■■■ 第12回国賠ネットワーク交流集会 ■■■
                                                                         

     第12回国賠ネットワーク交流集会報告


                    2001年3月14日


  2月24日(土)、日本キリスト教会館にて、第12回国賠ネットワーク交流集会が開かれた。基調報告は、Iさん。継続は力なり。集会の意義を、まず確認。その上で、この一年間の活動のなかで、国賠ネットワークが相互に抱える問題・課題が、次の三つの報告を通し、簡潔にまとめられ、提起された。

■■ 国賠ネットワークの課題
 まず、昨年の夏合宿(19名参加)報告。
 議論のひとつとして、袴田事件(元プロボクサー袴田さんへの死刑確定冤罪事件)再審請求の闘いのなかから、時効の問題を含め国賠提訴が模索されていることの報告。冤罪事件の場合、刑事事件の無罪確定後の提訴が一般的であるが、本来国賠提訴は刑事事件と平行可能で、時期的な制約がないと思われること(斎藤国賠の判決からも逆にそのことが読み取れる)、刑事裁判が余りにひどい場合、国賠裁判を同時並行的に提訴することは、民事審から刑事審へのチェック機能を果たすことになるなどなど、今後、ネットワークのなかで幅広く検討してみる必要性が提起された。
 次に、忘年会報告。
 恒例の「国賠ネットワーク大賞」の授与は、通常この機会になされるのだが、結果として2年間対象を選べなかったこと。その論議の過程で、「甲山」は完全無罪が確定したにもかかわらず、さまざまな事情から、国賠裁判を取り下げねばならなかったこと、あるいは甲山事件そのものが、国賠潰し(証人に対する偽証罪逮捕も含め)であることから、新たな国賠裁判の提訴も期待されたが、それができなかったことなど、「国賠ネットワーク」の在り方、支え方の弱さが指摘された。そして、今後どのように乗り超えていくかについて、さらに議論を深めていくことを提起。(とりわけ国賠裁判の取り下げをめぐっては、前述の刑事事件と平行した国賠提訴の問題も関わってくるため。)
 三つ目は、司法制度改革について。
 最近報道でもよく取り上げられているが、司法制度改革審議会は、4/24に審議を終え、6/12に報告予定であることの報告。ネット定例会の議論を経て、「開かれた司法」を考えた場合、国賠ネットにとって最重要となる改革点は「証拠の全面開示」であること、すなわち冤罪の温床となっている検察による証拠の部分開示、裁判所の決定に対し、文書で「審議会」に「制度として証拠の全面開示を行うべきこと」を意思表示していくことが提起された。国賠ネットワークとして、社会的な包囲網作りとともに、「司法制度」そのものの在り方に対しても、より直接的、積極的に意思表示をし、参加していこうという呼びかけである。
 今回の基調報告は、Iさんの誠実で物腰の柔らかな物言いが、次の一年間に私たちが何をなさねばならないかを静かに語って、かえってそれが、それぞれの胸に熱く深い課題を残すこととなった。

■■ 弁護士・田川和幸さんの講演「弁護士任官経験者から見た裁判所」
 次に、今集会のメインである「講演会」報告である。
 弁護士・田川和幸さんによる「弁護士任官経験者から見た裁判所」。現在進んでいる司法改革の「法曹一元」について考える絶好の機会となった。ネット財政の話をしたところ、何と「手弁当」でおいで下さったとのこと。感謝、感謝。 田川氏の略歴。1934年、神戸市生まれ。31年間の弁護士経験(日弁連副会長など歴任)を経て、1993年に裁判官に。定年までの6年間、弁護士任官経験者として裁判官を務める。当時行われようとしていた地方の小支部廃止の流れに抵抗し、「司法サービス」という側面から、自ら地方支部の任地を希望。そのため、淡路島支部など、一人裁判官が多かったとのことである。田川さんのお話は、抽象的な「開かれた司法」ではなく、具体的に目の前にいる事件の当事者、つまり、法廷の場の人間関係のなかで、いかに具体的に「開かれた司法」を実現するかという一点において、その姿勢の”根幹”がヒシヒシと伝わってくるお話ぶりである。裁判において当事者が納得するため最も重要となるものは、結論ではなく、プロセスの公正さだ、ということばのなかに、田川さんの「裁判に対する考え方」がある。弁護士経験のなかで培った”当事者”性が、いかに裁判官にも必要か、あるいはキャリア裁判官に何が欠落しているか、そのことを炙り出す形で、裁判それ自体もまた、「ひと」の行いであり、それゆえ独善的ではない謙虚さが必要だということが、強い説得力をもって私たちに伝わってくることとなった。 国賠ネットワークの「ホームページ」にこの講演内容の全文が掲載される予定(この原稿起こしも、田川さん自ら行ってくださるそうである)なので、多くは書かないが、以下、簡単に報告しておきたい。

