国賠ネットワーク 第21回 交流集会

■■ 2010年2月27日(土) 13:30〜16:45 渋谷区勤労福祉会館第2洋室
◇ 国賠ネットワーク交流集会
さまざまな国家賠償請求訴訟が各地で進んでいます。国や地方自治体から不法な損害を受けた人々が国家賠償法に基づき、その責任を問うて賠償や謝罪を求める訴訟です。無実の罪で逮捕・勾留され、長い間、刑事裁判を強いられた冤罪被害者を中心に、あれこれの国賠訴訟を繋ぐネットワークが1989年に誕生しました。
年に一度、さまざまな国賠訴訟の原告や支援者が集まって、互いに報告し語り合い、知恵を出し合いそれらを共有する。そんな国賠ネットワーク交流集会を続けています。今年で21回目です。今回は参加国賠闘争の報告と、この20年の運動を振り返ります。

■ 議事次第  
進行プログラム
13:30 開会挨拶(事務局・土屋 翼)
13:40 新聞記事にみる冤罪・国賠裁判この1年(新居崎邦明)
13:50 自由権規約委員会「08/10勧告とその後の動き」(磯部 忠)
14:00 講演「個人通報制度と冤罪裁判・国賠裁判」
    伊藤和子さん (ヒューマンライツ・ナウ事務局長・弁護士)
15:00 ― 休 憩 ―(質問票集め、資料・物品販売etc)
15:10 質問応答
15:40 国賠裁判から報告(各5分)
・富山(氷見)冤罪国賠  ・痴漢冤罪沖田国賠  ・麻生邸ウオッチング国賠
・護衛艦「たちかぜ」国賠  ・バレンタイン国賠  ・消防署パワハラ国賠 
・大河原国賠  ・河内国賠  ・Nシステム国賠  ・国税不服審判所国賠
・横浜事件
16:30 国賠ネットワーク大賞、最悪賞の選出(松永 優)
16:45 閉 会
                                 
■ 講演要約
「個人通報制度と冤罪裁判・国賠裁判」講演/要約  2010.2.27
講師/伊藤和子弁護士 (ヒューマンライツ・ナウ事務局長)
国賠ネットワーク事務局 まとめ

■ 集会報告
 氷雨の降る2月27日、21回目の国賠ネットワーク交流集会が東京・渋谷の大向区民会館で開かれた。今回の講師はヒューマンライツ ナウ(NGO)の事務局の伊藤和子弁護士。参加者は40名と少なかったが、「個人通報制度」という人権の世界標準に向けての、静で熱い講演に聴き入った。充実した集会であった。


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■ 土屋さんの開会の挨拶は、裁判員制度が動き出し、政権交代を経て、この1年の冤罪事件・裁判を総括。地裁での無罪が増えたこと、足利事件、布川事件の再審開始。狭山事件の証拠開示勧告など前進がみられた。取調べの可視化は停滞。
国賠ネットの関係では、富山・氷見冤罪国賠が開始され、沖田痴漢冤罪は第二次最高裁、バレンタイン国賠は有利に展開・・・、などの報告がなされた。
■ 続いてネット通信連載の「新聞クリップ」からみた2009年と題し、報道統計からの司法状況を新居崎さんにまとめていただいた。
クリップ数99件。国賠38件(勝訴11件・敗訴8件)、裁判員制度の問題27件、冤罪関係6件、取調べ・可視化5件、時効問題4件、被害者参加2件、損害賠償、その他、等々。特筆すべきは足利事件の冤罪クローズアップ、刑事事件の重罰化の傾向、裁判員裁判での控訴審では「すべて一審証拠で判断」、などが見られた。
■ 次は磯部さん。伊藤さんの講演の前提となる、自由権規約委員会への国の報告、国賠ネットとしてのカウンターリポートの取り組みへの経過が報告された。勧告に従おうとしない日本政府に対応説明のフォローアップ(報告)が求められた。昨年10月政府の報告は、選択議定書(個人通報制度など)の批准を課題だとしつつも、相変わらず証拠開示などに対して消極的な回答であった。


