美浜の会ニュース No.79


 美浜3号機事故によって、原子力安全・保安院は2次系配管の管理について何らかの関与を示さざるを得なくなった。11月9日の交渉で、保安院は、既存の手抜き検査にお墨付きを与えるだけで済まそうとしていることが明らかになった。全国各地で電力会社との交渉を行い、配管検査のずさんな実態を明らかにし、それを集約し、保安院の手抜き検査を容認する策動を阻止していこう。

配管の「管理指針」見直しに着手した保安院
 11月9日、私達も参加した原子力安全・保安院との交渉で、保安院が2次系配管の「管理指針」の見直しに着手していることが明らかになった。電事連から「しかるべきデータ」を出させ、そのデータを基に機械学会で「管理指針」の見直しを行うという。PWRとBWRでそれぞれ検討の場を持つという。
 保安院は、美浜3号機事故に関する「中間とりまとめ」(9月27日付)で今後の検討課題として、「管理指針」の見直しをあげていた。そもそも原発の2次系配管等は、これまで電力会社の自主検査の範疇であり、国はその検査のあり方等について一切関与してこなかった。一昨年の東電事件により、昨年10月に、電力会社の自主検査を「定期事業者検査」として法的に位置づけたが、配管の検査方法・頻度等は実質的に電力会社まかせだった。しかし、美浜3号機の破断事故によって、何らかの形で国の関与を示さざるを得なくなった。そのため、「管理指針」の見直しを開始したというわけだ。
 交渉で明らかになった保安院の基本的姿勢は、「合理的検査」をいかに確立するかである。東電事件を逆手にとって、国と電力は、配管等にキズがあっても運転を容認する「維持基準」を導入し、経済性を最優先にした検査の規制緩和を強引に導入した。今度は、膨大な数にのぼる2次系配管やBWR原発の偏流発生部位の肉厚管理について、検査の合理化、すなわち、現状の手抜き検査を追認し、それにお墨付きを与えることを狙っている。

配管の減肉検査の実態を把握しようともしない保安院
 11月9日の交渉では、全国の43団体から賛同を得て、「原発の配管点検に関する保安院への緊急要請書」を提出し、全電力会社に報告徴収を行い、配管検査の実態を把握し、検査されていない配管について、即刻検査を行うよう要請した。しかし、保安院は、この要求を頑なに拒否した。そして「別のアプローチ」を行っているとして、電事連・機械学会・保安院で会合を持ち、「管理指針」の見直しを行っていると述べた。なぜ、配管検査の実態をつかもうとしないのかと追及すると、「必要性を感じない」とだけ述べ、最後には、「それはできません」と語気を強めた。この背景には、配管のずさんな管理の実態が問題となり、金のかかる検査の要求を出されてはたまらないという電力の強い圧力があるに違いない。美浜3号機事故後に電力会社が保安院に報告したのは、点検リスト漏れの有無と、5頁の表に示している点検未実施個所等の数値だ。しかし、「点検済」となっている箇所も、一体いつ検査したのかすら不明である。10年前に検査して、それ以降一度も検査していないものも多く含まれているはずだ。検査の実態すら把握することなく、どうやって「管理指針」を見直すというのか。保安院は「しかるべきデータ」を集めると言っているが、どんなデータなのか一切明らかにしていない。電力会社に都合のいいデータだけを集めて、「管理指針」の見直しを行うなどとんでもない。

主要点検部位でも、「同じ配管内で類推する」手法は妥当−大飯2号の例
 大飯2号には、主要点検部位なのに、25年間一度も検査していない箇所があるが、関電も保安院もこれを問題なしとしている。その部位は一つの第5ヒータ空気抜き管に、固まって4箇所あり、いずれも45度の曲部をなす。同じ配管でその4箇所の上流隣と下流隣には、それぞれ90度曲部が存在している。関電は両側の90度曲部の検査結果から当該4箇所には問題なしと類推し、検査せずに済ませてきた。しかしこれでは、4箇所を主要点検部位(偏流が起こり減肉が起きやすい部位)と規定した意味がない。減肉は予測どおりに起こらないからこそ各々の検査が必要なのだ。また、両側の90度曲部はいつ検査したのかも明らかでない。
 これとは別に関電は、「他の原発から類推して安全」として11箇所の点検を行っていなかった。これについては保安院は、「他の原発から類推する」手法は認められないと関電を批判した。保安院はその根拠として、「管理指針にも明記されておらず」、「社内基準にもルール化されておらず」、よって合理的なものではないと、「中間とりまとめ」で指摘している。これを判断根拠とするならば、大飯2号の場合も「問題あり」と認めなければならない。しかし、「同じ配管内で類推する」手法は問題なしという。
 交渉では、問題なしとする根拠を問われても一切答えることはできなかった。「根拠を明記したものはない」、「だから今後、管理指針を見直す」と居直った。今後「管理指針」に、大飯2号のような手法も認められると書けば問題ないだろうと言わんばかりである。既に電力会社が行っている手抜き検査を追認しているだけだ。それでも9日の交渉では、「大飯2号については、再度調べて、その結果を伝える」と言わざるを得なくなった。