 まず、国民の間で裁判に対する批判が高まっており、各界、各層からも「分かりにくい裁判」「非常識な判決」という評価が定着していること、また「司法制度改革審議会」が委託した一審民事裁判経験者に対するアンケートによると、6割近い人が裁判所は利用しにくい、4割の人が裁判所は紛争解決機能を果たしていない、3分の1の人が今の裁判所制度を不公正と感じ、4分の1の人が裁判官の常識性に疑問をもっ官がなぜいま「開かれた司法」への手法としてより多く必要とされているのか、「キャリア裁判官」の抱える問題を、田川さんは、次のように指摘した。

 @裁判官の社会的経験の無さ。(抽象的な思考は得意だが、事実から遊離しがち。その思考法は、必ずしも事実認定には優れていない点。あるいは、依頼者経験がないこと。記録による判断のみで、弁護士のように依頼者とともに立つ経験がないため、一度も精神的負担を負う経験をもたず、本来裁判にあるべきカウンセラー的役割には無感覚であること。結論よりも、プロセスの公正さが重要という意識の薄さ。理屈の横行。当事者を見下ろす意識。批判された経験の無さ。正義感が生甲斐=独善を生む傾向。自分で証拠を集めるといった経験をしておらず、ナマの事実に触れる経験が無いこと。一見公正のようでいて、テレビドラマでみられるように、同じ顔、同じ印象。ただでさえ人間臭い当事者を扱う裁判において、キャリアシステムはそれに対応できる若い裁判官を育てることができるのかという根本的な問題。 

Aマニュアル依存体質。(在任中に上訴された記録が手元に戻らない限り、上級審からどういう批判を受けたか知ることはないが、上級審は唯一の批判者。その批判を少なくし、あるいは受けないため、判断の対象となる認定事項の肉づけを減らす傾向にあること。このような姿勢からは、当事者に納得してもらおうとする市民感覚をもった裁判官は生まれにくいと思われること。時代の変化より、判例重視。その枠を飛び出さない傾向。「裁判官別単務表」の最重視。審受件数何件、処理件数何件、赤字件数何件。それら事件処理数の競争結果が勤務評定に直結し、その席次は、会議、宴会の並び方にまで影響することなど。また裁判長が判事補の勤務評定を行うため、本来判事補であろうと「合議性」は三人の独立した裁判官の対等な関係の上で行われるべきであるがが、実際はそうではない点。こうした本来憲法違反ともいえる制度が、キャリア裁判官を育てるためには良い制度として、「法曹一元」に反対している裁判官が多いことの問題点。) 
 最後に、田川さんは、自ら経験し、マスコミでも話題になったある破産事件を扱った経験から、処理のためには人員要求など必然的に司法行政との接点が生まれることを述べ、その結果、マスコミ対策想定問答の作成や細かい手法の押しつけなどを通し、裁判所が自ら不利な情報は外へもらさないよう、司法行政が裁判に影響してくる事例について話をされた。「裁判の独立」が、いま司法システムのなかでいかに困難な現実としてあるか。しかし、だからこそ「開かれた司法制度」改革にむけて、私たち国賠ネットワークへの期待とともに、今回手弁当で来ていただいているのではないかと思われる。事実をひとつに固定し、「正義」の幻想を盾に、天から俯瞰で見下ろすのではなく、それは神のみぞ知ること(人間には不可能なこと)として、だからこそひとりひとりの当事者の「事実」に手続きを通してにじり寄って行く、つまりは「人間主義」とでも言うべき深く大きな思想が、田川さんのことばからは滲み出ている。その柔らかさ、強さを感じれば感じるほど、弁護士が、ただただ裁判官になることだけでは解決できない「ひと」の問題が、依然としてそこに存在しているのに気づく。その思想へと至る田川さんの歴史の転換点を、ぜひ聞いて見たかったと思う。

