美浜の会ニュース No.63


 JCO臨界被曝事故から2年を迎えるが、住民の受けた被害がこのまま闇に葬られるのか、それとも明るみに出されて再度問題にできるのか、大きな岐路にさしかかっている。
 2周年を前にして、住民の健康実態と被曝線量の調査報告書が「阪南中央病院 東海臨界事故被曝線量・健康実態調査委員会」から公表された。9月22日、東海村舟石川コミュニティーセンターで、地元の人々への報告会が行われた。綿密な調査により、想像を超える深刻な被害の実態が明らかになった。また、国の線量評価が、高い測定値を意図的に排除したことを示す、新たな事実も浮かび上がってきた。
 他方、JCO・国は、事故の真相と被害の実態を闇に葬り、被害者を切り捨てる姿勢を露骨にしている。JCOは、8月末に風評被害に対する地元の農家や工場への補償交渉をうち切った。補償金額すら明らかにしていない。もちろんこの中には、地元住民に対する健康被害への補償は1円たりとも含まれていない。水戸地裁で4月に始まった刑事裁判は、来年3月の結審に向けて猛スピードで行われている。被告JCOの情状酌量を求める証人のオンパレードである。国の委託を受けて茨城県が行っている「健康診断」は、おざなりな診断で、いつまで続けるのかさえ分からない状況だ。そして国は、「健康被害なし」の結論で、未だに、地元被害者の声に耳を貸そうともしていない。
 地元では、国に対する怒りと不信の念は、今なお強い。ようやく初めて明らかになった被害の実態をもとに、「臨界事故被害者の会」との連携を深め、国に対し、健康被害に対する補償、線量評価のやり直し等を迫っていこう。

国の「住民に被曝被害なし」を覆す、深刻な被害の実態

 「阪南中央病院 調査委員会」の報告書は、事故による深刻な被害の実態を示している。国の「住民に健康被害なし」「50ミリシーベルト以上の被曝はなかった」を真っ向から覆す調査結果が示されている。@住民の健康被害は、事故直後から、原爆による急性症状と類似する、嘔吐・下痢・発熱・脱毛等として既に現れている。事故後9ヶ月以上経過した時点でも、多くの人が、疲れやすい等の免疫機能の低下を示唆する身体の異常や不調を訴えている。A住民が受けた被曝線量は、旧科技庁の通知より、6倍以上高いことが明らかになっている。最も高い人で、200ミリシーベルト近い高線量の被曝を強いられている。B健康被害と被曝の因果関係については、線量が高い人ほど健康被害が深刻であることが傾向として明らかにされている。
 さらに調査報告書では、県が行った血液検査の結果への疑念(正常値の幅を大きくとり異常が出にくくしている等)が指摘されている。国が一切聞こうとしない、健康被害を訴える人々の生の声も紹介されている。雨に濡れて帰ってきた子供を持つ母親達の、怒りと苦渋の声が記されている。
 この調査は、延べ70人もの医師・看護婦・検査技師・事務職員などの医療従事者が、土・日を使って計6回、大阪から東海村に足を運び、221名の住民から、面談して詳しい聞き取り調査を行うという方法で行われた。多くの費用と労力をかけて、1年以上の月日をかけて得られた報告書である。調査は、「臨界事故被害者の会」の物心両面での全面的な支持・支援のもとで行われた。
 この貴重な報告書から、深刻な被害の実態を学ぼう。そして、多くの人々に広めよう。「被害者の会」が要求する、国の責任を明確にした健康補償・医療保証等を勝ち取るための力としよう。

国の線量評価は、高い測定値を意図的に排除していた事が新たに判明

 国は、日本原子力研究所(原研)が事故当日の20時頃に測定したデータを基にしてフィッティング式を引き、住民の被曝量の算定を行ってきた。しかし、この国の論拠を覆す新たなデータの存在が明るみに出た。
 今年1月に発表された「原子力学会誌」には、核燃サイクル機構(旧動燃)の測定値が、グラフとして掲載されている。この測定値の中に、国のフィッティング式より相当に高い値をとり、「美浜の会の式」を裏づけるものが数個含まれている。国がこれまで、高い値の測定値を、意図的に排除していたことを示している。このことからだけでも、国は住民の被曝線量評価をやり直すべきである。
 さらに、核燃のグラフから、距離と線量を読みとると、これまで事故調査委員会に報告されていなかった、隠されていたデータがあるという疑惑が濃厚になる。核燃サイクルのグラフにある、少なくとも300メートルと400メートルの地点の高い測定値は、国の事故調査報告書の中には記載されていない。
 核燃サイクルは、このグラフに示されている測定値について、距離・場所と測定値そのものを明らかにすべきである。国に報告せず隠していたのであれば、その責任は重大である。自らの「学術研究の成果」としてだけ、データをもてあそんでいるのであれば、断じて許されない。 国は、住民の被曝線量評価をやり直せ。核燃サイクルは、測定値を公表せよ。国と核燃サイクルは、この測定値について、具体的に釈明すべきである。[詳細はこちらを参照]

新たな出発点として、9・30集会に参加しよう

 事故は、2名の作業員の尊い命を奪い、多くの住民に言われなき被曝を強要した、我が国最悪の原子力事故であった。
 同時に、事故に対する怒りと恐怖は、反プルサーマルの運動でも、関西でも、福島、東京、新潟でも、多くの人々の心の奥底に、消し去ることのできない推進への不信感として植え付けられ、「再び事故を起こしてはならない」と行動に駆り立てた源となった。
 事故から2年、データねつ造問題で関電が高浜4号プルサーマルを断念してから2年。政府・電力会社は、プルサーマル計画を立て直し、再出発に向けた動きを始めている。さらに、通常運転でさえ膨大な放射能を放出する六ヶ所再処理工場の建設を強行し、運転開始が近づいている。ひとたび再処理工場が運転されれば、取り返しのつかない汚染が待っているだけである。
 私達は、関電プルサーマルの復活を許さない新たな運動に取り組んでいる。また、「刈羽の勝利を六ヶ所へ」を合い言葉に、全国各地の反プルサーマルの運動と六ヶ所・青森県の運動が連帯して、再処理工場の稼働を止めるための、新たな困難な仕事に着手した。
 9月30日、大阪では、関西の反原発団体などが共同して「JCO臨界事故から2年−とめよう原発!市民のつどい」が開催される。多くの人が参加して、「被害者の会」の声に耳を傾けよう。新たに明らかになった被害の実態を学ぼう。被曝の被害と責任を追及する運動においても、反プルサーマルの運動、青森との連帯の運動においても、JCO事故2周年の日を、新たな出発点としよう。


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