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■2010年11月26日(金)から12月11日(土)まで、東京YWCA会館カウフマンホールにて、「アジアを見つめて    植民地と富山妙子の画家人生」が開催されます。詳細はこちら
ふぇみん    2009年12月15日    インタビュー    聞き手:栗原順子

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ふぇみん    2009年12月15日    インタビュー    聞き手:栗原順子

〈アジアを描く画家 富山妙子さん 表現することがやっと自由になった〉

「日本の近代美術は西洋中心だった。それがようやく変わり始めましたね」と、画家の富山妙子さんが言った。

今年の夏、新潟・越後妻有地域の廃校になった小学校で「アジアを抱いて 富山妙子の全仕事展」が開催された。国際的な「大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレ」でのメーンイベント。炭坑、韓国、戦争責任などをテーマとした12シリーズ、200余点の絵画作品などが展示された。

富山さんは昨年から準備に追われ、その間に自伝と画集を出版した。米寿とは思えないほどの精力的な仕事ぶりだ。

富山さんは、大正デモクラシーの新しい風が吹いていた神戸で生まれた。10歳の時、父親の仕事の都合で満州に渡る。東京の美術学校に入学するまでの3年間をこの地で過ごした。

「満州」で見た光景は「画家となったわたしの原風景」と表現する。日本の植民地であった地での生活は、多感な少女の心を揺さぶった。

女学生になった時、西洋近代アートに感動して画家になろうと決意。しかし、戦争は年ごとに拡大し、ハルピンの女学校では軍国教育のものと、朝鮮人生徒には創氏改名が強制された。それを拒む級友の悲しみが痛いほど伝わってきた。

極寒の冬の朝、登校中に凍死体に出会う。路上にうずくまる難民の親子、幼い浮浪児の群れ。日本の景観に泥靴で蹴られる苦力(港湾労働者)の姿……。戦争とともに知る植民地の悲惨さが胸に刻みつけられた。

「でも、私の頭は画家になりたい夢でいっぱいでした」

「この時代が出発点」と語る富山さんは、植民地主義を嫌悪し、贖罪の気持ちを抱きながら、日本の戦争責任を問い続ける。

女が画家になるのは難しい時代だった。「大正デモクラシーの息吹を知っている母親は、ひとり娘の私が画家になるための応援団になってくれました」

だが、敗戦で生活は一変。ハルピンにいた父親はソビエト軍に抑留され、難民になって帰国。富山さんは、芸術家同士の結婚が破綻し、2人の幼い子を抱えて飢餓の時代を生きた。

「苦しみは私を鍛えてくれたのでしょう。美術への考えも変わりました。1949年、中国革命が成功、歴史は変わると思いました。私はアジアの視座に立って現実に根を下ろした絵を描こうと、鉱山や炭坑をテーマに画家として出発しました」

戦後の米ソ対立の冷戦の中で、日本の美術は中小がと純芸術が主流となり、政治的な主張は排除されていく。富山さんは、美術界の異端となった。

60年代は、ラテンアメリカ、中央アジア、第三世界を題材に、70年代からは、痛烈な政治批判の詩を発表して逮捕された金芝河や、日本軍「慰安婦」などをテーマに描いてきた。

70年代に韓国をテーマにした時から、国内での作品は難しくなり、絵のシリーズをスライドにすることを思い立った。

「中世の吟遊詩人や旅芸人のように各地を旅しながらいろいろな土地の人と語りあう、自称旅芸人になるという発送です」

音楽家の高橋悠治との協働で、絵と音楽による語りの芸術としてスライド作品。朝鮮人強制連行、朝鮮人「慰安婦」などをテーマに、90年代には、「20世紀へのレクイエム・ハルピン」などを制作した。

「多かれ少なかれどの国にも権力によるタブーはある。それを発送の転換によってどう対峙するかも原題アートの課題。告発するばかりでは息が詰まります」

「日本の文化には権力を笑い飛ばすものが少ない」という富山さんの作品は、テーマは重いがどこかユーモアがある。

たとえば、連作「きつね物語」では、満開の桜の下で出征するきつねや、花嫁のきつねが描かれる。人間を動物に見立てるなど諧謔的な作品が多い。

「何のために絵を描くのか」と問い続けたが、今は「自由になった」と言う。「腰椎を骨折し、家でできることをと覚悟したらやりたいことがみえてきました。以前は“見る人に分かるように”と配慮もしましたが、今は、描きたいように描いています」

今取り組んでいるテーマは「記憶と和解」。近代を問い直し、アジアの大地や空を描くということだが、どんな連作になるのか楽しみだ。

画壇の周縁で生きてきた富山さんだが、「大地の芸術祭」のアートディレクターの北川フラムさんからは「将来、この時代のの日本再校の画家だったと評価されるだろう」と称されている。

富山妙子画集『蛭子と傀儡子―旅芸人の物語』は、富山妙子さんの絵と高橋悠治さんの音楽によるコラボレーションがDVDで楽しめる画集。

蛭子(ひるこ)とは、『古事記』に出てくる神、傀儡子(くぐつ)は人形操りの旅芸人。蛭子伝説から、大航海時代、帝国主義、太平洋戦争、拝金主義、9.11以降の世界までをテーマにした絵画に、音楽がつけられている。みる者の感性に訴え、想像力がかきたてられるDVDと画集だ。



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