ILO条約勧告適用専門家委員会
条約29号  強制労働、 1930

年次報告 1998
(1999.3.11)


日本(1932年批准)



1. 本委員会はこれまでに発表してきたコメント(複数)に対する日本政府の報告ならびに労働者団体から受け取った一連の所見をノートする。これらのコメントで取り上げられ、日本政府が言及している事項は、以下順次とりあげる2つの争点にかかわるものである。


T.戦時「慰安婦」
2. 以前の所見(複数)において本委員会は、第二次大戦中およびそれまでの間に、いわゆる軍隊「慰安所」に監禁された女性たちが軍隊に性的サービスを提供するよう強制されて、女性の人権の重大な侵害と性的虐待を受けたという大阪府特別英語教員組合(OFSET)の申し立てた所見をテーク・ノートした。本委員会は、このことは強制労働条約の定めるところに違反し、このような許容しがたい虐待には適切な補償がおこなわれるべきであるが、本委員会は救済を命ずる権限を有しないことを認めた。また、この救済は日本政府によってのみ与えることができるものであり、経過した時間にてらして、日本政府が早急にこの問題に対して適切な考慮を払うよう希望する旨、本委員会は述べた。

3. 1996年の会期において採択した所見において、本委員会がノートした日本政府の立場は、本強制労働条約に違反したか否かにはかかわりなく、日本政府は国際協定のもとでの義務を誠実に履行してきた、それゆえこの問題は、日本政府とこれらの国際協定の当事者である相手国政府との間で解決されてきたとするものである。日本政府は、この点について謝罪と遺憾の意を表明してきたし、またかつての戦時「慰安婦」に対する日本国民の償いを果たし、償い金を提供するために1995年に設立された「アジア女性基金」(AWF)に最大限の支援を行っている、と述べた。本委員会は日本政府がAWFの運営費を援助するとともに、政府財源を用いて医療福祉援助を提供しているという事実を含む詳細な情報もノートした。本委員会は、日本政府が被害者の期待に見合った必要な措置をとる責任をとりつづけるであろうとの確信を表明するとともに、今後の措置についての情報の提供を求めた。

4. 労働者団体のひとつ(OFSET)は、1998年10月14日の手紙と同封資料で以下の点を指摘した。同労組によれば、問題は基本的には変化なく、政府による賠償支払いもなく、被害者に対する法的責任にもとづく謝罪もない。同労組が提供した情報によると、韓国、台湾、インドネシア、フィリピンの「慰安婦」の大多数は、AWFは政府からの賠償ではなく、民間組織からの募金からなっているとの理由で、AWFからのお金を受け取ることを拒否している。さらに同労組の報告によれば、AWFのお金を受け取った5人のフィリピン「慰安婦」も日本国首相が送った謝罪の手紙は、軍隊たちが犯した虐待の公的な責任を日本政府が認めたものではない、として受け取りを拒否して返却した。また、同労組が提供した情報によれば、韓国政府と台湾政府はAWFのお金を拒否した自国の被害女性にお金を提供した。韓国労総は、日本政府は未だ、適切な措置をとっておらず、軍隊性奴隷問題は、日本と被害を受けたアジア諸国によって法的に解決したという主張を変えていないとして、本委員会、国連その他による審議を引用した。同労総によれば、AWFの基金を受け取った女性もいるが、大半は、これが「同情」金であって、法的賠償ではないといって拒否している。

5. 本委員会はまた山口地裁下関支部民事第1部が、1997(1998の間違い)年4月27日に下した判決のコピーを受け取った。これは日本の裁判所に係属している50件の訴訟のひとつである。裁判官は日本政府に、原告である3人の韓国人元「慰安婦」に30万円および利子を支払うよう命じた。この判決は部分的にはこの強制労働条約にもとづくものであるが、主として、政府が必要な立法を怠ってきたこと、その立法不作為が基本的人権を侵害していることを理由に、国家賠償法による賠償を命じたものである。

6. 韓国労総は、この賠償額は低すぎると指摘した。同労総によると、日本政府は判決を不服として控訴しており、控訴手続きのすべてを尽くすには10年ないし、20年が必要であること、当の女性はすでに高齢である。

7. 日本政府はその報告の中でAWFの設立において果たした役割を述べ、フィリピン、韓国、台湾でおよそ85人から90人の女性がAWFの「償い金」を受け取って、そのうちのあるものは様々な方法で感謝の意を表明していると論じている。日本政府によれば、償い金を支払われた女性たちは、日本国首相の謝罪の手紙も受け取っている。日本政府によれば、個人、企業、労組その他の支援によってAWFには4億8,300万円以上の募金が寄せられた。1997年3月には、インドネシアで高齢者のための施設への財政支援の提供が始まり、そこには元「慰安婦」であると名乗りでた女性が優先的に入居できる。それというのもインドネシア政府が「慰安婦」であったことの確認は困難だとしているからである。日本政府は1997年7月16日にオランダの民間団体と、戦時に癒しがたい心身の障害を受けた者の生活条件の向上を助ける目的のプロジェクトのための協定を結んだ。日本政府の報告によれば、歴史的事実が学校教育を通じてよりいっそう知られるように努力しており、女性の名誉と尊厳に関する現代の問題にとりくむ措置について概説している。日本政府は、上述の裁判所の判決に関する情報は提供していない。