「代表部位の測定で類似箇所の検査を省くのは合理的」
 この大飯2号での「同じ配管内で類推する」という手法は、さらに拡大解釈した形で、BWR原発の配管検査で東電などが既に行っているものである。それが「代表部位の測定で代表させる」という手法だ。
 保安院は、「代表部位の測定で類似箇所の検査を省くことは、合理的である」と何度も繰り返した。その「合理性」を示す根拠を保安院としては持ち合わせてもいないのに、既定路線であるかのように力説した。しかし、今年6月からの定期検査で見つかった大飯1号の主給水配管では、A、B、C系統では法律で定められた必要最小肉厚を下回った激しい減肉が見つかったが、D系統では減肉はほとんどなかった。A、B、C、Dの4系統の間に合理的区別は付けられていない。もし、D系統の配管を代表部位として、他の配管を類推しておれば、大変なことになる。大飯1号の減肉の実態が示しているのは、現実ははるかに多様な姿を示しているということである。「代表部位で類似箇所を類推する」手法は、このような実態に目をつむり、一般論で配管検査の合理化を図るためのものでしかない。これでは、第二の美浜事故を防ぐことはできない。

BWR原発での手抜き検査の恐るべき実態
 配管の「管理指針」すらなく、各電力会社まかせに行われているBWR原発の配管検査の実態は、恐るべきものである。11月5日に行われた東電交渉で、その一端が明らかになった(詳細は14頁参照)。点検すべき箇所の中で、点検未実施箇所が圧倒的に多い。さらに、点検未実施の中で、今後も点検予定なしの箇所がこれまた圧倒的に多い。これは、「代表部位の測定で類似箇所の検査を省いて」いるためである。この傾向は、新しい原発ほど顕著で、柏崎刈羽7号機の場合は、未点検箇所3,149のうち3,042箇所(97%)は今後も点検しないという。未点検箇所はほぼ全て点検しないというのが実態だ。保安院は9日の交渉で、この実態について「新しい原発になるほど点検箇所が少なくなっていることは知らなかった」と認め、「その手法に合理性があるか確認しなければならない」と述べざるを得なかった。

激しい減肉の実態を前に、自らの見解を訂正せざるをえない保安院
 保安院による手抜き検査の容認は、一直線には進んでいない。
 女川原発1・2号機では、美浜3号機の事故後、オリフィス下流部で大幅な減肉が起きていたことが明らかになった。最大の減肉率は約3o/年と桁外れに大きい(美浜3号機の破断箇所の減肉率は0.42o/年)。さらにステンレス材に取り替えても減肉はほぼ同程度に進行している。保安院の「中間とりまとめ」では、「BWRはPWRより減肉の程度は低い」としていたが、「今後は女川原発の実態も取り入れて検討する」と交渉の場ではっきり述べた。
 また10月には、福島第1原発5号機について、福島県知事は、配管が必要肉厚以下になっている可能性があるため、すぐに運転を停止して検査を行うよう東電に要求した。ところが保安院は、これは局部減肉であり、東電が実測値から導いた減肉率は高すぎるとして、すぐに検査する必要も取り替える必要もないという見解を発表した。しかし交渉では、局部減肉の規定が曖昧であったこと、PWR原発の減肉率の平均値と比べるという手法自身が間違っていたことを認めた。福島県知事の強い抗議があったからである。
 「中間とりまとめ」でも示唆していた、「10年間で25%のサンプリング検査」については、「頻度をあげることも考えなければならない」と繰り返した。これは、減肉が起きないとされた「その他部位」で、大飯1号のような大幅な減肉が見つかったことを考慮せざるを得なくなったためである。
 このように、予想以上に進む減肉の実態と、運動や地元首長の強い姿勢により、保安院は、これまでの見解を訂正せざるを得なくなっている。手抜き検査の実態や、減肉の実態を暴き、検査合理化の策動を阻止していこう。

