未満となった2箇所について、実機材料のミルシートによる許容引張応力で再評価を実施」を「不適切な判定基準の適用事例」として指摘している。(アンダーラインは筆者)

 (1)の説明は、関電の回答「社内基準に定めなかったことが不適切」と全く同じであり、実績値を用いたことを直接に批判するものでない。(1)と(2)、(3)の見解は異なるが、どちらが保安院の見解か。また、(4)で日本原電に対して「不適切」と指摘しながら、関電に対しては「不適切」と指摘する公式見解がないのはどうしたことか。
保安院は、次の2点を明らかにする責務がある。そもそも「実績値を用いた必要最小肉厚の算定方法は、国の技術基準違反であるのかどうか」。2点目は、「関電が行った実績値による余寿命評価について、『不適切』と表明した正式な文書があるのかどうか」。
 この3月には、美浜事故の「最終報告」が予定されている。同時に、「原子力発電設備の技術基準の性能規定化」の検討が進み、配管の管理指針も見直されようとしている。その中で、事故の責任追及と配管管理の強化に向けた運動を進めていこう。

(m)