第43回 ボーンセンター露天風呂 「安全性を真に保障する社会システムと市民の役割 〜バイオハザード(生物災害)予防の取り組みから〜」報告

【講師】
川本幸立(ボーンセンター運営委員)

昭和電工総合研究所の安全性確保に自治会役員として取り組み、その後バイオハザード予防市民研究所の幹事としても活躍している川本さんの話をうかがった。

【お話の概要】
バイオハザード(生物災害)予防対策に取り組むことになった運命的事件
くじ引きで地元の自治会の役員になった丁度その時に、千葉県土地開発公社が開発した千葉土気緑の森工業団地の一角に昭和電工総合研究所の建設が行われた。実はこの研究所は当初は神奈川県大磯町に建設する予定だったが、大磯町の住民が反対し反対派の町長が当選したことから、その計画が中断し千葉市での建設となったものである。
 千葉市の住民が気づいた時はすでに建設も半ばであった、取り組みはまず、千葉市、昭電、県土地開発公社に対し、公開質問状により正確な事実に基づく回答を求めることから始まった。
 その後の取り組みは、誹謗中傷、職場(会社・組合)を通じた圧力、右翼、地域ボス等の登場等、苦難の連続だった。住民は、他人まかせにせず、自らの頭で安全を確認しようと、「土気緑の森工業団地バイオ研究所の安全性確認を求める会」(会員数2500名余)を結成し、公開質問状に対する回答や公開討論会などを踏まえ、2万3千名の署名を添えて市議会に請願・陳情を行った。この時、市民とともに歩む科学者・技術者の方々、新潟水俣病の被害者と共闘組織の方々、そして昭電内部で公然と住民支持を表明した研究員の方々にも大いに励まされた。その結果
・1993年12月、千葉市と昭電の間で「公害防止協定」を締結
・1994年6月、「千葉市先端技術関係施設の設置に関する環境保全対策指針」が施行
・1994年12月、千葉市立会いの下、地域の5町内自治会(2500世帯余り)と昭電との間で「環境安全協定」を締結。
 そして現在も、年1回、双方7名ずつ出席の「協議会」が開催され、「立入調査」が行われている。詳しくはhttp://www005.upp.so-net.ne.jp/boso/baio.htm

バイオハザード(生物災害)の危険性とその対策について
1,生物災害とその危険性
@生物災害の内容
・バイオ施設内での感染、発病。
・施設周辺の住民、動植物の感染、発病や生態系の撹乱。
・自然界に潜在する病原体等の増殖、拡散による感染、発病や生態系の撹乱。
・病原体等を含んだ食物、飼料の摂取による感染、中毒、アレルギー、発ガンなどの被害。
・生物製剤(ワクチン、血液製剤、抗生物質等)の投与による副作用。
A危険特性
・病原体等は漏れ出ても、目に見えず臭いもなく、直ぐには検知できない。
・一定の環境下で増殖する
・感染しても直ちに症状がでるとは限らない
・原因や感染ルートの特定が困難

2,バイオ施設(研究所、大学、工場等)の危険源と災害発生要因
・危険源 放射性物質、生物物質(病原体、遺伝子組換え体等、実験動物)、化学物質等
・発生要因 平常時:人為的ミス、通常運転に伴う漏洩
非常時:地震、火災、台風、停電・機器やシステム故障
・媒介 換気、排水、廃棄物、動物、人

3,住民にとって極めて不十分な対策〜無法状態と言っていい実情
・改正「感染症法」では不十分
・立地規制なし
・地震、火災等の非常時の対策規制がない
・地方自治体や住民の関与や、情報共有がない

4,住民運動等による自治体条例の制定とWHO(世界保健機関)勧告にもとづく「病原体等実験施設規制法」等の国内法の制定を図ることが不可欠
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下感染症法と略す)の改正が行われたが、その目的は厚労省が述べているように、「生物テロに使用されるおそれのある病原体等であって、国民の生命及び健康に影響を与えるおそれがある感染症の病原体等の管理の強化を実施します。」というものである。
非意図的に災害が発生するバイオハザード(生物災害)と、意図的に災害を発生させるバイオテロとの違いを区別して認識し、より包括的な非意図的に災害が発生する生物災害予防を目的とした病原体等管理法の制定が必要なことは論をまたない。

【感想】
■昨年来の新型インフルエンザの流行、宮崎県で発生した口蹄疫等の感染症が国民に不安を引き起こした。以前にもエイズ、SARS、O157等が社会問題となった。最近でも黄色ブドウ球菌、緑膿菌等による院内感染による死亡事件が伝えられている。人類は太古の昔から細菌、ウイルス、微生物とも共存してきた。疾病に苦しんできた人類は克服するためにペニシリン等の抗生薬等を開発して対処してきたが、一方で人間の活動領域の拡大や活動内容の変容により、自然界から新感染症等のしっぺ返しも受けている。カビや病原菌が見えてしまう主人公の話である「もやしもん」という漫画があるが、もし私たちにも見えたら恐ろしくてパニックになるかもしれない。
新興感染症、抗生物質多用に伴う耐性菌、病原菌を含めた微生物等を遺伝子組換え技術により利用を図る技術開発問題等、病原体にまつわる問題は原子力発電所の危険性に匹敵することがらであるように思う。しかし病原菌等を扱う施設の危険性について身近な問題とは思っていない人がほとんどであろうか?川本さんの話を聞いて、大きな事故が起きる前に対策を講じなければならないと思った。

 

(文責 サポーター会員 家永尚志)

 


 

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