美浜3号機事故の原因究明も、違法検査の総括もなしに、美浜1・2号機の運転再開など許されない
 事故を引き起こした関電は、事故後、配管の肉厚管理に関する独自の方針を出している。これまで日本アームが行っていた配管管理業務を、関電自らが行うという。美浜3号機の破断した配管が、なぜ点検リストから漏れていたのか、その責任も明らかにしなまま、関電が配管管理業務を行うと宣言しても、問題は何も解決しない。これについては、保安院ですら「単にやりますと言われても、はいそうですかとは言えない」と9日の交渉で述べている。
 さらに、11月13日、関電社長は福井県で記者会見を行い、約200名からなる原子力事業本部の基盤を福井県に来年移転すると発表した(人員や移転場所等は未定)。これは、福井県知事が強く要請していた内容である。これによって、現在福井県が判断を留保している美浜1号・2号の運転再開を、11月中に行うことを狙っている。事故の責任にほおかむりをしたままで、「新しい地域共生の道」と公言すること自体が、無責任極まりないことである。美浜発電所では、美浜1〜3号について、意図的に違法検査を行っていた。法定最小肉厚の基準を独自基準で置き換えて、配管の取替を引き延ばしていた。なぜこのような違法行為を組織的に行っていたのか、その原因と責任はいまだ明らかにされていない。さらに、美浜3号のリスト漏れの経緯と責任も明らかになっていない。このような状態で、美浜1・2号の運転再開など許されるはずがない。
 また同日の記者会見では、老朽原発に対する対策も発表した。運転開始から30年以上の原発について、余寿命が10年未満の配管については全て点検を行うこと、さらに、耐食性の材料に取り替えるというものだ。関電は一定の検査の強化を打ち出さざるを得なくなっている。しかし、大飯2号のように「同じ配管内で類推して検査の必要なし」という手法は何ら問題なしとしている。こんな姿勢で検査の徹底などできるはずがない。

各地で電力会社との交渉を行い、配管管理の実態等を明らかにさせよう
 保安院は、来年3月までに美浜事故の「最終報告」をとりまとめようとしている。それに合わせて、「管理指針」の見直しを行っている。既存の手抜き検査にお墨付きを与えようとする、配管管理の見直し策動を阻止していこう。
 そのために、全国各地で電力会社と交渉を行い、検査の実態を明らかにしよう。その実態について情報を交換し、集約して、保安院に突きつけよう。
 電力会社との交渉を通じて、各原発毎に、最大減肉率はいくらになっているのかを明らかにしよう。「点検済み」となっている箇所は、一体いつ点検したのか、10年前なのか、5年前なのか。「未点検箇所」は、いつ検査する予定なのか。大飯2号のように、主要点検部位にもかかわらず、同じ配管の他の部位から類推して点検の手抜きをしている箇所はないのか。BWR原発では、「代表部位で今後も点検なし」について、「代表部位」とは何なのか、一つの「代表部位」で何十、何百箇所の点検を省いているのか。他の原発や、別系統の配管検査から類推して検査を省略している箇所はどれだけあるのか等々。
 とりわけ老朽原発では、検査を徹底させなければならない。設備利用率の上昇を最優先させ、定検の短縮、修繕費の削減を行い、老朽原発にむち打つ経済性最優先の運転が美浜3号機事故の背景にある。検査を徹底させ、定検にたっぷり時間をかけさせ、修繕費に惜しみなく金を使わせる方向に転換させよう。そうして老朽原発の経済性最優先の運転に縛りをかけ、廃炉の道に追い込んでいこう。
 5名もの死者を出した美浜事故の責任追及と同時に、事故を繰り返させないために、早急に各電力会社と交渉を行おう。それを基盤に、準備が進められている次回の保安院との交渉にのぞもう。同時に、手抜き検査の実態、予想以上に進む減肉の実態を地方自治体に伝え、立地県などからも徹底検査を要求させていこう。