8. 連合から受け取った所見によると、韓国の戦時「慰安婦」に関して韓国政府が、女性たちがAWFからの一切の贈与を受け取らず、もし受け取った場合にはそれを返却する事を条件として、彼女たちに支援金の支給を始めた、と付け加えている。連合は「この悲劇的な歴史の解決」は韓国政府と日本政府の手にゆだねられており、「対話が問題の最終解決につながる」と期待している。

9. 本委員会はこの非常に詳細な情報をノートする。本委員会はさらに「武力紛争時における組織的強姦、性奴隷および奴隷類似慣行に関する国連特別報告者」の報告(国連文書E/CN.4Sub.2/1998/13・1998年6月22日)をノートする。この報告は特に「慰安婦」の状況と日本政府の責任を検討している。本委員会は、日本政府が被害者の期待に見合った必要な措置についての責任をとるであろうとの確信を再び繰り返す。「慰安婦」の大多数が、それが日本政府からの賠償とはみられないことを理由にAWFからのお金を拒否していること、およびAWFのお金を受け取った少数の女性たちに日本国首相が送った手紙が、政府の責任を認めていないとして拒否された事実は、大多数の被害者の期待が満たされていないことを示唆している。本委員会は日本政府が、速やかに措置を講じるよう、また裁判所の判決に沿った被害者への賠償その他、被害者に補償する措置をとるよう要請する。年月が経過しておりこのことは緊急を要する。


U.戦時産業強制労働
10. 本委員会は、全造船関東地協からの所見(1997年9月、12月、1998年3月)と1998年8月および9月の東京地評からの所見を受け取った。これらの所見はILOにおいて初めて提起されたものであり、第二次大戦時における中国と朝鮮からの産業的企業への労働者の徴用に関するものである。全造船関東地協によれば、朝鮮からは約70万人、中国被占領地からは約4万人が強制労働に徴用され、鉱山、工場、建設現場で民間企業の監督のもとで働かされた。労働条件は苛酷なもので多数の死者が出たといわれる。これらの労働者たちは、日本の労働者と同等の賃金と条件を約束されたにもかかわらず、実際にはわずかであるか、まったく支払われなかったと訴えている。
 同労組はこの所見に署名した35以上の労働者団体の支持を得て、これらの労働者が未払い賃金と賠償を、日本政府と利益を得た企業から受け取れるよう求めている。同労組によれば戦後の長い間、関係国と日本の間の外交関係が貧弱であったために、外交関係が回復するまでは、個人が日本政府や関係企業に対して請求することがほとんど困難であった。東京地評は、1946年に日本国外務省が戦後に、中国当局に提出するために作成した「華人労務者就労事情調査報告書」(外務省=MOFA)と題する報告書を提出した。この報告書はいったん紛失していたが、1994年に中国とアメリカで別々に発見された。この報告書は、死亡率が17.5%、事業所によっては28.6%という数字を含む非常に苛酷な労働条件を詳細に伝えるものである。

11. これらの所見に応えて、日本政府は、その報告において、日本政府が植民地支配を通じてもたらした損害と苦難について、韓国政府に繰り返し遺憾の意を表明してきたと述べている。日本政府は同様に中国に対しても中国人民にもたらした重大な損害を明確に認識していると表明してきたと述べている。日本政府によれば、中国・韓国両国との友好関係を築くために、日本政府は多くの積極的措置を講じてきた。それにはごく最近の1998年10月〜11月の政府首脳の訪問、それにともなう声明や協定が含まれる。日本政府によれば、11万人の朝鮮人労働者を含む徴用労働者の状況について両国に対して詳細な情報を提供した。日本政府は、第二次大戦に関する補償、財産、請求権問題の法的解決を含む協定を1965年に韓国と、1972年に中国と締結した。日本と韓国の交渉は協定にむけての協議によって、文書資料の紛失が甚だしいため、一般的解決しかできないとの結論に達し、その結果、日本と韓国は戦争に関する請求権問題は1965年の日本から韓国への5億ドルの経済援助によって完全かつ最終的に解決したものとして合意した。日本政府はまた、1965年会計年度までに総額6,700億円を韓国政府に提供し、韓国の経済成長に重要な寄与をしたことを指摘している。さらに日本政府は、1997会計年度までに中国に総額2兆2,600億円の経済援助を提供した。また、日本政府は歴史的記録を正確にするための措置を講じた。両国とも、それ以上の賠償を要求していない。しかし、日本政府はいくつかの個人訴訟が日本の裁判所に係属していることを指摘している。

12. 本委員会は、提出された情報と日本政府の回答をノートした。本委員会は、日本政府が「外務省報告書」の全般的内容に反論せず、その代わりにそれぞれの政府に対して支払いをしてきたことを指摘していることをノートする。本委員会はこのような悲惨な条件での、日本の民間企業のための大規模な労働者徴用は、この強制労働条約違反であったと考える。本委員会は、請求が現在裁判所に係属しているにもかかわらず被害者の個人賠償のためには、なんら措置が講じられていないことをノートする。
 本委員会は政府から政府への支払いが、被害者への適切な救済として十分であるとは考えない。「慰安婦」の事件と同様に、本委員会は本委員会が救済を命ずる権限を有しないことを想起し、日本政府が自らの行為について責任を受け容れ、被害者の期待に見合った措置を講ずるであろうことを確信する。本委員会は、日本政府に、訴訟の進行状況と講じられた措置についての情報を提供するよう要請する。
                                (和訳:中山和久)