あまりにずさんなBWRの配管減肉管理の実態
▼代表部位から類推して検査を省略 ▼ステンレスに替えても進む減肉
福島老朽原発を考える会 S


■過去も将来も点検しない箇所が多数存在
 2次系配管が減肉して破断した美浜3号機事故以降、東電交渉では東電の配管減肉管理を問題にしてきました。1次系しかないBWRの場合、PWRよりも厳格な管理が求められるはずなのです。しかしその実態は、ずさんな管理が問題になっているPWRよりもさらにずさんであること11月5日の東電との交渉で明らかになりました。
 BWRの場合、PWRと比べて点検対象箇所が多い割には、実際に点検した箇所数は少なく、東電もその例外ではありません。点検箇所は、福島第二原発1号機では2,787箇所中272箇所、最も古い福島第一原発1号機でも1,080箇所中303箇所にすぎません。しかも、残りすべてを点検するわけではなく、将来も点検されることのない部位が多数存在します。
 福島第二原発1号機の例では、まだ点検を行っていない2,515箇所のうち今後点検の予定があるのが941箇所、残りの1,574箇所は将来も点検されないということになります。この数値は新しい炉ほど多く、最新の柏崎刈羽原発7号機では3,257箇所の点検対象のうち、実に3,042箇所が過去も将来も点検されないという状況です。(5頁の表参照)

■代表部位による点検省略は危険
 点検対象部位でありながら過去も将来も点検しなくてもよい部位について東電は、代表部位の点検結果にて評価を実施していると説明しています。例えば、A系とB系の2系統ある配管については、どちらか一方だけを点検すればよいといった扱いです。また、他の号機の点検結果から点検の省略を決める例もあるとの説明もありました。新しい炉ほど検査しなくもよい部位が増えるのはそのせいです。しかし、このようなやりかたでは配管の減肉管理が十分にできないことは、関西電力大飯1号機の例でも明らかです。

■保安院の「二重基準」
 原子力安全・保安院は、美浜原発3号機事故についての「中間とりまとめ」において、関西電力が未点検箇所のうち11箇所について、同一仕様プラント類似箇所の点検結果からの推定によって管理していると主張したことについて「適切な管理が行われていなかったと判断した」と批判しています。この批判はそのまま東電に当てはまるものです。代表部位の点検結果によって評価が可能であるとするようなやり方は厳しく批判されなければなりません。
 また、11月9日の保安院交渉では、以上のような問題だらけのBWRの減肉管理について、保安院が一切把握していないことが明らかになりました。東電が明らかにした数値を出しながら説明すると彼らはそれを必死にメモしていました。

■新たに明らかになったBWRの激しい減肉事例
 保安院の「中間とりまとめ」は、BWRでは、水質環境対策や対策材への交換が行われており、分析の結果、「減肉率」もPWRより低いと記述しています。しかし、保安院の調査後に、BWRにおいて、「恒久対策」とされている「低合金鋼」という対策材への交換や、減肉がさらに起こりにくいとされている「ステンレス鋼」への交換を行っても止まらない事例や、保安院が調査・分析をして得た減肉率とは桁違いの減肉事例が次々と明らかになっています。
 新たに明らかになった事例は、減肉率が保安院の分析値であるBWRの平均約0.13×10-4o/時(1時間当たり1万分の0.13oの減肉)やPWRの平均約0.26×10-4o/時を大きく超えています。また、減肉が一旦は落ち着いたのちに加速するような事例もあります。これらは、市民団体や福島県などの要請があって初めて公開されたものです。
・女川原発1号機 炭素鋼 第5回 0.72×10-4o/時 (0.63mm/年)
・女川原発2号機 低合金鋼 第1回 3.8×10-4o/時 (3.3mm/年)
・女川原発2号機 ステンレス鋼 第3回 3.5×10-4o/時以上 (3.1mm/年以上)
・女川原発2号機 ステンレス鋼 第6回 3.1×10-4o/時以上 (2.7mm/年以上)
・福島第一原発5号機 炭素鋼 第14回 0.69×10-4o/時 (0.60mm/年)
・柏崎刈羽原発2号機 0.79×10-4o/時 (0.69mm/年)
・美浜3号機破断部位 炭素鋼 0.48×10-4o/時 (0.42mm/年)

■保安院の分析は実態を反映していない
 保安院の分析は、事故から2日後の8月11日に発した報告徴収により、各電力会社から得た減肉率肉率等のデータを基にしています。この報告徴収は、点検リスト漏れの有無を報告することが目的であり、減肉の実態を把握するためのものではありませんでした。保安院は9月13日の交渉の場で、「このときは、そのデータを使って減肉率の評価をしようなどというつもりはまったくなかった」、「たまたま出てきたデータが管理指針の範囲内におさまっていただけ」と述べています。どの事例を報告するのかは電力会社に任されており、各電力は高い減肉率の例を避けて無難な例を選び出して提出したとみるべきです。現に、東北電力や東電が添付したものは、減肉率が低く、余寿命が長いものばかりでした。

■事実を突きつけられ軌道修正を余儀なくされた保安院
 福島第一原発5号機の減肉事例について、保安院は、東電が測定値に基づいて算出した減肉率(0.6o/年)が保安院のPWRの分析値(0.2〜0.3o/年)よりも高く、過大評価である可能性があるとの見解を示していました。11月9日の保安院交渉でわたしたちは、この件を含め、事実に即して保安院の分析を改めて批判し、減肉の実態把握のための調査を要求しました。前回は拒否された、女川原発の事例を事故調査委員会で検討するようにとの要請も改めて行いました。
 これに対し保安院は、「強調しすぎた」という控えめな表現ながら、分析値の誤用について反省の色を示し、女川原発の事例についても、今後は機会学会での議論に乗り、最終報告には反映されるはずだ、との回答がありました。BWRの減肉事例が新たに明らかになり、それを突きつけられることによって、保安院も軌道修正を余儀なくされたということでしょう。でたらめな分析により、BWRを調査・分析の対象から外そうという目論みは崩れました。

■監視の目を強めよう
 局部的な減肉について、定量的評価をすることによって、必要最小肉厚を切っても運転を容認しようという、ひび割れの維持基準と同様の評価方法を減肉にも導入する動きがあります。事故調査委員会の場でこれを最も強調していたのが、機械学会の小林英男氏でした。この点についても、監視の目を強めていきたいと思います。