
1月12日付の朝日新聞の記事以来、4年前のETV2001番組改ざん事件をめぐって、新たな事実が明らかになりました。個々の事実をめぐってはまだはっきりしていない部分もありますが、これまで「疑惑」として噂されていた番組への政治介入が浮き彫りにされたことは間違いありません。この事件を「メディアの危機」として問題視してきた私たちにとっては、これまでクエスチョンマークがついていた所に、重要なパズル片がはまったことになり、あらためて事態の重大性を認識しています。
番組放映前日の2001年1月29日におこなわれた「異例の局長試写」の背景に、政治家の影があることは当初から言われてきました。事実関係は錯綜していますが、以下の点においては一致しています。まず、番組放映前日に安倍晋三氏(当時、官房副長官)らがNHK幹部と面談し、その場で当該番組について事情を聞き、公正中立に報道しろなどと指摘したこと。その背景として、番組放映前にどのような番組がつくられているのかについての情報が既に自民党内で流れており、複数の政治家が「偏向」した番組がつくられていると認識していたこと。そして、安倍氏ら自民党代議士と面談したNHK幹部が、その晩に「異例の試写」をおこない、既にほぼ完成していた番組について、女性国際戦犯法廷における昭和天皇の有罪判決のシーンをはじめ、日本の責任に関わるような部分を系統的にカットしたこと。その結果、番組は当初の企画から著しく変更されてしまったことです。
私たちは、これらの事実だけをもってしても、NHKへの政治介入があったと判断するに十分だと考えます。そもそも、自民党総務部会や国会においてNHKの予算審議をひかえていたこの時期に、NHK幹部が与党の議員をまわって、予算説明だけでなく、まだ放映されてもいない番組について政治家に釈明するということ自体、メディアの公共性を著しく損なう行為だといわざるを得ません。これは既に「不祥事」といって済まされる問題ではなく、NHKと政治をめぐる構造的な問題に他なりません。番組放映前には右翼団体がNHKなどに押し寄せていましたが、今回明らかになったことと合わせて、私たちは言論が政治家の権力や右翼の暴力に左右される暗い時代の到来を告げているように予感せざるを得ません。
私たちは、放映直前の番組大改変の結果、視聴者の知る権利、出演者や取材協力者の人格権および期待権が侵されたと考えています。実際、出演者の一人である米山リサ氏については、放送と人権等権利に関する委員会(BRC)が、「人格権に対する配慮」を欠いた放送倫理違反だったと判断しています。これまでのNHKの対応は、そうした事態の重大性に比べて、極めて不充分なものだった考えています。
と同時に、私たちは、4年前の番組改変が、組織としての放送局によって制作現場の表現の自由が抑圧された事件だとも考えてきました。その意味で、今回の事実発覚が、当時現場で制作に携わっていた長井暁氏の勇気ある内部告発に端を発していたことには、かすかな希望を感じます。こうした実践こそが、「暗い時代」を生きるのに必要な可能性を開くものだと考えています。
以上の点から、私たちは、NHKに対して、一日も早く番組改変の全容を究明し、責任の所在を明らかにし、詳細な経緯の説明をもって視聴者の疑念に正面から答えることを改めて要求します。
2005年1月17日
※メキキネットは、この問題についての書籍出版(一葉社)の準備を進めています。乞うご期待。