東海臨界事故の科技庁の式は、高い測定値を意図的に排除
隠されていたデータが裏付ける「美浜の会の式」の妥当性


 JCO臨界事故による周辺住民の被ばく線量評価において、実際に使用されている線量率と転換試験棟からの距離との関係式(以下「科技庁の式」)としては、原研の測定値によるデータに最小自乗法を適用して求められたものが使用されている。最近になってこの「科技庁の式」と全く同じ内容、同じ手法の研究論文が原研の研究者によって学術誌に公表された[1]。すなわち同式は原研が作成したことになる。相対的に高い多くの測定値を無視し、遮蔽条件の異なる測定データに一括して最小自乗法を適用することで求められた同式が、過小評価になっていることを、私たちは批判してきた。しかしながら、「科技庁の式」は天下り的に正しいものとされ、これとは矛盾する如何なる測定結果があるとしても批判できない状況が生み出されているようである。核燃サイクル機構の研究者らも被ばく線量の距離依存性に関係する論文を発表しているが[2]、彼らは「科技庁の式」が正しいことを前提にして論を進めている。ところが同論文には事故後に政府・科技庁が公表したものとは異なる、隠されていたとしか思えない、そして我々にとっては新しいデータが記載されている。そしてそれらは「科技庁の式」にある過小評価を裏付け、同時に「美浜の会の式」の妥当性を示している。

図A
 図A.は、核燃サイクル機構の研究者が日本原子力学会誌に書いた技術報告に記載された測定データを再構成したものである[2]。また「青い閃光」と記したデータポイントは、250メートル離れたJCO事務棟2階で700マイクロシーベルトであったとの同名の書籍の記述に基づく(「青い閃光-ドキュメント東海村臨界事故」読売新聞編集局、中央公論社(2000)p.107)。2本ある曲線の内、上が「美浜の会の式」、下が「科技庁の式」である。これらの新しいデータに対して「科技庁の式」は明らかに過小評価になっている。

図B
 一方、図B.は2つの式とともに、科技庁がその式を導くにあたって採用した原研による測定値を表している。この測定値を見る限りでは、「科技庁の式」はその中央付近を通っているようにも見えるが、それは図A.との比較で明らかなように、高い値の測定値を無視した結果である。低い値のデータのみを恣意的に集めて、それらをフィッティングすれば、低い値を与える式しか得られないのは当然である。
 「科技庁の式」はここにある僅かな、しかも低い値のデータに依拠したものに過ぎない。Delと記した100メートル付近の2つと550メートル付近の低い値のデータを彼らは「遮蔽の影響がある」として除外した。実際には全てのデータが何らかの遮蔽の影響を受けていることは言うまでもない。500メートル付近の相対的に高いデータは何かの問題で高くなったのではなくて、他と異なり遮蔽の影響をほとんど受けなかったが故にこのような値になったのである(遮るものの無い広い畑の中で測定された)。その他のほとんどのデータはJCO境界にあるコンクリート塀のすぐ外側で測定されたために一様に低くなったと見られる。測定結果に大きなバイアスがかかっていることを考慮すべきである。
 政府は「科技庁の式」の適用に伴う被ばく線量の過小評価を認め、住民に対する線量評価を撤回し、一からやり直すべきである。事故報告書に記載されていなかった測定データが存在したことは重大な問題である。全てのデータを公表し、誰もが納得し得る被ばく線量評価を行うべきである。

 参考文献
 [1] Endo A. et al. (2001) External doses in the environmental from the Tokai-mura criticality accident.
   Radiation Protection Dosimetry Vol. 93-3, pp.207-214.
 [2] 水庭春美ら.(2001) 24Naの体内放射能測定とモニタリングデータを用いたJCO臨界事故における
   従業員等の被ばく線量評価. 日本原子力学会誌 Vol. 43-1, pp.56-66.



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