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■ 続いて今回のメインである伊藤和子さんの講演。
講演抄録は5P〜7P掲載。講演の後は、休憩をはさんで伊藤さんへの質疑応答。後半は冤罪・国賠関係の当事者や支援者から、それぞれの報告が行われた。 
■ まず、富山(氷見)冤罪国賠 事務局の井上さん。
昨年5月に提訴、8月から始まった弁論はこれまで3回。国、富山県、担当刑事・検事の個人被告は、当初の誤捜査報告書よりも後退する居直りの答弁。そんな中で、裁判所が出した再審裁判と捜査記録の一切を開示するように勧告したことは、今後大きく国賠が展開していくことが期待される。
■ 石見さんから、判決間際のバレンタイン国賠について報告。重要な鑑定証人が証言を覆し、看板衝突による自損事故という国側の主張が崩れつつある。警察官による暴行という勝利のきざしが見えてきた。期日は未定だが控訴審判決に期待を!
■ 消防署内部のパワハラ国賠は、支援の高木さん。消防という組合が作れない中で、訓練と称した非人間的な「いじめ」や「しごき」が横行。国賠は和解で勝利したが、小さな自治体の中で幹部は個人責任をのがれ、まだまだ追及していきたい。
■ 野本さんは河内国賠の支援者。反戦運動の仲間3人がアパートを借りたことが、「2人用に3人が居住したことは詐欺容疑」として河内誠さんが逮捕。家主は承知だし、何のトラブルもなかったが、警察の嫌がらせ。地裁は敗訴。控訴審のご支援を。
■ 新会員の登場。国税不服審判所国賠の森田さん。
税理士として行政訴訟をやってきたが大半は敗け。裁判所は、でたらめな役所にお墨付きを与えている。それは冤罪と同じ構造。裁判所は諸悪の根源。不服審判所の訴訟指揮を国賠で闘う。
■ 広田さんは麻生邸ツアー国賠の事務局。麻生首相の自宅を見に行こうというツアーに対し、過剰な警備で東京都公安条例違反(無届けデモ)、公務執行妨害などで逮捕。デモではなく、表現の自由に対し公安条例は違憲、として国賠を提訴。
■大河原さんは群馬県警の元警部補。警察の裏金の告発で危険人物として監視され、不当処分や嫌がらせを受けた。道交法違反、証拠隠滅、公務執行妨害で逮捕され、懲戒免職。このでっち上げ逮捕に対して国賠を闘っている。
■ 今井さんからは、いつもの達観した洒脱な語り口でNシステム国賠の敗訴と、周辺の話題の報告。なぜか昨年の予算で、95年のオウム事件以上の640箇所のNシステムの大増設を行った。いま何故、どのような国を作ろうとしているのか、疑問と不信がつのる。
■護衛艦「たちかぜ」いじめ自殺国賠は原告のIさん。
息子を自殺に追い込み、借金苦というねつ造した理由を付ける自衛隊に悲しみと怒り。「国防」という闇に、苦しんでいる人は沢山いる。証言や証拠は隠蔽され、国賠裁判は思うように進展しない。
■ 木村さんは、思想・言論弾圧である「横浜事件」の亨さんの妻。再審請求は有罪・無罪に触れず免訴。横浜地裁は冤罪と認め請求人に刑事補償を認めた。しかし、これで横浜事件が終わったとは言わせない。真実究明の熱い気持ちがあり、国賠を考えたい。
■ 再審原告の夫人、星野さん
沖縄返還協定の首都圏デモで、証拠もなく、でっち上げ殺人罪に問われ、無期懲役で35年経った今も刑務所に収監されている夫君の再審無罪を訴えた。

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■ 集会の最後に、恒例である「国賠ネットワーク大賞
・最悪賞」の選考・決定が行われた。今回は大賞候補に推薦されたのは、足利事件の菅家さんを当初から支え続け、支援を続けてきた西巻糸子さん。最悪賞ノミネートは、この足利事件の再審裁判で、菅家さんのDNA再鑑定を拒否した宇都宮地裁の池本壽美子裁判長。
集会参加者の挙手裁決では、ほぼ全員が両者の受賞を承認し、決定した。賞品と賞状が贈られる。
■ 集会後の二次会は、味付けの濃い洋風居酒屋。伊藤さんも参加。幾つかの小さな輪の中での本音トーク。今年も、この交流集会の閉幕からスタートだ。

   【 報告:松永 優 】


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