■■ 各国賠からの報告
 休憩後、恒例の各国賠からの報告が行われた。以下、簡潔に。
*墨ぬり国賠⇒残念ながら敗訴確定。その後東京都人権擁護委員会への訴え。現在調査中。今後も国賠ネットに残り、活動を続ける旨の表明。
*栃木天皇警備人権訴訟⇒本件事件そのものの原因を栃木警察が認める内容で和解。記者会見を行い、実質的に原告側の主張が認められる結果に。ただし天皇制の問題には 踏み込めず。
*甲山事件国賠⇒国賠取り下げ。今後事務局のそれぞれが、司法改革への活動や、ホームページの維持継続などを行っていく。「東住吉事件」など新たな冤罪事件や人権侵害事件を紹介、支援。個々がこれまでの「甲山」の歴史を担っていく旨の表
明。
*井上国賠⇒最高裁による上告棄却。敗訴確定。偽証Kへの一部勝訴。検察関与の関係を引き出すため、Kに対し差し押さえを継続。「支える会」として今後もネットを支えていくための議論を深めていく。
*御崎逮捕礼状国賠⇒警察が原告アリバイを否定するため嘘の目撃証人を。それに反撃。また昨年開示された疎明資料によれば、当初から捜査の目的はアリバイ潰し。アリバイ証言した同僚を偽証逮捕などで脅し、無理やり供述書を作成。それを根拠に逮捕礼 状請求、使命手配をしたことが明らかに。現在弾劾中。
*土・日・P国賠⇒無罪確定まで13年間。現在すでに28年。膨大な裁判資料のため、裁判所が本気で取り組んでいるのかどうか。一審判決には総論がなく、各自分担でお茶をにごした内容。空虚な文書のやり取りをみると、実質的な審理へ向かう何らかの 「方法」はないものかと、率直な感想。
*元公安調査官違法逮捕拘留国賠/公安調査庁嫌がらせ国賠⇒野方署によて仕掛けられた違法逮捕・拘留ならびに原告居住のアパート階下の一室を借り上げた違法な監視活動に対し国賠提訴を行った報告。ネチ、ネチと。市民活動にまで手を広げる公安調査庁の活動を明らかにする「公安調査庁丸秘文書集」発刊のお知らせ。
*秋葉原パソコンショップ違法ガサ国賠⇒アレフ信者Oさんの住民票迂回登録による逮捕自体が別件違法。それを口実に、失業した人たちのために立ち上げたまるで無関係なパソコンショップへのガサ入れ。他の救援活動や市民運動の財政状況などの情報収集のための別件を許さず。今後に備え、提訴した旨の報告。
*アレフ国賠⇒国賠とは別件となるが、住民票不受理の現状について報告。前述のOさんの迂回登録を理由とした逮捕。すでに不受理者は100名。住民票の不受理表明している自治体は、分かっているだけで225。一方、人権救済申し入れに対し、日弁連は法律違反だとして各自治体に勧告。また、世田谷区の受理後の取り消しについては、初めて執行停止仮処分が東京地裁で認められ、幾分流れが変わりつつあること。
*ハンセン病国賠⇒ハンセン病元患者・快復者への数々の人権侵害、名誉回復措置を求める活動について報告。
*遠藤国賠⇒二審は定年前の裁判長だったためダラダラ控訴審が続く。しかし昨年12月、新裁判長に。いよいよ国側の反論で本格化。法廷外の情宣活動も。
 以上。なお、前述の国賠提訴を検討中の袴田事件救援会からは、1980年の死刑確定後、1994年に起こした第一次再審請求が静岡地裁で却下され、現在東京高裁で副次抗告審が行われている旨の報告。また一審の死刑判決は、ひとつの判決文に無罪→有罪の異様な展開があり、「合議制」のまやかしがあるとの見方が指摘された。
 また、「国賠ネットワーク」は外部との連携を強めており、「反警察ネットワーク」「破防法・組対法に反対する共同行動」「安田さんを支援する会」などにも参加。その「安田さんを支援する会」からは、現在、裁判は勝利的に展開している旨報告がなされた。

■■ そして懇親会と続き・・・
 集会は参加者40名弱と、例年に比べ少なかったが、その後の「懇親会」には8割近くが参加。田川弁護士にも参加していただき、大変楽しく賑やかな会となった。講演後の質問コーナーでは時間がなかったため、さらに質問が続き、さまざまな興味深いお話をお聞きすることができた。「証拠の全面開示」は戦前および戦後も行われていたこと。公安事件による対立の激化を経て、大阪の地裁でその後の流れが出来てしまい、そうした「歴史の検証」が、いま必要であること。また、「陪審制」など市民が司法参加する場合には、「証拠の全面開示」は大前提となり、司法改革の大きな柱となることなど。
 また、集会での質問の際にも「署名」や「申し入れ書」が裁判所でどう扱かわれるかや「傍聴」の効果などの質問が出たが(署名は通常書記官段階で止まってしまい裁判官の目には触れないらしい!)、懇親会でも、裁判所前でのビラ撒きの効果などについて質問が続いた。
 田川さんの答え。 「”効果”のことを考える前に、まず、”やって”みること。そして”続ける”こと。」 そう、ひとが何かをやり続ける行為、その思いは、必ず別の”何か”を生み出すのだという、田川さんの強い信念が、そのことばには表れていると思った。
 しなやかさと、力強さ。そして何よりも”継続”すること。国賠ネットワークに向けられた田川さんの熱い”思い”を受けとめつつ、私からの報告を終えたいと思う。
                                                                                                     (文責・O)

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