タハール・ベン・ジェルーン(1944〜)

モロッコのフェスに生まれる。フランス語学校で教育を受ける。兵役について後、高校教師の仕事の傍ら試作を始める。のちに小説にも着手するが、国王ハッサン二世の専制政治を逃れて、七一年パリに赴く。フランスに住む移民労働者の生活実態の過酷さに衝撃を受け、実態調査を行なう。その後、詩、小説、評論の各分野で旺盛な執筆活動を展開して、今日に至る、母語を離れてフランス語で書くことの意味、作品の読者はだれなのかなど、マグレブのフランス語文学が抱える諸問題を、文学と言語に関わる本質的な地点で提示する代表的な作家のひとりである。この作品は七八年に発表されたもので、社会構造の大きな変わり目を迎えた七〇〜八〇年代のモロッコを背景にした「愛と死」の物語を通して、ひろく、どのイスラーム社会にも渦巻く前近代と近代・男の女の相克の姿を、コラージュの手法で描きだしている。


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